孤独の解毒薬

金糸雀

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出会い

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俺はいつも一人だった。一人でいることが当然のようになってもう今は大学生。どうってことない。

今日もいつもと同じ毎日。朝起きて、買ったご飯食べて、大学に行く。講義を受けて、バイトがある日は働く。そして家に帰り、風呂に入り、買ったご飯で腹を満たして寝る。そんな毎日。

家でも外でも必要以上に話をしない。家族は俺に無関心で、興味があるのは弟だけ。俺には見向きもしない。でも感謝はしてる。だって俺がこんな生活できるのも父さんと母さんのおかげだから。

学費も払ってくれてる。家に住まわせてくれる。ご飯は用意されてないけど、その代わりお金を支給してくれる。金は用意するから自分で生活しろということだろう。

ありがたい。実にありがたい。

俺は恵まれている。だから家族から空気のように扱われても構わない。他人からからかわれたり、陰口を言われようと構わない。

別にずっと一人でもいい。この先も。

一人は怖いことじゃない。


そう思っていた。


あの男と出会うまでは。




「よ!隣いい?」

見上げた視線の先にいたのは、白銀奏斗。

学部は違うが同大学、同学年の男だ。

一年生のときに取った授業でたまたまグループワークの班が同じになったのだ。

いつも一人でいる俺にとっては苦しい時間だったが、興味のある授業だったから仕方ない。

ちゃんとやらなきゃいけない場面において、俺は人とコミュニケーションはとれる。だからこの授業でも他の授業でも苦痛ではあるが特に問題はない。他の学生たちに裏で何と言われてるかは知らないが。

でも授業が終わればそれまでだ。もう関わることはない。いつも通り一人で過ごしていた。

新学年になってもそれは変わらないはずだった。

なのに。この男はなんで俺なんかに話しかけるんだ?

「別にいいけど...」

断れないのが悪い癖なんだよな。

「久しぶりだな!一年のときぶり?元気だった?春休み何してた?今日から新学期とか早いよな」

怒涛のコミュニケーション。やっぱりすごいな。いわゆる陽キャというやつなのか。

グループワークのときも率先してまとめ役やってたもんな。暗い俺にも何かと声をかけてくれてた。心の中でどう思ってるかは知らないけど。

常に明るくて、人に囲まれていて、爽やかな雰囲気で、キラキラしてる人。

なんで俺に話しかけるんだろう?住む世界違くないか?

「早いよね。もう2年生だね。」

「うんうん。ほんとあっという間!雪もこの授業とるんだね!じゃあまた一緒だ!」

「あー。うん。そうだね」

名前覚えてたんだ。てかいつの間に名前呼び。
距離の詰め方怖っ!

「よっすー。奏斗ー。」

「おー。おはよ。
うわ!隈やばくね?また徹夜?」

「バイト終わったあと朝までゲームのイベントやってた笑」

「ふはっ。やば。ちゃんと寝ろよー
あと授業寝んなよ。」

「はいよー」

「あっ!奏斗くんだ!おはよー!
今日もイケメンだねー」

「おはよ。ありがとね。」


さすが人気者のイケメンだ。
来る人来る人が声を奏斗に声をかけている。

隣に座る俺は空気だ。まぁ当然か。

目立ちたくないからなるべく息を潜めよう。
あぁ早く先生来てくれー


そんなことを思っていたらいつの間にか会話が終わっていたようで、奏斗の視線がじーっとこちらに集中している。

「ど...どうしたの?何か顔についてる?」

「ううん。別にー」

そういったのと同時に先生が教室に入ってきた。


はぁ。何か変な人に目をつけられたかな...?

なんだか不穏な感じがする...

こうして俺の新学期が始まると共に、俺の人生が変わっていく予兆に満ちた日々の幕開けである。
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