小京都角館・武家屋敷通りまごころベーカリー  弱小極道一家が愛されパン屋さんはじめました

来栖千依

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第四話 メロンパンは初恋の味

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 ネクタイの色は最高学年の緑色。
 とび色の大きな瞳と、美容院でセットしてきたように形よく無造作な栗色の髪が明るい印象だ。
 彼が校則を破って染める人間でないことは校内の誰もが分かっている。
 父親は県警の署長というお堅い仕事だからだ。

 名を須王英知(すおうえいち)という。
 角館桜咲高校の生徒会長をつとめていて態度は良好、成績も優秀で、東大か京大を受験するらしいという噂がある生徒なのだ。
 近くで会話に聞き耳を立てている生徒を気にしつつ、四葉は答えた。

「私が黒羽四葉です。何かご用ですか?」

「君、体育祭の実行委員だよね。先日の会議には、代理の生徒が出席していたようだけれど、何かあったのかな?」

 この高校の体育祭は、生徒会が主導になって開催される。
 実行委員は、生徒会とクラスの橋渡しをして、競技が円滑に行われるように取り計らう役目だ。
 委員に選出された四葉は、会議に出席する義務があったのだが――。

「すみません。追試を受けていて、出られませんでした……」

 しゅんと肩を下げて謝ると、英知は心配そうに眉を下げた。

「そういう理由なら構わないよ。合格点はとれたかな?」

「はい。分からないところも克服しました!」

「これからは体育祭の準備に専念できるね。毎年、実行委員が角館の店にポスターの掲示をお願いして回っているんだけど、今年の担当は君のクラスになったんだ」

「代理の子から聞いてます。ポスターができたら連絡するって」

「では、次の日曜日を空けてもらえるかな?」

「空いてます。けど、その日でないとダメなんですか?」

 ポスターの掲示を頼むだけなら学校帰りに回れば済むことだ。
 不思議そうな四葉に、英知は「待ち合わせる必要があるからね」と続けた。

「各店舗には、掲示担当者と生徒会長がお願いに上がるのが、昔からのしきたりなんだ」

「つまり、私と会長の二人で店を回るってことですか?」

 ギャラリーの目がギラッと光ったので四葉はギクリとした。
 慣れているのか、はたまた鈍感なのか、英知は平然としている。

「そうなるね。待ち合わせは駅前でどうだろう。十時くらいに」

 これに頷いてしまうと、英知と二人きりでの角館巡りが確定だ。
 相手は警察署長の息子。対して、四葉は極道一家の娘。
 生まれついての宿敵みたいなものである。人目もあるし出来ればお断りしたい。
 しかし、英知が天使みたいな微笑みで四葉の返事を待っているので、しぶしぶ頷くよりなかった。

「十時に駅前ですね……。分かりました」

 約束を取り付けて席に戻ると、鈴が好奇心満載の顔で待っていた。

「なになに? 生徒会長に告白でもされた?」

「まさか。ポスター配りの打ち合わせをしてきたの。日曜の十時からになったよ」

「会長のお父さんって警察の偉い人でしょう? 四葉で大丈夫なの?」

「大丈夫。うちは悪いことは何もしていないし。でも、ポスター担当を私にしたのって、何か思惑があるのかな」

 組長交代の噂を聞いた親に命じられて、同じ学校の生徒である四葉に接触してきた――なんてスパイ映画みたいな筋書きが思い浮かぶ。
 空想にふけっていると、鈴が両手を合わせて謝ってきた。

「ごめん! 代理で出た私が断ればこんなことにはならなかったのに!!」

「鈴ちゃんは気にしないで。ポスター配るだけだし、きっと何も起こらないよ」

 待ち合せたら、効率よくポスターを貼って速やかに会長と別れよう。

(そうじゃないと、誰に報復されるか分からないし)

 ギャラリーの鋭い視線にさらされつつ、四葉は心に誓ったのだった。
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