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第2部 消えた志求磨
16 恥獄少女
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天魔まいに襲いかかる砂の狼たち。
しかし、いずれも天魔まいを避けるように通り抜け、壁にぶつかってただの砂に戻った。
「なんだと……!」
驚くムスタファに向け、天魔まいは着物の袖をばっ、と広げて見せる。
「ぬうっ、こ、これは──!」
ヒザをつき、苦しみだすムスタファ。
サーブルの兵士たちが助けようとするが、警備員のようなテンプルナイツ兵に阻まれて近づけない。
「このわたしに普通の攻撃は通用しない……倒したければ、わたしの術を打ち破ることね……この恥獄流しを」
天魔まいが再び袖を振る。
今度はアルマと楊が苦しみだした。
コイツも橋本君と同じ正攻法で倒せない願望者か。
「さあ、次はあなたの番──」
くっ、どうする。おそらくわたしの通常攻撃は通用しない。術を打ち破れば勝てると言っていたが……。
天魔まいがこちらに向け、袖を──わたしは身構える。
いや、袖の中からゴソゴソと何かを取り出した。あれは……雑誌か何かだろうか。
天魔まいはページをめくり、ある部分を読み始めた。
「わたしの将来の夢は、サムライになることです。くノ一もカッコいいと思うけど、人前でお風呂に入ったりしないといけないのでやっぱりサムライがいいです。かぶれん坊将軍みたいに悪人をバッタバッタとやっつけたいです」
一体なんなんだ、この内容は……なんか頭の悪そうな子供が書いたような……でも、どこかで聞いたことのある文章だ。
「それか、お姫様もいいかな、と思ったりします。キレイな着物を着て、かんざしをさして、たくさんの家来を従えて大きなお城を歩いてみたいです」
天魔まいがここまで読み上げて、わたしは愕然とした。それ……それ、小学生の時の卒業文集! わたしが書いたヤツだ!
「ちょ、なんでそんなもの、あんたが持ってんの……」
動揺するわたしに天魔まいは冷酷な笑みを向ける。
「わたしは恥獄少女……呪った相手を辱しめ、恥をさらすのがわたしの力。あなたの仲間も過去の自身の恥ずかしい過去を思い出して苦しんでいるの。でもこんなのはまだ序の口……」
天魔まいはまた袖から何かを取り出す。
紙切れ……いや、手紙か。なんかスゴくイヤな予感がする。
「はなおかけんさまへ。はなおかけんさまはどんなたべものがすきですか。わたしはいちごがすきです。はなおかけんさまはれんにゅうをかける派ですか。わたしはかけない派です──」
おいおいおいおい! それはわたしが幼稚園生の頃、時代劇俳優の花岡賢に書いたファンレターじゃないか!
わたしはたまらず、天魔まいに飛びかかる。
天魔まいはふわりと宙を舞い、わたしの突進をかわす。かわしながらバラバラと何かをばらまいた。
「こ、これは──」
元の世界でのわたしの写真だ。小4の頃、母に髪を切られ、失敗してもんちっちみたいになったときの──。こっちは中1の頃だ。あられもない姿で寝てる姿──しかも目は半開き、口からはヨダレ。
「や、や、やめれぇーーっ!」
床に落ちた写真をかき集める。サーブル兵もテンプルナイツ兵も拾った写真を見てクスクス笑っている。ぶん殴って奪い取った。
まだ天魔まいの攻撃は続いている。袖からビカーッ、と光が伸びてプロジェクターのように壁に映像が映し出された。
あれは……こっちに来てからのわたしだ。刀をマイク代わりにしてかぶれん坊将軍のテーマソングを熱唱している。ぬおお……我が姿ながら恥ずかしい。なんでこんな映像が……。
上手くもなく、下手でもない微妙な歌声に兵士たちが失笑。なんか変な空気になってしまった。いっそのこと殺してくれ。
わたしはがくりと両手をつく。恐ろしい能力だ。アルマ、楊、助けてくれ──。
楊は……部屋の片隅でヒザを抱えてぶるぶる震えている。どんな恥ずかしい過去を思い出してるか知らないが、あれでは助けは期待できない。
アルマ、おまえなら──。
アルマは床の上をゴロゴロ転がりながら身悶えしている。
「ダメ、由佳……みんなが見ている前でそんな……あたし、恥ずかしい……」
コイツは……恥ずかしい過去というより、ありもしない妄想にひたっているだけじゃないか。くそ、このもにょっ娘もダメだ。
サーブル領主ムスタファも立ち上がれそうにない。いや、それはいい(良くはないが)なんでわたしだけ公開処刑みたいになってるんだ。
「ふふ、このままメンタルが崩壊するまで恥辱を味わわせてあげるわ」
天魔まいの能力の前にわたしはなす術がない。このまま負けてしまうのか。
「まあぁぁてえぇいぃっっ!」
突然バァンッ、と扉が開かれ、聞き覚えのある声。
現れたのは──黒い革ジャンにジーパン、手にはレザーグローブ。白いマフラーをたなびかせ、すさまじい昭和臭をただよわせている中年。
《アライグマッスル》御手洗剛志の登場だ。
「新たな悪の組織が誕生したと聞き、わたしが駆けつけたぞ! そこまでだ、怪人ツルペッターめ、覚悟しろっ!」
わたしを指さしてポーズを取る。
コイツ、マジで殺してやろうか。何度も会ってるし、葉桜溢忌との戦いでも一緒だった。もう顔を忘れたのか。
しかし、いずれも天魔まいを避けるように通り抜け、壁にぶつかってただの砂に戻った。
「なんだと……!」
驚くムスタファに向け、天魔まいは着物の袖をばっ、と広げて見せる。
「ぬうっ、こ、これは──!」
ヒザをつき、苦しみだすムスタファ。
サーブルの兵士たちが助けようとするが、警備員のようなテンプルナイツ兵に阻まれて近づけない。
「このわたしに普通の攻撃は通用しない……倒したければ、わたしの術を打ち破ることね……この恥獄流しを」
天魔まいが再び袖を振る。
今度はアルマと楊が苦しみだした。
コイツも橋本君と同じ正攻法で倒せない願望者か。
「さあ、次はあなたの番──」
くっ、どうする。おそらくわたしの通常攻撃は通用しない。術を打ち破れば勝てると言っていたが……。
天魔まいがこちらに向け、袖を──わたしは身構える。
いや、袖の中からゴソゴソと何かを取り出した。あれは……雑誌か何かだろうか。
天魔まいはページをめくり、ある部分を読み始めた。
「わたしの将来の夢は、サムライになることです。くノ一もカッコいいと思うけど、人前でお風呂に入ったりしないといけないのでやっぱりサムライがいいです。かぶれん坊将軍みたいに悪人をバッタバッタとやっつけたいです」
一体なんなんだ、この内容は……なんか頭の悪そうな子供が書いたような……でも、どこかで聞いたことのある文章だ。
「それか、お姫様もいいかな、と思ったりします。キレイな着物を着て、かんざしをさして、たくさんの家来を従えて大きなお城を歩いてみたいです」
天魔まいがここまで読み上げて、わたしは愕然とした。それ……それ、小学生の時の卒業文集! わたしが書いたヤツだ!
「ちょ、なんでそんなもの、あんたが持ってんの……」
動揺するわたしに天魔まいは冷酷な笑みを向ける。
「わたしは恥獄少女……呪った相手を辱しめ、恥をさらすのがわたしの力。あなたの仲間も過去の自身の恥ずかしい過去を思い出して苦しんでいるの。でもこんなのはまだ序の口……」
天魔まいはまた袖から何かを取り出す。
紙切れ……いや、手紙か。なんかスゴくイヤな予感がする。
「はなおかけんさまへ。はなおかけんさまはどんなたべものがすきですか。わたしはいちごがすきです。はなおかけんさまはれんにゅうをかける派ですか。わたしはかけない派です──」
おいおいおいおい! それはわたしが幼稚園生の頃、時代劇俳優の花岡賢に書いたファンレターじゃないか!
わたしはたまらず、天魔まいに飛びかかる。
天魔まいはふわりと宙を舞い、わたしの突進をかわす。かわしながらバラバラと何かをばらまいた。
「こ、これは──」
元の世界でのわたしの写真だ。小4の頃、母に髪を切られ、失敗してもんちっちみたいになったときの──。こっちは中1の頃だ。あられもない姿で寝てる姿──しかも目は半開き、口からはヨダレ。
「や、や、やめれぇーーっ!」
床に落ちた写真をかき集める。サーブル兵もテンプルナイツ兵も拾った写真を見てクスクス笑っている。ぶん殴って奪い取った。
まだ天魔まいの攻撃は続いている。袖からビカーッ、と光が伸びてプロジェクターのように壁に映像が映し出された。
あれは……こっちに来てからのわたしだ。刀をマイク代わりにしてかぶれん坊将軍のテーマソングを熱唱している。ぬおお……我が姿ながら恥ずかしい。なんでこんな映像が……。
上手くもなく、下手でもない微妙な歌声に兵士たちが失笑。なんか変な空気になってしまった。いっそのこと殺してくれ。
わたしはがくりと両手をつく。恐ろしい能力だ。アルマ、楊、助けてくれ──。
楊は……部屋の片隅でヒザを抱えてぶるぶる震えている。どんな恥ずかしい過去を思い出してるか知らないが、あれでは助けは期待できない。
アルマ、おまえなら──。
アルマは床の上をゴロゴロ転がりながら身悶えしている。
「ダメ、由佳……みんなが見ている前でそんな……あたし、恥ずかしい……」
コイツは……恥ずかしい過去というより、ありもしない妄想にひたっているだけじゃないか。くそ、このもにょっ娘もダメだ。
サーブル領主ムスタファも立ち上がれそうにない。いや、それはいい(良くはないが)なんでわたしだけ公開処刑みたいになってるんだ。
「ふふ、このままメンタルが崩壊するまで恥辱を味わわせてあげるわ」
天魔まいの能力の前にわたしはなす術がない。このまま負けてしまうのか。
「まあぁぁてえぇいぃっっ!」
突然バァンッ、と扉が開かれ、聞き覚えのある声。
現れたのは──黒い革ジャンにジーパン、手にはレザーグローブ。白いマフラーをたなびかせ、すさまじい昭和臭をただよわせている中年。
《アライグマッスル》御手洗剛志の登場だ。
「新たな悪の組織が誕生したと聞き、わたしが駆けつけたぞ! そこまでだ、怪人ツルペッターめ、覚悟しろっ!」
わたしを指さしてポーズを取る。
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