異世界の剣聖女子

みくもっち

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第2部 消えた志求磨

1 プロローグ(2年C組担任 蛯原巧 視点)

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 いつもの教室のはずだ。
 だが、まただ。俺の手が震えている。

 黒板にカカカカッ、とチョークが触れるが……まともな文字にならずボキッと折れる。

 この一週間というもの同じ症状が続いている。  
 何かの病気かと思ったが、教室から離れればピタリと収まる。

 この症状はこの2年C組の生徒達にも及んでいる。
 体調不良を訴える者が続出。先程もふたりの生徒が寒気がすると言って保健室へ向かった。

 この俺──蛯原巧えびはらたくみ。今年40歳になる(独身)このクラスの担任だ。
 俺はこのクラスの担任として、この現象の謎を突きとめねばならない。

 この一週間クラスの様子を観察していたが、特に体調不良を訴える生徒が多いのは中央の一番後ろの席周辺。

 そう、羽鳴由佳はなりゆかの席の周りなのだ。しかも羽鳴本人は平気な顔をしている。

 うっ、羽鳴と目が合った。
 なんだ、おっかねェ……そうだ、アイツのまとっている威圧感というか、気迫というか……まるで幾多の戦場を戦い抜いた戦士。もしくは地下闘技場最大トーナメントで優勝した格闘家のようだ……。

 この短期間でヤツに何が起こったというのだ。今までは特に問題の無い、目立たない生徒だったはずだが……。

 いかん、幻覚だろうか。ヤツの膝の上にちょこんと小さな女の子が座っているようにも見える。いや、そんなバカな。
 これは試練だ。たかだか16か17ぐらいの小娘に気圧されてたまるか。負けるな、蛯原巧。
 俺は意を決して羽鳴に声をかける。

「あ~、羽鳴」

「はい、なんですか先生」

「俺の気のせいかもしれんのだが……お前のヒザの上に小学一年生ぐらいの女の子が座っているように見えるが、それは……なんなんだ」

「……はあ、座敷わらしです」

 教室内がザワつく。
 生徒達にも見えているようだ。疑問に思いつつも、俺と同じく声をかけにくかったとみえる。

「そうか、座敷わらしか……」

「そうです。座敷わらしです」

 羽鳴がそう答えると、ヒザの上の少女が不思議そうに首をかしげる。もうイヤ、おっかない……。

 俺は自習をするように、と言い残して教室を飛び出した。
 今は退いておくが……覚えていろよ、羽鳴由佳。
 座敷わらしを手なずけているとか、敗北を知りたい死刑囚が乗り込んできそうとか、そういうのがコワイんじゃない。
 
 この俺が本気を出せば座敷わらしだろうと地上最強の生物だろうとワケはないが……ここは学校だし、生徒達の安全を考えての決断なのだ。

 次に教室に入るまでに俺の威厳を見せつけ、この怪異を解決させてみせる。そう、次こそは……。
 
 職員室へと戻る途中で、スーツ姿の夫婦とすれ違う。
 軽く頭を下げながら、おや、保護者か。でもなんでこんな時間に……と考えていると、空き教室のほうから若い女性教師が出てきた。
 金田聡美かねださとみ。2年A組の担任だ。

「あら、蛯原先生。授業はどうされたんですか」

「いや、ちょっと体調が悪くて……あ、いまのって保護者ですよね。何かあったんですか」

 俺が質問すると、金田は声をひそめながら答えた。

「まだ公にはなってないんですけど、うちのクラスの比嘉綾ひがあやが昨日から家に帰ってないらしいんです。もう高校生なんだから、たまにはそういうこともあるだろうって、お父さんは笑ってましたけど……」

 比嘉綾……たしかバスケ部のエースで、成績も優秀。明るい性格と可愛らしい容姿から男女ともに人気がある。

「いきなり家出なんてするような子じゃないと思うんですよね。ご両親も今日の夕方までに戻って来なかったら、警察に連絡するとは言ってましたけど」

「そうなんですか……心配ですね。たしかに家出なんかしそうな子じゃない……」

 ここでふと、羽鳴由佳のことが頭に浮かんだ。
 比嘉綾とクラスが違うが、仲が良かったはずだ。
 登下校や休み時間に一緒だったのをよく見かけた。アイツなら何か知っているかも……?
 いや、でも生徒達にはまだ内緒にしてあるようだし……今日もただの病欠扱いになっているはずだ。不用意に聞き出そうとして感付かれたら問題になるかも。

「蛯原先生? どうしたんですか?」

 金田に呼びかけられ、はっと我にかえる。
 いや、ちょっと疲れているようです、とごまかしながらその場を離れた。

 もしかしたらうちのクラスで起きている怪異と何か関係があるのかも。
 そうだとしたら、この件も、比嘉綾の件も俺が──俺が解決する。この蛯原巧が。
 俺の頭の中では、ルー○ーズのテーマソングがループしていた。
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