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第2部 消えた志求磨
63 新バンド結成
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ステージ上でひと騒ぎあったあと、すぐに次のバンドの演奏の準備がはじめられた。
結局あのアライグマ男は役に立たなかった……。
わたし達はとりあえずその場を離れることにした。
別の位置から華叉丸に接近できないものか、このライブ自体が終わるのを待つか。
いや、やはりあのアンディ・マーガリーをどうにかしないとダメだ。ヤツの歌と神器を攻略しないと……。
「《剣聖》御一行、こちらへ……。我が主がお呼びです」
突然声をかけられ、振り向くと──執事服の長身イケメン。丁寧にお辞儀し、わたし達をエスコートする。
コイツは……サイラスだ。《サディスティックディーヴァ》セプティミアの忠実な下僕。
人混みの中を先導し、先へ進む。この先にあるのは……城門前広場の隅にある仮設テント。
周りにはミュージシャンっぽい人たちが楽器のチューニングや練習、メンバーと打ち合わせをしている。
ここはステージに上がるバンドの待機所らしい。
いくつかあるテントのひとつ。その中にいた。高価そうな椅子に腰かけ、上品な手つきでティーカップをテーブルへ置く少女。
巻き髪ツインテール、ゴスロリ姿で相変わらず生気に乏しい人形のような白い顔。
「不本意だけど来てやったわよ、《剣聖》。まったく……アンタに関わるとロクなことがないからイヤだったんだけど」
セプティミアはそう言いながら立ち上がった。
「まあいいわ。このフェスに参加して愚民どもに本当の歌ってヤツを教えてやるいい機会だもの。ねえサイラス」
「は、粗末な彼らとて分かるでしょう。真の歌姫とはどういうものかが。きっと尊さのあまり歓喜の涙を流すことでしょう」
あいかわらずの高飛車ぶりだが……。たしかに歌は超一級。しかも超越者だ。あのアンディ・マーガリーの能力を破れるかもしれない。
「だけどあの神器は厄介ね。念には念を入れてアンタたちにも協力してもらうから。即席だけど、わたしのバンドのメンバーとして演奏してもらうわ」
「え、演奏って、楽器なんて弾けないし、バンドなんていきなりムリだろ」
「バカね。わたしが超越者ってことを忘れたの? ある程度の資質があればわたしの力で達人級の腕前まで引き上げてあげるわ。サイラス、わたしの番までまだ時間があるわね?」
「はっ、次は【オカラクッション】。その次が【ばいにょん】。そして再びドゥイーンの出番のあとがセプティミア様になります」
「……十分ね。それまでに練習するわよ。わたしの曲の譜面を頭の中に送り込むから。いいわね」
セプティミアの願望の力がぐわっと高まる。
おお、サイラスの手に具現化されたギターが現れた。執事服にギターって意外に似合うんだな。
ナギサの目の前にはドラムセット。
いや、まてまて。異世界出身のナギサがドラムを知ってるとは思えないが。
なになに、以前《覇王》がやっていたのを真似してやったことがあるだと……。
ふうむ、まあいいい。アルマは……おお、キーボードが出てきた。
……ほうほう、小さい頃に少しピアノを習ったことがあると。なるほど。
セプティミア自身にはベース。歌いながら弾くわけか。器用なヤツ。
さて、残るはわたしだが……どんなカッコいい楽器が渡されるのか。ドキドキしながらその瞬間を待つ。
おお、わたしの右手にシュルルル、と具現化されていくこの形は──。
練習を終え、わたし達はステージのすぐ下で待機。
コンサートに参加するメンバーはアンディ・マーガリーの能力に阻まれずにここまで近づけるようだ。
ちょうど【ばいにょん】のメニーボールドという歌が終わった頃。
ステージ上には入れ替わるようにドゥイーンのメンバーが並んだ。
ヤツらメインのコンサートだから何曲も出番があるのか。ヤツの歌の効果が倍増するんじゃないのか。
用心しながらわたしは次の出番を待つ。
おや……今回のドゥイーンのメンバーは楽器を持っていないな。一体何をするつもりだ。
アンディ・マーガリーとメンバーがズンズンと足踏みをはじめた。
そのあとに手拍子。ズンズンチャ、ズンズンチャ、とリズムを取り出す。
これは……聞いたことある。
おお、アンディ・マーガリーの力強い歌がはじまった。
やはり英語なのでよくわからないが……アイ、なんたらロックユー、という部分は知っている。
観客もアンディに合わせて足踏みと手拍子。ズンズンチャ、ズンズンチャ、と会場を揺らすほどの盛り上がりだ。
わわわ、わたしまで勝手に手と足が……。やはりあのヒゲ胸毛おっさん、タダ者じゃない。
観客全体を巻き込むほどのパフォーマンス。ヤツの能力を打ち消すにはアレを超えなければならない。セプティミアに勝算はあるのか。
ドゥイーンの曲が終わった。
観客の声援と拍手が鳴り止まない。さあ、このあとはわたし達の番だが……この盛り上がりの次というのは相当なプレッシャーだ。
「……やっぱりヤダ。わたし出ない」
わたしは首を横にブンブン振って後ずさる。だがナギサがぐいぐい後ろから押してきた。
「今さら何言ってるんだ。みんなで協力してアイツを倒すんだろ。お前がいなくてどうするんだ」
アルマも横に並び、微笑みかける。
「由佳……一緒にがんばろ。大丈夫、あたしが側にいるから」
いや、がんばりたい。がんばりたいけど……。
「だって……みんなカッコいい楽器じゃん。わたしのってこれだよ。なんかひとりだけおかしくね?」
セプティミアの願望の力によって具現化した楽器。
わたしの右手に握られているのは──棒の先に小さな太鼓。その両側には玉付きのヒモ。そう、赤ちゃんをあやすアレだ。でんでん太鼓なのだ。
結局あのアライグマ男は役に立たなかった……。
わたし達はとりあえずその場を離れることにした。
別の位置から華叉丸に接近できないものか、このライブ自体が終わるのを待つか。
いや、やはりあのアンディ・マーガリーをどうにかしないとダメだ。ヤツの歌と神器を攻略しないと……。
「《剣聖》御一行、こちらへ……。我が主がお呼びです」
突然声をかけられ、振り向くと──執事服の長身イケメン。丁寧にお辞儀し、わたし達をエスコートする。
コイツは……サイラスだ。《サディスティックディーヴァ》セプティミアの忠実な下僕。
人混みの中を先導し、先へ進む。この先にあるのは……城門前広場の隅にある仮設テント。
周りにはミュージシャンっぽい人たちが楽器のチューニングや練習、メンバーと打ち合わせをしている。
ここはステージに上がるバンドの待機所らしい。
いくつかあるテントのひとつ。その中にいた。高価そうな椅子に腰かけ、上品な手つきでティーカップをテーブルへ置く少女。
巻き髪ツインテール、ゴスロリ姿で相変わらず生気に乏しい人形のような白い顔。
「不本意だけど来てやったわよ、《剣聖》。まったく……アンタに関わるとロクなことがないからイヤだったんだけど」
セプティミアはそう言いながら立ち上がった。
「まあいいわ。このフェスに参加して愚民どもに本当の歌ってヤツを教えてやるいい機会だもの。ねえサイラス」
「は、粗末な彼らとて分かるでしょう。真の歌姫とはどういうものかが。きっと尊さのあまり歓喜の涙を流すことでしょう」
あいかわらずの高飛車ぶりだが……。たしかに歌は超一級。しかも超越者だ。あのアンディ・マーガリーの能力を破れるかもしれない。
「だけどあの神器は厄介ね。念には念を入れてアンタたちにも協力してもらうから。即席だけど、わたしのバンドのメンバーとして演奏してもらうわ」
「え、演奏って、楽器なんて弾けないし、バンドなんていきなりムリだろ」
「バカね。わたしが超越者ってことを忘れたの? ある程度の資質があればわたしの力で達人級の腕前まで引き上げてあげるわ。サイラス、わたしの番までまだ時間があるわね?」
「はっ、次は【オカラクッション】。その次が【ばいにょん】。そして再びドゥイーンの出番のあとがセプティミア様になります」
「……十分ね。それまでに練習するわよ。わたしの曲の譜面を頭の中に送り込むから。いいわね」
セプティミアの願望の力がぐわっと高まる。
おお、サイラスの手に具現化されたギターが現れた。執事服にギターって意外に似合うんだな。
ナギサの目の前にはドラムセット。
いや、まてまて。異世界出身のナギサがドラムを知ってるとは思えないが。
なになに、以前《覇王》がやっていたのを真似してやったことがあるだと……。
ふうむ、まあいいい。アルマは……おお、キーボードが出てきた。
……ほうほう、小さい頃に少しピアノを習ったことがあると。なるほど。
セプティミア自身にはベース。歌いながら弾くわけか。器用なヤツ。
さて、残るはわたしだが……どんなカッコいい楽器が渡されるのか。ドキドキしながらその瞬間を待つ。
おお、わたしの右手にシュルルル、と具現化されていくこの形は──。
練習を終え、わたし達はステージのすぐ下で待機。
コンサートに参加するメンバーはアンディ・マーガリーの能力に阻まれずにここまで近づけるようだ。
ちょうど【ばいにょん】のメニーボールドという歌が終わった頃。
ステージ上には入れ替わるようにドゥイーンのメンバーが並んだ。
ヤツらメインのコンサートだから何曲も出番があるのか。ヤツの歌の効果が倍増するんじゃないのか。
用心しながらわたしは次の出番を待つ。
おや……今回のドゥイーンのメンバーは楽器を持っていないな。一体何をするつもりだ。
アンディ・マーガリーとメンバーがズンズンと足踏みをはじめた。
そのあとに手拍子。ズンズンチャ、ズンズンチャ、とリズムを取り出す。
これは……聞いたことある。
おお、アンディ・マーガリーの力強い歌がはじまった。
やはり英語なのでよくわからないが……アイ、なんたらロックユー、という部分は知っている。
観客もアンディに合わせて足踏みと手拍子。ズンズンチャ、ズンズンチャ、と会場を揺らすほどの盛り上がりだ。
わわわ、わたしまで勝手に手と足が……。やはりあのヒゲ胸毛おっさん、タダ者じゃない。
観客全体を巻き込むほどのパフォーマンス。ヤツの能力を打ち消すにはアレを超えなければならない。セプティミアに勝算はあるのか。
ドゥイーンの曲が終わった。
観客の声援と拍手が鳴り止まない。さあ、このあとはわたし達の番だが……この盛り上がりの次というのは相当なプレッシャーだ。
「……やっぱりヤダ。わたし出ない」
わたしは首を横にブンブン振って後ずさる。だがナギサがぐいぐい後ろから押してきた。
「今さら何言ってるんだ。みんなで協力してアイツを倒すんだろ。お前がいなくてどうするんだ」
アルマも横に並び、微笑みかける。
「由佳……一緒にがんばろ。大丈夫、あたしが側にいるから」
いや、がんばりたい。がんばりたいけど……。
「だって……みんなカッコいい楽器じゃん。わたしのってこれだよ。なんかひとりだけおかしくね?」
セプティミアの願望の力によって具現化した楽器。
わたしの右手に握られているのは──棒の先に小さな太鼓。その両側には玉付きのヒモ。そう、赤ちゃんをあやすアレだ。でんでん太鼓なのだ。
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