勇者だった俺は時をかけて魔王の最愛となる

ちるちる

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第二章 魔法学園へ行こう

14 君の孤独

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 騒然となった授業は中断となり、俺はノアと名付けた異界の生き物と共に別室に待機させられた。危険がないかどうか魔術師が調べるそうだ。当然の顔をしてグランも付いてくる。


 ただ俺は、その時知らなかったんだ。誰もいなくなった教室で、アスラが一人、陣の上で契約を試していたなんて……。



 「レイ。面倒事はごめんだニャー。実験動物扱いされるなら帰るニャ」
「……えっと……実験動物扱いされるなら帰ると言っています……」

 おお!と周囲はどよめく。……どうやら記録に残っているだけで、異界の生き物をこの時代に生きる者は呼び出せていないらしい、今のこの世界にはノアだけということになる……。どうなっているんだ……学園の危機管理は。俺は、ノアが危険がないかどうか判断出来ず、まじまじと見つめる。

「心配いらないニャ。レイの命令がなければ、何もしない。命令してもらえれば、この五月蝿うるさい人間たちは丸呑みにしてやれるニャ!! 」
「必要ない! 」
「な、なんと言ったのかね? 」
「え、えっと……喉が渇いたと……」

 おお!とまた周囲はどよめく。トトの乳を!い、いや、猫の乳を探せっ!と慌てふためいている。

「我は格の違う世界の存在ニャ。レイの魔力と捧げ物が美味しかったからきた。何時でも嫌になったら帰れるニャ。この姿は我の数多ある内の一つの姿。色々な隣り合う異世界でこの完璧な姿は見られるけど、それぞれ違う存在ニャ」
「この世界では猫と言う」
「他の世界にもいるニャ。この姿は多くを惹きつける魔力を秘めてる。ニャから多くの世界で見られるニャ」
「な、なんと言っておられるのかね?」
「格の違う世界から来た存在だと……」
「おお!!」

 魔術師たちは狂喜乱舞せんばかりで、グランは触れはしないかと最も近くで機会を伺っている。

「と、ところでその方はどんなことができるのだろう? 」
「レイが命じればどんなことでも出来るニャ! 嵐を起こして隣の国を水浸しにすることも、疫病を流行らせて人口を半分にすることも、異界とこの世界を繋げて適応できない多くの人間を殺しつくすことも出来るニャ! 」
「……ご飯を食べて、昼寝をして、たまに撫でられてやることは出来ると言っています……」
「ニャニャン!? 」
「これほどよく分かっていない契約は軽はずみに結ばない方が良い」

 俺は圧を込めて言い放った。

「ノアは無害なようだが、そうでない生き物が呼び出された場合、契約者次第で惨事さんじとなりかねない」
「我は無害じゃにゃいニャー。SSレアにゃんこニャ!」
「えすえすれあ? 」
「こっちの世界の話にゃ! 勿体ない。我を使わぬニャど! 」

 俺は、ノアがにゃいのにゃいの騒ぐのを無視して、魔術師たちにはただ俺と話のすることの出来るだけの黒猫だと押し通した。魔術師たちはがっかりしていた。グランとコンラッド先生は未だ爛々と興味に瞳を輝かせていたが。

 今後、定期的にノアについて本猫の了承の範囲で調べさせることや会話を通訳することを約束し、一旦は寮に帰れることとなった。ノアは抱き上げて連れて行く。グランには改めて時間を設けるのでと約束して今日は帰ってもらう。


「君はどういった存在なんだ。本当に危険はないのか? 」

 俺は、寮に帰る途中の中庭の四阿あずまやで結界を張りノアと向かい合った。

「契約とは約束にゃ。レイの魔力と捧げ物を受け取る代わりに言うことを聞く。嫌になったら帰っていい。レイが魔力をくれる限りは側にいて、レイの許可なくこの世界に干渉はできないニャ」
「随分、契約者にとって都合が良いように聞こえるが……」
「だから、普通は呼び出せない。レイはとてもいい匂いがする」

 アスラの何か特殊な物質でも分泌してるんじゃないかと皮肉った言葉が脳裏に浮かぶ。……やめてくれ。

「それに捧げ物も特別だったにゃ。あれはこの世界ではない異界にまたがる者」
「アスラの髪の毛がか!? 」
「とんでもなく極上にゃ。狂わず存在しているのが不思議」

 ペロリとノアは口元を舐めた。

「どういうことだ!? 」
「この世界にとって異質なはず。この世界の人も物もわずらわしく、合わないはず。破壊や滅亡に惹かれる者、闇の世界の王となる者ニャ」

 ノアの金色の瞳孔が収縮しキラリと光る。

アスラは、……人の心の声が、欲望や嫉妬等の浅ましい声が聞こえると言っていた……人間の醜悪な本性にはうんざりだとも。もし、アスラがこの世界の者でないのであれば、それはきっと辛く孤独だろう。俺は、アスラがこの世を壊すという意思を持って強い魔力により異界を繋げたため魔王となったのだと思っていた。だが、元々、異界の存在ならば、それは初めから魔王ということにならないだろうか……。

「……ノア、約束をしてくれ。この世界の者に害を成さないと。それから……もし俺が……」


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