異世界の剣聖女子

みくもっち

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第2部 消えた志求磨

40 最凶の願望者

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 わたし達は最後にヒグマアイの部屋へ。
 これは……どうなんだろう。殺人事件というよりモニターがぶっ壊されてるだけに見える。
 これが本体だったのか? あのモニター内でわちゃわちゃ動いてたCGが願望者デザイアだと思っていたが。

「これも一撃だ。正面からの打撃。むう、やはり相手はかなりの手練れ」

 ここもビノッコが《名探偵》ジョナンより早く的確に死因を特定した。
 ジョナンはメモを取り、考えこむようにフロアの中央へ戻る。

 わたし達もそのあとに続くが、ジョナンはいきなり振り向いてバシュッ、と時計から何かを飛ばした。

 ぐっ、と首を押さえて座りこむビノッコ。
 え……見たことあるシーンだが、他の人に見られてていいの?
 かまわずジョナンはささっとしゃがんで蝶ネクタイに向かってしゃべりだす。その声はビノッコそのものだ。
 いや、それはいいけどおまえがしゃべってるの丸見えだから。眠らされたビノッコはなんの意味があるんだ。

「整理するぞ……ここまでに分かっているのは、殺害された3人は知っての通り願望者デザイアでも特殊な能力を持っている……が、それが通じない相手で、体術の達人。しかも毒を使う。これに当てはまる人物はただひとり……」

 わたしとアルマはごくりと息をのむ。
 犯人の正体とはいったい……。

「数日前に収監されたばかりの願望者デザイア李秀雅イ・スアだ。犯罪組織【死灰蟲しかいちゅう】の女ボス。ヤツは重要危険人物として最上階の10階に幽閉されたはず。しかも9階にいるのは我がテンプルナイツの団長……」

 え……誰? はじめて聞いた名だが。わたしとアルマがキョトンとしていると、ジョナンはワナワナと震えだす。声ももう自分のものに戻った。

「まさか、団長がやられた? いや、僕の本来の持ち場8階にも異変はなかった。ヤツが脱走したとしてもここまでこれるはずが」

 ジョナンはごそごそとポケットからカギを取り出し、こちらに見せる。

「は、8階に捕らえられてるお前たちの仲間のカギだ。いいか、この事件はまだ解決していない。僕に協力すれば特別にこのカギを渡そう。ヤツは……イ・スアはこのフロアのどこかの部屋にまだ潜んでいる可能性がある。そこをすべて調べるんだ」

 面倒だが、この事件を解決しなければここから移動できないようだし、カギも手に入るならまあいいだろうとわたしとアルマは承諾した。
 ビノッコを起こし、まだ開けていない残りの5つの部屋を調べることにした。

 ひとり1部屋ずつ手分けして調べたほうが早くないか、と提案したが、ジョナンは絶対にダメだと首を横に振る。

「あのイ・スアは恐ろしい願望者デザイアだ。捕らえるときも、あの《青の魔女》の協力を得てやっとのことだったんだ。どうあってもここから出すわけにはいかない」

 カーラさんが……。この塔に来た理由はその犯罪者を捕らえて護送するためだったのか。
 
 わたし達は用心しながら部屋を回っていく。
 ひとつめ、異常なし。ふたつめの部屋も同じく無人の部屋。

 みっつめの部屋の取っ手に触れたビノッコ。
 
「………………」

 動かない。どうしたのだろうか。
 ビノッコは険しい表情で汗をダラダラ流している。

「……由佳、この部屋にいる。間違いない。すごい殺気……」

 アルマも緊張した面持ちでダガーを構える。
 これは冗談じゃなさそうだ。わたしも居合いの構えを取る。
 ジョナンは青ざめた顔でいち早くその場から離れた。

「頼むぞっ、ヤツを捕まえてくれ」

 敵のくせに勝手なこと言ってるな……ヤバいヤツを逃がしたのはお前らの不手際だろうに。

「お二方、いきますぞ」

 ガチャッ、とビノッコが扉を開け──いや、もう扉が粉々に吹っ飛んでいる。
 取っ手の部分だけ握ったビノッコ、アルマ、わたしの間を何かが通り抜けた。
 ゴオッ、と突風と破壊音があとからついてきてわたし達も吹き飛ばされた。

 一瞬。何が起きたのか分からなかった。
 床に手をつき、顔をあげた。

 ドシャッ、と崩れ落ちたのはジョナン。
 その前に立っている人物がビッ、と手を振ると床に血が飛び散った。
 こちらを振り返る。わたしの頭の中にダダダダと文字が打ち込まれた。

黒蜂くろはち》《凶女帝》李秀雅イ・スア

 小柄な女性だ。歳は20前後に見える。
 白いシャツの上に黒のジャケットを着ており、ゆるいウェーブのかかった茶髪のボブカット。下唇の左側にリングピアス。
 
 イ・スアはジョナンの死体を踏みつけながらわたしを睨んできた。キレイな人だけど目つきがおっかねぇ……。

「お前らは……コイツの仲間か? こんなクソみたいなとこに閉じ込めやがって。皆殺しにしてやる」

「いやいや、わたし達はテンプルナイツとは敵同士だ。アンタと戦う理由はない」

 相手は複数の二つ名を持つ超越者リミットブレイカーだ。
《断ち斬る者》になれないわたしに勝ち目は薄い。アルマとビノッコがいたとしてもだ。あまり刺激しないほうがいい。

「へえ……だったら、《青の魔女》を知っているか? あの化け物をブチ殺すのを手伝うなら、命は取らないでおく」

「カーラさんを……? いや、それは」

 まずい。カーラさんはコイツを捕まえるのにテンプルナイツに協力したんだった。相当恨んでいるみたいだ。

「カーラだぁ? お前ら、あの魔女の仲間か──」
 
 やべ、口がすべった。
 イ・スアは下唇のピアスを舐めながらジャケットをバッ、と脱いだ。

「やるしかなさそうですぞ、由佳殿」
 
「うん……強敵だけど戦うしかない」

 ビノッコとアルマがわたしの左右に並ぶ。
 わたしも覚悟を決めて柄に手をかけた。
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