異世界の剣聖女子

みくもっち

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第2部 消えた志求磨

9 橋本君

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「フ、それじゃあ早速、僕からいくぞっ」

 橋本君のサーブ。
 鋭くわたしのコートにボールが飛び込んでくる。
 速い。だが対応できないほどではない。
 わたしは素早く打ち返した──と思ったらボールはあさっての方向へビヨーンと飛んでいった。

 ああ……そういえば卓球の打球って回転がかかっているんだった。それに合わせて適切に打ち返さないとまっすぐ返っていかない……。

「ッッチョリッソオオオオォーーッッ!」

……びっくりした。橋本君の突然の雄叫び。
 なに、コイツ。渾身のガッツポーズをきめているが、そんな叫ばなくても。

 再び橋本君のサーブ。
 よし、今度はうまくレシーブできた。
 だが橋本君の目がギラリと光る。

「甘いっ!」

 強烈なスマッシュ。これは──ダメだ。反応するのがやっとで、まともに打ち返せない。

「ッッチョリッッソオオオオォーーッッ!」

 また雄叫び。空気がビリビリと震え、わたしはたまらず耳をふさぐ。この声……セプティミア並みの音響攻撃じゃないのか。

 わたしのサーブの番。よし、なんとかミスせずに相手コートに入った。
 橋本君のレシーブ。速い──がなんとか追いついた。打ち返すのに成功。
 おお、なんとかラリーが続いている、と喜んだのもつかの間。鋭いバックハンドの打ち込みに空振り。また橋本君にポイントが入る。

「ッッチョリイイィッソオオオウゥゥーーッッ!」

 身をよじらせ、血走った目で絶叫する橋本君。大丈夫なのか、コイツ……。
 
 その後も連続してポイントは橋本君に。たしか卓球の1ゲームって11点だった。あと2点取られたらわたしの負けだ。
 
「フフ、手も足も出ないようだね……このまま勝負をつけさせてもらうよ」

 肩でゼエゼエと息をしながら橋本君が笑う。
 いや、そんなに疲れるならその絶叫ヤメろよ……。
 
 だがたしかにこのままでは負けてしまう。  
 あの球速……この姿では連続で返すのは難しい。

 わたしは願望の力を集中し、新たな名刀変化フォームチェンジ
 刀はグググと長さが変化。いつもの刀より4分の3ほどの長さに。

 脇差──名刀燕雀えんじゃく
 鞘と柄の部分が青藍の色になる。

「フッ、そんな刀の長さと色が変わったぐらいでどうなったっていうんだ」

 橋本君のサーブ。速いが──この程度、余裕だ。
 この燕雀のフォームはスピード強化。攻撃力は下がるが小回りが効き、連撃に優れる。
 橋本君の打球を次々と打ち返す。
 打ち合いはカカカカカカッ、と常人の目には捉えられない程の速さに達する。

「やるなっ、だがこれはどうだっ!」

 強烈なバックハンドの打球。今までより速い──わたしのラケットは空を切った。
 
「ッッチョリッ、ッチョリッッソアァオオォーーイイィヤアァッッ!」

 つばをまき散らしながら叫ぶ橋本君。

「ハハハハッ、少しはやるようになったが、僕の本気の球にはついてこれないようだね」

 くっ……あと1点。次に点を入れられたら負けてしまう。この燕雀のフォームでも橋本君の本気の打球には追いつけないのか。

 わたしは慎重にサーブを打つ。橋本君のドライブ回転のかかった高速レシーブ。
 なんとか返し、ここからラリー。
 打ち返すたびに速度が増していき──先ほどと同じ展開だ。
 少しでも甘い球を返すと──きた。バックハンドの強烈な打球。

「決まったあっ!」

 わたしの空振りを見て勝利を確信した橋本君。ガッツポーズをとり、雄叫びをあげる為に大きく息を吸い込む。
 だがカツ、カツン……と橋本君のコートに落ちるボールの音。
 橋本君は固まる。信じられないといった表情で。

「バ、バカなっ。僕の打球をお前は……間違いなく空振りしたはず。なんでここにボールがっ」
 
 わなわなと震え、ラケットを落とす。卓球台がバカアッ、と割れた。
 華叉丸を囲んでいた半透明の赤い壁が消えた。
 すかさず飛び出した華叉丸の手刀に打たれ、橋本君はその場に倒れる。

「さすが由佳殿。新しい力を使ってテンプルナイツを倒すとは」

 華叉丸には見えていたようだ。
 そう、わたしのラケットはたしかに空振りをしていた。

 しかし、この燕雀のフォーム独自の技【飛剣】を使って球を打ち返したのだ。
 燕雀のフォームはやはり太刀風たちかぜは使えないが、この刀自身をわたしの周囲に飛ばすことができる。
 
 さっきのボールを打ち返したのは、この刀だったのだ。普通の卓球のルールなら反則だろうが……。

「さっきの鎧野郎といい、テンプルなんとかってどういう意味だ」
 
「テンプルナイツ……葉桜溢忌はざくらいつきの残党や法を犯した願望者デザイアを捕らえるための特務機関。2年ほど前にナギサ公が作ったものだ」
 
「2年前……じゃあ、葉桜溢忌との戦いから今は2年以上も経っていたのか。元の世界じゃ一週間しか経っていなかったのに」

 以前も一時的に行ったり来たりしたときに時間のズレが生じた。綾……志求磨しぐまはこっちでは無事なのだろうか。

 森の奥からガサガサと誰か近づいてくる。
 わたしと華叉丸が身構えると、そこに現れたのは頭巾と布で顔を隠した男。《斉天大聖》楊永順ヤンヨンシュンだ。
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