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第16話『私の罪』

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マスターの元に戻った私は、自室での謹慎を命じられていた。理由としては、作戦が長引いたこと、きちんと殺したことを確認しなかったこと、そして泣き腫らしたあとの残る私の顔のことだ。

裏切りや、反逆の可能性も考えて、記録用チップのチェックが入るらしい。その後に、今後の私の扱いを考えるらしい。

あの、幸せと感じてしまった気持ちや日々は裏切り行為となるのであろう、でもそれでもいいと思った。

マスターが何とかしようとして出来るほどあの国は弱くはないし、私が死んでしまっても元は赤子の時に人知れず消えるはずだったのだから、あの一時だけでも私に生まれてきてよかったという感情が芽生えたことが、嬉しかった。

謹慎から数日経ち、私は再び実験台の上に寝ていた。記録用のチップの確認は簡単で、寝転がる私に、再生用の腕輪型の魔道具をはめればすぐだ、私の意識は睡眠状態にまで落ち、マスターはそのうちに確認作業を終える。

初めてマスターと出会ったこと、お使いを始めたこと、初めて人を殺したこと、初めてマスター以外の人と長時間話したこと、初めての贈り物、初めての場所、知らないもの、初めて恋をした事、全部全部私だけの思い出が、マスターの手によって壊されていくのが見えた気がした。

やはり、私の行動は裏切り行為とされたようだった。大切に持っていたネックレスも没収され、私は地下深くの牢屋に閉じ込められた。

そこで私はマスターに得体の知れない液体を注射された。徐々に痺れていく体と、魔力を吸い取られる首輪、そして逃げられないように手足を鎖で繋がれた。

その中でただ呼吸をするだけの生物と成り果てていた。

それから数日後には他に場所を移されたようだった、マスターが部屋に入ってきた後、目隠しをされて家を出て馬車に揺られ、降りた先のよく分からない場所に置き去りにされた。手足の拘束は外されたけれど他はよく分からなかった。

それから、人々の喧騒や、風の音も聞こえない暗い部屋の中で長い間暮らしていた、私をここに閉じこめたマスターは言った。お前が全て悪いんだ、許してもらえるなどという甘い考えは棄てて、残り短い時間を噛み締めるのだなと、確かに寿命や、病気である訳でもないけれど。

私はもうすぐ死ぬのだと自覚はしていた。マスターの手元を離れたいま、私は死を待つだけの大罪人と同じなのだから、死ぬのは恐ろしくないけれど 、暗い部屋の中で時間も分からず、周りの景色や壁も見えない状態でいるのは少し怖くも思われて、この空間の中で、光も浴びず食事も取らず誰とも話せないという状況で私はいつまで正気を保って居られるのかと不安で仕方なかった。

マスターに捨てられてから何日くらいたったのだろうか壊れかけの私は時間感覚も狂い始めてもう分からないのだ。

コツ、コツ、この場所に来て、初めて聞く音だった。なんの音か分からないままぼんやりとしていると牢屋の隅で蹲る私を見た人物は「おい、大丈夫か?」とまるで子供に話しかけるように言った。私は驚いて顔を上げ声が聞こえた方向を見つめた。

でも私の目は何も写さなかった。あぁ暗かったのは私の目がこわれていたからなのだと、そこで初めて気が付いた。

ガラッと言う音がなり、その人物が近づいてきた。ぼんやりとした私の近くに居るような気配がしたが、いまいち方向が分からずぼんやりしていると「まさか、目が見えていないのか?そんな、だって前までは見えていただろう?」という声が目の前から聞こえた。あぁそこか、と思い見上げると優しく頭を撫でられた、誰だか分からないけれど、その手は優しく懐かしい感じがした。

「触れるぞ、」という声と共にその人物に抱き上げられ、がっしりとした体に安心して身を任せていると、ゆらゆらと心地のいい振動にどこかへ運ばれているのだと気がつく、それでも忍び寄る眠気に抗いきれずに、眠りに落ちた。
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