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第6話 『もふもふ!』

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初めて来たレトナーク領は綺麗に舗装された道に、赤やオレンジといった暖色系の屋根で統一された、美しい街並みだった。初めて来たはずなのに何処か懐かしい感じがして、私は首をかしげながら周りを見回した。

レトナーク領は私が暮らしていたルズベリー領よりも発展しているようで、路地に入ると直ぐに薄暗い光景が広がる、なんてことはなく、人々が幸せそうに過ごし、救済の必要な老人や子供たちは居ないようだった。

目的地であるダニエリー公爵家は、領の入口からは遠い場所にあるらしく、時間をかかけて歩くか、乗合馬車に乗るしかないらしい。レトナーク領の造りとしては入口付近から王都の方角に向けて住人の地位や住居のレベルが高くなるらしい。

乗合馬車は今から半刻後くらいにならないと走り始めないらしく時間の暇が出来てしまった。急ぐ用でもないし、などとワクワクする気持ちの言い訳をして、お店を覗くことにした。

美味しそうな食べ物や、きらきら光る綺麗なアクセサリーのお店を見て回っていたら一つだけ気になるものがあった。店の横の積荷の影に真っ黒なもふもふとしたものが倒れていた。

真っ黒なもふもふはよく見えないけれどその身の一部を赤く血で染めていて、虫の息だった。私は慌ててそのもふもふに近ずいて怪我の位置を確認したところ、肩から腰にかけてなにか刃物でスパッと切りつけられたような切り傷が出来ていた。

その傷口に触れないようなギリギリな距離に手をかざし、治癒魔法を使う。私の魔法は普通の魔法使いと違って、イメージで魔法が行使される。黒いもふもふが元気になるようなイメージで魔法を使うと、もふもふがぴかっと光ったあとに、体内の魔力がゴソッと抜けたような感じがした。

まるで貧血になった時のような目眩とクラクラした頭を抑えながらもふもふを見つめると元気になったらしく自分で立ち上がり、座り込んだ私の手を舐めていた、立ち上がった姿をよく見ると狼のような姿だった。

毛皮にこびりついた赤を落とすために私が止まっていた宿に連れ帰ろうと思い、「大丈夫?おいで、」と話しかけるとその狼さんはまるで子犬のようにしっぽをぶんぶんと振りながら着いてきた、魔力不足でよたよた歩く私が転びそうになると、目の前に立ち、支えてくれた、「こんなんじゃ、どっちが助けて貰ったのか分からないね、」そう、声をかけると狼さんは言葉が通じたかのようにぺこりと座った姿勢から綺麗なお辞儀をした。

宿に着いて女将さんに、確認したところ使役獣やペット等の連れ込みは基本大丈夫らしく、お風呂に入れるのもありらしい、追加料金等も、魔法使いがいちいち使役獣を出す度にとっていたら埒が明かないため条例でなしになっているらしい。

狼さんを部屋に入れて直ぐに、お風呂の扉を開き、狼さんを呼ぶ、「毛皮綺麗にしよう?」狼さんはやれやれとした顔でお風呂場に入るといい子に座っていた、私はその横にしゃがみこむと毛皮に付いた血を丁寧にシャワーで落として行った、シャワーを狼さんにかけると、赤い血と共に、黒い汚れも落ちていき、お風呂から出た時には狼さんは銀色になっていた。

狼さんも驚いたらしく何度も浴室の鏡を覗いていた、自分が銀色だって知らなかったのかな?狼さんを風と火の魔道具で乾かすと、とっても綺麗なもふもふの毛並みになっていた、思わずもふもふすりすりしてしまったけれど狼さんは、キリッとした凛々しい顔で立っていた。

私は気がついたら外が暗くなっていて間違いなく半刻以上たっている事実にしょんぼりした後に、自らもお風呂に入り、もふもふな狼さんと一緒に眠った。

次の日、目が覚めた時にまだ居た狼さんに安心し、にこにこと頬が緩んでいる自分にびっくりした。そして、そんな私を首をかしげながら見ている狼さんがとっても可愛かった。

出かける準備をして、部屋の下の食堂で朝食を食べた、きちんと狼さん用のご飯もあった。宿から出ると狼さんはまるで私についてきて欲しいというようなチラチラとこちらを振り向きながら森への入口の方に向かって行った、私が大人しく狼さんの後をついて行くと、森の中に入って行き、ぺこりとお辞儀をして私をじっと見つめていた、「帰るんだね、今度は人里になんておりちゃダメだよ、」と言いながら手を振るともう一度ぺこりとした後に森の奥に走り去って行った。

私は今度こそ、乗合馬車に乗るべく行動を開始した。
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