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第1部 剣聖 羽鳴由佳
74 護法鬼神
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洞窟内にある私掠船団の設備では、応急処置が精一杯だ。
アルマが願望の力で治癒力を増進させているが……本来得意分野ではないし、御手洗剛志のケガがひどすぎる。かろうじて息をしているといった感じだ。
ナギサは……負傷のキズはある程度癒えているようだが、呆然としている。
仲間も船も全て失ったのだから当然だ。
かける言葉も見つからず、とりあえず志求磨にこれからどうするか相談する。
一番近いセペノイアの街でも一日がかり。それ以前に重体の御手洗剛志を運ぶ手段がない。
「このままだとマズイ。どうにかして助ける方法はないのか」
「……この近くに個人の診療所を開いている、医者の願望者がいるにはいるんだけど……」
さすがは志求磨だ。《覇王》からの任務でシエラ=イデアル中を回っていただけのことはある。そんな情報まで持っているとは。
「問題なのは、その医者……わけあって今は願望者の治療をしてないんだ」
「願望者の治療をしないって、どういうことなんだ?」
「なんか以前、願望者の患者とモメたのが原因らしいけど……詳しい事はわからない。今は願望者は門前払いだってことはたしか」
その医者の事情はわからないが、他に頼るアテもない。その医者のもとへ行って説得するほかないように思えた。
志求磨に場所だけ聞いて、わたしだけその医者に会うことにした。
ヨハンは撃退したが、いつまた葉桜溢忌の手の者に襲われるかわからない。ナギサもあんな状態だし、御手洗剛志のことは志求磨とアルマに任せるしかない。
医者の診療所はナギサの私掠船団の見張り小屋に似たような、海を臨む崖の上にあった。
診療所というよりは、個人所有の古い木造家屋に見えるのだが……。
近づくと、ちょうど家から誰かが出てきた。
む、大柄な人物だが……なんか格好がおかしい。
ムッキムキの筋肉ダルマ。しかしフリフリの女の子の衣装を着ている、キノコみたいな髪型の……男だ。
人を五、六人殺してそうな凶悪な面構え。こちらをにらみつけている。うわ、ワ○メちゃんみたいに下着が丸見えだし、変態さんなのだろうか。なんかコワイ……。
頭の中にダダダダ、と文字が打ち込まれた。
《護法鬼神》ビノッコ。
ビノッコは威圧感のある低い声で待たれい、とわたしに話しかけてきた。
「貴殿はいかなる用でここに近づくのか」
「あ、え~と、腕のいい医者がいるって聞いて来たんですけど……」
「先生は願望者の依頼は受けぬ。即刻立ち去られよ」
よかった、この変態さんが医者じゃなくて。
志求磨の言った通り、願望者は診てくれないようだが──それは直接会ってこれからお願いする事だ。
「悪いが引けないわけがある。通してもらうぞ」
「……ならば致し方なし。この《護法鬼神》ビノッコがお相手致そう……噴ッッ!」
素手のまま力強く構えるビノッコ。踏み込んだ足元の地面がボゴォッ、とへこんだ。
ショウのような拳法使いか。上等、そんなのとは戦い慣れている。わたしは浅めに腰を沈め、居合いの構え。
「剛ッ!」
前方に踏み出しながら中段突き。攻撃と同時に間合いを詰めるつもりだ。
「シッ!」
飛ぶ斬撃、太刀風を放つ。
カウンターでビノッコの身体にバチィッ、と当たった。しかし、わずかに動きを止めただけだ。
「我が硬気功の前にはそよ風の如し」
わたしの練気と同じように願望で防御力を高めていたようだ。
「趺ッッ!」
かけ声とともに跳躍。あの巨体をぐっと縮めたような体勢から、ぶっとい足刀蹴り。
身を屈めてかわす。わたしを飛び越え、背後に着地するビノッコ。
振り返る勢いで斬りつけ──。
ドンッッ。
岩のような背中からの体当たり。わたしは吹っ飛ばされ、地面を転がった。
「このっ!」
再び距離が空き、わたしは起き上がりざまに太刀風を三発放つ。
ビノッコは手刀と肘の打撃でそれを打ち消す。それは想定内。
神速で一気に距離を詰める。振り下ろす刀には斬鉄の技。
「破ッッ!」
相討ち覚悟のビノッコの掌打。強引に身をよじってかわす。
わたしの刀の軌道も逸れた。
ビノッコの肩をわずかに斬った。ヤツの攻撃はわたしの脇腹をかすめただけだ──が、ドンッ、と背中を通り抜けるような衝撃。
まさか、これは……格闘マンガで有名な発頸というやつでは……。
斬られたビノッコは飛び退き、わたしは刀を杖がわりにしながらウエッ、とえずいた。
コイツ、強い。身体の外部より内部にダメージを与える発頸……まともに喰らったら、どうなっていたのか。
「なかなかの腕前。それがしの圧猪雲武利拳とここまで闘える者ははじめてだ」
ビノッコが嬉しそうにニタリと笑い、両手を大きく広げて構えた。
「いざ、決着のとき! 哈威イィィッッ!」
アルマが願望の力で治癒力を増進させているが……本来得意分野ではないし、御手洗剛志のケガがひどすぎる。かろうじて息をしているといった感じだ。
ナギサは……負傷のキズはある程度癒えているようだが、呆然としている。
仲間も船も全て失ったのだから当然だ。
かける言葉も見つからず、とりあえず志求磨にこれからどうするか相談する。
一番近いセペノイアの街でも一日がかり。それ以前に重体の御手洗剛志を運ぶ手段がない。
「このままだとマズイ。どうにかして助ける方法はないのか」
「……この近くに個人の診療所を開いている、医者の願望者がいるにはいるんだけど……」
さすがは志求磨だ。《覇王》からの任務でシエラ=イデアル中を回っていただけのことはある。そんな情報まで持っているとは。
「問題なのは、その医者……わけあって今は願望者の治療をしてないんだ」
「願望者の治療をしないって、どういうことなんだ?」
「なんか以前、願望者の患者とモメたのが原因らしいけど……詳しい事はわからない。今は願望者は門前払いだってことはたしか」
その医者の事情はわからないが、他に頼るアテもない。その医者のもとへ行って説得するほかないように思えた。
志求磨に場所だけ聞いて、わたしだけその医者に会うことにした。
ヨハンは撃退したが、いつまた葉桜溢忌の手の者に襲われるかわからない。ナギサもあんな状態だし、御手洗剛志のことは志求磨とアルマに任せるしかない。
医者の診療所はナギサの私掠船団の見張り小屋に似たような、海を臨む崖の上にあった。
診療所というよりは、個人所有の古い木造家屋に見えるのだが……。
近づくと、ちょうど家から誰かが出てきた。
む、大柄な人物だが……なんか格好がおかしい。
ムッキムキの筋肉ダルマ。しかしフリフリの女の子の衣装を着ている、キノコみたいな髪型の……男だ。
人を五、六人殺してそうな凶悪な面構え。こちらをにらみつけている。うわ、ワ○メちゃんみたいに下着が丸見えだし、変態さんなのだろうか。なんかコワイ……。
頭の中にダダダダ、と文字が打ち込まれた。
《護法鬼神》ビノッコ。
ビノッコは威圧感のある低い声で待たれい、とわたしに話しかけてきた。
「貴殿はいかなる用でここに近づくのか」
「あ、え~と、腕のいい医者がいるって聞いて来たんですけど……」
「先生は願望者の依頼は受けぬ。即刻立ち去られよ」
よかった、この変態さんが医者じゃなくて。
志求磨の言った通り、願望者は診てくれないようだが──それは直接会ってこれからお願いする事だ。
「悪いが引けないわけがある。通してもらうぞ」
「……ならば致し方なし。この《護法鬼神》ビノッコがお相手致そう……噴ッッ!」
素手のまま力強く構えるビノッコ。踏み込んだ足元の地面がボゴォッ、とへこんだ。
ショウのような拳法使いか。上等、そんなのとは戦い慣れている。わたしは浅めに腰を沈め、居合いの構え。
「剛ッ!」
前方に踏み出しながら中段突き。攻撃と同時に間合いを詰めるつもりだ。
「シッ!」
飛ぶ斬撃、太刀風を放つ。
カウンターでビノッコの身体にバチィッ、と当たった。しかし、わずかに動きを止めただけだ。
「我が硬気功の前にはそよ風の如し」
わたしの練気と同じように願望で防御力を高めていたようだ。
「趺ッッ!」
かけ声とともに跳躍。あの巨体をぐっと縮めたような体勢から、ぶっとい足刀蹴り。
身を屈めてかわす。わたしを飛び越え、背後に着地するビノッコ。
振り返る勢いで斬りつけ──。
ドンッッ。
岩のような背中からの体当たり。わたしは吹っ飛ばされ、地面を転がった。
「このっ!」
再び距離が空き、わたしは起き上がりざまに太刀風を三発放つ。
ビノッコは手刀と肘の打撃でそれを打ち消す。それは想定内。
神速で一気に距離を詰める。振り下ろす刀には斬鉄の技。
「破ッッ!」
相討ち覚悟のビノッコの掌打。強引に身をよじってかわす。
わたしの刀の軌道も逸れた。
ビノッコの肩をわずかに斬った。ヤツの攻撃はわたしの脇腹をかすめただけだ──が、ドンッ、と背中を通り抜けるような衝撃。
まさか、これは……格闘マンガで有名な発頸というやつでは……。
斬られたビノッコは飛び退き、わたしは刀を杖がわりにしながらウエッ、とえずいた。
コイツ、強い。身体の外部より内部にダメージを与える発頸……まともに喰らったら、どうなっていたのか。
「なかなかの腕前。それがしの圧猪雲武利拳とここまで闘える者ははじめてだ」
ビノッコが嬉しそうにニタリと笑い、両手を大きく広げて構えた。
「いざ、決着のとき! 哈威イィィッッ!」
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