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第2部 消えた志求磨
64 ジェノサイドセレナーデ
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わたしがすねてなかなか動かないでいると、セプティミアが怒りだす。
「仕方ないじゃないの。アンタに合う楽器が見つからなかったんだから。それでも無理やり出してあげたんだから感謝してほしいぐらいなのに。そもそもアンタのために来てやったのにそんな態度とるわけ?」
むぐぐ……それについてはなんとも言い返せない。でも他になんかあるだろ。せめてリコーダーとかカスタネットとか。
これ絶対コイツの嫌がらせだ。まだわたしと志求磨にやられたこと根に持ってるに違いない。
「不満があるなら参加しなくてもまわないわ。アンタひとりいなくてもあのアンディ・マーガリーに勝つ自信はあるから」
……そんなこと言われたら、なんか逆に参加しないとムカつく。
わたしはブツブツ言いながらステージのほうへ歩きだした。
ステージへ上がるとワアアア、と大きな歓声。
うわ、ここから見るとスゴい観客の数に圧倒される。ちょっと緊張してきた。
セプティミアを見てみると、余裕の表情で手を振っている。こういう舞台には慣れているのか。
「みんな、準備はいい?」
ステージ中央前。セプティミアが振り向いて聞いてきた。
「はっ、もちろんです」
「僕もいつでもOK」
「……あたしも」
サイラス、ナギサ、アルマが答える。
わたしもでんでん太鼓片手に頷いた。
「それじゃあいくわよ。万里の彼方まで届け、わたしの歌……ジェノサイドセレナーデ」
チッチッチッチッ……ドドドド、バンバン──。
曲がはじまった。まずはナギサのドラム。
ドムドムドム、とセプティミアのベースとリズムを取る。
序盤はアルマのキーボードがメインだ。
軽快で柔らかな音が会場を包む。
観客たちが左右に身体を揺らしはじめた。
キーボードのメロディに合わせてセプティミアの歌声。
ささやくように、心地よい天使のような歌声。
観客たちの顔がうっとりしているのがここからでも分かる。
そして途中から曲調が変化──ナギサのドラムが激しい連打に変わり、サイラスのギターがギャギャギャギャ、とかき鳴らされる。
ここでセプティミアのシャウト。
会場全体を突き抜けるような美声。観客全員がびくっ、と身体を震わせた。
曲調はどんどん早くなっていく。
ナギサのドラム、サイラスのギター、アルマのキーボードが超高速で演奏されていく。
もちろんわたしも負けていない。こうなりゃやけくそだ。一心不乱にでんでん太鼓をデデデデ、と打ち鳴らす。
会場全体はあっという間にセプティミアの歌声に……願望の力に飲み込まれた。
たしか歌詞は『逆らうヤツは皆殺し』『愚民どもよ跪け』などと過激なものだったけど……大丈夫なようだ。
おお、舞台端で覗き込んでいるアンディ・マーガリーがふらついている。
セプティミアの歌がヤツを圧倒している証拠だ。
サイラスのギターソロ。目まぐるしい指の動きで激しくギターを演奏。女性の観客たちから黄色い声援が飛ぶ。
曲はクライマックスだ。セプティミアの美麗かつ高速の歌の前にとうとうアンディ・マーガリーの持っていたマイクが砕け散った。
神器を破壊した──。これはわたし達の完全勝利だ。
曲が終わり、会場を揺らすような大歓声。
アンコール、アンコールの大合唱の中、あのアンディ・マーガリーがこちらに近づいてきた。
「ワタシノ……マケデース。アナタノウタニ、ワタシカンドーシマシタ」
外国人でも願望者だから普通にしゃべれるだろ。なんでカタコトなんだ……なんかムカつくな。
「フン、当然よね。わたしに歌で勝てる願望者なんて存在しないわ。ねえ、サイラス」
「はっ、粗末な民衆どもも改めて認識したでしょう。この世界で最も美しく、偉大な歌い手が誰か」
アンディ・マーガリーはセプティミアとサイラスに握手してからわたしに近づいてきた。
「アナタノモッテイルガッキニモ、カンドーシマシタ。ソレハナントユーガッキナノデスカ?」
「え……これ? でんでん太鼓。日本の楽器……いや、楽器なのかコレ……」
「オゥ……デェンデェンダイコ。マサニトーヨーノシンピ。モシヨケレバ、ワタシニユズッテモラエナイカ」
え、欲しいの? コレが。まあ、もう使うことはないだろうからイイけど。
わたしがでんでん太鼓を渡すと、アンディ・マーガリーはキラッキラッした目で喜び、デデデデと鳴らしながら仲間とともに去っていった。
これで障害は消えた。ライブに夢中で忘れていたが、この城の上から華叉丸が見ていたんだった。これでヤツに近付けるぞ。
「いくぞ、ここから城の中に入れる」
ナギサの声。ステージの裏は城門に繋がっていた。アンディ・マーガリーの能力を破ったいま、入ることができる。
「よし、いくぞ!」
わたしを先頭にアトール城へ突入。
ナギサ、アルマもあとに続く。おや、セプティミアとサイラスも。一緒に戦ってくれるのか。
「ホントはライブまでのつもりだったけど、アンタにもしもの事があったら《青の魔女》に何されるか分かんないから。仕方なくよ、仕方なく。ねえ、サイラス」
「はっ、粗末な頭の《剣聖》にも理解できたかと」
どさくさに紛れてディスられたが……まあいい。そういう事にしておこう。
味方はひとりでも多いほうがいい。
この城の頂上に華叉丸がいる。今度こそここで決着をつけてやる。
「仕方ないじゃないの。アンタに合う楽器が見つからなかったんだから。それでも無理やり出してあげたんだから感謝してほしいぐらいなのに。そもそもアンタのために来てやったのにそんな態度とるわけ?」
むぐぐ……それについてはなんとも言い返せない。でも他になんかあるだろ。せめてリコーダーとかカスタネットとか。
これ絶対コイツの嫌がらせだ。まだわたしと志求磨にやられたこと根に持ってるに違いない。
「不満があるなら参加しなくてもまわないわ。アンタひとりいなくてもあのアンディ・マーガリーに勝つ自信はあるから」
……そんなこと言われたら、なんか逆に参加しないとムカつく。
わたしはブツブツ言いながらステージのほうへ歩きだした。
ステージへ上がるとワアアア、と大きな歓声。
うわ、ここから見るとスゴい観客の数に圧倒される。ちょっと緊張してきた。
セプティミアを見てみると、余裕の表情で手を振っている。こういう舞台には慣れているのか。
「みんな、準備はいい?」
ステージ中央前。セプティミアが振り向いて聞いてきた。
「はっ、もちろんです」
「僕もいつでもOK」
「……あたしも」
サイラス、ナギサ、アルマが答える。
わたしもでんでん太鼓片手に頷いた。
「それじゃあいくわよ。万里の彼方まで届け、わたしの歌……ジェノサイドセレナーデ」
チッチッチッチッ……ドドドド、バンバン──。
曲がはじまった。まずはナギサのドラム。
ドムドムドム、とセプティミアのベースとリズムを取る。
序盤はアルマのキーボードがメインだ。
軽快で柔らかな音が会場を包む。
観客たちが左右に身体を揺らしはじめた。
キーボードのメロディに合わせてセプティミアの歌声。
ささやくように、心地よい天使のような歌声。
観客たちの顔がうっとりしているのがここからでも分かる。
そして途中から曲調が変化──ナギサのドラムが激しい連打に変わり、サイラスのギターがギャギャギャギャ、とかき鳴らされる。
ここでセプティミアのシャウト。
会場全体を突き抜けるような美声。観客全員がびくっ、と身体を震わせた。
曲調はどんどん早くなっていく。
ナギサのドラム、サイラスのギター、アルマのキーボードが超高速で演奏されていく。
もちろんわたしも負けていない。こうなりゃやけくそだ。一心不乱にでんでん太鼓をデデデデ、と打ち鳴らす。
会場全体はあっという間にセプティミアの歌声に……願望の力に飲み込まれた。
たしか歌詞は『逆らうヤツは皆殺し』『愚民どもよ跪け』などと過激なものだったけど……大丈夫なようだ。
おお、舞台端で覗き込んでいるアンディ・マーガリーがふらついている。
セプティミアの歌がヤツを圧倒している証拠だ。
サイラスのギターソロ。目まぐるしい指の動きで激しくギターを演奏。女性の観客たちから黄色い声援が飛ぶ。
曲はクライマックスだ。セプティミアの美麗かつ高速の歌の前にとうとうアンディ・マーガリーの持っていたマイクが砕け散った。
神器を破壊した──。これはわたし達の完全勝利だ。
曲が終わり、会場を揺らすような大歓声。
アンコール、アンコールの大合唱の中、あのアンディ・マーガリーがこちらに近づいてきた。
「ワタシノ……マケデース。アナタノウタニ、ワタシカンドーシマシタ」
外国人でも願望者だから普通にしゃべれるだろ。なんでカタコトなんだ……なんかムカつくな。
「フン、当然よね。わたしに歌で勝てる願望者なんて存在しないわ。ねえ、サイラス」
「はっ、粗末な民衆どもも改めて認識したでしょう。この世界で最も美しく、偉大な歌い手が誰か」
アンディ・マーガリーはセプティミアとサイラスに握手してからわたしに近づいてきた。
「アナタノモッテイルガッキニモ、カンドーシマシタ。ソレハナントユーガッキナノデスカ?」
「え……これ? でんでん太鼓。日本の楽器……いや、楽器なのかコレ……」
「オゥ……デェンデェンダイコ。マサニトーヨーノシンピ。モシヨケレバ、ワタシニユズッテモラエナイカ」
え、欲しいの? コレが。まあ、もう使うことはないだろうからイイけど。
わたしがでんでん太鼓を渡すと、アンディ・マーガリーはキラッキラッした目で喜び、デデデデと鳴らしながら仲間とともに去っていった。
これで障害は消えた。ライブに夢中で忘れていたが、この城の上から華叉丸が見ていたんだった。これでヤツに近付けるぞ。
「いくぞ、ここから城の中に入れる」
ナギサの声。ステージの裏は城門に繋がっていた。アンディ・マーガリーの能力を破ったいま、入ることができる。
「よし、いくぞ!」
わたしを先頭にアトール城へ突入。
ナギサ、アルマもあとに続く。おや、セプティミアとサイラスも。一緒に戦ってくれるのか。
「ホントはライブまでのつもりだったけど、アンタにもしもの事があったら《青の魔女》に何されるか分かんないから。仕方なくよ、仕方なく。ねえ、サイラス」
「はっ、粗末な頭の《剣聖》にも理解できたかと」
どさくさに紛れてディスられたが……まあいい。そういう事にしておこう。
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