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第2部 消えた志求磨
74 虚しい勝利
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アイスブランドは剣の形として封じた。
みんなは……無事か?
アルマとショウが駆け寄ってくる。
階段から声。ナギサとセプティミアたちも上がってきた。
「由佳……やったのか」
「フン、勝負はついたようね」
わたしは軽く手をあげて応える。
勝った……たしかに勝ったけど、本当の黒幕は伊能っぽいし、肝心の志求磨には会えていない。
いや、それよりも華叉丸だ。わたしをかばってアイスブランドの触手に貫かれ、いまや瀕死の状態だ。いろいろあった相手ではあるが、このまま死なせるわけにはいかない。
わたしはみんなに頼んで、残った願望の力を華叉丸の回復に当てることにした。
しばらくして華叉丸が口を開いた。
小さい声だ。なかなか聞き取れない。わたしは顔を近づける。
「由佳殿……もう、よいのだ。我はもう……助からぬ。ああ、アイスブランドを封じてくれたのだな。良かった……」
「おい、ムリしてしゃべるな。お前をまだ死なせるわけにはいかない。おい、聞いてるのか」
「……我は……あの人の意志を継ぎたかった……ナギサ公には嫉妬していたのだ。息子だからと認められ、《召喚者》の継承者となった彼に……だから我は力を欲した。誰も手にしたことがないような力……世界を変えられる力を」
「華叉丸……お前、《覇王》のことを……」
「……我は……わたしは、この世界で推しの姿になれてあの人に出会うこともできた。それだけで満足していればよかったのに……伊能に利用されたのも自業自得……」
華叉丸の視点が定まっていない。……目の光が消えようとしている。
わたしは何度も呼びかけるが……静かに、眠るように華叉丸の呼吸は止まった。
華叉丸との戦いは終わった。なんとも後味の悪い結果だが……。
あとの事はアトール領主のアンディ・マーガリーが引き受けてくれるようだ。
華叉丸の遺体はノレストへ送られ、そこで正式に埋葬されるらしい。
ナギサにとっては反逆者で、アンディはその協力者だが……そこは黙認するようだ。
アトール城内でこれからどうするか話し合う。
ナギサは旧王都で宰相のカネツキ・ゴーンをとっちめると言っている。
セプティミアはもう用は無いわよね、とサイラスと共に去っていった。
ショウは……いつの間にか姿を消している。あんにゃろう……一言ぐらいわたしに謝れ。
華叉丸によって剣に変えられていた連中も勢揃いしている。
もとは葉桜溢忌とともに魔王と戦い、氷漬けにされていて20年ぶりに目覚めたという話だが……。
「皆、複雑な心境よな。操られたとはいえ、儂らが目覚められたのもあの男のおかげ……どちらにしろ死者に罪はない」
《鬼姫》千景が運び出される華叉丸の遺体を見ながら言った。
《聖騎士》マックスが無言で頷き、《願望式人型兵器》シトライゼは無表情、無反応。
「どっちにしろ俺らはセペノイアに帰るしかねーよ。20年も経ってるからだいぶ変わってるだろーけどよ」
「うん……ギルドも無くなってるみたいだし。でもわたし達が長いこと住んでた場所だから」
双子の願望者。
《バーニングサン》ヒューゴと《ファントムムーン》ネヴィアだ。
この5人の願望者はそれぞれ自分が住んでいた土地へと戻ると言って去っていった。
わたしは志求磨に会わなきゃいけないが……向こうも剣化が解けて今頃探しているかもしれない。
いや、わたしがこっちに来てることを知らないという可能性もある。
とりあえずはナギサやアルマと共に旧王都へ戻ることにした。
カーラさんなら何か知っていそうだし、ミリアム達のケガの具合も心配だ。
さっきの光……《女神》シエラが目覚めたというのも気になる。
翌日、わたしとナギサ、アルマはアンディから借りた馬で旧王都まで戻ることに。
馬はあんまり好きじゃないが、この際ぜいたくは言ってられない。
帰りはなんの問題にも巻き込まれず、旧王都に到着。関所もナギサがいるから素通りだ。
「カネツキめ……待ってろよ。今まで重用してきたのに裏切りやがって。メタメタのギタギタにしてやる」
ナギサはその可愛らしい顔とは裏腹に物騒なセリフを吐いている。
気持ちは分かるが、あいかわらず気が短いな……。
「……でも華叉丸が死んだことが伝わっていたら、もう逃げ出したかも」
アルマの言う通りだ。用心深いヤツっぽいから、そこらに情報網を張り巡らせているだろう。
わたし達が到着する前に旧王都から脱出していても全然不思議じゃない。
「どっちにしろ逃がすもんか。どこまでも追って、とっ捕まえてやる」
指をべきべき鳴らしながらナギサの目は見えてきた宮殿を睨んでいる。
「あれ、なんか人が大勢集まっているな」
宮殿前の広場にたくさんの人だかり。
馬から降りてその中をかき分けて進む。
広場中央に濃い顔の中年男性が縄で縛られ、ひざまずいていた。その顔を見てナギサがあっ、と声をあげる。
「カネツキ……もう捕まっている? でも一体誰が……」
その捕らえられているカネツキの前にはスーツ姿の30代ぐらいのひょろっとした男性が立っている。
なんか半笑いみたいな……よく分からん表情しているな。わたしの頭の中にダダダダ、と文字が打ち込まれた。
《やられたらやり返す》パイ沢尚貴。
この二つ名と名前を見て、わたしは軽く目眩を覚えた。
みんなは……無事か?
アルマとショウが駆け寄ってくる。
階段から声。ナギサとセプティミアたちも上がってきた。
「由佳……やったのか」
「フン、勝負はついたようね」
わたしは軽く手をあげて応える。
勝った……たしかに勝ったけど、本当の黒幕は伊能っぽいし、肝心の志求磨には会えていない。
いや、それよりも華叉丸だ。わたしをかばってアイスブランドの触手に貫かれ、いまや瀕死の状態だ。いろいろあった相手ではあるが、このまま死なせるわけにはいかない。
わたしはみんなに頼んで、残った願望の力を華叉丸の回復に当てることにした。
しばらくして華叉丸が口を開いた。
小さい声だ。なかなか聞き取れない。わたしは顔を近づける。
「由佳殿……もう、よいのだ。我はもう……助からぬ。ああ、アイスブランドを封じてくれたのだな。良かった……」
「おい、ムリしてしゃべるな。お前をまだ死なせるわけにはいかない。おい、聞いてるのか」
「……我は……あの人の意志を継ぎたかった……ナギサ公には嫉妬していたのだ。息子だからと認められ、《召喚者》の継承者となった彼に……だから我は力を欲した。誰も手にしたことがないような力……世界を変えられる力を」
「華叉丸……お前、《覇王》のことを……」
「……我は……わたしは、この世界で推しの姿になれてあの人に出会うこともできた。それだけで満足していればよかったのに……伊能に利用されたのも自業自得……」
華叉丸の視点が定まっていない。……目の光が消えようとしている。
わたしは何度も呼びかけるが……静かに、眠るように華叉丸の呼吸は止まった。
華叉丸との戦いは終わった。なんとも後味の悪い結果だが……。
あとの事はアトール領主のアンディ・マーガリーが引き受けてくれるようだ。
華叉丸の遺体はノレストへ送られ、そこで正式に埋葬されるらしい。
ナギサにとっては反逆者で、アンディはその協力者だが……そこは黙認するようだ。
アトール城内でこれからどうするか話し合う。
ナギサは旧王都で宰相のカネツキ・ゴーンをとっちめると言っている。
セプティミアはもう用は無いわよね、とサイラスと共に去っていった。
ショウは……いつの間にか姿を消している。あんにゃろう……一言ぐらいわたしに謝れ。
華叉丸によって剣に変えられていた連中も勢揃いしている。
もとは葉桜溢忌とともに魔王と戦い、氷漬けにされていて20年ぶりに目覚めたという話だが……。
「皆、複雑な心境よな。操られたとはいえ、儂らが目覚められたのもあの男のおかげ……どちらにしろ死者に罪はない」
《鬼姫》千景が運び出される華叉丸の遺体を見ながら言った。
《聖騎士》マックスが無言で頷き、《願望式人型兵器》シトライゼは無表情、無反応。
「どっちにしろ俺らはセペノイアに帰るしかねーよ。20年も経ってるからだいぶ変わってるだろーけどよ」
「うん……ギルドも無くなってるみたいだし。でもわたし達が長いこと住んでた場所だから」
双子の願望者。
《バーニングサン》ヒューゴと《ファントムムーン》ネヴィアだ。
この5人の願望者はそれぞれ自分が住んでいた土地へと戻ると言って去っていった。
わたしは志求磨に会わなきゃいけないが……向こうも剣化が解けて今頃探しているかもしれない。
いや、わたしがこっちに来てることを知らないという可能性もある。
とりあえずはナギサやアルマと共に旧王都へ戻ることにした。
カーラさんなら何か知っていそうだし、ミリアム達のケガの具合も心配だ。
さっきの光……《女神》シエラが目覚めたというのも気になる。
翌日、わたしとナギサ、アルマはアンディから借りた馬で旧王都まで戻ることに。
馬はあんまり好きじゃないが、この際ぜいたくは言ってられない。
帰りはなんの問題にも巻き込まれず、旧王都に到着。関所もナギサがいるから素通りだ。
「カネツキめ……待ってろよ。今まで重用してきたのに裏切りやがって。メタメタのギタギタにしてやる」
ナギサはその可愛らしい顔とは裏腹に物騒なセリフを吐いている。
気持ちは分かるが、あいかわらず気が短いな……。
「……でも華叉丸が死んだことが伝わっていたら、もう逃げ出したかも」
アルマの言う通りだ。用心深いヤツっぽいから、そこらに情報網を張り巡らせているだろう。
わたし達が到着する前に旧王都から脱出していても全然不思議じゃない。
「どっちにしろ逃がすもんか。どこまでも追って、とっ捕まえてやる」
指をべきべき鳴らしながらナギサの目は見えてきた宮殿を睨んでいる。
「あれ、なんか人が大勢集まっているな」
宮殿前の広場にたくさんの人だかり。
馬から降りてその中をかき分けて進む。
広場中央に濃い顔の中年男性が縄で縛られ、ひざまずいていた。その顔を見てナギサがあっ、と声をあげる。
「カネツキ……もう捕まっている? でも一体誰が……」
その捕らえられているカネツキの前にはスーツ姿の30代ぐらいのひょろっとした男性が立っている。
なんか半笑いみたいな……よく分からん表情しているな。わたしの頭の中にダダダダ、と文字が打ち込まれた。
《やられたらやり返す》パイ沢尚貴。
この二つ名と名前を見て、わたしは軽く目眩を覚えた。
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