はなれ小島のぐー

みくもっち

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9 スケッチブック

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 水しぶきがぐーの顔にかかります。
 ぐーはバカにされているみたいで腹がたちました。

「じゃあ、こうしたらさすがにおしゃべりはできないね」

 その場にバケツをひっくり返します。
 魚のミラは地面の上でぴちぴちとはねました。
 やっぱりおしゃべりする余裕はないようです。

 ぐーは少しかわいそうに思いましたが、どうせ食べてしまうつもりだったし、これで釣りのジャマをされる心配もありません。
 ぐーは地面の上ではねるミラをじっと見つめていました。

 ミラは苦しそうにお腹を上下させています。ぐーはなんだか自分まで苦しくなるような気分でした。
 
 ミラのお腹の動きが少しずつ弱まっています。
 ぐーはそれを見ながら言います。

「おまえが悪いんだよ。猫は魚を食べるものなんだ。こんな目にあっても仕方がないよね」

 ミラは言い返しません。お腹の動きがいまにも止まりそうです。

 ぐーは両手でミラを拾いあげました。そして海に放り投げます。

 すぐに海をのぞきこみました。
 スーッ、と泳いでいく青い影が見えてぐーはほっと胸をなでおろします。

 もう釣りをする気分ではありません。ぐーは家の中へと戻りました。



 次の日もなんだか気分がさえません。
 ぐーはそんなとき、いつものテーブルに腰かけてスケッチブックを開くのです。

 海の風景を鉛筆でなにも考えずに描いていくと、なんだか心が落ちつくのです。
 そんなときボボボボ、とモーター音が聞こえてきました。
 今日は週に一度の配達の日でした。ぐーはあわててスケッチブックをテーブルの下へと隠しました。

 ノックの音がします。ぐーがどうぞ、と言うと入ってくるのはいつもの柴犬のコタローです。
 ダンボールを中央のテーブルに置きます。
 伝票をぐーのところまで持っていき、コタローは首をかしげました。

「おや、今日はなんだか落ちつかないような顔をしているね。どうしたのかな?」

 冷静をよそおっていたのに、やはり気付かれてしまいました。でもぐーはスケッチブックを見られるわけにはいきません。以前、描いた絵を他人に笑われたことがあるのです。

「な、なんでもないよ。ほら、サインしたから。今日はもう帰ってよ」

 ここですんなり帰るのなら苦労はしません。相手はあのあつかましいコタローなのです。
 ぐーがテーブルの下で足を動かしてスケッチブックを壁に押しやるのを目ざとく見つけました。

「ほう、キミは絵を描く趣味を持っていたのか。これは意外だね」

 ぐーが止めるのも間に合わず、コタローはスケッチブックを拾い上げて中を見てしまいました。
 ぐーは泣きそうになりながら飛びかかります。

「かえせよっ!」

 コタローはそれをひらりとかわし、次々とページをめくっていきます。まだ誰にも見せたことのない絵。
 窓からの海の景色……ボートから見たこの家。キレイな夕焼け空……ぐーの大事な絵なのです。あのコタローのことだから前の人たちみたいに笑うにきまっています。
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