116 / 185
第2部 消えた志求磨
8 名刀変化
しおりを挟む
ボボボッ、と槍を振り回し、周りの木をなぎ倒す。
レオの猛攻にわたしは防戦一方。
練気で防御力を高めているが、それでも吹っ飛ばされた。
だったら──わたしは大きくバックステップして距離を取る。
刀を両手持ちにし、正眼に構える。
願望の力を集中──刀を中心に。イメージを浸透させる。
いつもの使い慣れた名刀飛蝶がグググ、と変化していく。刃の厚さが増し、刀身の長さはわたしの背丈以上に。鞘と柄の部分が深黄色へと変わっていた。
大太刀──名刀鋼牙。
そう、わたしの新しい力。名刀変化だ。
跳躍からの強烈な打ち下ろしが迫る。わたしはむん、と下から鋼牙を振り上げた。
レオの槍とぶつかり、派手な衝撃音。相手の体重がかかっている分、いつものわたしなら押し潰されていただろうが──。
レオごと上へ弾き飛ばす。
おおっ!? と声をあげたのを聞いた。
驚くのはまだこれからだ。落下するヤツめがけ、今度は上段より振り下ろす。
ゴオッッ、と大気を裂くような一撃。
レオは槍を一文字にして受けたが、その勢いを止められずに背中から地面に叩きつけられた。
ぐふうっ、と呻く声が聞こえる。
この鋼牙のフォームは常時わたしに攻撃力、防御力アップの効果。いわば練気の強力版だ。
その分スピードは大幅にダウンし、太刀風も使えない。変化時間もそう長くはないが、コイツを倒すのには十分だろう。
じりじりと近づき、横薙ぎの一閃。周りの木ごとズパアッ、と斬り裂いた。
だが──レオの姿は消えていた。一瞬、赤い壁に囲まれたのを見たような気がする……仲間の願望者の能力か。
わたしは鋼牙のフォームからいつもの刀に戻す。はじめてにしてはうまくいった。
《断ち斬る者》は超強力な状態だが暴走の危険があるし、いまいち不安定だ。
変化不能は想定していなかったが、それに頼らない戦い方は考えていたのだ。
とりあえず敵は撃退したが、華叉丸を探さなければ。
あの空間転移……そこまで遠くには移動していないはず。相当な願望の力を使うと以前カーラさんに聞いたことがあるからだ。
せいぜいこの森のどこか。転移先で新たな敵に襲われているかもしれない。
わたしはその場にある一番高い木の上へ移動。ここからなら森の広範囲を見渡せるはず。
あれは……森のあちこちで赤い光が点滅している。
術者がああやって兵や願望者を送り込んでいるのだろう。
ポッ、ポポッ、と赤く光る範囲の中心。ひときわ強い光がある。あそこに狙いを定めてみるか──。
地面に降り、走る。
さっきの光の強い場所まで。そう遠い距離ではない。
バラバラァッ、と敵兵が出現。わたしは刀をガチッ、と持ち直す。
敵兵の剣や槍をくぐり抜けながら峰打ちで蹴散らしていく。
さらに敵兵が出現。やはりさっきの光のところが怪しい。わたしを近づけさせないつもりか。
数は20程。まず矢を射かけてきた。
バババッ、と難なく叩き落とし、接近。
峰打ちで叩きのめし、無造作に掴んでブン投げる。
半数程倒したところであとは逃げ出した。
そしてついに赤い光の場所まで辿り着く。
そこには赤い壁に囲まれた華叉丸。そしてひとりの男──いや、少年か。見た目からして願望者なのは間違いない。
《天才卓球少年》橋本君。
わたしの頭の中にダダダダ、と文字が打ち込まれた。これはまた変わったヤツが現れた。
格好は二つ名の通り卓球選手そのまんまだ。手にはラケット……あんなんでどうやって戦うんだ。それに名前がすでに君付け……タダ者ではない。
橋本君は卓球のボールをカッ、カッ、と飛ばす。
森の中へ落ちたボールは赤く光り、そこからぞわっと敵兵が現れ、散らばっていった。
間違いない。コイツが空間転移の術者だ。
「来たな、《剣聖》……僕を追いつめたつもりだろうが、都合がいい。お前もこうやって捕まえてやる」
橋本君はラケットで華叉丸をさす。
あのショウを倒した華叉丸が捕らえられたのか……コイツの強さとは一体……。
「由佳殿、そやつもテンプルナイツのひとり。対願望者用捕縛部隊。まともに勝負しても勝てんぞ」
華叉丸の忠告。よく見れば華叉丸を囲んでいる半透明の赤い壁は卓球台を縦にしたものだ。
「フ、フフ……この男を取り返したいなら、僕を倒さないといけない。だが僕には直接攻撃は通じないよ。この一帯は僕の願望が支配している。僕のルールに従うしかないんだ」
わたしと橋本君の間にズズズズ、と四角の台がせりあがってくる。これは──本物の卓球台だ。以前カードゲームで勝負した願望者がいたが、同じタイプなのだろう。
「1ゲームだ。その間に1ポイントでも僕から奪えればお前の勝ち。フフ、かなりサービス満点な勝負だろう?」
卓球で勝負? マジでか……。
わたし、遊び程度でしかやった事ないんだけど。でも1ポイントだけでも取れればこっちの勝ちなら望みはある。
「よし、勝負だ。1ポイントでも取ったら約束通り華叉丸を解放してもらうぞ」
わたしは卓球台の上にあるラケットを手に取った。
レオの猛攻にわたしは防戦一方。
練気で防御力を高めているが、それでも吹っ飛ばされた。
だったら──わたしは大きくバックステップして距離を取る。
刀を両手持ちにし、正眼に構える。
願望の力を集中──刀を中心に。イメージを浸透させる。
いつもの使い慣れた名刀飛蝶がグググ、と変化していく。刃の厚さが増し、刀身の長さはわたしの背丈以上に。鞘と柄の部分が深黄色へと変わっていた。
大太刀──名刀鋼牙。
そう、わたしの新しい力。名刀変化だ。
跳躍からの強烈な打ち下ろしが迫る。わたしはむん、と下から鋼牙を振り上げた。
レオの槍とぶつかり、派手な衝撃音。相手の体重がかかっている分、いつものわたしなら押し潰されていただろうが──。
レオごと上へ弾き飛ばす。
おおっ!? と声をあげたのを聞いた。
驚くのはまだこれからだ。落下するヤツめがけ、今度は上段より振り下ろす。
ゴオッッ、と大気を裂くような一撃。
レオは槍を一文字にして受けたが、その勢いを止められずに背中から地面に叩きつけられた。
ぐふうっ、と呻く声が聞こえる。
この鋼牙のフォームは常時わたしに攻撃力、防御力アップの効果。いわば練気の強力版だ。
その分スピードは大幅にダウンし、太刀風も使えない。変化時間もそう長くはないが、コイツを倒すのには十分だろう。
じりじりと近づき、横薙ぎの一閃。周りの木ごとズパアッ、と斬り裂いた。
だが──レオの姿は消えていた。一瞬、赤い壁に囲まれたのを見たような気がする……仲間の願望者の能力か。
わたしは鋼牙のフォームからいつもの刀に戻す。はじめてにしてはうまくいった。
《断ち斬る者》は超強力な状態だが暴走の危険があるし、いまいち不安定だ。
変化不能は想定していなかったが、それに頼らない戦い方は考えていたのだ。
とりあえず敵は撃退したが、華叉丸を探さなければ。
あの空間転移……そこまで遠くには移動していないはず。相当な願望の力を使うと以前カーラさんに聞いたことがあるからだ。
せいぜいこの森のどこか。転移先で新たな敵に襲われているかもしれない。
わたしはその場にある一番高い木の上へ移動。ここからなら森の広範囲を見渡せるはず。
あれは……森のあちこちで赤い光が点滅している。
術者がああやって兵や願望者を送り込んでいるのだろう。
ポッ、ポポッ、と赤く光る範囲の中心。ひときわ強い光がある。あそこに狙いを定めてみるか──。
地面に降り、走る。
さっきの光の強い場所まで。そう遠い距離ではない。
バラバラァッ、と敵兵が出現。わたしは刀をガチッ、と持ち直す。
敵兵の剣や槍をくぐり抜けながら峰打ちで蹴散らしていく。
さらに敵兵が出現。やはりさっきの光のところが怪しい。わたしを近づけさせないつもりか。
数は20程。まず矢を射かけてきた。
バババッ、と難なく叩き落とし、接近。
峰打ちで叩きのめし、無造作に掴んでブン投げる。
半数程倒したところであとは逃げ出した。
そしてついに赤い光の場所まで辿り着く。
そこには赤い壁に囲まれた華叉丸。そしてひとりの男──いや、少年か。見た目からして願望者なのは間違いない。
《天才卓球少年》橋本君。
わたしの頭の中にダダダダ、と文字が打ち込まれた。これはまた変わったヤツが現れた。
格好は二つ名の通り卓球選手そのまんまだ。手にはラケット……あんなんでどうやって戦うんだ。それに名前がすでに君付け……タダ者ではない。
橋本君は卓球のボールをカッ、カッ、と飛ばす。
森の中へ落ちたボールは赤く光り、そこからぞわっと敵兵が現れ、散らばっていった。
間違いない。コイツが空間転移の術者だ。
「来たな、《剣聖》……僕を追いつめたつもりだろうが、都合がいい。お前もこうやって捕まえてやる」
橋本君はラケットで華叉丸をさす。
あのショウを倒した華叉丸が捕らえられたのか……コイツの強さとは一体……。
「由佳殿、そやつもテンプルナイツのひとり。対願望者用捕縛部隊。まともに勝負しても勝てんぞ」
華叉丸の忠告。よく見れば華叉丸を囲んでいる半透明の赤い壁は卓球台を縦にしたものだ。
「フ、フフ……この男を取り返したいなら、僕を倒さないといけない。だが僕には直接攻撃は通じないよ。この一帯は僕の願望が支配している。僕のルールに従うしかないんだ」
わたしと橋本君の間にズズズズ、と四角の台がせりあがってくる。これは──本物の卓球台だ。以前カードゲームで勝負した願望者がいたが、同じタイプなのだろう。
「1ゲームだ。その間に1ポイントでも僕から奪えればお前の勝ち。フフ、かなりサービス満点な勝負だろう?」
卓球で勝負? マジでか……。
わたし、遊び程度でしかやった事ないんだけど。でも1ポイントだけでも取れればこっちの勝ちなら望みはある。
「よし、勝負だ。1ポイントでも取ったら約束通り華叉丸を解放してもらうぞ」
わたしは卓球台の上にあるラケットを手に取った。
0
お気に入りに追加
153
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★
ブレイブエイト〜異世界八犬伝伝説〜
蒼月丸
ファンタジー
異世界ハルヴァス。そこは平和なファンタジー世界だったが、新たな魔王であるタマズサが出現した事で大混乱に陥ってしまう。
魔王討伐に赴いた勇者一行も、タマズサによって壊滅してしまい、行方不明一名、死者二名、捕虜二名という結果に。このままだとハルヴァスが滅びるのも時間の問題だ。
それから数日後、地球にある後楽園ホールではプロレス大会が開かれていたが、ここにも魔王軍が攻め込んできて多くの客が殺されてしまう事態が起きた。
当然大会は中止。客の生き残りである東零夜は魔王軍に怒りを顕にし、憧れのレスラーである藍原倫子、彼女のパートナーの有原日和と共に、魔王軍がいるハルヴァスへと向かう事を決断したのだった。
八犬士達の意志を継ぐ選ばれし八人が、魔王タマズサとの戦いに挑む!
地球とハルヴァス、二つの世界を行き来するファンタジー作品、開幕!
Nolaノベル、PageMeku、ネオページ、なろうにも連載しています!
異世界の餓狼系男子
みくもっち
ファンタジー
【小説家は餓狼】に出てくるようなテンプレチート主人公に憧れる高校生、葉桜溢忌。
とあるきっかけで願望が実現する異世界に転生し、女神に祝福された溢忌はけた外れの強さを手に入れる。
だが、女神の手違いにより肝心の強力な108のチートスキルは別の転移者たちに行き渡ってしまった。
転移者(願望者)たちを倒し、自分が得るはずだったチートスキルを取り戻す旅へ。
ポンコツな女神とともに無事チートスキルを取り戻し、最終目的である魔王を倒せるのか?
「異世界の剣聖女子」より約20年前の物語。
バトル多めのギャグあり、シリアスあり、テンポ早めの異世界ストーリーです。
*素敵な表紙イラストは前回と同じく朱シオさんです。 @akasiosio
ちなみに、この女の子は主人公ではなく、準主役のキャラクターです。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~
ma-no
ファンタジー
神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。
その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。
世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。
そして何故かハンターになって、王様に即位!?
この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。
注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。
R指定は念の為です。
登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。
「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。
一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-
ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。
困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。
はい、ご注文は?
調味料、それとも武器ですか?
カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。
村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。
いずれは世界へ通じる道を繋げるために。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる