神獣様の愛し子

夏野 紅琳

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第13話『諦め』

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私は死んではいなかった。それは私が神獣なことと、倒れた場所が神域だったからなのだろう。

ふわふわと意識だけで宙を浮き、癒しの泉に沈み込む自らの体を眺めていた。私のやりたいことは決まっていた。早く、そう早くあの子の生まれ変わりを見つけてあげなくては、でも元の体に戻るのに12年もの時を要した。やっと戻ったからだで彼女を探し求めた。ある時は鳥、またある時は小型生物など、恐ろしいほどに短命な君を何度も何度も看取り、何度も何度も探し続けた。

君はもう疲れてしまったのだろうか、嫌になってしまったのだろうか、人に生まれてくることは、1000年たってもなかったのだ。

それでも私は君を探し続け、宝物のように君を扱った。愛していた。愛おしかった。小さな君も、大きな君も。

でもダメだった。君は記憶をなくし続ける、生まれ変わる度に、私は何度も君に初めましてを言った。君は私に何度も愛してるを言ってくれた。でも私を置いて逝ってしまう。

どれだけ私が望んでも、君は私を連れて逝ってはくれなかった。何度も君に恋をして、何度も結ばれたけれど、人ではない君と、白い獣の私が愛を語る姿は酷く滑稽だっただろうか。

君を看取り続けた私は酷く歪んでしまったのだ。君の目に映るのは私だけでいいと、君を閉じ込めたら君は長く生きてくれるのだろうかと、そんな歪んだ私が恐ろしくなって君を迎えに行けなくなった。遠くで生まれた君の魂にありったけの祝福をかけ、君が生きていると感じるだけで幸せだった。

そんな私の気持ちを裏切るかのように君は私の森を訪れる。風に乗って、波に乗って、君がまるで私を探してくれてるのではないかと錯覚するほどに、君の気配がちかくに感じられて喜びを抑えきれない体を木のうろに閉じ込めて森と一体になる。

せめて遠くから君を眺めるのだけは許されるだろうと、木になって、水になって、小さな君を見守る。森を出ていくその日まで。

何十年後のあの日も同じように眺めるだけのつもりだった。でも見てしまったのだ、森に近づく君を乗せた馬車がまだ幼い君を道に1人置き去りにして走り去って行くのを、まるで荷物かのように置いていかれた君の泣き声に辛抱たまらなくて、慌てて走りよる。何千と繰り返した記憶の中でやっと人として生まれてきてくれた愛しい君が、道に落とされていたんだもう私がひろってしまっても許されるだろう。

そう自分に都合よく考えて私は白い獣から人の形になる。抱き上げた途端にぴたっと泣き止む君に、今度は私が泣きそうになる。君が、私の腕の中で嬉しそうに笑うのが、可愛くて愛しくて、大事に大事に君を抱いたまま森に帰った。

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