異世界の剣聖女子

みくもっち

文字の大きさ
上 下
140 / 185
第2部 消えた志求磨

32 大猿退治

しおりを挟む
 ギャギャッ、ギャアッ、と威嚇するように鳴きながら近づく猿の魔物たち。
 
「シッ!」

 太刀風たちかぜを放つ。だが猿たちはバッ、と散らばってかわした。

 素早い──ならば名刀変化フォームチェンジ
 脇差──名刀燕雀えんじゃく
 
 ギィアッ、と叫びながら猿たちがまた群がってきた。
 これはかわせないだろう。飛剣──。
 鞘からギャッ、と放たれた刀がわたしの周りを回転。
 飛びかかってきた3匹を切り刻んだ。
 さらに2匹が襲いかかってくる。手元に戻ってきた刀をキャッチすると同時にまとめて斬って落とす。

 もう2匹はうしろへ跳躍。逃がすか。
 地面を一蹴り。ヒュッ、と一瞬で追いつく。

 驚いた顔の猿2匹を追い抜きざま、斬る。
 まだだ、興奮した猿どもが向かってくる。十数匹はいるか。

 一斉に掴みかかろうとしている。だがこのフォームの動きについてはこれない。
 猿の手や牙をかわしながら流れるような斬撃。
 猿の魔物たちはバタバタと倒れていく。

 ヒュゴッ、と岩が飛んできた。危ねぇ、大猿のことを忘れていた。
 大きくうしろへ跳んでかわしたが、猿の数匹が岩の下敷きに。味方だろうとおかまいなしか。

 アルマのほうは──さすがだ。わたし以上に大勢の猿に囲まれているが、嵐のような二刀ダガー連撃と投げナイフで屍の山を築いている。

 いかん、大猿が今度はアルマに狙いを定めている。
 ゴッ、と放たれた岩。アルマは猿どもの対応でかわせない。
 ここはわたしが──燕雀のフォームのまま走り、跳躍。
 着地点にはすでに飛剣で刀を飛ばしてある。
 刀を踏み台にしてさらに跳ぶ。

 落下する岩が目前に。わたしの手に刀を戻し、刀剣変化フォームチェンジ
 大太刀──鋼牙こうが
 そしてぐっ、と柄を握る手に力を込める。
 
「せやぁっっ!」
 
 斬壊ざんかい。斬撃と打撃の属性を持つ、鋼牙独自の技。
 空中でわたしより大きい岩を粉砕。

「由佳、ありがと」

 アルマが礼を言う。猿の魔物たちは片付けたようだ。残るはあのデカイやつ。

 グアアアッ、と怒りを露にして大猿が突進してきた。アルマは左に。わたしは右にかわして挟みうちに……しまった。
 鋼牙のフォームは動きは鈍い。名刀変化フォームチェンジしなければ、と思ったが──大猿のデカイ手につかまってしまった。

「由佳っ!」

 アルマの声。心配するな、こんなもの鋼牙のパワーで──うわっ。

 わたしはさっきの岩みたいにブン投げられた。
 弾丸みたいな勢いで岩山に激突。
 いったぁ……鋼牙のフォームじゃなけりゃ、大ケガしていたところだ。
 
 大猿はドンドンドンと自分の胸板を叩いて興奮している。
 
「この……魔物のクセに」

 名刀変化フォームチェンジを解除し、いつもの名刀飛蝶ひちょうに。
 神速で移動──正面からは避け、側面に回り込む。
 
 あ、アルマがすでに攻撃をしかけている。待て、単独じゃなくて同時攻撃を──。

「よくも由佳をっ……」

 ダメだ、めずらしく冷静さを欠いて怒っている。
 わたしはこの通り無事だったのに、なんか死んだみたいじゃないか。

 アルマは大猿の周りを撹乱するように高速で移動。
 大猿が苛立ちながら腕やシッポを振り回す。
 跳躍して避け、空中でも木の葉のようにひらひらと攻撃をかわしている。

 大猿の拳をよけ、それを踏み台にしてさらに高く跳ぶアルマ。
 宙返り──そしてズババババ、と無数の投げナイフ。
 うお、スゴい。ナイフは大猿の全身に突き刺さっていく。ていうかあんな量、どこに隠し持っているんだ。

 絶叫する大猿。さらにアルマは縦に回転しながら落下──青白く発光する二刀ダガーでガガガガッ、と斬り下ろす。

 雷属性の技だ。大猿は毛を逆立せながらガクガク震え、ヒザをついた。
 ヒュカッ、とアルマの二刀ダガーが大猿の喉を斬り裂く。
 これで決着だ。大猿は口と喉の傷から黒い煙を出し、完全に沈黙した。

 アルマがすぐに駆け寄ってくる。
 隊商キャラバンの商人たちも無事を確認して離れたところからおーい、と呼びかけている。

「由佳っ、大丈夫?」

「ああ、大したケガはしてない。にしてもスゴいな、アルマ。あんなデカブツをひとりで……」
 
「!……いけない、由佳。首から血が出てる……」
 
「いや、これは少し擦りむいただけだから」

「ダメ、バイ菌が入ると命に関わる。まずは傷口をキレイにしないと」

 アルマは口元のストールをずらし、ぐいっと顔を近づける。

「え、な、どうするつもりだ」

 動揺するわたしにアルマは真剣な顔で言う。

「ほんとは水で洗い流したいけど、すぐには用意できないから……あたしが舐めてキレイにする」

……何を言ってるんだ。このもにょっ娘は。水なら隊商キャラバンの馬車まで戻ればあるのに。
 わたしがそう説明しようとする前にアルマに押し倒された。

「や、やめっ……おい、お前らもなんとか言え! なんで手を合わせてるんだっ!」

 隊商の商人たちは朝日の出を拝むように一斉に合掌している。

 あ、ああっ~、とわたしの悲鳴が辺りににこだました。
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

ブレイブエイト〜異世界八犬伝伝説〜

蒼月丸
ファンタジー
異世界ハルヴァス。そこは平和なファンタジー世界だったが、新たな魔王であるタマズサが出現した事で大混乱に陥ってしまう。 魔王討伐に赴いた勇者一行も、タマズサによって壊滅してしまい、行方不明一名、死者二名、捕虜二名という結果に。このままだとハルヴァスが滅びるのも時間の問題だ。 それから数日後、地球にある後楽園ホールではプロレス大会が開かれていたが、ここにも魔王軍が攻め込んできて多くの客が殺されてしまう事態が起きた。 当然大会は中止。客の生き残りである東零夜は魔王軍に怒りを顕にし、憧れのレスラーである藍原倫子、彼女のパートナーの有原日和と共に、魔王軍がいるハルヴァスへと向かう事を決断したのだった。 八犬士達の意志を継ぐ選ばれし八人が、魔王タマズサとの戦いに挑む! 地球とハルヴァス、二つの世界を行き来するファンタジー作品、開幕! Nolaノベル、PageMeku、ネオページ、なろうにも連載しています!

異世界の餓狼系男子

みくもっち
ファンタジー
【小説家は餓狼】に出てくるようなテンプレチート主人公に憧れる高校生、葉桜溢忌。 とあるきっかけで願望が実現する異世界に転生し、女神に祝福された溢忌はけた外れの強さを手に入れる。 だが、女神の手違いにより肝心の強力な108のチートスキルは別の転移者たちに行き渡ってしまった。 転移者(願望者)たちを倒し、自分が得るはずだったチートスキルを取り戻す旅へ。 ポンコツな女神とともに無事チートスキルを取り戻し、最終目的である魔王を倒せるのか? 「異世界の剣聖女子」より約20年前の物語。 バトル多めのギャグあり、シリアスあり、テンポ早めの異世界ストーリーです。 *素敵な表紙イラストは前回と同じく朱シオさんです。 @akasiosio ちなみに、この女の子は主人公ではなく、準主役のキャラクターです。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。  その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。  世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。  そして何故かハンターになって、王様に即位!?  この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。 注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。   R指定は念の為です。   登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。   「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。   一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

処理中です...