異世界の剣聖女子

みくもっち

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第2部 消えた志求磨

50 望まぬ形での再会

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 氷に閉じ込められた少女のいる地下の空間。
 カーラさんが少女を見ながらぽつりぽつりと話し出した。

「少しずつ、思い出してきたわ。彼女は……イルネージュは葉桜溢忌はざくらいつきの仲間だった。彼が心を許せる数少ない人物。だけど、彼女は凍獄魔剣アイスブランドに精神も肉体も乗っ取られてあんな姿に……」

「あの剣が魔王だったんですか? だったら、あの剣を破壊するか分離させれば……」

「葉桜溢忌が何度も試したわ。時間跳躍タイムリープを使って何度も、何百回も……でも不可能だった。ほんの少しだけイルネージュの意識を取り戻すことはできたけど、イルネージュは……自らの力を暴走させてあの状態に。あの氷漬けの姿は永久凍獄コキュートスといってわたしにもどうにもできない。葉桜溢忌も解呪の方法を探していたけど、結局は見つけられなかった」

「あの華叉丸はその方法を見つけたってことですよね。一体どんな方法で……」

 わたしの疑問にカーラさんは何か知っているような感じだが……どこか話すのをためらっているようにも見える。親指の爪をカリッと噛んだあと、重い口を開いた。

「その方法はあなたにも関係あること……落ち着いて聞いて。あなたの──」

「その先からは我自ら語るとしよう」

 突然の男の声。振り向くと、華叉丸が並ぶ台座のひとつの上に立っていた。いつの間にこの地下へ──。

「お前……ナギサやアルマはどうしたんだ」

「そなたらの仲間は我が剣が相手している。さて、由佳殿……この剣に見覚えがあるかな」

 華叉丸の背から1本の剣が現れた。白銀の光を放つ美しい剣だが──そんなもの、初めて見るに決まっている。

永久凍獄コキュートスはいかな術をもってしても解除できない特別な呪い……たとえそこにいるカーラの解呪ディスペルでも。だがこの剣……消失ロストの力を使えばそれが可能になる」

 今……なんて言った。
 消失ロストと言ったのか。
 願望の力を打ち消す消失ロストの技を使うのは──。

「そう。この白銀の剣がそなたが探し求めている志求磨しぐまが変化したものだ。この剣こそが魔王を解き放つことのできる唯一の鍵」

「お前っ!」

 カッ、と頭に血が昇る。志求磨──わたしの親友を返せ。

 刀を抜きながら跳躍、上段から振り下ろす。
 華叉丸は志求磨の剣で受け止めようと構える。

「!──くそっ」

 とっさに狙いを外す。あの剣を傷つけるわけにはいかない。

 空振りしたわたしに華叉丸は肩から体当たり。わたしはカーラさんのいるところまで吹っ飛ばされた。
 カーラさんはわたしを魔法の力で優しく受け止めてくれる。

「由佳ちゃん、下がってて。ここはわたしがなんとかするから」
 
「カーラさん、頼みます。志求磨を……あやを助けて」

 あんな人質みたいな状態では戦えない。でもこっちには無敵のカーラさんがいる。
 ギリギリと歯噛みしながら涙目で華叉丸を睨む。
 よくも……あんな親切にするフリして実は志求磨を捕まえていたなんて。その魔王の力を手に入れるためか。許さない。

「魔王の力……あの《覇王》や葉桜溢忌ですら出来なかった世界の変革が可能なのだ。たかだかひとりの願望者デザイアの安否で右往左往しているそなたには分からぬだろうが」

 華叉丸はその美しい顔に冷酷な笑みを浮かべる。

「もう目的を達成したような言い方ね。ここから無事に出られると思っているのかしら」

 カーラさんが杖の先を華叉丸に向ける。何気ないセリフに聞こえるが、わたしにはわかる。カーラさんも怒っているようだ。ビリビリと願望の力が高まっているの感じる。
 華叉丸は……ビビってるかと思ったが、涼しい顔でこちらを見下ろしている。

「《青の魔女》カーラ。たしかにそなたの力は最も懸念すべき脅威。だがすでに伊能から情報は得ている。この者どもを前にして平静を保てるか」

 華叉丸の背から2本の剣が飛び出した。ギュルルッと回転しながら交差し、台座の下でカッ、と光った。
 一体何が……剣があった場所には一組の少年少女。その姿を見たとたん、頭の中にダダダダと文字が打ち込まれた。

《バーニングサン》ヒューゴ・ミルズ。
《ファントムムーン》ネヴィア・ミルズ。

 ふたりともピンク色の髪で瓜二つの顔。双子……なのだろうか。年は小学生の高学年ぐらいに見える。
 男の子のほうは黒い学生服ふうの格好。左腕に青い腕章。
 女の子は赤ずきんみたいな格好で、赤いリボンの付いたショルダーバッグを斜めにかけている。こちらも左腕に青い腕章。

 華叉丸の能力で剣にされていたヤツらか。でもこんなチビッ子を呼び出したところでなんになるというのだ。

「あなた……達は……」

 カーラさんの様子がおかしい。あの双子を見て、あきらかに動揺している。こんなカーラさんを見るのははじめてだ。
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