83 / 185
第1部 剣聖 羽鳴由佳
83 断ち斬る者と逆襲する者
しおりを挟む
「ひとり逃げられたわね。まあ、いいわ。残りのヤツらを始末するから」
マイクスタンドを取り出したセプティミア。
ギュイイイーンとどこからともなく激しいギター音。ヘヴィメタル調のBGMが聞こえてくる。
「さあ、わたしの歌を聴けーーっ!」
高音のシャウトから、ハイトーンボイスの美声。
ヘルメット軍団の動きが変わった。
バババババババッ、と互いを踏み台にして積み上がり、巨大な壁を作る。
そこからグラァ、とラーズグリーズと楊に向かって倒れ込んだ。
ドキャアッ、とレーヴァテインからレーザー光線が放たれ、ヘルメット軍団の壁に穴を開ける。
かえってそれは逆効果だったか。
穴からブアア、とヘルメット軍団が土塊へと変わり、その変化が広がる。
大規模な土砂崩れのように二人をあっという間に呑み込んだ。
ドドドドドド、とさらにヘルメット軍団が覆い被さり、片端から土塊へと変化。ついに小さな山が出来てしまった。
これではさすがに身動きできないだろう。いや、圧死したかもしれない。
キャハハハハ、とセプティミアが身体を震わせて笑う。あの姿、狂気を感じずにいられない。
傍らにはいつの間にか戻ってきたサイラスが跪ずいている。
「なによ、全然たいした事ない……。わたしの新しい力に敵うヤツなんていないんだから。ねえ、サイラス」
「は、仰るとおりです。セプティミアさま」
こわ……わたしはもぞもぞと動いて逃げ出そうとしたが……あ、やっぱりダメだ。ヒョイ、と荷物のようにサイラスに持ち上げられた。
「ふふ、どうしたものかしら。サイラス、面白そうだから首実検といきましょうか」
「は、かしこまりました」
なんか物騒なこと言っているが……急に殺さないよね?
やっぱり恨んでるのかな。でも消失したのは志求磨だし……。あ、コイツがなんでここにいるのか分かった。
武道大会の志求磨対ショウ戦だ。
消失したショウを再び呼び戻すのに、ナギサが《召喚者》の力を使った。
その時に余計なモノを巻き込んだかも、と言っていた。
多分、その余計なモノがこのセプティミアだ。
元の世界をスゴく嫌っていたからか、たまたまナギサと波長が合ったか……。とにかく迷惑な話だ。
テーブルと椅子のあった丘の下に一本の樹。その近くに放り投げられた。
むがむがと、ヘンな声が聞こえる。よく見たら、その樹に縛りつけられている人物がいるではないか。
わたしと同じく猿ぐつわをされている……げ、黒由佳じゃないか。
「どちらが本物かしら? 顔は同じだけど、瞳の色と髪型が違うわね……服装も着こなし方が違う……品の無さそうな所はそっくり」
「こちらの髪を結んでいないほうが、わたし達と戦った《剣聖》では?」
「……そうね、そうみたい。殺すなら、こっちから殺そうかしら」
セプティミアの言葉に、縛りつけられた黒由佳がもがもがと頷いて足をわたしに向けて突っつくような仕草。
コイツ、わたしを売る気か。いや、恨まれているのはたしかにわたしだが。わたしに間違えられて捕まったのには同情するが、あんまりではないか。
わたしも負けじと足をバタつかせて、黒由佳を突っつく。
お互いの足が触れてげしげしと蹴り合いになった。
「見てよ、サイラス。醜いわ……命が惜しいとはいえ、ここまで人間とは醜くなるものかしら」
「まさしく。見ているのも耐え難いですな。両方、殺しましょう」
サイラスがハルバートを振りかぶる。その狙いは黒由佳に──。
もがー! もがもがっ、と黒由佳が足掻いている。
ハルバートが振り下ろされた瞬間、その姿が黒い霧状に変化、わたしの簪に吸い込まれた。
「なにっ!」
二人が驚愕している目の前でわたしはロープをぶちぶちと引きちぎり、猿ぐつわを外す。
左目が、熱い……! 左腕、左足に黒い紋様が浮かび上がる。
腹の底から脳天に二つ名が直撃──そう、わたしは《断ち斬る者》。
抜刀──円を描くように。そして納刀。
ズ、ズズ、と両断された樹がずり落ちる。
そしてサイラスの胴体も。
セプティミアが叫んだ。高音シャウト。広域型音響攻撃──ビリビリビリィッ、と身体に衝撃。
地面からボコボコとヘルメット軍団が出現した。飛び退いたセプティミアが歌う。意外にも癒し系のバラード。
両断されたサイラスの身体。上半身と下半身がギュルオッ、と回転しながらくっついて立ち上がった。うえ、気持ち悪い。あの歌の効果か。
今のところ、正気は保てている。だが、いつまで持つか分からない。早く決着をつけて捕らえられた仲間を追わねば──。
「なに、なんなのよ、その姿……わたしと同じでパワーアップしたっていうの?」
ギリギリと歯噛みしながら、セプティミアはマイクを持ち直す。
ズンズンズン、と重低音の効いたBGM。ロック調の音楽に合わせ、歌いだした。
ヘルメット軍団がさらに増え、その身体がムキムキと一回り大きくなった。攻撃力増強の歌だ。
サイラスにお姫様抱っこされ、後方へ退くセプティミア。
わたしに向かってヘルメット軍団が襲いかかる。
その数、数百──いや、千を超えている。
マイクスタンドを取り出したセプティミア。
ギュイイイーンとどこからともなく激しいギター音。ヘヴィメタル調のBGMが聞こえてくる。
「さあ、わたしの歌を聴けーーっ!」
高音のシャウトから、ハイトーンボイスの美声。
ヘルメット軍団の動きが変わった。
バババババババッ、と互いを踏み台にして積み上がり、巨大な壁を作る。
そこからグラァ、とラーズグリーズと楊に向かって倒れ込んだ。
ドキャアッ、とレーヴァテインからレーザー光線が放たれ、ヘルメット軍団の壁に穴を開ける。
かえってそれは逆効果だったか。
穴からブアア、とヘルメット軍団が土塊へと変わり、その変化が広がる。
大規模な土砂崩れのように二人をあっという間に呑み込んだ。
ドドドドドド、とさらにヘルメット軍団が覆い被さり、片端から土塊へと変化。ついに小さな山が出来てしまった。
これではさすがに身動きできないだろう。いや、圧死したかもしれない。
キャハハハハ、とセプティミアが身体を震わせて笑う。あの姿、狂気を感じずにいられない。
傍らにはいつの間にか戻ってきたサイラスが跪ずいている。
「なによ、全然たいした事ない……。わたしの新しい力に敵うヤツなんていないんだから。ねえ、サイラス」
「は、仰るとおりです。セプティミアさま」
こわ……わたしはもぞもぞと動いて逃げ出そうとしたが……あ、やっぱりダメだ。ヒョイ、と荷物のようにサイラスに持ち上げられた。
「ふふ、どうしたものかしら。サイラス、面白そうだから首実検といきましょうか」
「は、かしこまりました」
なんか物騒なこと言っているが……急に殺さないよね?
やっぱり恨んでるのかな。でも消失したのは志求磨だし……。あ、コイツがなんでここにいるのか分かった。
武道大会の志求磨対ショウ戦だ。
消失したショウを再び呼び戻すのに、ナギサが《召喚者》の力を使った。
その時に余計なモノを巻き込んだかも、と言っていた。
多分、その余計なモノがこのセプティミアだ。
元の世界をスゴく嫌っていたからか、たまたまナギサと波長が合ったか……。とにかく迷惑な話だ。
テーブルと椅子のあった丘の下に一本の樹。その近くに放り投げられた。
むがむがと、ヘンな声が聞こえる。よく見たら、その樹に縛りつけられている人物がいるではないか。
わたしと同じく猿ぐつわをされている……げ、黒由佳じゃないか。
「どちらが本物かしら? 顔は同じだけど、瞳の色と髪型が違うわね……服装も着こなし方が違う……品の無さそうな所はそっくり」
「こちらの髪を結んでいないほうが、わたし達と戦った《剣聖》では?」
「……そうね、そうみたい。殺すなら、こっちから殺そうかしら」
セプティミアの言葉に、縛りつけられた黒由佳がもがもがと頷いて足をわたしに向けて突っつくような仕草。
コイツ、わたしを売る気か。いや、恨まれているのはたしかにわたしだが。わたしに間違えられて捕まったのには同情するが、あんまりではないか。
わたしも負けじと足をバタつかせて、黒由佳を突っつく。
お互いの足が触れてげしげしと蹴り合いになった。
「見てよ、サイラス。醜いわ……命が惜しいとはいえ、ここまで人間とは醜くなるものかしら」
「まさしく。見ているのも耐え難いですな。両方、殺しましょう」
サイラスがハルバートを振りかぶる。その狙いは黒由佳に──。
もがー! もがもがっ、と黒由佳が足掻いている。
ハルバートが振り下ろされた瞬間、その姿が黒い霧状に変化、わたしの簪に吸い込まれた。
「なにっ!」
二人が驚愕している目の前でわたしはロープをぶちぶちと引きちぎり、猿ぐつわを外す。
左目が、熱い……! 左腕、左足に黒い紋様が浮かび上がる。
腹の底から脳天に二つ名が直撃──そう、わたしは《断ち斬る者》。
抜刀──円を描くように。そして納刀。
ズ、ズズ、と両断された樹がずり落ちる。
そしてサイラスの胴体も。
セプティミアが叫んだ。高音シャウト。広域型音響攻撃──ビリビリビリィッ、と身体に衝撃。
地面からボコボコとヘルメット軍団が出現した。飛び退いたセプティミアが歌う。意外にも癒し系のバラード。
両断されたサイラスの身体。上半身と下半身がギュルオッ、と回転しながらくっついて立ち上がった。うえ、気持ち悪い。あの歌の効果か。
今のところ、正気は保てている。だが、いつまで持つか分からない。早く決着をつけて捕らえられた仲間を追わねば──。
「なに、なんなのよ、その姿……わたしと同じでパワーアップしたっていうの?」
ギリギリと歯噛みしながら、セプティミアはマイクを持ち直す。
ズンズンズン、と重低音の効いたBGM。ロック調の音楽に合わせ、歌いだした。
ヘルメット軍団がさらに増え、その身体がムキムキと一回り大きくなった。攻撃力増強の歌だ。
サイラスにお姫様抱っこされ、後方へ退くセプティミア。
わたしに向かってヘルメット軍団が襲いかかる。
その数、数百──いや、千を超えている。
0
お気に入りに追加
153
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★
ブレイブエイト〜異世界八犬伝伝説〜
蒼月丸
ファンタジー
異世界ハルヴァス。そこは平和なファンタジー世界だったが、新たな魔王であるタマズサが出現した事で大混乱に陥ってしまう。
魔王討伐に赴いた勇者一行も、タマズサによって壊滅してしまい、行方不明一名、死者二名、捕虜二名という結果に。このままだとハルヴァスが滅びるのも時間の問題だ。
それから数日後、地球にある後楽園ホールではプロレス大会が開かれていたが、ここにも魔王軍が攻め込んできて多くの客が殺されてしまう事態が起きた。
当然大会は中止。客の生き残りである東零夜は魔王軍に怒りを顕にし、憧れのレスラーである藍原倫子、彼女のパートナーの有原日和と共に、魔王軍がいるハルヴァスへと向かう事を決断したのだった。
八犬士達の意志を継ぐ選ばれし八人が、魔王タマズサとの戦いに挑む!
地球とハルヴァス、二つの世界を行き来するファンタジー作品、開幕!
Nolaノベル、PageMeku、ネオページ、なろうにも連載しています!
異世界の餓狼系男子
みくもっち
ファンタジー
【小説家は餓狼】に出てくるようなテンプレチート主人公に憧れる高校生、葉桜溢忌。
とあるきっかけで願望が実現する異世界に転生し、女神に祝福された溢忌はけた外れの強さを手に入れる。
だが、女神の手違いにより肝心の強力な108のチートスキルは別の転移者たちに行き渡ってしまった。
転移者(願望者)たちを倒し、自分が得るはずだったチートスキルを取り戻す旅へ。
ポンコツな女神とともに無事チートスキルを取り戻し、最終目的である魔王を倒せるのか?
「異世界の剣聖女子」より約20年前の物語。
バトル多めのギャグあり、シリアスあり、テンポ早めの異世界ストーリーです。
*素敵な表紙イラストは前回と同じく朱シオさんです。 @akasiosio
ちなみに、この女の子は主人公ではなく、準主役のキャラクターです。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~
ma-no
ファンタジー
神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。
その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。
世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。
そして何故かハンターになって、王様に即位!?
この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。
注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。
R指定は念の為です。
登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。
「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。
一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-
ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。
困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。
はい、ご注文は?
調味料、それとも武器ですか?
カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。
村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。
いずれは世界へ通じる道を繋げるために。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる