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第1部 剣聖 羽鳴由佳
100 勇者の成れの果て
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「こんな大勢でタコ殴りなんて、イジメっスね、これ。あ~、やだなあ。ずいぶん昔のことを思い出したっス」
ゆっくり立ち上がる葉桜溢忌。
腰に剣、左腕に盾が現れた。やっとまともに戦う気になったのか。それなりにダメージを与えた結果だろうか。
わたしはまだ身体が痺れている。完全に動けるにはもう少しかかりそうだ。
志求磨たちが溢忌を取り囲む。ここから──どうするつもりだ。今の攻防で分かったはず。
いくら強くても、このメンバー相手には分が悪すぎる。
バチン、と鍔鳴りの音。
葉桜溢忌からだ。なんだ、何をした?
「ぐぅあっ……」
ドサッ、と《アライグマッスル》が倒れ、変身が解けた。
バカな……いつの間に……。
倒れた御手洗剛志の下からみるみる血が広がっていく。
《アライグマッスル》のダメージ無効の効果が通用しなかったのか。
日之影宵子がすぐさま駆け寄り、志求磨たちは再度攻撃をしかける。
セプティミアのロック調の歌声が響く。全員に攻撃力増加の効果。
白銀の光の拳を打ち込む志求磨。ビノッコの中段突き。
「せやあっ!」 「噴ッ!」
両手で受け止め、溢忌は軽く捻る。
二人は手品みたいにその場で回転、床に叩きつけられる。
「っっらあっ!」
ナギサが跳躍。巨大斧を振り下ろす。溢忌の脳天にまともに入った。これは即死──いや、斧のほうが砕けた。
腹に掌打を受けて柱まで飛ばされるナギサ。
その隙に溢忌の懐に飛び込んでいたショウ。
空中には炎をまとった二刀ダガーを手にギュラララ、と回転落下するアルマ。
「焔撃鳳拳!」
上下から炎の挟み撃ち。葉桜溢忌がゴオッ、と燃えあがった。
だがフゥッ! と溢忌が強く息を吐くと炎はかき消え、ショウとアルマも弾き飛ばされる。
溢忌の後頭部にゴツン、と銃口。クレイグのショットガンだ。
パガァッ、と至近距離からの散弾。前のめりに倒れ──いや、倒れながら後ろ蹴り。クレイグが吹っ飛ぶ。
サイラスの打ち下ろし。倒れた溢忌の背中にまともに入ったが、ドンッ、とそのまま突進した溢忌に押され、セプティミアにぶつかって倒れた。
レオニードの連続弓射。
ドドドッ、と溢忌の首と胸に矢が刺さる。状態異常の力が込められているはずだが、涼しい顔で矢を引き抜いた。
「ははは、何やってもムダっスよ。俺がその気になれば時間を止めたり核爆発起こすことだって出来る。疲れるからやんないっスけど。もうコレ、力の差とかじゃないんスよ。まあ、分かんないっスよねえ」
わたしに近づいてくる葉桜溢忌。痺れはだいぶ収まってきた。
御手洗剛志はどうなった──宵子のほうを見る。
止血は完了しているようだ。気を失い、これ以上の戦闘は無理っぽいがひとまず安心だ。
「アンタらもめでたいっスねえ。こんな願望が叶うとか、魔物出てきたり、ファンタジーっぽい世界が普通にあるって信じてんスから」
「……どういう意味よ、信じてるって。実際、実在しているじゃないの、この異世界は」
サイラスに手を引かれ、起き上がるセプティミア。溢忌の言葉にまっさきに反応した。
「いや、言い方が悪かったっスね。誰かの作為的な意図がない限り、こんな都合のいい世界があるかってことっスよ。ミリアムさんやヨハンは気づいてたっスよ。元の世界に比べてどうっスか。適当でいい加減っスよね。歴史やら文化やら。まあ、そこがいいとこなんスけど」
「誰かに作られたものだって、言いてえのか。この世界が」
レオニードが矢をつがえながら聞く。
溢忌は肩をすくめながら笑った。
「だから、ここのシステムを理解したモン勝ちってことっスよ。《女神》に気に入られて、認識でブワ~ッ、とブーストして、あとはもう雪ダルマ式っスね。チートしてハーレム作って、無双っスよ」
まてまて、情報が多くて理解が追いつかない。《女神》だと? はじめて聞いたワードだ。
「昔、この世界に魔王いたんスよ。マジもんの。トラックに轢かれて死んだ俺は、《女神》に呼ばれてここに来たんス。世界を救って~って。だから俺は勇者だし、主人公なんス」
「お前、こんなときにふざけた事を……」
ナギサが柱の下から苛立った声で起き上がる。怒るのも当然だ。この状況でそんなデタラメ……。
「《女神》にありったけのチートスキルもらったんスけど、それでも魔王には勝てなかったんスよ。だから俺はこの世界の法則を利用して強くなったんス」
「けっ、そんな簡単に強くなる方法があるなら教えてもらいてえもんだな」
蹴りを喰らったクレイグがベッ、と血を吐きながら言った。
溢忌は頷く。
「なあに、簡単っスよ。魔王以上に人を殺しまくったんスよ。数え切れないぐらいの街や村を襲って……年寄りだろうが女子供だろうが、おかまいなしに。あっという間に広まったっスよ。俺の悪名が。つまり世界中に認識されたってわけっス」
まさか……それがこの男の強さの秘密。
願望者の強さは自分の願望の強さ、そしてそれを認識する人間の多さ。いわば知名度だ。
ミリアムが言っていたのはこの事だったのか。《覇王》黄武迅が認めるわけにはいかなかった、強さの理由──。
そんな方法、分かっていたとしても実際にやる人間はいない。いや、実行したヤツは……もはや人ではない。
ゆっくり立ち上がる葉桜溢忌。
腰に剣、左腕に盾が現れた。やっとまともに戦う気になったのか。それなりにダメージを与えた結果だろうか。
わたしはまだ身体が痺れている。完全に動けるにはもう少しかかりそうだ。
志求磨たちが溢忌を取り囲む。ここから──どうするつもりだ。今の攻防で分かったはず。
いくら強くても、このメンバー相手には分が悪すぎる。
バチン、と鍔鳴りの音。
葉桜溢忌からだ。なんだ、何をした?
「ぐぅあっ……」
ドサッ、と《アライグマッスル》が倒れ、変身が解けた。
バカな……いつの間に……。
倒れた御手洗剛志の下からみるみる血が広がっていく。
《アライグマッスル》のダメージ無効の効果が通用しなかったのか。
日之影宵子がすぐさま駆け寄り、志求磨たちは再度攻撃をしかける。
セプティミアのロック調の歌声が響く。全員に攻撃力増加の効果。
白銀の光の拳を打ち込む志求磨。ビノッコの中段突き。
「せやあっ!」 「噴ッ!」
両手で受け止め、溢忌は軽く捻る。
二人は手品みたいにその場で回転、床に叩きつけられる。
「っっらあっ!」
ナギサが跳躍。巨大斧を振り下ろす。溢忌の脳天にまともに入った。これは即死──いや、斧のほうが砕けた。
腹に掌打を受けて柱まで飛ばされるナギサ。
その隙に溢忌の懐に飛び込んでいたショウ。
空中には炎をまとった二刀ダガーを手にギュラララ、と回転落下するアルマ。
「焔撃鳳拳!」
上下から炎の挟み撃ち。葉桜溢忌がゴオッ、と燃えあがった。
だがフゥッ! と溢忌が強く息を吐くと炎はかき消え、ショウとアルマも弾き飛ばされる。
溢忌の後頭部にゴツン、と銃口。クレイグのショットガンだ。
パガァッ、と至近距離からの散弾。前のめりに倒れ──いや、倒れながら後ろ蹴り。クレイグが吹っ飛ぶ。
サイラスの打ち下ろし。倒れた溢忌の背中にまともに入ったが、ドンッ、とそのまま突進した溢忌に押され、セプティミアにぶつかって倒れた。
レオニードの連続弓射。
ドドドッ、と溢忌の首と胸に矢が刺さる。状態異常の力が込められているはずだが、涼しい顔で矢を引き抜いた。
「ははは、何やってもムダっスよ。俺がその気になれば時間を止めたり核爆発起こすことだって出来る。疲れるからやんないっスけど。もうコレ、力の差とかじゃないんスよ。まあ、分かんないっスよねえ」
わたしに近づいてくる葉桜溢忌。痺れはだいぶ収まってきた。
御手洗剛志はどうなった──宵子のほうを見る。
止血は完了しているようだ。気を失い、これ以上の戦闘は無理っぽいがひとまず安心だ。
「アンタらもめでたいっスねえ。こんな願望が叶うとか、魔物出てきたり、ファンタジーっぽい世界が普通にあるって信じてんスから」
「……どういう意味よ、信じてるって。実際、実在しているじゃないの、この異世界は」
サイラスに手を引かれ、起き上がるセプティミア。溢忌の言葉にまっさきに反応した。
「いや、言い方が悪かったっスね。誰かの作為的な意図がない限り、こんな都合のいい世界があるかってことっスよ。ミリアムさんやヨハンは気づいてたっスよ。元の世界に比べてどうっスか。適当でいい加減っスよね。歴史やら文化やら。まあ、そこがいいとこなんスけど」
「誰かに作られたものだって、言いてえのか。この世界が」
レオニードが矢をつがえながら聞く。
溢忌は肩をすくめながら笑った。
「だから、ここのシステムを理解したモン勝ちってことっスよ。《女神》に気に入られて、認識でブワ~ッ、とブーストして、あとはもう雪ダルマ式っスね。チートしてハーレム作って、無双っスよ」
まてまて、情報が多くて理解が追いつかない。《女神》だと? はじめて聞いたワードだ。
「昔、この世界に魔王いたんスよ。マジもんの。トラックに轢かれて死んだ俺は、《女神》に呼ばれてここに来たんス。世界を救って~って。だから俺は勇者だし、主人公なんス」
「お前、こんなときにふざけた事を……」
ナギサが柱の下から苛立った声で起き上がる。怒るのも当然だ。この状況でそんなデタラメ……。
「《女神》にありったけのチートスキルもらったんスけど、それでも魔王には勝てなかったんスよ。だから俺はこの世界の法則を利用して強くなったんス」
「けっ、そんな簡単に強くなる方法があるなら教えてもらいてえもんだな」
蹴りを喰らったクレイグがベッ、と血を吐きながら言った。
溢忌は頷く。
「なあに、簡単っスよ。魔王以上に人を殺しまくったんスよ。数え切れないぐらいの街や村を襲って……年寄りだろうが女子供だろうが、おかまいなしに。あっという間に広まったっスよ。俺の悪名が。つまり世界中に認識されたってわけっス」
まさか……それがこの男の強さの秘密。
願望者の強さは自分の願望の強さ、そしてそれを認識する人間の多さ。いわば知名度だ。
ミリアムが言っていたのはこの事だったのか。《覇王》黄武迅が認めるわけにはいかなかった、強さの理由──。
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