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第1部 剣聖 羽鳴由佳
89 鐘塔の戦い
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再び太刀風。
やはりバシィッ、と弾かれた。ダメか。
真・太刀風はさっき使ったばかりだ。十分な気を練るには時間がかかり、その間に逃げられてしまう。
──どうする。バッサバッサと飛び去ろうとする飛竜。このままでは……。
そのときだ。下の部屋から聴いたことのある少女の声。そして建物全体がビリビリと震える。
これは、セプティミアの高音シャウトだ。
ハシゴから姿を現すセプティミア。そのあとからは執事のサイラス。肩にはぐったりした黒由佳を担いでいる。
「どこもかしこもゾンビだらけ。《剣聖》、アンタがここに入るのが見えたから、何か解決策があると思ったのに……追い詰められただけじゃないの!」
非難するように地団駄を踏むセプティミア。
いや、ナイスだ。黒由佳がいるということは──。
「この女は吐きながらフラフラしてたから、見かねて連れてきただけよ。べつに助けたわけじゃないわ」
セプティミアが照れたようにうつむく。おや、これがツンデレというやつか?
いやいや、それどころではない。担がれたままの黒由佳に話しかける。
「おい、起きろ。簪に入るんだ」
「ぎもぢわるい……やれるかわがんない」
そう言いながらも黒由佳の身体は黒い霧状に。
わたしの簪に吸い込まれた。
左目が熱くなり、左腕、左足に黒い紋様が浮かび上がる。
腹の底から何かがせり上がってきてわたしは──げえ~っと嘔吐した。セプティミアが悲鳴をあげ、クレイグが汚えっ、と罵る。
き、気持ち悪い。黒由佳のコンディションがモロにわたしに憑依している……。
いや、それでも《断ち斬る者》には変化している。
よたよたしながら納刀──抜刀。
数十発の太刀風が放たれたが、すべてあらぬ方向へ。周囲の壁を破壊し、わたしは皆に怒られる。
「ゲロ女、どこ狙ってやがる」
「崩れた壁の破片が飛んできたわ! 危ないわね!」
飛竜はすでに鐘塔から離れつつある。
くそ、こうなったら。
「セプティミア、サイラスを貸せ」
この中で一番腕力があるのはサイラスだ。わたしが何をしようとしているか、セプティミアはすぐに理解したようだ。
「フン、いいけど。ひとつ貸しにしておくわよ、《剣聖》」
サイラスは両手を組み、わたしはそこに片足を乗せる。そこからグアッ、と上空へ放り投げられた。
わたしの跳躍の力も加わっている。ちょうど飛竜の頭上まで跳んだ。
驚きの顔をしたベネディクト。杖の先から半透明の黒い球体がブワン、と広がる。
かまわず刀を振り下ろす。球体、飛竜、そして死者の杖を断ち──斬った。
悲鳴をあげ、落下するベネディクト。この高さから落ちたら、打ちどころが悪ければ死ぬ。多くの町の住人を犠牲にしたので、同情の余地はないが。
簪から黒い霧状のものが飛び出し、人の形へ。黒由佳だ。気を失っている。まずい、こんなところで変化が解除とは。
しかも、わたしも意識が朦朧としてきた。
普段のわたしなら問題ない。しかし、この高さから無防備に落ちれば、ケガだけでは済まない。
ダメだ、身体の自由が効かない。
このまま地面に激突して……最後に聴こえたのはセプティミアの歌か──。
目を覚ましたとき、周囲は明るかった。いつの間にか夜が明けていたのか。
この場所は……見覚えがある。セプティミアの馬車の中だ。
横では黒由佳がわたしの肩に寄りかかって寝ている。
ふたりとも無事なようだ。どこもケガしていない。
馬車のドアがガチャリと開き、セプティミアが得意そうな顔でわたしに説明をはじめた。
鐘塔の下。地面の落下地点には、セプティミアが造り出したヘルメット軍団が何体も積み重なってクッションの役目をしてくれたらしい。
落ちるときに聴こえたのはそのための歌だったのか。むう、デカイ借りを作ってしまった。
落下して重症を負った《屍術師》ベネディクトはかろうじて息があったのだが、クレイグがトドメを刺したらしい。あいかわらず容赦がない。
町の住人のゾンビ化は解けたが、やはりクレイグの銃弾やら鉄兜のハンマーやらで破壊されたゾンビはそのまま死体となってしまったようだ。
町の惨状に驚く人々を尻目に、面倒なことを聞かれる前に町を出てきたらしい。それでいいのか……。
わたしはフラつきながら馬車の外へ。頭が……痛い。くそ、これが二日酔いか。なんで一滴も飲んでないわたしがこんな目に。
外ではクレイグが石の上に腰掛け、銃の手入れをしていた。
腰の二丁拳銃はショットガンなどと違い、願望の力で取り出すモノではなく初期装備らしい。
わたしに気づくと、こちらに何かを放り投げる。それは卵型のカプセルだった。
これは、もしかしたら《レッサーパンダラー》間宮京一の……どうしてコイツが持っているのか。
「お前らが町に来る前に、やりあったからな。そんときに落としていきやがった。お前らの仲間が入ってんだろ」
なんと、あの間宮京一と戦ったのか。コイツの好戦的な性格が吉と出たか。
勝負の途中で、あのゾンビ騒ぎに巻き込まれたようだ。ともかく、ひとりの仲間を取り戻したことになる。さっそくカプセルを開けなければ。
底のほうがへこんでいて、奥にスイッチがある。これを押してみよう。
カチリと押してみる。これはアレだ。中に入っている人物次第で、これからの戦いの優位さが変わる。
どうか、《アライグマッスル》じゃありませんように……!
やはりバシィッ、と弾かれた。ダメか。
真・太刀風はさっき使ったばかりだ。十分な気を練るには時間がかかり、その間に逃げられてしまう。
──どうする。バッサバッサと飛び去ろうとする飛竜。このままでは……。
そのときだ。下の部屋から聴いたことのある少女の声。そして建物全体がビリビリと震える。
これは、セプティミアの高音シャウトだ。
ハシゴから姿を現すセプティミア。そのあとからは執事のサイラス。肩にはぐったりした黒由佳を担いでいる。
「どこもかしこもゾンビだらけ。《剣聖》、アンタがここに入るのが見えたから、何か解決策があると思ったのに……追い詰められただけじゃないの!」
非難するように地団駄を踏むセプティミア。
いや、ナイスだ。黒由佳がいるということは──。
「この女は吐きながらフラフラしてたから、見かねて連れてきただけよ。べつに助けたわけじゃないわ」
セプティミアが照れたようにうつむく。おや、これがツンデレというやつか?
いやいや、それどころではない。担がれたままの黒由佳に話しかける。
「おい、起きろ。簪に入るんだ」
「ぎもぢわるい……やれるかわがんない」
そう言いながらも黒由佳の身体は黒い霧状に。
わたしの簪に吸い込まれた。
左目が熱くなり、左腕、左足に黒い紋様が浮かび上がる。
腹の底から何かがせり上がってきてわたしは──げえ~っと嘔吐した。セプティミアが悲鳴をあげ、クレイグが汚えっ、と罵る。
き、気持ち悪い。黒由佳のコンディションがモロにわたしに憑依している……。
いや、それでも《断ち斬る者》には変化している。
よたよたしながら納刀──抜刀。
数十発の太刀風が放たれたが、すべてあらぬ方向へ。周囲の壁を破壊し、わたしは皆に怒られる。
「ゲロ女、どこ狙ってやがる」
「崩れた壁の破片が飛んできたわ! 危ないわね!」
飛竜はすでに鐘塔から離れつつある。
くそ、こうなったら。
「セプティミア、サイラスを貸せ」
この中で一番腕力があるのはサイラスだ。わたしが何をしようとしているか、セプティミアはすぐに理解したようだ。
「フン、いいけど。ひとつ貸しにしておくわよ、《剣聖》」
サイラスは両手を組み、わたしはそこに片足を乗せる。そこからグアッ、と上空へ放り投げられた。
わたしの跳躍の力も加わっている。ちょうど飛竜の頭上まで跳んだ。
驚きの顔をしたベネディクト。杖の先から半透明の黒い球体がブワン、と広がる。
かまわず刀を振り下ろす。球体、飛竜、そして死者の杖を断ち──斬った。
悲鳴をあげ、落下するベネディクト。この高さから落ちたら、打ちどころが悪ければ死ぬ。多くの町の住人を犠牲にしたので、同情の余地はないが。
簪から黒い霧状のものが飛び出し、人の形へ。黒由佳だ。気を失っている。まずい、こんなところで変化が解除とは。
しかも、わたしも意識が朦朧としてきた。
普段のわたしなら問題ない。しかし、この高さから無防備に落ちれば、ケガだけでは済まない。
ダメだ、身体の自由が効かない。
このまま地面に激突して……最後に聴こえたのはセプティミアの歌か──。
目を覚ましたとき、周囲は明るかった。いつの間にか夜が明けていたのか。
この場所は……見覚えがある。セプティミアの馬車の中だ。
横では黒由佳がわたしの肩に寄りかかって寝ている。
ふたりとも無事なようだ。どこもケガしていない。
馬車のドアがガチャリと開き、セプティミアが得意そうな顔でわたしに説明をはじめた。
鐘塔の下。地面の落下地点には、セプティミアが造り出したヘルメット軍団が何体も積み重なってクッションの役目をしてくれたらしい。
落ちるときに聴こえたのはそのための歌だったのか。むう、デカイ借りを作ってしまった。
落下して重症を負った《屍術師》ベネディクトはかろうじて息があったのだが、クレイグがトドメを刺したらしい。あいかわらず容赦がない。
町の住人のゾンビ化は解けたが、やはりクレイグの銃弾やら鉄兜のハンマーやらで破壊されたゾンビはそのまま死体となってしまったようだ。
町の惨状に驚く人々を尻目に、面倒なことを聞かれる前に町を出てきたらしい。それでいいのか……。
わたしはフラつきながら馬車の外へ。頭が……痛い。くそ、これが二日酔いか。なんで一滴も飲んでないわたしがこんな目に。
外ではクレイグが石の上に腰掛け、銃の手入れをしていた。
腰の二丁拳銃はショットガンなどと違い、願望の力で取り出すモノではなく初期装備らしい。
わたしに気づくと、こちらに何かを放り投げる。それは卵型のカプセルだった。
これは、もしかしたら《レッサーパンダラー》間宮京一の……どうしてコイツが持っているのか。
「お前らが町に来る前に、やりあったからな。そんときに落としていきやがった。お前らの仲間が入ってんだろ」
なんと、あの間宮京一と戦ったのか。コイツの好戦的な性格が吉と出たか。
勝負の途中で、あのゾンビ騒ぎに巻き込まれたようだ。ともかく、ひとりの仲間を取り戻したことになる。さっそくカプセルを開けなければ。
底のほうがへこんでいて、奥にスイッチがある。これを押してみよう。
カチリと押してみる。これはアレだ。中に入っている人物次第で、これからの戦いの優位さが変わる。
どうか、《アライグマッスル》じゃありませんように……!
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