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第2部 消えた志求磨
22 Vチューバー、ヒグマアイ
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青の館。ノックしようとする前に、扉が勝手にギギィー、と開いた。そのまま入ってきていいという意味だろうか。
わたし達が屋敷の中に入ると、薄暗い通路の両側の灯りがボボボッ、とついた。
カーラさんの青の館……治療室以外はあまりよく見たことがなかった。
手前の広間にカーラさんの姿はない。大きなテーブルにソファー、壁紙、絨毯……やはり全てが青色で統一されている。
壁には干した薬草のようなものがたくさんぶら下がっている。
テーブルの上には開きっぱなしの本や理科の実験で使うような器具類。粉末状の薬っぽいもの、何かの骨片、スライム状の不気味な液体……そんなものが散乱している。
カーラさんはやはり奥の部屋か。
あの時はイカれガンマン……《クレイジーガンマン》クレイグと戦ったあとに志求磨に運びこまれたんだった。
ガチャリとドアを開ける。
その部屋は特に深い青色に包まれている。まるで海の底のようだ。
壁に埋め込まれた水槽で淡い照明に照らされた小魚がゆらゆらと泳いでいる。わたしがはじめてここに来たとき……もう3年前か。あの時と何も変わっていない。
ベッド横のサイドテーブルの横に座っているのは──青いウィッチハットにローブ、杖……間違いない。背を向けているが、カーラさんだ。
いや、なんかおかしい。表面積が……デカイ。
肉が座っている椅子から大きくはみ出ている。コイツはまさか──。
「おい、カーラさんはどこだ」
わたしがそう聞くと、偽カーラはびくっ、と反応してゆっくりとこちらを向いた。
「よ、よく見破ったわね。そうよ、アタシよ。カーラの友人、ウメコ・エキセントリックよ」
肉を揺らしながらウメコは答える。2回目の武道大会でもカーラさんの真似をしていた。コイツがいるということは、本物のカーラさんは不在なのか。
「察しの通り本物のカーラは外出中よ。あら、アンタ……カーラからもらった簪つけてないの? えっ、壊れた? でも簪なしで力を出せるようになったって……えっ、今度は急に出せなくなった? なんかややこしいわね、アンタ」
そう、このウメコがカーラさんから預かったという簪ではじめて《断ち斬る者》になれたんだった。
黒由佳の願望の欠片を取り込んでからは自力で変化できるようになったのだが……ナギサとの一戦以来、うまくいかない。というか、黒由佳を感じることができない。
そのことを説明すると、ウメコはう~ん、と唸りながら手招きする。
「アタシも多少は魔法の心得があるわ。アンタの身体の変化を調べることぐらいはできるはず。ほら、手を出してみて」
言われるがままに右手を出してみる。ウメコの分厚い両手が包み込んだ瞬間、うしろからアルマの声。
「いけない……いつの間にか囲まれている。ゴメン、由佳。油断してた」
敵か──こんなところまで。屋敷の周りを囲んでいるのか。アルマが敵意を持った相手をここまで近付けるとはめずらしい。それほどの使い手というわけか。
「羽鳴由佳。ここは敵を迎え撃つには不向きだ。こちらから外に出たほうがいい」
楊が冷静にうながす。
それはわたしも賛成だ。敵よりも敵の攻撃でこの館が傷つくほうが怖い。
「アンタはここで待ってろ。この部屋から出るんじゃないぞ」
ウメコにそう言い、わたし達3人は館の外へ。
外では黒いヘルメットにプロテクターの警備員のような姿の兵士、20人ほどが並んでいる。またテンプルナイツの連中か。ここから見えないところにも潜んでいるのだろう。
願望者はいないようだ、と思っていたらガラガラガラとテンプルナイツ兵の数人が何かを運んできた。
こ、これは……大きなテレビモニターだ。縦長で大人の身長ぐらいはある。こんなものを異世界によく出せたもんだな。ちゃんと映るのか?
モニターがヴンッ、と音を立てて明るくなる。
そこには16、7歳ぐらいのひとりの少女が映し出されていた。
熊のような耳のついた帽子に熊みたいな手袋。キラキラした瞳でイエーイ、とVサインをしてくる。これってCGってやつか。
どういうつもりだ……と思っていたら頭の中にダダダダ、がきた。
《元祖Vチューバー》ヒグマアイ。
こんなのが願望者なのか。
たまに人外の願望者にはお目にかかるが、まさかCGとは……もともとの人間は何考えてんだ。それにもうひとつ気になることがある。
「アルマ、Vチューバーってなに?」
「……バーチャルユーチューバー。あたしも詳しくは知らないけど、アニメやCGのキャラクターが動画配信するってやつ……」
「ふーん……でも異世界でこんなモニターの中で何が出来るんだ? わけが分からん」
ここでモニター内のヒグマアイがぶほぉっ、と吹き出す。
「いまどきVチューバー知らないなんて、あんたホントに現代人~? まじウケる☆ あ~、そのサムライっぽい格好だからかな? 頭ん中がえどじだいらへんで止まってたりして~☆」
モニターの中でわちゃわちゃ動きながらコイツ……セリフに☆が付くやつなんて初めて見た。
わたし達が屋敷の中に入ると、薄暗い通路の両側の灯りがボボボッ、とついた。
カーラさんの青の館……治療室以外はあまりよく見たことがなかった。
手前の広間にカーラさんの姿はない。大きなテーブルにソファー、壁紙、絨毯……やはり全てが青色で統一されている。
壁には干した薬草のようなものがたくさんぶら下がっている。
テーブルの上には開きっぱなしの本や理科の実験で使うような器具類。粉末状の薬っぽいもの、何かの骨片、スライム状の不気味な液体……そんなものが散乱している。
カーラさんはやはり奥の部屋か。
あの時はイカれガンマン……《クレイジーガンマン》クレイグと戦ったあとに志求磨に運びこまれたんだった。
ガチャリとドアを開ける。
その部屋は特に深い青色に包まれている。まるで海の底のようだ。
壁に埋め込まれた水槽で淡い照明に照らされた小魚がゆらゆらと泳いでいる。わたしがはじめてここに来たとき……もう3年前か。あの時と何も変わっていない。
ベッド横のサイドテーブルの横に座っているのは──青いウィッチハットにローブ、杖……間違いない。背を向けているが、カーラさんだ。
いや、なんかおかしい。表面積が……デカイ。
肉が座っている椅子から大きくはみ出ている。コイツはまさか──。
「おい、カーラさんはどこだ」
わたしがそう聞くと、偽カーラはびくっ、と反応してゆっくりとこちらを向いた。
「よ、よく見破ったわね。そうよ、アタシよ。カーラの友人、ウメコ・エキセントリックよ」
肉を揺らしながらウメコは答える。2回目の武道大会でもカーラさんの真似をしていた。コイツがいるということは、本物のカーラさんは不在なのか。
「察しの通り本物のカーラは外出中よ。あら、アンタ……カーラからもらった簪つけてないの? えっ、壊れた? でも簪なしで力を出せるようになったって……えっ、今度は急に出せなくなった? なんかややこしいわね、アンタ」
そう、このウメコがカーラさんから預かったという簪ではじめて《断ち斬る者》になれたんだった。
黒由佳の願望の欠片を取り込んでからは自力で変化できるようになったのだが……ナギサとの一戦以来、うまくいかない。というか、黒由佳を感じることができない。
そのことを説明すると、ウメコはう~ん、と唸りながら手招きする。
「アタシも多少は魔法の心得があるわ。アンタの身体の変化を調べることぐらいはできるはず。ほら、手を出してみて」
言われるがままに右手を出してみる。ウメコの分厚い両手が包み込んだ瞬間、うしろからアルマの声。
「いけない……いつの間にか囲まれている。ゴメン、由佳。油断してた」
敵か──こんなところまで。屋敷の周りを囲んでいるのか。アルマが敵意を持った相手をここまで近付けるとはめずらしい。それほどの使い手というわけか。
「羽鳴由佳。ここは敵を迎え撃つには不向きだ。こちらから外に出たほうがいい」
楊が冷静にうながす。
それはわたしも賛成だ。敵よりも敵の攻撃でこの館が傷つくほうが怖い。
「アンタはここで待ってろ。この部屋から出るんじゃないぞ」
ウメコにそう言い、わたし達3人は館の外へ。
外では黒いヘルメットにプロテクターの警備員のような姿の兵士、20人ほどが並んでいる。またテンプルナイツの連中か。ここから見えないところにも潜んでいるのだろう。
願望者はいないようだ、と思っていたらガラガラガラとテンプルナイツ兵の数人が何かを運んできた。
こ、これは……大きなテレビモニターだ。縦長で大人の身長ぐらいはある。こんなものを異世界によく出せたもんだな。ちゃんと映るのか?
モニターがヴンッ、と音を立てて明るくなる。
そこには16、7歳ぐらいのひとりの少女が映し出されていた。
熊のような耳のついた帽子に熊みたいな手袋。キラキラした瞳でイエーイ、とVサインをしてくる。これってCGってやつか。
どういうつもりだ……と思っていたら頭の中にダダダダ、がきた。
《元祖Vチューバー》ヒグマアイ。
こんなのが願望者なのか。
たまに人外の願望者にはお目にかかるが、まさかCGとは……もともとの人間は何考えてんだ。それにもうひとつ気になることがある。
「アルマ、Vチューバーってなに?」
「……バーチャルユーチューバー。あたしも詳しくは知らないけど、アニメやCGのキャラクターが動画配信するってやつ……」
「ふーん……でも異世界でこんなモニターの中で何が出来るんだ? わけが分からん」
ここでモニター内のヒグマアイがぶほぉっ、と吹き出す。
「いまどきVチューバー知らないなんて、あんたホントに現代人~? まじウケる☆ あ~、そのサムライっぽい格好だからかな? 頭ん中がえどじだいらへんで止まってたりして~☆」
モニターの中でわちゃわちゃ動きながらコイツ……セリフに☆が付くやつなんて初めて見た。
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