異世界の剣聖女子

みくもっち

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第1部 剣聖 羽鳴由佳

78 山賊団からの回収 

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 はじめての取り立ては、さほど問題なく成功した。
 あの戦士ふうの男は、神田敏次郎が呼んだ屈強な男たちによってどこかに連れていかれた。
 
 男たちから銀貨を受け取り、神田敏次郎はそれを懐にねじ込む。
 
「ほな、次々いきまっせ」

「……アイツはどこに連れていかれるんだ?」

「なんや、気になるんか? まあ、願望者デザイアでも音をあげるような肉体労働の現場やで。銭がなくても健康なヤツは、あれが手っ取り早いんや」

 おお、自業自得とはいえ……なんか憐れだ。

「同情しとる場合やないでえ。こっちが隙を見せたらそこにつけこまれるんや。働けんヤツは内臓売ってでもキッチリ返済してもらうさかい」

 まさに鬼の所業。わたしにはそこまで出来る自信がない……。

 こうして、街や村を渡り歩き、同じような事を繰り返して次々と回収を行った。
 もちろん抵抗する者もいるが、わたしとアルマがいればそこまで派手な立ち回りもなく、取り押さえられた。

 中には一時的に逃げおおせた者もいたが、アルマは追跡のスキルを持っている。
 わずかな痕跡からまるで猟犬のように逃亡者の匂いを嗅ぎ付け、追い詰める事ができた。

「アンタらと組んだのは正解やったでえ。最強や。最強のチームや。アンタら金貸しに向いとる。いっそこっちを本業にしたらええのに」

 いやあ、このままだと悪役が板についてしまう。アルマもすっかり裏社会の仕置き人みたいな感じだ。

「じゃがのお、次の相手はちっとばかし骨が折れそうやのお。さすがのアンタらでも」
 
 そう言いながら向かった先は蛇煮伊津じゃにいづ山と呼ばれる小さな山だった。

「ここにはたった五人で徒党を組んどる山賊がいるんや。あの医者、以前にここの連中を治療したようやな」

 神田敏次郎の客ではないらしい。しかし、あの日之影宵子という医者……以前は山賊まで治療していたのか。踏み倒されても不思議ではない相手だというのに。

 山へ入るとすぐに刺すような殺気。なるほど、これはなかなか手強そうだ。

「由佳、気をつけて。すぐ近くに二人いる」

 アルマが身を潜めている敵に気づいた。神田敏次郎をかばうようにして警戒──。

 ババッ、と木の上から飛び降りる二つの影。
 姿を見た瞬間、頭の中ダダダダ。二つ同時はさすがにイラッとくる。

 名も確認せず、わたしは居合いで斬りつける。
 ギィンッ、と空中で刃物と触れた。
 
 アルマのほうも敵と接触。牽制の一撃を加えつつ、わたしの側まで飛び退く。
 互いに二対二。山道の開けた場所で対峙する。

 相手の二人組──ずいぶん若い男。志求磨やナギサと同じくらいの十四、五歳ぐらいか。 
 むむ、しかしなんというか、あか抜けているというか、キラキラしているというか……やたら顔面偏差値が高い。いわゆる美少年だ。
 その格好もたしかに革鎧に毛皮を巻きつけてたりとワイルド。しかしどこか劇団の衣装っぽく見えてしまう。

「おまえ達、ここが我ら蛇煮伊津じゃにいづ山賊団のアジトと知って入ってきたのか」

 曲刀を振り上げ、一人の少年が脅すように聞いてきた。
 むう、声まで男前だ。もう一人がピイ~ッ、と口笛を吹いた。

 バ、ババッ、と木を素早く飛び移る音。
 ザザザ、と三人の仲間が新たに現れた。やはり男前。五人でフォーメーションを組み、ポーズを決めた。なんかのライブ見てるみたい。
 
 というか、新たに頭の中にダダダダ三連発──これはわたしにとってプッツンするのに十分な量だ。



 気がついたとき、周りはハゲ山のようになっていた。いかんな、ダダダダでブチ切れたのはこれで二度目だ。
 五人の美少年は全員倒れ、呻いている。

 見上げると、岩山の上にアルマが神田敏次郎を連れて避難していた。その手にはわたしの刀。
 もにょっ娘め。機転を利かしてわたしから刀を奪い取ったらしい。さすがだ。素手でなければ、斬り殺していたかもしれない。

 五人全員をふん縛り、治療代を踏み倒した件を問い詰める。

「違うんだ! 俺たちはちゃんと代金を払おうとしたんだ! だけどあの医者が、代金はいらないから服を脱げって……だから逃げ出したんだ!」

「………………」

 あの変態医者め。十分にあり得る話だ。どちらかといえばこの少年たちのほうが被害者のようだ。

 とりあえず蛇煮伊津じゃにいづ山賊団は治療代を全額払った。
 あと、山賊稼業もこれまでにすると誓ってくれた。よっぽど恐ろしい目にあったらしい。(わたしと宵子が原因)

 難しいと思われた山賊からの回収も無事に終了。
 その後も街や村でリストの債務者から順調に回収していった。
 
 志求磨たちと別れてから一ヶ月が過ぎようとしていた。残る債務者は一人。これでやっと帰れる。

 最後の一人の名を見ながら、神田敏次郎は何か考えているふうだった。わたしがどうかしたのか、と聞くとめずらしく小さな声でなんでもあらへん、と呟いた。
 
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