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第2部 消えた志求磨
54 カーラVS羽鳴由佳
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「ううううゥーーッ!」
唸りながらわたしは床の血だまり──さっき右手をケガした時のものだ。そこを蹴り上げる。
バシャッ、と舞い上がった血の飛沫をかき集めるように手を動かし、願望の力を集中。
1本の真っ赤な刀が出来上がった。二刀になったわたしはカーラさんに向かって突進する。
「由佳ちゃんっ! いけないっ!」
カーラさんに刀が届く前にバシイッ、と見えない壁にぶち当たった。
カーラさんが杖の先を向けながら片方の手で宙に文字を描く。
「その状態は危険……。黒由佳ちゃんはあなたの潜在的な凶暴性を具現化したもの。怒りによって暴走すればあなた自身が呑み込まれてしまうわ」
宙に描かれた文字が光り、わたしの周りを囲むように飛ぶ。
それは連なって鎖になり、わたしに巻きついた。
「ぐっ、ううっ!」
締め付けられ、わたしは呻き声を上げる。
苦しい……でも、この状態をカーラさんが解除してくれるなら。
そう思ったが、それに反して身体は拘束を解こうとギギギギ、と力を込める。文字の鎖がギチギチと音を立てだした。
「なんて力……。これでは止められない……!」
文字の鎖は破裂音とともに砕け散った。同時に踏み込み、二刀を突き出す。
切っ先は見えない壁に阻まれたが、かまわずに前進。
腹に力を込め、二刀を一気に横に薙いだ。
壁を切り裂くような感触。
ダメだ──届く。あのカーラさんにわたしの刃が。あと一歩踏み込んだら。
「ごめん、由佳ちゃんっ」
カーラさんが杖の石突きで床を突くとわたしの足元が爆発。凄まじい勢いで打ち上げられた。
天井を突き破り、ゴゴゴゴゴッと地中を貫いて突き抜けた先は──地上だ。
上昇はまだ止まらない。わたしの身体は地上から数10、いや数100メートは上空にある。宮殿が小さくなって下に見える。
ようやく上昇の勢いが止まった。もちろんそうなれば地上に向けて落下するだけだ。──なす術もない。
TVで見たスカイダイビングのようにわたしの身体は落ちていく。不思議と恐怖感はなかった。
下からサファイアのように輝く青い球体に包まれたカーラさんが迫ってくる。
あの人、空まで飛べるのかと驚いている間にわたしと同じ位置まで。
落下速度が緩やかになった。カーラさんの魔法か。
彼女はわたしと同じように落下しながら話しかけてくる。
「由佳ちゃん、無理に心を鎮めろとは言わないわ。黒由佳ちゃんもあなた自身……あなたの願望なんだから。ただ、今のままだとあなた自身と大事な仲間を傷つけることになってしまう。意志を強く持って。この状態はあなた自身にしか解けないのだから」
そんな事言われても……。意識ははっきりしているのに、身体が言うことを聞かない。
ほら、今もカーラさんを見て戦闘態勢に。あんまし近づかないで。
わたしは落下しながらバランスを取り、刀の刃を手首に当てた。なんだ……何をする……? と思った瞬間、ビイッ、と手首を切り裂いた。
「由佳ちゃんっ!」
カーラさんも驚いている。いや、叫びたいのはわたしのほうだ。なんでこんな……手首から噴き出す血の多さに卒倒しそうになる。
ババババ、と空中にまき散らされた血は次々と赤い刀に変化。そしてカーラさんに向かって飛んでいく。
青い球体にドドドドッ、と突き刺さる。
カーラさんが杖を振ると血の刀はパパパパッ、と砕けた。
わたしはさらに血を刀に変えて飛ばす。
カーラさんは空中で後退しながらかわした。それを追う──血の刀をさらに出現させ、それを踏み台にしながら移動。
跳躍、回転しながら二刀の斬撃を叩き込んだ。
カーラさんを覆う青い球体が弾けた。そしてわたしの身体にも衝撃。
ドドドドドンッ、と見えない空気の弾丸に打たれ、2本の刀を手放す。
バランスを崩し、わたしは落下。
もうすぐ地上だ。カーラさんは再び青い球体に包まれ、わたしもその中に。
「由佳ちゃん、しっかり! もっと意識を集中して。わたしも手を貸すから」
カーラさんの杖の先がわたしの胸に触れた。
手首の傷が塞がり、身体中に穏やかで温かい感情が流れ込む。
だがそれに反発するように、また怒りや憎悪が腹の底から噴出。
わたしは唸り声を上げながらカーラさんに掴みかかる。
青い球体に包まれたわたし達は地上に激突。
そこからさらに上昇、落下を繰り返す。宮殿外の庭園にいくつも大穴を開けた。
青い球体が弾け、わたしは着地。カーラさんは宙に浮いたままだ。
ヴンッ、と右手に落とした刀を出現させた。
斬りかかろうとしたとき、周りに人が集まってきた。
「おい、あれは黒由佳じゃねえのか。死んじまったはずの……」
「ううん、あれは由佳。わたしにはわかる。由佳の《断ち斬る者》」
レオニードにアルマ。他の仲間達の姿も見える。ギラアッ、とそちらのほうに標的を変えた。いけない、今のわたしに近付いては──。
唸りながらわたしは床の血だまり──さっき右手をケガした時のものだ。そこを蹴り上げる。
バシャッ、と舞い上がった血の飛沫をかき集めるように手を動かし、願望の力を集中。
1本の真っ赤な刀が出来上がった。二刀になったわたしはカーラさんに向かって突進する。
「由佳ちゃんっ! いけないっ!」
カーラさんに刀が届く前にバシイッ、と見えない壁にぶち当たった。
カーラさんが杖の先を向けながら片方の手で宙に文字を描く。
「その状態は危険……。黒由佳ちゃんはあなたの潜在的な凶暴性を具現化したもの。怒りによって暴走すればあなた自身が呑み込まれてしまうわ」
宙に描かれた文字が光り、わたしの周りを囲むように飛ぶ。
それは連なって鎖になり、わたしに巻きついた。
「ぐっ、ううっ!」
締め付けられ、わたしは呻き声を上げる。
苦しい……でも、この状態をカーラさんが解除してくれるなら。
そう思ったが、それに反して身体は拘束を解こうとギギギギ、と力を込める。文字の鎖がギチギチと音を立てだした。
「なんて力……。これでは止められない……!」
文字の鎖は破裂音とともに砕け散った。同時に踏み込み、二刀を突き出す。
切っ先は見えない壁に阻まれたが、かまわずに前進。
腹に力を込め、二刀を一気に横に薙いだ。
壁を切り裂くような感触。
ダメだ──届く。あのカーラさんにわたしの刃が。あと一歩踏み込んだら。
「ごめん、由佳ちゃんっ」
カーラさんが杖の石突きで床を突くとわたしの足元が爆発。凄まじい勢いで打ち上げられた。
天井を突き破り、ゴゴゴゴゴッと地中を貫いて突き抜けた先は──地上だ。
上昇はまだ止まらない。わたしの身体は地上から数10、いや数100メートは上空にある。宮殿が小さくなって下に見える。
ようやく上昇の勢いが止まった。もちろんそうなれば地上に向けて落下するだけだ。──なす術もない。
TVで見たスカイダイビングのようにわたしの身体は落ちていく。不思議と恐怖感はなかった。
下からサファイアのように輝く青い球体に包まれたカーラさんが迫ってくる。
あの人、空まで飛べるのかと驚いている間にわたしと同じ位置まで。
落下速度が緩やかになった。カーラさんの魔法か。
彼女はわたしと同じように落下しながら話しかけてくる。
「由佳ちゃん、無理に心を鎮めろとは言わないわ。黒由佳ちゃんもあなた自身……あなたの願望なんだから。ただ、今のままだとあなた自身と大事な仲間を傷つけることになってしまう。意志を強く持って。この状態はあなた自身にしか解けないのだから」
そんな事言われても……。意識ははっきりしているのに、身体が言うことを聞かない。
ほら、今もカーラさんを見て戦闘態勢に。あんまし近づかないで。
わたしは落下しながらバランスを取り、刀の刃を手首に当てた。なんだ……何をする……? と思った瞬間、ビイッ、と手首を切り裂いた。
「由佳ちゃんっ!」
カーラさんも驚いている。いや、叫びたいのはわたしのほうだ。なんでこんな……手首から噴き出す血の多さに卒倒しそうになる。
ババババ、と空中にまき散らされた血は次々と赤い刀に変化。そしてカーラさんに向かって飛んでいく。
青い球体にドドドドッ、と突き刺さる。
カーラさんが杖を振ると血の刀はパパパパッ、と砕けた。
わたしはさらに血を刀に変えて飛ばす。
カーラさんは空中で後退しながらかわした。それを追う──血の刀をさらに出現させ、それを踏み台にしながら移動。
跳躍、回転しながら二刀の斬撃を叩き込んだ。
カーラさんを覆う青い球体が弾けた。そしてわたしの身体にも衝撃。
ドドドドドンッ、と見えない空気の弾丸に打たれ、2本の刀を手放す。
バランスを崩し、わたしは落下。
もうすぐ地上だ。カーラさんは再び青い球体に包まれ、わたしもその中に。
「由佳ちゃん、しっかり! もっと意識を集中して。わたしも手を貸すから」
カーラさんの杖の先がわたしの胸に触れた。
手首の傷が塞がり、身体中に穏やかで温かい感情が流れ込む。
だがそれに反発するように、また怒りや憎悪が腹の底から噴出。
わたしは唸り声を上げながらカーラさんに掴みかかる。
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そこからさらに上昇、落下を繰り返す。宮殿外の庭園にいくつも大穴を開けた。
青い球体が弾け、わたしは着地。カーラさんは宙に浮いたままだ。
ヴンッ、と右手に落とした刀を出現させた。
斬りかかろうとしたとき、周りに人が集まってきた。
「おい、あれは黒由佳じゃねえのか。死んじまったはずの……」
「ううん、あれは由佳。わたしにはわかる。由佳の《断ち斬る者》」
レオニードにアルマ。他の仲間達の姿も見える。ギラアッ、とそちらのほうに標的を変えた。いけない、今のわたしに近付いては──。
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