異世界の剣聖女子

みくもっち

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第2部 消えた志求磨

70 頼もしい仲間

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 あの遠くに見える光……その《女神》が目覚めたから起きている現象か。

 葉桜溢忌はざくらいつきとの最終決戦で見たことある。《女神》シエラ=イデアル。

 自爆してこの世界そのものを吹っ飛ばそうとした葉桜溢忌を、その破壊のエネルギーごと吸収した。
 
 カーラさんが言うには、あの時はまだ半覚醒状態だったらしい。
 完全に目覚めた《女神》はどれだけの力を秘めているのだろうか。

「あの《女神》が甦ったんなら、お前も魔王も終わりだな。世界に危機をもたらそうとするヤツを放っておくわけがない」

 わたしがざまあみろ、といった調子でそう言うが、華叉丸かしゃまるはフフ、と余裕の表情を崩さない。

「そんなことより己が身を心配してはどうか。先程の攻撃も我には通用しなかったのだ。意地を張らずに《断ち斬る者》になればよかろう」

「……黙れ、お前の挑発には乗らない。このままで戦う!」

 宙に浮いている華叉丸めがけ、跳ぶ。
 空中で抜刀──。華叉丸がアイスブランドで受け、流す。

 体勢を崩したわたしに剣の刺突。
 身をよじってかわす。アイスブランドの冷気が肌に刺さるようだ。

 落下中に居合いの一撃。飛ぶ斬撃、太刀風たちかぜ
 これは華叉丸の肩にヒット。ヤツは宙から床に落下した。好機──。

「はああっ!」

 着地からすぐに跳躍。練気で攻撃力を上げ、上段からの打ち下ろし。
 だが──ビシビシビシッ、とヤツに触れる前から刀身が凍っていく。わたしは慌てて後退。
 華叉丸は服の埃を払いながら優雅に立ち上がる。

「分からぬ……たとえ今の攻撃が当たっていたとしても我にダメージは与えられないだろう。なぜ無駄にあがく? 我はまだこの剣の力を1割程も出してないぞ」

 え……そうなの? 怒りにまかせてがむしゃらに攻撃してたから、効いてるとか効いてないとか気にしてなかった。

 ちょっと冷静になってヤバいかもと思ったけど、それは顔に出さない。
 ここはとにかく……時間を稼ごう。どこかつけいるスキがあるはずだ。

「シッ!」
 
 太刀風。ヤツに近付かずに攻撃するのがベストだ。
 さらに連続で放つ。刀から放たれる衝撃波が華叉丸に次々にヒット。

 だが──ヤツの周囲に白い冷気の壁。届いていない。

「だったら──」

 練気。刀へ願望の力を集中。鍔と鞘の隙間から気の光がキイイイ、と漏れる。
 
「くらえっ」

 抜刀。三日月状の巨大な剣閃が華叉丸に向かって飛ぶ。
 白い冷気の壁にぶつかるが、それを突破。まともに華叉丸へ。
 
「むうううっ!」

 アイスブランドの剣身を盾に防御する華叉丸。ザザザザ、とヤツを城壁の際まで押し込む。

「ぬうんっっ!」

 華叉丸は剣を両手で振り上げた。ビッキイイイッ、と目の前にデカイ氷の柱が出現。
 わたしの放った真・太刀風の剣閃はその柱に沿うように上昇。夜空の彼方へ消えてしまった。

「くそっ」

 真・太刀風すら通じなかった。願望の力もだいぶ消費してしまった。
 やっぱり今のわたしでは勝てない。でも《断ち斬る者》にはもうなれない。あんな暴走、二度と起こすわけには……。

 華叉丸がアイスブランドを振る。
 小範囲の吹雪が発生し、わたしは吹き飛ばされる。

 床に倒れこむと、ビキビキと手足が凍って張り付いてしまった。
 動けない──!

「終いだな、由佳殿。我が統治するこの世界を見せてやれないのは残念だったが」

 華叉丸が剣を突き出すと、無数の氷刃が発射された。マズイ、防御しなければ……。

 なんとか少ない願望の力を振り絞り練気の技。防御力を高める。

 ガガガガッ、と氷刃がわたしの身体に当たって砕ける。いけない、限界だ。この最初の一撃しか防げない。

 華叉丸はすでに二撃目を放つモーション。
 わたしは目をつぶる。

…………氷刃が発射される音は聞いた。でもわたしの身体に突き刺さる様子はない。
 わたしが目を開けると──。

 飛んでくる氷刃は次々蒸発している。
 わたしをかばうように目の前にいるのは、アルマだ。アルマの周囲には赤く光ったナイフが何本も浮遊している。

「よかった、由佳。間に合った」

 振り向いて笑うアルマ。わたしの頭の中にダダダダ、と文字が打ち込まれた。

《アサシン》《スパイラルエッジ》アルマ・イルハム。

 新しい二つ名……アルマの。まさか超越者リミットブレイカーになったのか。
  
「その娘は……」

 華叉丸がさらに氷刃を飛ばそうとしている。
 アルマが走りだした。周囲のナイフがビビビビッ、と先行して飛ぶ。
 
「かあっ!」

 華叉丸はとっさに攻撃から防御に転じた。氷の壁を作り、ナイフを防ぐ。

 アルマは走りながらダガーを交差して構える。その身体がゴオッ、と燃え上がった。
 
 氷の壁を突き破った。さらに華叉丸を通り抜けるような高速アタック。

「ぐうっ」

 華叉丸がヒザをついた。しかもヤツの傷口がボボッ、と燃えている。
 炎はアイスブランドの力ですぐに消えてしまったが……スゴい、ヤツにダメージを与えたぞ。

「由佳は……あたしが守る」

 アルマがこちらにダガーの先を向けると、おお、手足の氷が溶けた。
 離れたところから属性付与できるのか。
 わたしの刀も赤い光を放ちだす。

「由佳、一緒に倒そう。華叉丸と魔王の剣を」

   
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