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第一章 友だちになろう
5 闇夜の果てに
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俺は唐突に目を覚ました。遠くから俺を呼ぶ声が聞こえたような気がし、何だか胸騒ぎがする。こんな夜は、闇の獣や闇の者の襲撃があったものだ。子供たちを起こさないように、そっと寝床を抜け出す。アスラの姿がない。
孤児院を抜け出し、庭を探し裏手の森に向かう。月は真ん丸でいつもより大きく、奇妙なほど赤みを帯びて見えた。暫く彷徨っていると、あの美しい笛の音が聞こえた。俺は、音の方向に駆け出す。
アスラの姿が見えて、俺はほっとするも目に入った光景に愕然とする。アスラの足元から大きく深い穴が広がり、邪気が溢れ出していたのだ。穴が大きく広がり俺に向かってくるようだ。このまま魔界に繋がり邪気が溢れ出すと、近くの人間は死に絶えるだろう。
「何をしている! 」
俺は木々に跳び移りながら何とかアスラの側に近付く。アスラの紺碧の瞳は時折、禍々しい血のような深紅に色を変える。穴からは闇の獣の頭が僅かにのぞき、アスラに従うように集まってくる。まだ、阻む結界が残っておりこちら側に来れないようだが、界が繋がってしまえば大きな犠牲を生むだろう。
「ずっと、声が聞こえている。魔物の声だ。人間の心の声も聞こえる。どちらも大差がない。俺を呼び、異界が繋がる。もう何もできることはない」
「アスラはそれを望んでいるのか!?」
アスラは不思議そうな顔をした。
「望みなどない。醜悪な人間の本性は見飽きた。くだらない魔物もうんざりだ。もう、生きることに飽いている。俺の存在が全てを滅ぼすのであればそれも良いだろう」
「飽きてるって! なんでだよ!? 今日の夕飯は美味しかったじゃないか! めったに食べられないテクテクの肉は俺が狩ってきたんだぜ! マーサの作ったお菓子も凄く甘くて……皆で歌って踊って楽しかったじゃないか!」
アスラは俺を見た。
「お前は変わっているな。俺には人の心の声が、欲望や嫉妬等の浅ましい声が聞こえる。その声を大きくすることもできる。だが、お前からはずっと小川のせせらぎや風に揺れる葉擦れのような音しか聞こえない」
「そうさ!俺にはお前の知らないこともいっぱいある! 飽きるなんて言わせないぜっ! 」
お前はなぜそんなに絶望しているんだ。まだ、子供だろう!?俺はアスラの子供らしくない口調、態度に一体どんなものを見てきたのだと哀しくなる。
「生きることに飽きただって!?お前が経験したことのない事や、お前が見たことのない綺麗なものもいっぱいあるはずだ! 俺は、山の頂上で宇宙が瞬くのをみた。氷河が光りながら輝きやがて崩れ落ちるのも。世界の端で虹色の帯が空に折り重なり色とりどりに揺れるのを見た。アスラにもいつか連れて行ってみせてやる! 」
「そんなことをしてお前にどんな得がある? 」
俺は、胸が締め付けられるように痛くなる。俺の過去、この世界の未来では全てが死に絶え、俺たちは二人だけになった。
「俺はお前と友達になりたい」
「友達だと?」
「うん」
アスラは皮肉げに笑った。それは初めて見た笑みだった。
「ならば誓え。この俺を飽きさせることのないよう生きることを。もし、破れば、それがこの世の終わりとなる」
俺はごくりと唾を飲み込んだ。
「俺は、アスラと友達になる。毎日楽しくて、わくわくするような思い出をいっぱい作る。それから、きっとアスラに幸せだと言わせてみせるよ」
「分かった。だが、どうする? この繋がりかけた異界の侵食は止まらないぞ」
そうなっても良いというように、肩をすくめて俺を見る。繋がってしまえば、アスラや俺は無事でも孤児院の皆や街の人達は無事では済まないだろう。
俺が勇者として万全であれば、聖剣の力と魔法で、封印できたかもしれないが、今は聖剣もなく魔力も万全ではない。どうする?と俺が頭を抱えると、懐が暖かくなった。取り出すと昼にもらった来果が光っている。
「豊穣神の力を感じる」
アスラは眉根を寄せ、嫌そうに来果を見る。
「来果は豊穣の象徴。供物となるものだ。役に立つかもしれないな」
アスラの言葉に、俺は今のありったけの力を来果に込めると、丸い果実は黄金色に輝いた。
『力を貸そう。そなたは三度願いを叶えてくれた。何を願う』
天上から降り注ぐように優しげな声が聞こえてくる。
「どうか、魔界の入り口を封印するのを手伝ってください」
『良かろう。この果実を投げ込みなさい。……蜜煮は美味かったぞ』
俺は、残った精一杯の力を出し切って思いっきり来果を穴に向かって投げ入れた。光りが穴の底から溢れ出し辺りを覆うと、俺は目を瞑った。
ようやく、光が収まり目を見開くと穴のない地面が広がっていた。
「……ありがとう、ケレス」
もう、何も聞こえはしなかった。
「三度、願いを叶えたとはどう言うことだ」
少し不機嫌そうにアスラは言う。来果は邪気を祓うというし、アスラにはきつかったのかもしれないな。
「荷物運んで、料理して、腕輪をあげた」
「……誰にでもいい顔をするのは大概にしろ」
ギロリと、紺碧の瞳で睨まれる。
俺は力を使い果たし、意識が薄れていくのを感じる。これ、俺、森に置いてかれるんじゃね?
薄れゆく意識の中、俺を抱える腕を感じながら、露店で腕輪が気になったのは、アスラの瞳の色だったからかと気付いた。
孤児院を抜け出し、庭を探し裏手の森に向かう。月は真ん丸でいつもより大きく、奇妙なほど赤みを帯びて見えた。暫く彷徨っていると、あの美しい笛の音が聞こえた。俺は、音の方向に駆け出す。
アスラの姿が見えて、俺はほっとするも目に入った光景に愕然とする。アスラの足元から大きく深い穴が広がり、邪気が溢れ出していたのだ。穴が大きく広がり俺に向かってくるようだ。このまま魔界に繋がり邪気が溢れ出すと、近くの人間は死に絶えるだろう。
「何をしている! 」
俺は木々に跳び移りながら何とかアスラの側に近付く。アスラの紺碧の瞳は時折、禍々しい血のような深紅に色を変える。穴からは闇の獣の頭が僅かにのぞき、アスラに従うように集まってくる。まだ、阻む結界が残っておりこちら側に来れないようだが、界が繋がってしまえば大きな犠牲を生むだろう。
「ずっと、声が聞こえている。魔物の声だ。人間の心の声も聞こえる。どちらも大差がない。俺を呼び、異界が繋がる。もう何もできることはない」
「アスラはそれを望んでいるのか!?」
アスラは不思議そうな顔をした。
「望みなどない。醜悪な人間の本性は見飽きた。くだらない魔物もうんざりだ。もう、生きることに飽いている。俺の存在が全てを滅ぼすのであればそれも良いだろう」
「飽きてるって! なんでだよ!? 今日の夕飯は美味しかったじゃないか! めったに食べられないテクテクの肉は俺が狩ってきたんだぜ! マーサの作ったお菓子も凄く甘くて……皆で歌って踊って楽しかったじゃないか!」
アスラは俺を見た。
「お前は変わっているな。俺には人の心の声が、欲望や嫉妬等の浅ましい声が聞こえる。その声を大きくすることもできる。だが、お前からはずっと小川のせせらぎや風に揺れる葉擦れのような音しか聞こえない」
「そうさ!俺にはお前の知らないこともいっぱいある! 飽きるなんて言わせないぜっ! 」
お前はなぜそんなに絶望しているんだ。まだ、子供だろう!?俺はアスラの子供らしくない口調、態度に一体どんなものを見てきたのだと哀しくなる。
「生きることに飽きただって!?お前が経験したことのない事や、お前が見たことのない綺麗なものもいっぱいあるはずだ! 俺は、山の頂上で宇宙が瞬くのをみた。氷河が光りながら輝きやがて崩れ落ちるのも。世界の端で虹色の帯が空に折り重なり色とりどりに揺れるのを見た。アスラにもいつか連れて行ってみせてやる! 」
「そんなことをしてお前にどんな得がある? 」
俺は、胸が締め付けられるように痛くなる。俺の過去、この世界の未来では全てが死に絶え、俺たちは二人だけになった。
「俺はお前と友達になりたい」
「友達だと?」
「うん」
アスラは皮肉げに笑った。それは初めて見た笑みだった。
「ならば誓え。この俺を飽きさせることのないよう生きることを。もし、破れば、それがこの世の終わりとなる」
俺はごくりと唾を飲み込んだ。
「俺は、アスラと友達になる。毎日楽しくて、わくわくするような思い出をいっぱい作る。それから、きっとアスラに幸せだと言わせてみせるよ」
「分かった。だが、どうする? この繋がりかけた異界の侵食は止まらないぞ」
そうなっても良いというように、肩をすくめて俺を見る。繋がってしまえば、アスラや俺は無事でも孤児院の皆や街の人達は無事では済まないだろう。
俺が勇者として万全であれば、聖剣の力と魔法で、封印できたかもしれないが、今は聖剣もなく魔力も万全ではない。どうする?と俺が頭を抱えると、懐が暖かくなった。取り出すと昼にもらった来果が光っている。
「豊穣神の力を感じる」
アスラは眉根を寄せ、嫌そうに来果を見る。
「来果は豊穣の象徴。供物となるものだ。役に立つかもしれないな」
アスラの言葉に、俺は今のありったけの力を来果に込めると、丸い果実は黄金色に輝いた。
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天上から降り注ぐように優しげな声が聞こえてくる。
「どうか、魔界の入り口を封印するのを手伝ってください」
『良かろう。この果実を投げ込みなさい。……蜜煮は美味かったぞ』
俺は、残った精一杯の力を出し切って思いっきり来果を穴に向かって投げ入れた。光りが穴の底から溢れ出し辺りを覆うと、俺は目を瞑った。
ようやく、光が収まり目を見開くと穴のない地面が広がっていた。
「……ありがとう、ケレス」
もう、何も聞こえはしなかった。
「三度、願いを叶えたとはどう言うことだ」
少し不機嫌そうにアスラは言う。来果は邪気を祓うというし、アスラにはきつかったのかもしれないな。
「荷物運んで、料理して、腕輪をあげた」
「……誰にでもいい顔をするのは大概にしろ」
ギロリと、紺碧の瞳で睨まれる。
俺は力を使い果たし、意識が薄れていくのを感じる。これ、俺、森に置いてかれるんじゃね?
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