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第四話 メロンパンは初恋の味
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「で、会長となにか進展はあった?」
翌日の月曜日。
教室に着くなり鈴に問いかけられた四葉は、ぐったり疲れて机に伏せた。
「ポスター貼りに案内しただけだよ。私と何か起こるわけない」
「アクシデントとかなかったの? 極道一家の娘だってバレて、許されない恋が始まったりとか」
「恋と言えるか分からないけど、由岐くんが惚れられちゃった……」
「由岐さんが? なんで~!?」
「大好物のメロンパンが、すごく美味しかったんだって。だから、作り手の由岐くんのことも気にいったみたいだよ」
今朝も英知はベーカリー白鳥に行き、メロンパンを一つ買い求めたらしい。
放課後の買い食いは禁止されているが、朝は昼食を買う生徒が多いために認められているのだ。
その次の日も、次の日も、英知が店に現われたと賀来から報告された。
英知のメロンパン愛は海よりも深かったのだ。
『白鳥さんのメロンパンは今日も最高ですね』
『あんパンもハニークロワッサンも絶品でしたが、やはりメロンパンに戻ってきてしまいます』
『メロンパン愛好家として、この美味しさを広めなくてはなりません』
毎日のように店におもむいて由岐に感想を伝える英知。
そして、誉められてまんざらでもなさそうな由岐。
独特な雰囲気に連日さらされて、助と賀来の方が音をあげてしまった。
『あいつ、由岐を見る目がギラギラしてて怖いんですよ! 客だから追い出せもしないし、どうしろって言うんですか!』とは賀来の言葉だ。
「このままだと、店が回せなくなりそう……」
「頑張れー。体育祭の委員も大変だろうけど、四葉ならできる」
「ありがとう、鈴ちゃん。会長に呼び出されているから、行ってくるね」
教室を出て、渡り廊下を歩き、特別教室が集まっている棟の最上階にのぼる。
呼び出された生徒会室は、音楽室や美術室と同じ並びにあった。
「会長、黒羽です」
「どうぞ入ってきて」
六台の教卓が付き合わせで置かれていて、小型の職員室のようだ。
英知は、会長の札が立った窓際の机に座って、体育祭の進行表をチェックしていた。
「特別棟まで来てくれてありがとう。君にお願いがあってね」
「何でしょう?」
四葉が聞き返すと、肖像画の天使のように微笑まれた。
朝から浴びるには煌びやかすぎる美貌に、四葉は「うっ」とお布団があったら潜りたい心境になる。
「毎年、体育祭では飴食い競争をしていたけれど、今年からパン食い競争に変更しようと思っていてね。ベーカリー白鳥からパンを提供してもらいたいんだ。黒羽さんからお願いしてもらえないだろうか?」
体育祭まではあと三週間ほどしかない。
種目を変更するにはあまりにも急だったので、四葉は難色を示した。
「今からだと不満がでないでしょうか。クラスによっては、生徒の参加種目を決めちゃっているところもありますよ。それに体育祭は日曜日ですよね。お店の営業日と重なるので、難しいと思います」
「そこを何とかしてもらいたいんだ。僕ほど白鳥さんの作るパンを愛している者はいない。だから分かる。あのパンがあれば体育祭は大成功するんだ。頼むよ!」
手をぎゅっと握られて、熱のこもった瞳を向けられて。
一般生徒だったら胸がときめく場面かもしれないが、四葉は怖気だった。
由岐が相手だったら、こんな風にはならないのに。
「えっと……」
困っていると予鈴が鳴った。
これ幸いと、四葉は「話してみます」とだけ言って、手を振りほどいた。
翌日の月曜日。
教室に着くなり鈴に問いかけられた四葉は、ぐったり疲れて机に伏せた。
「ポスター貼りに案内しただけだよ。私と何か起こるわけない」
「アクシデントとかなかったの? 極道一家の娘だってバレて、許されない恋が始まったりとか」
「恋と言えるか分からないけど、由岐くんが惚れられちゃった……」
「由岐さんが? なんで~!?」
「大好物のメロンパンが、すごく美味しかったんだって。だから、作り手の由岐くんのことも気にいったみたいだよ」
今朝も英知はベーカリー白鳥に行き、メロンパンを一つ買い求めたらしい。
放課後の買い食いは禁止されているが、朝は昼食を買う生徒が多いために認められているのだ。
その次の日も、次の日も、英知が店に現われたと賀来から報告された。
英知のメロンパン愛は海よりも深かったのだ。
『白鳥さんのメロンパンは今日も最高ですね』
『あんパンもハニークロワッサンも絶品でしたが、やはりメロンパンに戻ってきてしまいます』
『メロンパン愛好家として、この美味しさを広めなくてはなりません』
毎日のように店におもむいて由岐に感想を伝える英知。
そして、誉められてまんざらでもなさそうな由岐。
独特な雰囲気に連日さらされて、助と賀来の方が音をあげてしまった。
『あいつ、由岐を見る目がギラギラしてて怖いんですよ! 客だから追い出せもしないし、どうしろって言うんですか!』とは賀来の言葉だ。
「このままだと、店が回せなくなりそう……」
「頑張れー。体育祭の委員も大変だろうけど、四葉ならできる」
「ありがとう、鈴ちゃん。会長に呼び出されているから、行ってくるね」
教室を出て、渡り廊下を歩き、特別教室が集まっている棟の最上階にのぼる。
呼び出された生徒会室は、音楽室や美術室と同じ並びにあった。
「会長、黒羽です」
「どうぞ入ってきて」
六台の教卓が付き合わせで置かれていて、小型の職員室のようだ。
英知は、会長の札が立った窓際の机に座って、体育祭の進行表をチェックしていた。
「特別棟まで来てくれてありがとう。君にお願いがあってね」
「何でしょう?」
四葉が聞き返すと、肖像画の天使のように微笑まれた。
朝から浴びるには煌びやかすぎる美貌に、四葉は「うっ」とお布団があったら潜りたい心境になる。
「毎年、体育祭では飴食い競争をしていたけれど、今年からパン食い競争に変更しようと思っていてね。ベーカリー白鳥からパンを提供してもらいたいんだ。黒羽さんからお願いしてもらえないだろうか?」
体育祭まではあと三週間ほどしかない。
種目を変更するにはあまりにも急だったので、四葉は難色を示した。
「今からだと不満がでないでしょうか。クラスによっては、生徒の参加種目を決めちゃっているところもありますよ。それに体育祭は日曜日ですよね。お店の営業日と重なるので、難しいと思います」
「そこを何とかしてもらいたいんだ。僕ほど白鳥さんの作るパンを愛している者はいない。だから分かる。あのパンがあれば体育祭は大成功するんだ。頼むよ!」
手をぎゅっと握られて、熱のこもった瞳を向けられて。
一般生徒だったら胸がときめく場面かもしれないが、四葉は怖気だった。
由岐が相手だったら、こんな風にはならないのに。
「えっと……」
困っていると予鈴が鳴った。
これ幸いと、四葉は「話してみます」とだけ言って、手を振りほどいた。
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