異世界の剣聖女子

みくもっち

文字の大きさ
上 下
90 / 185
第1部 剣聖 羽鳴由佳

90 ダークヒーローズ

しおりを挟む
 カプセルから出た小さな影がグググ、と大きくなる。
 あれ、こんなの仲間にいたっけ……。

 どんよりした目に、てっぺんが寝グセでビコーンとはねたグレーの長髪。ヨレヨレの白衣。
 何よりその不機嫌そうな顔……ああ、思い出した。《神医》日之影宵子ひのかげしょうこだ。

 これは……残念だがハズレだ。どうせなら戦闘タイプの願望者デザイアが良かった。
 
 腕のたつ医者には間違いないが……わたしには美少年好きの変態女医としか印象がない。

「なんなのよ、連れさらわれたと思ったら、いきなりこんなとこ……あ、アンタはたしか」

 わたしを見つけると、ズカズカと大股で近づいてきながら文句を飛ばす。

「まったく、迷惑もいいとこだわ。アンタ達を治療したばっかりに……これだから願望者デザイアの依頼は受けたくなかったのよ。しかもヤバいヤツらに仲間だと思われてる」

 そんな近くでキイキイ言わないでくれ。頭が痛い。
 
 ズガァン、と足元の地面に穴が空いた。
 クレイグの銃口から煙が出ている。なに、なんなのコイツ。信じられないことしやがる……。

「ぎゃあぎゃあ喚くな。閉じ込められてたのを助けてやったんだ。文句があるならここで死ねよ」

 言うことも容赦ない。日之影宵子はまったく怖じ気づく様子はなく、今度はクレイグに近づく。

「そんなんで脅してるつもり? これだから願望者デザイアってキライ。力ずくでなんでも思い通りになると思ってる。アンタ、リアルな中身は子供でしょ」

「……このババア──」

 クレイグの銃口が宵子の眉間へ。ガチリと撃鉄を起こす。それでも宵子は顔色ひとつ変えない。

「ちょっと、こんなところで騒ぎを起こさないでよ。せっかくのティータイムが台無しだわ。ねえ、サイラス」
 
「は、粗末な彼らには理解できぬでしょう。この優雅なひとときを」

 いつの間にか用意したテーブル。セプティミアは椅子に腰かけ、ティーカップを口に近づけている。
 傍らではサイラスが日傘を差し、無表情で突っ立っていた。

「ち、シラケたぜ……」

 クレイグは拳銃をクルクル回し、腰のホルスターに突っ込んだ。

「由佳っち、こんなことしてる場合じゃないだろ。わたしも志求磨君とナギサ君が心配だ。早く追わないと」

 日之影宵子がほらほらと急かす。
 由佳っちって、わたしのことか……。アンタは助手の筋肉ダルマを心配しろよ。

「わたしもその医者に賛成。天塚志求磨がアイツらに始末されたら、ここまで協力した意味がないもの」

 セプティミアが立ち上がり、サイラスが手早くテーブルや椅子を片付ける。

「で、アンタはどうすんの?」
 
 セプティミアの問いにクレイグはレザーハットを押さえながらククク、と笑った。

「俺も行くぜ。お前らについていけば、退屈しないですみそうだ」

 わけの分からん理由だが……クレイグを加え、わたし達六人は馬車に乗り、旧王都へと向かった。

 あの町で間宮京一は新たな車となるようなモノを見つけているだろう。今頃はすでに到着しているかもしれない。

「あとどれくらいで着きそうだ」

「もうじきね。案外早く着きそうだわ」

 わたしが聞くと、セプティミアが頬杖をつきながら答える。

「お姉さま~、なんか知らないうちに人が増えてんだけど、コイツら大丈夫なの?」

 黒由佳。体調は良くなったようだ。わたしも日之影宵子にもらった薬で頭痛はおさまった。

「へえ、由佳っちに双子の妹がいたなんてねえ。ん? 願望者デザイアだから、そういう設定ってこと?」

 日之影宵子が興味深そうに黒由佳の顔をまじまじと見つめる。
 
「いや、妹なわけない。こんな野蛮でアホみたいなヤツ……」

 説明するのも面倒だし、本当に妹なんて思われたらイヤだ。性格が全然違うだろ。おしとやかで可憐なわたしと……。

「あら、でも頭が悪そうなとことか、下品な振る舞いは瓜二つ。ねえ、あなたもそう思うでしょ」

 セプティミアが客車の前面の窓から御者台に話しかける。
 客車は四人までなので、クレイグはサイラスと並んで御者台に座っている。
 窓から覗きこむようにクレイグが答えた。

「どうでもいいな。クソ女とゲロ女だろ。どっちも似たようなもんだ」

 このクサレガンマン……ヒドイこと言いやがる。あとで覚えとけよ。
 
「お姉さま、コイツら生意気だよねえ。性格ワルいし。フュージョンしてやっちまおうか」

 それには同意見だが、志求磨たちを助け出すまでの辛抱だ。それまでは利用させてもらおう。それにフュージョンって言うな。

 しかしこのメンバー……イカれたわたしのコピー、ドS高飛車歌姫とその従者。戦闘狂毒舌ガンマン、通報寸前ショタコン女医……わたし以外、まともなのがいない。
 こんなダークサイドなヤツらと一緒にいたら、わたしの清純な心までけがれそうでコワイ。
 


しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

ブレイブエイト〜異世界八犬伝伝説〜

蒼月丸
ファンタジー
異世界ハルヴァス。そこは平和なファンタジー世界だったが、新たな魔王であるタマズサが出現した事で大混乱に陥ってしまう。 魔王討伐に赴いた勇者一行も、タマズサによって壊滅してしまい、行方不明一名、死者二名、捕虜二名という結果に。このままだとハルヴァスが滅びるのも時間の問題だ。 それから数日後、地球にある後楽園ホールではプロレス大会が開かれていたが、ここにも魔王軍が攻め込んできて多くの客が殺されてしまう事態が起きた。 当然大会は中止。客の生き残りである東零夜は魔王軍に怒りを顕にし、憧れのレスラーである藍原倫子、彼女のパートナーの有原日和と共に、魔王軍がいるハルヴァスへと向かう事を決断したのだった。 八犬士達の意志を継ぐ選ばれし八人が、魔王タマズサとの戦いに挑む! 地球とハルヴァス、二つの世界を行き来するファンタジー作品、開幕! Nolaノベル、PageMeku、ネオページ、なろうにも連載しています!

異世界の餓狼系男子

みくもっち
ファンタジー
【小説家は餓狼】に出てくるようなテンプレチート主人公に憧れる高校生、葉桜溢忌。 とあるきっかけで願望が実現する異世界に転生し、女神に祝福された溢忌はけた外れの強さを手に入れる。 だが、女神の手違いにより肝心の強力な108のチートスキルは別の転移者たちに行き渡ってしまった。 転移者(願望者)たちを倒し、自分が得るはずだったチートスキルを取り戻す旅へ。 ポンコツな女神とともに無事チートスキルを取り戻し、最終目的である魔王を倒せるのか? 「異世界の剣聖女子」より約20年前の物語。 バトル多めのギャグあり、シリアスあり、テンポ早めの異世界ストーリーです。 *素敵な表紙イラストは前回と同じく朱シオさんです。 @akasiosio ちなみに、この女の子は主人公ではなく、準主役のキャラクターです。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。  その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。  世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。  そして何故かハンターになって、王様に即位!?  この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。 注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。   R指定は念の為です。   登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。   「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。   一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

処理中です...