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第2部 消えた志求磨
15 刺客
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アルマを加え、わたし達は2時間ほどでサーブルの領都へ到着。
ものさびしい砂の景色から一変。
オアシスを囲むように大きな広場があり、そこでは多くの商人たちが店を開いていた。
露天のような造りの店が多い。衣服や装飾品、食料品、家畜。武器や防具、日用品や薬……占いの店まである。
隊商の人達とはここで別れる。彼らはここで頼まれた輸送品を届け、また新たな荷を積んで別の街へ向かうという。
わたしとアルマ、楊はここで情報を集めることにした。
商人たちやその客は皆《アライグマッスル》御手洗剛志のことは知っていた。
アルマの言った通り、やはり一週間前にはこの領都にはいたらしい。しかし志求磨のことと、《アライグマッスル》の行き先は分からなかった。
さらに奥へ進むと居住地へ。
砂岩を削ったような四角い人家が段差のある地形にひしめきあっている。
ところどころ壊れた人家があるのは2年前の葉桜溢忌軍の被害によるものか。
さらに高台へ行けば大きくそびえる砦のような城。その城も破損している部分が多い。
「……ここの領主に会ってみる? 領主ならいろんなこと知ってるかも」
アルマが城を指さしながら言ったので、くわしく聞いてみるとアルマはここの領主とは顔見知りらしい。
わたしたち3人は城へ行くことにした。
まず門兵に止められたが、アルマが元五禍将だと知ると、丁寧に中へ案内してくれた。
外観はくすんだ黄色の城だったが、中は白い光沢を放つ石造りの美しい内装。
すぐに領主の間に通された。領主は初老の──フード付きの布を巻いた軽鎧……ローブアーマーというやつか。それを着た目つきの鋭い男だった。
わたしの頭の中にダダダダ、と文字が打ち込まれる。
《砂刃狼》ムスタファ。
「……アルマか……久しいな。ミリアム殿に連れられてきて以来か」
ムスタファは椅子に座ったまま、特に動かないし、それ以上何も聞かない。えらい無愛想なヤツだ……普通、領主なんだから客が来たら歓迎するだろ。
まあ、それはいい。わたしと楊のことはガン無視してるが……とにかく聞きたいことを聞いてさっさとこんなとこ出るぞ。
「聞きたいことがあるんだけど……」
質問はアルマに任せよう。
アルマがまず《アライグマッスル》のことを聞いてみると、ああ、あの騒がしい男か、とムスタファは思い出したように苦笑した。
「たしかに俺も見たな。広場でヒーローショーをやって、かなりの盛況ぶりだった」
「近くに十四、五歳くらいの男の子がいなかった? ちょっと生意気そうなヤツなんだけど……」
「いや、見かけなかったな。だが、アライグマ男のほうは俺から魔物討伐の依頼を出しておいた。しかし一週間経っても戻ってこないとは……死んだか?」
「し、死んだって……それは困る。志求磨の行方を知ってるかもしれないのに。魔物討伐ってどこに!?」
わたしは思わず会話に割り込む。
ムスタファは頭上で手をぐるっと回した。
「だからこの辺りだ。葉桜溢忌軍との戦い以降、この領地は人手不足。魔物討伐には願望者が必要なんだよ」
葉桜溢忌軍の略奪に抵抗した結果……2年経った今でも城や街の修復は終わってないようだ。
魔物への警戒や討伐に割く人員も限られているのだろう。しかし参った……探しに行くにもこの砂漠地帯だ。あてもなしにうろうろできる場所じゃない。
突然ドタバタと領主の間に衛兵が駆け込んでくる。ムスタファが何事か、と立ち上がると同時に場の空気が変わった。
これは──敵か。この辺りが特殊な願望の力で支配されている。相当な力だ。
「ム、ムスタファ様っ、テンプルナイツですっ! 公儀の取り締まりだと無理やり城内に──」
「テンプルナイツだと……ナギサ公の特務機関がなぜここに……!」
衛兵を押し退けてゾロゾロと入ってきたのは──ヘルメットにプロテクターを着けた集団。なんかどっかの警備会社の人みたいだ。
その中央をしずしずと歩いてくるのは黒い着物、黒髪の少女。わたしを見て静かに口を開いた。
「呼んだ……?」
いや、呼んでない。そっちが勝手に来たのだ。わたしの頭の中にダダダダ、と文字が打ち込まれた。
《恥獄少女》天魔まい。
「《剣聖》羽鳴由佳。あなたには捕縛命令が出ている……おとなしく従えばよし。抵抗するなら……あなたを恥獄へ流さなければならない」
恥獄……聞きなれない言葉だが、どういう意味だろうか。それに捕縛命令って、まるで犯罪者じゃないか。まさかナギサが命じたのか。
「いくら盟主の特務機関とはいえ、勝手が過ぎるな。そいつは俺の客人だ。手を出さないでもらおうか」
ムスタファが一歩踏み出す。天魔まいがクスクスと口に袖をあてて上品に笑った。
「サーブル領主ムスタファ。ジャマをするのは構わないけど、ここはもうわたしの願望で支配されている。あなたには何も出来ないわ」
「ほう、そいつは面白い──」
ムスタファが手を横に薙ぐ。剣などは持っていない。
だが黄色い帯のようなものがうねるようにバシイッ、とテンプルナイツの集団を弾き飛ばした。
部屋中にパラパラと何がが降りそそぐ。これは砂だ。ムスタファの願望は砂を操る能力なのか。
「無駄だと言ったのに……」
天魔まいは音もなくムスタファの背後に回り込んでいた。
舌打ちしながらムスタファの背中から砂の狼が多数飛び出した。
これは避けられない──。
ものさびしい砂の景色から一変。
オアシスを囲むように大きな広場があり、そこでは多くの商人たちが店を開いていた。
露天のような造りの店が多い。衣服や装飾品、食料品、家畜。武器や防具、日用品や薬……占いの店まである。
隊商の人達とはここで別れる。彼らはここで頼まれた輸送品を届け、また新たな荷を積んで別の街へ向かうという。
わたしとアルマ、楊はここで情報を集めることにした。
商人たちやその客は皆《アライグマッスル》御手洗剛志のことは知っていた。
アルマの言った通り、やはり一週間前にはこの領都にはいたらしい。しかし志求磨のことと、《アライグマッスル》の行き先は分からなかった。
さらに奥へ進むと居住地へ。
砂岩を削ったような四角い人家が段差のある地形にひしめきあっている。
ところどころ壊れた人家があるのは2年前の葉桜溢忌軍の被害によるものか。
さらに高台へ行けば大きくそびえる砦のような城。その城も破損している部分が多い。
「……ここの領主に会ってみる? 領主ならいろんなこと知ってるかも」
アルマが城を指さしながら言ったので、くわしく聞いてみるとアルマはここの領主とは顔見知りらしい。
わたしたち3人は城へ行くことにした。
まず門兵に止められたが、アルマが元五禍将だと知ると、丁寧に中へ案内してくれた。
外観はくすんだ黄色の城だったが、中は白い光沢を放つ石造りの美しい内装。
すぐに領主の間に通された。領主は初老の──フード付きの布を巻いた軽鎧……ローブアーマーというやつか。それを着た目つきの鋭い男だった。
わたしの頭の中にダダダダ、と文字が打ち込まれる。
《砂刃狼》ムスタファ。
「……アルマか……久しいな。ミリアム殿に連れられてきて以来か」
ムスタファは椅子に座ったまま、特に動かないし、それ以上何も聞かない。えらい無愛想なヤツだ……普通、領主なんだから客が来たら歓迎するだろ。
まあ、それはいい。わたしと楊のことはガン無視してるが……とにかく聞きたいことを聞いてさっさとこんなとこ出るぞ。
「聞きたいことがあるんだけど……」
質問はアルマに任せよう。
アルマがまず《アライグマッスル》のことを聞いてみると、ああ、あの騒がしい男か、とムスタファは思い出したように苦笑した。
「たしかに俺も見たな。広場でヒーローショーをやって、かなりの盛況ぶりだった」
「近くに十四、五歳くらいの男の子がいなかった? ちょっと生意気そうなヤツなんだけど……」
「いや、見かけなかったな。だが、アライグマ男のほうは俺から魔物討伐の依頼を出しておいた。しかし一週間経っても戻ってこないとは……死んだか?」
「し、死んだって……それは困る。志求磨の行方を知ってるかもしれないのに。魔物討伐ってどこに!?」
わたしは思わず会話に割り込む。
ムスタファは頭上で手をぐるっと回した。
「だからこの辺りだ。葉桜溢忌軍との戦い以降、この領地は人手不足。魔物討伐には願望者が必要なんだよ」
葉桜溢忌軍の略奪に抵抗した結果……2年経った今でも城や街の修復は終わってないようだ。
魔物への警戒や討伐に割く人員も限られているのだろう。しかし参った……探しに行くにもこの砂漠地帯だ。あてもなしにうろうろできる場所じゃない。
突然ドタバタと領主の間に衛兵が駆け込んでくる。ムスタファが何事か、と立ち上がると同時に場の空気が変わった。
これは──敵か。この辺りが特殊な願望の力で支配されている。相当な力だ。
「ム、ムスタファ様っ、テンプルナイツですっ! 公儀の取り締まりだと無理やり城内に──」
「テンプルナイツだと……ナギサ公の特務機関がなぜここに……!」
衛兵を押し退けてゾロゾロと入ってきたのは──ヘルメットにプロテクターを着けた集団。なんかどっかの警備会社の人みたいだ。
その中央をしずしずと歩いてくるのは黒い着物、黒髪の少女。わたしを見て静かに口を開いた。
「呼んだ……?」
いや、呼んでない。そっちが勝手に来たのだ。わたしの頭の中にダダダダ、と文字が打ち込まれた。
《恥獄少女》天魔まい。
「《剣聖》羽鳴由佳。あなたには捕縛命令が出ている……おとなしく従えばよし。抵抗するなら……あなたを恥獄へ流さなければならない」
恥獄……聞きなれない言葉だが、どういう意味だろうか。それに捕縛命令って、まるで犯罪者じゃないか。まさかナギサが命じたのか。
「いくら盟主の特務機関とはいえ、勝手が過ぎるな。そいつは俺の客人だ。手を出さないでもらおうか」
ムスタファが一歩踏み出す。天魔まいがクスクスと口に袖をあてて上品に笑った。
「サーブル領主ムスタファ。ジャマをするのは構わないけど、ここはもうわたしの願望で支配されている。あなたには何も出来ないわ」
「ほう、そいつは面白い──」
ムスタファが手を横に薙ぐ。剣などは持っていない。
だが黄色い帯のようなものがうねるようにバシイッ、とテンプルナイツの集団を弾き飛ばした。
部屋中にパラパラと何がが降りそそぐ。これは砂だ。ムスタファの願望は砂を操る能力なのか。
「無駄だと言ったのに……」
天魔まいは音もなくムスタファの背後に回り込んでいた。
舌打ちしながらムスタファの背中から砂の狼が多数飛び出した。
これは避けられない──。
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