異世界の剣聖女子

みくもっち

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第1部 剣聖 羽鳴由佳

88 屍術師

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 鐘搭の入り口付近。ゾンビの数が固まっている。やはりあの中に敵の願望者デザイアがいるのか。
 
 む、なんかひときわデカイのがいる。
 上半身裸で、頭には四角い鉄兜。手には巨大なハンマー。なるほど、こういうゾンビものにつきものの、巨体クリーチャーというわけか。

 さすがにアレは元住人ではないだろう。
 わたし達に気づくと、ハンマーを振り上げて雄叫びをあげた。

 ブオンッ、と振り回すハンマーに巻き込まれて周囲のゾンビたちがグシャゴシャッ、となぎ倒される。ヒドイヤツだ。

「シッ!」

 太刀風を放つ。飛ぶ斬撃はそのゴツい鉄兜に当たった。
 よろめく化け物。普段ならここで神速で接近し、直に斬りつけるのだが……やっぱり近づきたくない。

 納刀──練気で一気に攻撃力を高める。

「おい、アホガンマン! 援護しろ!」

「人にモノを頼むときの態度か、それがっ」

 言いながらも、わたしに近づくゾンビたちを撃ち抜いていくクレイグ。

 鞘とつばの間からキイイイィ、と練った気の光が漏れてくる。

 抜刀──。巨大な三日月状の剣閃が放たれた。
 鉄兜はハンマーを振り下ろして迎撃。だが剣閃はハンマーをへし折り、鉄兜にまともに命中。
 
 その巨体ごとズガガガ、と地面を削りながら鐘塔の入り口へ突き進む。
 ブ厚い扉をぶち破り、鉄兜の身体も砕け散った。

「いくぞっ」

 クレイグとともに鐘塔の内部へ。
 ウアアア、とゾンビたちも群がってくる。あれに追いつかれる前に敵の願望者デザイアを倒さなければ。

 石造りの階段が螺旋状に上へと続いている。
 駆け上がった。途中にゾンビはいないようだ。

 階段を登りきった先には扉。クレイグが蹴破る。
 そこは倉庫のような部屋だった。この上が、鐘を吊り下げている頂上なのだろう。

 部屋の奥にはひとりの男。
 いかにも魔法使いのようなローブ姿に杖を持っている。頭の中にダダダダ、と名が打ち込まれた。

《屍術師》ベネディクト・メイヤーズ。
 格好に似合わず、見た目の年齢は若い。20代くらいの暗そうな男だ……。

「おまえか、この町の住民をゾンビにしたのは」

 刀の先を向けて聞く。
 ベネディクトはヒ、ヒヒ、と不気味に笑いながらそうだ、と答えた。

「間宮京一はすでに町を出た。俺の役目はお前らの足止めさ。葉桜溢忌さまに頂いた、この神器、死者の杖を使ってな」

 大事そうに抱えている杖。あれがゾンビ化を引き起こしている元凶か。

「その杖を破壊したら、住民は元に戻るんだな」

「ヒ、ヒヒ。どうかな? この神器は俺もはじめて使うからな。俺は元々、死体を数体操るだけの能力──こんなふうにっ!」

 ベネディクトの背後にはふたつの棺桶。そこからバガッ、と出てきたのは、ガイコツ姿の剣士と、首なしの騎士。それぞれわたし達に向かってきた。

 ガイコツ剣士の剣。なかなかに鋭い打ち込み。
 払いのけ、胴のあたりを斬りつける──が、ガキッ、としたイヤな手応え。ホネホネなヤツに斬撃は効きにくいか。

 クレイグも首なし騎士に銃弾をブチ込んでいるが、重装備の鎧に阻まれて苦戦しているようだ。急所である頭部はもともとないし。

「ヒヒ、俺の死体どもの強さに驚いたか。さて、俺もそろそろ離脱させてもらう」

 部屋の右奥にはハシゴ。あそこから鐘のある頂上に出られるようだ。そこから逃げる算段があるのだろうが、その前に杖を破壊しなければ。
 
 ヒヒヒと笑いながらハシゴを登りはじめるベネディクト。

「逃がすかっ!」

 居合いの構えから太刀風を放とうとするが、ガイコツ剣士が立ちはだかる。ならば──。

 振り下ろされた剣をかわす。右の掌打でアゴをかちあげ、右足で刈り取るように足を払う。
 浮き上がった身体を、そのまま後頭部から床に叩きつけた。
 ガシャアッ、とバラバラになるガイコツ剣士。

 ドギャギャギャギャギャギャ、と凄まじい炸裂音。
 クレイグの回転式多銃身機関銃ガトリングガンだ。業を煮やしてぶちかましたのだろうが……その音に煙……屋内で使う技か。
 
 首なし騎士は木っ端みじんになったが、塔の壁にデカイ穴を開けた。ここから崩壊しなければいいが。

 それよりベネディクトだ。わたしとクレイグは急いでハシゴを登る。
 ハシゴの先。頂上は展望台のようになっていて、取り囲む三方向の壁の穴には鐘が吊り下げられていた。

 こんな場所からどうやって逃げるつもりだ。袋のネズミではないか。
 壁にはりつくようにベネディクトは夜の空を見上げている。

 バサア、バサァッ、と上空より羽音。それにともなう風圧。
 なんだ、あれは──魔物だ。しかも身体のあちこちが腐敗しているように見える。まさかコイツも操っているのか。

「ヒヒ、飛竜ワイバーンの死体を操ってるのさ。ヒヒ、さらば」

 バサアッ、と風圧に押されて怯んでいる間にベネディクトは飛竜ワイバーンの背に。
 待て、逃がしてたまるか。

 わたしの太刀風。クレイグの銃弾。ふたりの攻撃が命中したはずが──バシィッ、と何かに遮られた。
 
 ベネディクトの持っている死者の杖。先端から半透明の黒い球体が広がり、飛竜ワイバーンごと包んでいた。

 くそ、やはりあの杖をなんとかしなければ──。
  

 
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