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第2部 消えた志求磨
25 ハイスコア剣聖女子
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第3ラウンドの開始──。
わたしが操作するルーカスは即座にしゃがむ。
そう、この斜め下方向にレバーを倒した状態こそ世に名高い【待ちルーカス】戦法である。
敵が離れた状態ではエアブレードを放ち、それを避けて飛び込もうとすればフライングカッターで迎撃。
特に鈴玉のような飛び道具を持たないキャラに対しては凶悪な効果を発揮する。
こちらからは一切近づかず、とにかく待つ。そしてエアブレード、エアブレード連発。たまらず飛び込んできた相手にはフライングカッター。
相手は時間制限もあるし、あせればあせるほどこちらの思うつぼというわけだ。
ほらほら、さっそく無謀な飛び込みを……ムダだ。
ルーカスのフライングカッターでダメージを与える。
「ビィーッチ! ビッチ! サノバビーーッチ! 卑怯! そんなの反則だよっ」
ヒグマアイが喚いているが関係ない。これは真剣勝負。非情な世界なのだ。
「素人目にも分かる……あんなのアリなのか」
「由佳……スゴい卑怯……あたし、ちょっと恥ずかしい」
楊とアルマが完全に引いているが……黙れ。これは戦術なのだ。このゲームにおける《風斬りの由佳》……どんな手を使おうが最終的に──。
「勝てばよかろうなのだァァァァッ!」
ルーカスの超必殺技、フライングカッタージャッジメントが炸裂。
相手の体力ゲージはあとわずか。弱パンチ一発で倒せる──が、ここでわたしは油断しない。
さらに待ちルーカスの体勢。もう時間も少ない。わたしの勝ちは揺るがない。
ヒグマアイの操る鈴玉が近付いてくる。どうせ負けるなら、と玉砕覚悟の突進か。
フッ、よくここまで戦った、とわたしは相手の健闘を讃えながら仕留めにかかる。
ルーカスの放つエアブレードが鈴玉に向かって飛ぶ。
鈴玉は操作ミスなのかその場で対空技の蒼天脚のモーションに入っている。そのまま飛んでかわせるタイミングじゃない。これは勝負あったな。
「えっ!?」
しかし、ルーカスのエアブレードは鈴玉にヒットしない。まるですり抜けたような──。
そこから一気に近付かれた。相手の連続コンボ。宙に浮いた状態からさらに追撃を受ける。そして気絶状態からの超必殺。
竜巻のような鈴玉の連続回転蹴り。
満タンだったルーカスの体力ゲージがごっそりもっていかれた。
いや、それよりも今の動き──とても素人のものじゃない。それに最初のすり抜けは。
「ふふん、驚いた? あの技は発動前のコンマ数秒のタイミングで相手の飛び道具をすり抜ける性能があるの。かなりシビアだけどわたしにはカンタン。ぷぷーっ、あんたの戦法なんてわたしには最初から通じないの」
「お前、わざと実力を隠していたのか」
完全に騙されていた。油断させるつもりが逆に油断させられていた。
──お互いの体力は互角。もう待ちルーカスは使えないし、時間もない。
「いくぞ、ヒグマアイ!」
「かかってきな、羽鳴由佳!」
ふたりの操るキャラクターは最後の技を放つ。そしてその勝敗の行方は──。
筐体から転げ落ちてジタバタしているのはヒグマアイ。そう、わたしは勝ったのだ。ゲーム画面ではルーカスが勝ちポーズを決め、『ナッシングトゥイッツ』と決め台詞。
わたしもそのポーズを真似ながら、ふっ、と前髪をかき上げてからアルマと楊のもとへ戻る。
「見たか、わたしの実力を。1勝したからもうアイツらも退散するはず」
だが周りを囲むテンプルナイツ兵に動揺は見られない。
モニター内のヒグマアイの耳障りな笑い声が聞こえてきた。
「バーカ、バーカ! もともとこの勝負は動画配信対決って言ったじゃん! ゲームで勝ってもいいねの数で負けたら意味ないっつーの☆ ちな、わたしのいいねは1万超えたから」
な、なんだとぉ。あれほどの熱戦の意味が……いやいや、ゲームで勝ったのはわたしだ。わたしの超絶テクに感動したゲーマーがいいねを3万ぐらい押したかもしれない。
「ダメ……由佳。いいねの数、5個」
アルマの絶望的な声にわたしはまたズッコけ、楊がトドメとばかりにコメントを読みあげる。
『ヒグマアイちゃん相手にクソ汚え手使いやがって』
『コイツ、ネット対戦で永久に出入り禁止な』
『もともとの勝負内容忘れてて草生える』
なんということだ……。ゲームに夢中で本来の勝負内容を忘れていたとは。知っていればもう少し魅せる戦い方をしていたというのに。しかしネットの連中め、好き勝手言いやがって。
「さてさて、《剣聖》ご一行。もうあとがありませんねー☆ 最後の勝負はダンス対決っ! これもいいねの数で決まるから気をつけてね~。まあ、どうやってもアンタらに勝ち目はないけど~☆」
ヒグマアイが熊の手をワキワキ動かしながらはしゃいでいる。
ダンス対決だと……これはまたもやわたしの出番だ。元の世界では陰キャと思われがちなわたしだが、実は地元で賞を取ったことがある。
次こそは雪辱を果たす……わたしは再び目に闘志の炎を燃やし、立ち上がった。
わたしが操作するルーカスは即座にしゃがむ。
そう、この斜め下方向にレバーを倒した状態こそ世に名高い【待ちルーカス】戦法である。
敵が離れた状態ではエアブレードを放ち、それを避けて飛び込もうとすればフライングカッターで迎撃。
特に鈴玉のような飛び道具を持たないキャラに対しては凶悪な効果を発揮する。
こちらからは一切近づかず、とにかく待つ。そしてエアブレード、エアブレード連発。たまらず飛び込んできた相手にはフライングカッター。
相手は時間制限もあるし、あせればあせるほどこちらの思うつぼというわけだ。
ほらほら、さっそく無謀な飛び込みを……ムダだ。
ルーカスのフライングカッターでダメージを与える。
「ビィーッチ! ビッチ! サノバビーーッチ! 卑怯! そんなの反則だよっ」
ヒグマアイが喚いているが関係ない。これは真剣勝負。非情な世界なのだ。
「素人目にも分かる……あんなのアリなのか」
「由佳……スゴい卑怯……あたし、ちょっと恥ずかしい」
楊とアルマが完全に引いているが……黙れ。これは戦術なのだ。このゲームにおける《風斬りの由佳》……どんな手を使おうが最終的に──。
「勝てばよかろうなのだァァァァッ!」
ルーカスの超必殺技、フライングカッタージャッジメントが炸裂。
相手の体力ゲージはあとわずか。弱パンチ一発で倒せる──が、ここでわたしは油断しない。
さらに待ちルーカスの体勢。もう時間も少ない。わたしの勝ちは揺るがない。
ヒグマアイの操る鈴玉が近付いてくる。どうせ負けるなら、と玉砕覚悟の突進か。
フッ、よくここまで戦った、とわたしは相手の健闘を讃えながら仕留めにかかる。
ルーカスの放つエアブレードが鈴玉に向かって飛ぶ。
鈴玉は操作ミスなのかその場で対空技の蒼天脚のモーションに入っている。そのまま飛んでかわせるタイミングじゃない。これは勝負あったな。
「えっ!?」
しかし、ルーカスのエアブレードは鈴玉にヒットしない。まるですり抜けたような──。
そこから一気に近付かれた。相手の連続コンボ。宙に浮いた状態からさらに追撃を受ける。そして気絶状態からの超必殺。
竜巻のような鈴玉の連続回転蹴り。
満タンだったルーカスの体力ゲージがごっそりもっていかれた。
いや、それよりも今の動き──とても素人のものじゃない。それに最初のすり抜けは。
「ふふん、驚いた? あの技は発動前のコンマ数秒のタイミングで相手の飛び道具をすり抜ける性能があるの。かなりシビアだけどわたしにはカンタン。ぷぷーっ、あんたの戦法なんてわたしには最初から通じないの」
「お前、わざと実力を隠していたのか」
完全に騙されていた。油断させるつもりが逆に油断させられていた。
──お互いの体力は互角。もう待ちルーカスは使えないし、時間もない。
「いくぞ、ヒグマアイ!」
「かかってきな、羽鳴由佳!」
ふたりの操るキャラクターは最後の技を放つ。そしてその勝敗の行方は──。
筐体から転げ落ちてジタバタしているのはヒグマアイ。そう、わたしは勝ったのだ。ゲーム画面ではルーカスが勝ちポーズを決め、『ナッシングトゥイッツ』と決め台詞。
わたしもそのポーズを真似ながら、ふっ、と前髪をかき上げてからアルマと楊のもとへ戻る。
「見たか、わたしの実力を。1勝したからもうアイツらも退散するはず」
だが周りを囲むテンプルナイツ兵に動揺は見られない。
モニター内のヒグマアイの耳障りな笑い声が聞こえてきた。
「バーカ、バーカ! もともとこの勝負は動画配信対決って言ったじゃん! ゲームで勝ってもいいねの数で負けたら意味ないっつーの☆ ちな、わたしのいいねは1万超えたから」
な、なんだとぉ。あれほどの熱戦の意味が……いやいや、ゲームで勝ったのはわたしだ。わたしの超絶テクに感動したゲーマーがいいねを3万ぐらい押したかもしれない。
「ダメ……由佳。いいねの数、5個」
アルマの絶望的な声にわたしはまたズッコけ、楊がトドメとばかりにコメントを読みあげる。
『ヒグマアイちゃん相手にクソ汚え手使いやがって』
『コイツ、ネット対戦で永久に出入り禁止な』
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なんということだ……。ゲームに夢中で本来の勝負内容を忘れていたとは。知っていればもう少し魅せる戦い方をしていたというのに。しかしネットの連中め、好き勝手言いやがって。
「さてさて、《剣聖》ご一行。もうあとがありませんねー☆ 最後の勝負はダンス対決っ! これもいいねの数で決まるから気をつけてね~。まあ、どうやってもアンタらに勝ち目はないけど~☆」
ヒグマアイが熊の手をワキワキ動かしながらはしゃいでいる。
ダンス対決だと……これはまたもやわたしの出番だ。元の世界では陰キャと思われがちなわたしだが、実は地元で賞を取ったことがある。
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