異世界の剣聖女子

みくもっち

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第1部 剣聖 羽鳴由佳

104 カーラVS葉桜溢忌

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《覇王》の槍。普通に持ち上げられないほどクソ重い。
 わたしは床に突き刺すような格好で、その槍に願望の力を込める。

 はたしてこんなデカイ槍が刀に変化するだろうか。手頃な大きさなら簡単なのだが……。

「なんかヤな感じっスね。まっすぐっていうか、お節介っつーか。説教くせえ頑固オヤジみたいな力をその槍から感じるっス」

 葉桜溢忌が眉をひそめ、立ち上がった。
 カーラさんはウィッチハットのつばを押さえながらツカツカと近づく。

「《覇王》は……黄武迅はあなたの行いをもっとも憎んでいたわ。でも、最後の最後まであなたを救おうとしていたのも彼」

「それが余計なんスよ。まったく、この世界の住人なんて、ゲームでいうNPCみたいなモンでしょ。それが何千、何万死んだところでねえ。大げさなんスよ」

 お互いの距離、十メートルほど。そこでカーラさんは歩みを止めた。  

「変わらないわね、あなたは。自分の欲求以外には、なんに対しても無関心で無責任。無慈悲で衝動的……」

「アンタは変わったっスね。だいぶ丸くなったっつーか。俺と出会ったばかりの頃はもっとギラギラしてて寒気がするぐらいイイ女だった」

「……そう。そんな頃もあったわね」

 カーラさんは杖の石突で床をコーン、と打つ。
 一瞬にして仲間たちの亡骸が消えた。これは……?

「由佳ちゃんが戦いやすいように移動しただけ。安心して。ほら、早く《覇王》の槍を刀に」

「は、はい。今やって……ますっ」

《覇王》の槍。さすがに全世界の王の得物だけあって、認識がハンパない。
 認識で固定されているから形が変化しにくい。これは……思っていたより大変だ。

 ゴッ、とわたしの足元の床が砕けた。
 葉桜溢忌の拳がこちらを向いており、カーラさんの杖がそれを遮るような位置。

「なんだ、結局やるつもりっスか」

「違うわ。由佳ちゃんの準備ができるまで手を出させないわ」

「──同じことっスねえ」

 溢忌が動いた。
 カーラさんを避けるように回り込む──が、カーラさんの杖から炎弾。

 ゴオッ、と吹き飛ぶ溢忌。柱をへし折り、壁をぶち破って宮殿の外へ。

 杖の先がさらに光る。ポポポポポ、と小さな光弾が現れ、溢忌を追って飛ぶ。

 宮殿の外。着弾地点から凄まじい光、衝撃音、地震のような揺れ。

 ボンッ、と壊れた壁から溢忌が突っ込んできた。
 カーラさんは後ろに跳びながら杖を振り下ろす。
 
 天井をぶち破り閃光が命中。
 ズガガガガッ、と溢忌の身体が雷撃で黒焦げになる。

 え、これは……わたしの出番など無くても勝てるのでは……。
 いや、黒焦げの衣をボロボロと剥がしながら溢忌は動いている。
 
 バチンッ、と鍔鳴りの音。
 カーラさんの杖とウィッチハットが真っ二つに──。

「カーラさんっ!」

「大丈夫! あなたは集中して!」

 カーラさん自身は無傷だ。
 長いブロンドの髪をなびかせながらサイドステップ。何やらブツブツと唱え、二本指で空中に何かを描いた。

 六芒星。それが巨大化し、葉桜溢忌にぶつかる。
 バチバチバチッ、と火花を散らし、溢忌は空中に固定された。

 ヒュヒュヒュッ、と次は床に魔法陣を描く。
 魔法陣はギュラララと回転。
 そこから光の矢が無数に発射。

 葉桜溢忌は次々と光る矢に貫かれていく。

「ぬああああああッ!」
 
 溢忌の咆哮。
 はじめてかもしれない。アイツの余裕のない、本気の声。

 宮殿がグラグラと揺れる。壁、天井にひび割れ。
 
「ぬううっ!」
  
 六芒星の拘束を力ずくで解こうとしている。
 バチバチバチバチッ、と六芒星の紋様が歪む。 
 天井が崩れはじめた。まずい、このままでは生き埋めだ。

 いや、わたしの周囲に光のドーム。
 崩れ落ちてきた破片を弾き飛ばしている。これはカーラさんの力か。

 バチィッ、と完全に六芒星を破壊。その瞬間、爆発が起きた。

 飛んでくる瓦礫や舞い上がる砂ぼこりで周囲が見えなくなる。
 願望の力は十分槍に伝わった。わたしは最後の仕上げに入る。

 長く、重い《覇王》の槍は凝縮したように一本の刀に。
 重厚な濃い鋼色の刀身。濡れたような刃紋。
 周りを黒塗りの鞘が覆う。装飾無しの《覇王》らしい無骨な造りだ。

 爆発による粉塵も収まり、周りが見えるようになった。
──何もない。バカな、これは……。
 宮殿どころではない。旧王都の城下町……いや、旧王都自体消し飛んでいるのではないか。

「ううっ……」
 
 カーラさんの声。
 葉桜溢忌に首を掴まれ、苦悶の表情──わたしのせいだ。
 わたしを守るために防御壁を張ったから、そのスキを突かれた。

 溢忌は喜悦に満ちた顔で、首を掴んだ片手でカーラさんを持ち上げる。

「アンタをこんな目に遭わせる日がくるなんて、思ってもみなかったっスよ。このまま剣で串刺すか、首をへし折るか……」

「やめろっ!」

 神速──。
 一気に間合いを詰め、抜刀。
 
 溢忌はカーラさんから手を離し、素手でわたしの刀を受けとめた。

 その手を肘まで斬り裂く。
 溢忌はおや、と不思議そうに自分の裂けた手を眺めながら言った。

「物理無効を無視して貫通するっスね、その武器……それでも無理っスよ。俺を倒すのは」

 溢忌の腕のキズがみるみるふさがっていく。
 もう何を見ても驚かない。わたしは納刀、低く腰を落とし居合いの構えを取った。
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