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第二章 魔法学園へ行こう
16 願いと代償
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アスラにより、俺は医務室に運ばれ医師に診てもらったところ、あのいい匂いのするクピドの分泌する成分に人一倍反応する体質なのだろうということだった。どんな状態異常も無効化することが通常の俺だったので、今回のような症状になったのは生まれて初めてで驚いた。目を覚まして正気に戻った俺は恥ずかしく、アスラの顔を暫く見れないほどだった。アスラはというと、特にからかう風でもなくその夜は俺が眠りにつくまで側で見守っていてくれた。
「お前も、あのように弱音を吐くことがあるんだな」
俺が眠りに落ちかけた時に、独り言のようにアスラは呟く。そして、俺の髪に微かに触れる感触を感じ、俺は眠りについた。
俺たちは、ナニカと契約者を探しながらも糸口すら見つけられず初等部の六年生になっていた。その日は定例のノアの検査に珍しくアーサーも同席している。
グランとコンラッド先生は毎回皆勤賞で、ノアと俺の近くにかぶりつきで見学をする。触りたいなら触っても良いと言いたげに腹を見せつけたりしてノアは二人をからかっては遊んでいた。
「今日は何が聞きたいにゃん?」
「どうやったら異界の生物を呼び出せるんだ?」
アーサーが真剣な顔をしてノアに尋ね、俺の顔をみる。俺が通訳することになるからだ。
「魔力と捧げ物次第だと言っています」
「その王子だと荷が重いにゃ、魔力の量も質もそれほどじゃないし、クセも強くなくて薄味だからマニアックな層も期待できないニャン」
ノアはたまに俺の分からない言葉を使う。俺はノアに聞いたり想定しながら話を進める。アーサーは自分だと難しいと聞きがっかりしたようだった。俺は、ナニカを呼び出したのがアーサーではないかと言われていたこともあったのを思い出す。
「何故、異界の生物を呼び出したいのですか?」
アーサーは、世界一のグランと比較すれば魔力こそは劣るが世間一般的に十分に多い魔力量であり、剣の腕も立ち頭も良く、覇気もあり国民からの人気も高い。なぜ、呼び出す必要があるのだろう?
「なぜ、俺がそんな得体のしれないものを呼び出したいのか分からないと言うような顔だな。レイ。たしかに、俺は権力も能力も人格も申し分ない。俺、個人単体ではな……」
コンラッド先生やグランは理由が分かったようで気まずそうな顔をしている。
「俺の弟のアレク、あれは傑物だ。あの年齢で剣の腕前は他に並ぶ者はなく、一を聞いて百を知る、人格も公明正大、器も大きく誰からも好かれる愛嬌もある。俺に気を遣って留学する謙虚さや忠誠心もあり、非の打ち所がない」
「けれど、貴方も国民から人気がある……」
「今の王が凡庸だからな。それに比べればましという程度だろう。父王も若き日は才気あふれる弟の叔父君と比較されたようだ。叔父君は気を遣い王位継承権を早くに放棄し子供も持ってはいない。俺はアレクを同じようにはさせたくない。親子揃って情けないものだな」
俺は王者然としたいつも自信に溢れているように見えるアーサーの本音の吐露に驚きを隠せなかった。アレクは確かに良くできた男であったが、誰よりも亡くなった兄王子を慕っていた。
「たしかに、国を滅ぼすほどの異界の生き物と契約することが出来れば、それは貴方にとってもこの国にとっても大きな武器となるでしょう」
コンラッド先生が、力を込めて言う。俺の過去ではこの先生は居なかったので、実のところ何を目的としているのか分からない。本当にただ熱狂的にこの異界の生き物に関心があるだけなのだろうか。その危険性を無視するほどに。
「俺は、この契約は危険だと思います。どんな生き物が来るかも分からない」
実際に俺が呼び出せてしまったこと、俺が危険だと強く主張することもあって、この国で契約を試すことは一旦禁止となっていた。
「……だが、俺は一度試してみる。禁止されていようが俺の場合は特例だ。俺は王になる男だからな」
アーサーは、コンラッドに契約の準備をさせて、描かれた陣に立つと、供物台に布に包まれた物を置き祈った。全くあたりに変わりはなかった。
「……やはり俺には呼び出せないか……」
「裏技があるにゃ。愛する人間を捧げると出現率アップサービスにゃ」
「その者は何と言っている? 」
「……良き王とは大きな力を持っているものではない。その国の民のために生きる者のことだ、と」
「そうか……その通りだな」
俺はノアの言葉を伝えるつもりはない。だが、知っている者がおり、過去ではその者はアーサーを供物として捧げたのだ。
アーサーはさっぱりとした顔をして捧げ物台の上の包みを大切そうに懐にしまった。
「それはなんだったのですか?」
「うむ、弟のおしゃぶりだ」
「……」
ノアはぶらぶらと尻尾を動かし俺を上目遣いでみやる。
「レイはしぶちんにゃ。まだ、願い事も何もしない。魔力がほしいにゃー」
俺は、ノアの言うことを全て信じている訳ではない。大きな力を振るう代償が契約者の魔力だけということがあるだろうか……。契約には告げられていない事実があるような気がして、俺は契約解除をする方法も探していた。
「クーリングオフ禁止にゃー! 拾ったにゃんこは最後まで面倒みるにゃ!」
ノアを抱え、寮に戻る道すがら俺の考えていることを薄々気付いているようにニャンニャンと騒ぐ。
「……何か良い香りがしてきたにゃ。この条件であれば異界の存在がやってくる」
騒いでいたノアが突然静かになり、髭をぴくりと震わすと俺を見上げる。
俺は慌てて温室の方向に歩いていったアーサーを追いかけるため方向転換し駆け出した。
温室の扉は開かれている。奥の方に進むと、水の流れていた水盤のあった場所が沈み込み弧を描いて下に続く階段が現れている。俺は駆け下りる。
其処には陣に立つ一人の男と、その側にはアーサーとアスラがいた。
「お前も、あのように弱音を吐くことがあるんだな」
俺が眠りに落ちかけた時に、独り言のようにアスラは呟く。そして、俺の髪に微かに触れる感触を感じ、俺は眠りについた。
俺たちは、ナニカと契約者を探しながらも糸口すら見つけられず初等部の六年生になっていた。その日は定例のノアの検査に珍しくアーサーも同席している。
グランとコンラッド先生は毎回皆勤賞で、ノアと俺の近くにかぶりつきで見学をする。触りたいなら触っても良いと言いたげに腹を見せつけたりしてノアは二人をからかっては遊んでいた。
「今日は何が聞きたいにゃん?」
「どうやったら異界の生物を呼び出せるんだ?」
アーサーが真剣な顔をしてノアに尋ね、俺の顔をみる。俺が通訳することになるからだ。
「魔力と捧げ物次第だと言っています」
「その王子だと荷が重いにゃ、魔力の量も質もそれほどじゃないし、クセも強くなくて薄味だからマニアックな層も期待できないニャン」
ノアはたまに俺の分からない言葉を使う。俺はノアに聞いたり想定しながら話を進める。アーサーは自分だと難しいと聞きがっかりしたようだった。俺は、ナニカを呼び出したのがアーサーではないかと言われていたこともあったのを思い出す。
「何故、異界の生物を呼び出したいのですか?」
アーサーは、世界一のグランと比較すれば魔力こそは劣るが世間一般的に十分に多い魔力量であり、剣の腕も立ち頭も良く、覇気もあり国民からの人気も高い。なぜ、呼び出す必要があるのだろう?
「なぜ、俺がそんな得体のしれないものを呼び出したいのか分からないと言うような顔だな。レイ。たしかに、俺は権力も能力も人格も申し分ない。俺、個人単体ではな……」
コンラッド先生やグランは理由が分かったようで気まずそうな顔をしている。
「俺の弟のアレク、あれは傑物だ。あの年齢で剣の腕前は他に並ぶ者はなく、一を聞いて百を知る、人格も公明正大、器も大きく誰からも好かれる愛嬌もある。俺に気を遣って留学する謙虚さや忠誠心もあり、非の打ち所がない」
「けれど、貴方も国民から人気がある……」
「今の王が凡庸だからな。それに比べればましという程度だろう。父王も若き日は才気あふれる弟の叔父君と比較されたようだ。叔父君は気を遣い王位継承権を早くに放棄し子供も持ってはいない。俺はアレクを同じようにはさせたくない。親子揃って情けないものだな」
俺は王者然としたいつも自信に溢れているように見えるアーサーの本音の吐露に驚きを隠せなかった。アレクは確かに良くできた男であったが、誰よりも亡くなった兄王子を慕っていた。
「たしかに、国を滅ぼすほどの異界の生き物と契約することが出来れば、それは貴方にとってもこの国にとっても大きな武器となるでしょう」
コンラッド先生が、力を込めて言う。俺の過去ではこの先生は居なかったので、実のところ何を目的としているのか分からない。本当にただ熱狂的にこの異界の生き物に関心があるだけなのだろうか。その危険性を無視するほどに。
「俺は、この契約は危険だと思います。どんな生き物が来るかも分からない」
実際に俺が呼び出せてしまったこと、俺が危険だと強く主張することもあって、この国で契約を試すことは一旦禁止となっていた。
「……だが、俺は一度試してみる。禁止されていようが俺の場合は特例だ。俺は王になる男だからな」
アーサーは、コンラッドに契約の準備をさせて、描かれた陣に立つと、供物台に布に包まれた物を置き祈った。全くあたりに変わりはなかった。
「……やはり俺には呼び出せないか……」
「裏技があるにゃ。愛する人間を捧げると出現率アップサービスにゃ」
「その者は何と言っている? 」
「……良き王とは大きな力を持っているものではない。その国の民のために生きる者のことだ、と」
「そうか……その通りだな」
俺はノアの言葉を伝えるつもりはない。だが、知っている者がおり、過去ではその者はアーサーを供物として捧げたのだ。
アーサーはさっぱりとした顔をして捧げ物台の上の包みを大切そうに懐にしまった。
「それはなんだったのですか?」
「うむ、弟のおしゃぶりだ」
「……」
ノアはぶらぶらと尻尾を動かし俺を上目遣いでみやる。
「レイはしぶちんにゃ。まだ、願い事も何もしない。魔力がほしいにゃー」
俺は、ノアの言うことを全て信じている訳ではない。大きな力を振るう代償が契約者の魔力だけということがあるだろうか……。契約には告げられていない事実があるような気がして、俺は契約解除をする方法も探していた。
「クーリングオフ禁止にゃー! 拾ったにゃんこは最後まで面倒みるにゃ!」
ノアを抱え、寮に戻る道すがら俺の考えていることを薄々気付いているようにニャンニャンと騒ぐ。
「……何か良い香りがしてきたにゃ。この条件であれば異界の存在がやってくる」
騒いでいたノアが突然静かになり、髭をぴくりと震わすと俺を見上げる。
俺は慌てて温室の方向に歩いていったアーサーを追いかけるため方向転換し駆け出した。
温室の扉は開かれている。奥の方に進むと、水の流れていた水盤のあった場所が沈み込み弧を描いて下に続く階段が現れている。俺は駆け下りる。
其処には陣に立つ一人の男と、その側にはアーサーとアスラがいた。
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