異世界の剣聖女子

みくもっち

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第2部 消えた志求磨

41 激闘

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「──くるぞっ」

 バッ、と床を踏み砕きながら突っ込んできた李秀雅イ・スア
 手刀──前にいたビノッコがガード。ガガッ、ガッ、と拳と蹴りの応酬。
 アルマが横に回り込んでいる。低い体勢から脇腹を狙い、二刀ダガーの突き。

 イ・スアはゴッ、とビノッコを蹴った反動でかわした。だが着地点に向けてわたしの太刀風たちかぜ

「シッ!」
 
 飛ぶ斬撃。イ・スアに命中──いや、かわされている。
 ヤツは壁から天井へと平地のように走り、そこからさらに跳んだ。

 アルマも跳躍、空中で激突。
 落下し、床に叩きつけられたのはアルマ。上からイ・スアの追撃。手刀で串刺そうとしている。

ふんッッ!」
 
 ドンッッ、とビノッコの背中からの体当たり。
 いいぞ、ヤツは吹っ飛び、アルマはその隙に起き上がった。

 わたしは神速で接近。まだ体勢の整っていないヤツに向けて居合い──。
 ガギッ、と硬い手応え。なんだ、ヤツの手に拳銃。あれで弾かれたのか。マズイ──。

 至近距離で銃口が向けられる。ダンダンダンッ、とわたしに銃弾が撃ち込まれた。

「由佳っ!」

 アルマの声。倒れるわたしの上を投げナイフが通過。イ・スアの持っている拳銃を弾き飛ばした。

 あぶねぇ。とっさに防御力の高い鋼牙こうが名刀変化フォームチェンジしていなければヤバかった。
 それにしてもいきなり銃とは……。願望者デザイアで銃を使うのはめずらしいし、何もないところからポンと出すのも超高等技術だ。さすがは超越者リミットブレイカー

 だが、ここまでの攻防は互角以上。わたし達3人ならどうにか対抗できそうだ。勝てない相手じゃない。
 
「なんだ、お前ら……めんどくせぇな。さっさと死ねよ」

 イ・スアの願望の力がゴッ、と高まる。何かしかけてくる──!
 アルマが雷属性のダガーから電撃をバリバリバリと放った。
 命中したイ・スアは黒焦げに──いや、いない。消えた……。

「アルマ殿っ!」

 ビノッコの声。わたしは振り返る。
 アルマがイ・スアに顔面をつかまれ、後頭部から床に叩きつけられていた。いつの間に。
 
「アルマッ!」

 走る──が、くそ。鋼牙のフォームは動きが鈍い。
 アルマのもとへ着く前にまたイ・スアの姿が消えた。

「な、にっ──」

 身体に衝撃。宙に浮き、さらに上から一撃。黒い影が一瞬見えただけだ。

 ゴズンッ、とわたしの身体は床にめり込む。一体何が起きた……?
 
 ゴリッとわたしの頭を踏みつけるイ・スア。
 下唇のピアスを舐めながら言った。

「少しはやると思ったけどよ。過強化ブーストにはついてこれねーか。このまま砕けて死ね」

 ミシミシッ、と頭に痛み。まさか頭蓋骨を踏み潰すつもりか。くそ、調子に乗るな。
 強引に身を起こす。鋼牙のパワーをナメるな。

「お、おっ!?」

 予想外の動きだったのかイ・スアはよろめいた。好機。
 わたしは起き上がりざま、大太刀鋼牙を振り下ろす。
 ガシイッ、と腕をクロスさせてイ・スアはガードした。足元の床が陥没する。
 バカな、生身でこれを受けるなんて……上級魔物さえ一撃で倒したのに。

「いてェな……。クソ、離れろっ」

 強烈な前蹴り。わたしはぐうっと呻きながらあとずさる。
 アルマは……ビノッコが抱え起こしているが、動いていない。大丈夫なのか。

「気を失っているだけですぞ、由佳殿」

 ビノッコの言葉にホッとする。だがこれでアルマは戦えない。わたしとビノッコだけであの凶悪な女に勝てるのか。

 イ・スアは口の端を吊り上げ、ギロォとアルマのほうに視線を移す。
 まずい、狙われている。気付いたビノッコがアルマを床に寝かせ、かばうように身構える。
 
 イ・スアのさっきの能力……おそらく超スピード攻撃だ。
 だったらこっちもスピードに特化したフォームで対抗。
 名刀変化フォームチェンジ
 脇差──名刀燕雀えんじゃく
 
 ドッ、と突進するイ・スアの姿。今度は見える──そして追いついた。
 
「てめェッ──」

 イ・スアの蹴り。かいくぐり、連続で斬りつける。
 ヤツの肩、腕に浅いが傷が入る。
 
「フッ!」

 怯まずに反撃してきた。拳と手刀の連撃。わたしはガードに徹する。
 
「お前、刀は──」

 イ・スアが気付いた。そう、わたしは今、丸腰だ。
 刀はすでに飛剣の技でヤツの頭上に──。

 ボッ、とわたしの刀が上からイ・スアを襲う──が、紙一重でかわされた。シャツの胸元を少し裂いた程度。
 しかし──。

「ビノッコッ!」

「応ッッ!」

 ビノッコが接近していた。踏み込みながらイ・スアの腹に掌打。
 これは発勁はっけいの技だ。
 イ・スアの小柄な身体はくの字に曲がりながら吹っ飛び、口からガハアッ、と血を吐いた。

 大きなダメージを与えた。これで引き下がってくれれば……と思ったが。
 イ・スアはゆらりと起き上がり、右手をクイと引く。
 ピピンッ、とビノッコの足元に何かが落ちた。あれは……?

「むうっ、いかんっ!」

 ビノッコが大声で叫び、はたき落とすようなしぐさ。次の瞬間、爆発が起きた。

「うわっ」

 とっさに伏せる。背中の上を熱い爆風が通り過ぎていく。この爆発はなんなんだ。ビノッコは──。

 ビノッコは仰向けに倒れ、身体中からブスブスと黒い煙を出している。
 
「ち、硬気功か。手榴弾でバラバラにならずに済んだようだな」

 手榴弾……そんなものまで。
 べっ、と血を吐きながらイ・スアが歩き出す。ビノッコとアルマにトドメを刺すつもりだ。

 させるか──。わたしは立ち上がり、手元に刀を戻す。
 しかしどうする。ヤツは強すぎる。こんなとき黒由佳の力があれば……。
 いや、まだ方法はある。まだ練習中だが新しい名刀変化フォームチェンジ。あれを使うしかない。

 
 

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