異世界の剣聖女子

みくもっち

文字の大きさ
上 下
144 / 185
第2部 消えた志求磨

36 タモツの飼い葉

しおりを挟む
 ビノッコを加え、わたし達は3階へとあがる。
 3階──そこにはヘルメットにプロテクターを着けた集団が待ち構えていた。
 警備員みたいなテンプルナイツ兵だ。ざっと十数名。
 警棒を振りかざし、襲いかかってくる。

「ここはそれがしに任せられよ」

 スッ、とビノッコが前に出る。

ンッッ!」

 踏み込みながら一直線に突き。
 一発で複数のテンプルナイツ兵が吹っ飛び、壁に叩きつけられる。

 おお、強い……残りの兵たちもボッコボコだ。あっという間に片付いてしまった。

「この階には兵しかいないようですな。正規のテンプルナイツはおそらく囚人のいる階層を守っているのかと」

 次の階段に向かいながらビノッコが言った。
 たしかにこの階にはさっきみたいな扉はない。

 続く4階──ここには2階と同じように壁沿いに扉が並んでいる。
 そして中央には15歳くらいの少年の姿。
 花札のような耳飾りに額に火傷の痕。市松模様の羽織を着ている。

 新たなテンプルナイツの願望者デザイアだ。わたしの頭の中にさっそくダダダダ、と文字が打ち込まれた。

《心優しき長男》雨戸反治郎あまどはんじろう

 と同時に聞いたことのある女性ボーカルのBGMが響き渡る。
 あ、これなんか最近流行ってるアニメの主題歌だ。TVなんかでも流れていた。アニメの内容はよく知らないが。

 わたしは小声でアルマに聞いてみる。

「アルマ、知ってる? あれなんのキャラクターだっけ? わたし最近のはあんまり知らなくて」

「うん。今アニメとかでスゴい人気の【タモツの】って作品。ギャンブルで家族崩壊した反治郎が復讐のために競馬のジョッキーになって、愛馬のネグコに合う飼い葉をもらうために、飼い葉作りの名人タモツさんを探すって話」

 なんてつまらなさそうな話だ……。なんでギャンブルで崩壊した家族の復讐でジョッキーになるんだ。

「でもジョッキーなんかがどうやって戦うんだ」

 見たところ、雨戸反治朗の腰には刀が差してある。ジョッキーなのにアレを使うのか? あと背中に木箱を背負っているが……。
 
「俺はお前たちを許さない。俺の家族をギャンブル漬けにした鬼のようなお前らを……」

 反治朗が刀を抜く。柄の先は刃ではなかった。ジョッキーの持つ鞭だ。
 いろいろとツッコみたいが……なんだこれ、普通に戦っていいのか?

「よし、ネグコ、俺に力を貸してくれ」

 反治朗の背中の木箱から何かが出てきた。
 うお、なんと馬だ。なぜか竹を咥えた可愛らしいちっこい馬。ポニーどこじゃないな。あれじゃマキ○オーみたいだ。
 と思っていたらネグコと呼ばれたそのちっこい馬はグググと大きくなり、普通の馬のサイズになった。

「ネグコはなあ、普通の馬じゃない。だからタモツさんの飼い葉が必要なんだ。それをジャマするなら容赦しない」

 いや、そんなジャマなんてしないが……。
 わたしは首を横に振るが、反治朗は聞く耳を持たない。

 ネグコにまたがると、ピシィッ、と鞭をふるった。

「いくぞっ、俺たちの人馬一体となった連携技を見せてやるっ! 水の息吹いぶき、はじめの型っ!」

 が、鞭で叩かれたネグコはその場で棹立さおだちになり、反治朗を振り落とす。
 しかも落馬した反治朗を後ろ足でパカアッ、と蹴り、パカラパカラとわたし達を通りすぎて階段へ。そのまま去ってしまった。

 顔面血まみれになった反治朗。ぶるぶる震える手で起き上がろうとしている。

「頑張れ反治朗! 頑張れ! 俺は今までよくやってきた! 俺はできるやつだ! そして今日も! これからも! 折れていても! 俺がくじけることは絶対に──ふぐうっ!」

 セリフの途中でアルマが頭を踏みつけた。
 反治朗は悲鳴をあげ、ギブアップを宣言。
 あ、勝ったみたいだ……何もしてないが。

「おい、日之影宵子ひのかげしょうこという方が捕らえられているはずだ。どの階にいる?」

 ビノッコが反治郎の胸ぐらをつかみ、尋問する。
 
「あ、ああ。あの女医か。有名な罪人だから知っている。数々の少年に対するハラスメント、ストーカー、誘拐なんかでかなり重い罪だ。ヤツは8階に捕らえられている」

「くっ、先生……! 待っていてください。必ずこのビノッコが救いだしてみせますぞ」

 ビノッコがぐぐっ、とつかむ手に力をこめる。反治朗が真っ赤な顔でタップしている。
 反治朗が気を失ったところで気付き、ビノッコは手を放した。

 それにしてもあの女医……捕まったのは無実の罪なんかじゃない。もうこのまま閉じ込められてたほうがいいんじゃないのか。

 わたしはそんなことを考えつつ、アルマ、ビノッコとともに5階へ。
 5階はテンプルナイツ兵の控え所のようだ。
 大型の盾を持ったヤツらに取り囲まれたが、ビノッコは盾をぶち抜き、警棒をへし折り、敵をお手玉のようにポンポン投げ捨てる。
 ものの数分で制圧してしまった。こんなに強いのにどうやってコイツらに捕まったんだ……?

 無傷のまま6階へ。
 さっきまでのパターンだと、1階おきに囚人のいる階があるようだ。だとしたらテンプルナイツが待ち構えているはず──。

 
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

ブレイブエイト〜異世界八犬伝伝説〜

蒼月丸
ファンタジー
異世界ハルヴァス。そこは平和なファンタジー世界だったが、新たな魔王であるタマズサが出現した事で大混乱に陥ってしまう。 魔王討伐に赴いた勇者一行も、タマズサによって壊滅してしまい、行方不明一名、死者二名、捕虜二名という結果に。このままだとハルヴァスが滅びるのも時間の問題だ。 それから数日後、地球にある後楽園ホールではプロレス大会が開かれていたが、ここにも魔王軍が攻め込んできて多くの客が殺されてしまう事態が起きた。 当然大会は中止。客の生き残りである東零夜は魔王軍に怒りを顕にし、憧れのレスラーである藍原倫子、彼女のパートナーの有原日和と共に、魔王軍がいるハルヴァスへと向かう事を決断したのだった。 八犬士達の意志を継ぐ選ばれし八人が、魔王タマズサとの戦いに挑む! 地球とハルヴァス、二つの世界を行き来するファンタジー作品、開幕! Nolaノベル、PageMeku、ネオページ、なろうにも連載しています!

異世界の餓狼系男子

みくもっち
ファンタジー
【小説家は餓狼】に出てくるようなテンプレチート主人公に憧れる高校生、葉桜溢忌。 とあるきっかけで願望が実現する異世界に転生し、女神に祝福された溢忌はけた外れの強さを手に入れる。 だが、女神の手違いにより肝心の強力な108のチートスキルは別の転移者たちに行き渡ってしまった。 転移者(願望者)たちを倒し、自分が得るはずだったチートスキルを取り戻す旅へ。 ポンコツな女神とともに無事チートスキルを取り戻し、最終目的である魔王を倒せるのか? 「異世界の剣聖女子」より約20年前の物語。 バトル多めのギャグあり、シリアスあり、テンポ早めの異世界ストーリーです。 *素敵な表紙イラストは前回と同じく朱シオさんです。 @akasiosio ちなみに、この女の子は主人公ではなく、準主役のキャラクターです。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。  その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。  世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。  そして何故かハンターになって、王様に即位!?  この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。 注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。   R指定は念の為です。   登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。   「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。   一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

処理中です...