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第1部 剣聖 羽鳴由佳
67 優勝者の願い
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いろいろあったが、こうして暗黒武術……いや、シエラ=イデアル武道大会は幕を閉じた。
簡単に表彰式を終え、優勝者の特典であるカーラへの面会へ。ここでわたし達の目的、葉桜溢忌を倒すための協力を仰ぐ。
しかし、優勝者の願いを叶えるとは……計り知れない力を持っているのは知っているが、そんなドラゴ○ボールみたいなことも出来るのか。
もしかしたら、そのまま葉桜溢忌を倒して、と頼んだら願いを叶えてくれるかもしれない。
そうなったら楽ができるのにな、と考えながら会場の選手控え室と同じ棟にある、地下へと案内された。
「こんな場所があったなんて知らなかった」
先頭で松明を持つ係員に話しかける。
いやあ、と係員はなんだか困ったような表情で答える。
その反応に疑問を抱きつつも、地下の一番奥の部屋までたどり着く。
「あれ、黒由佳がいないぞ」
ナギサの声。レオニードはまだ医務室なので、ここにはわたしと志求磨、ナギサ。そしてアルマと黒由佳の五人で来たのだが……いつの間にか姿が消えている。
「あのバカ、おとなしくついてこいって言ったのに。いいよ、もう。腹が減ったら、また出てくるだろ」
バカ由佳は放っておいて、とにかく今はカーラさんに会うことが優先だ。
部屋の扉を開ける。ゴクリと息をのむ。
あの青い館と同じ、壁も床も、テーブルや椅子も全てが青で統一された部屋。電気などないはずなのに、間接照明のようにほんのりと照らされている。
椅子にはカーラさんが腰かけていた。
一年前と同じ、青いウィッチハットに青のローブ。手には杖。
背を見せたまま、立ち上がった。あれ? なんか身長が縮んだか……それに横幅もだいぶ広くなったような……。
「よく来たわね、優勝おめでとう」
振り返ったその姿──衝撃にわたしは声を失った。
顔が三倍ほどデカイ。肉が……肉付きがハンパではない。身体もブヨブヨと肉で揺れ、着ている衣装がはち切れそうだ。
髪はウィッグを付けているのか。カーラさんと同じ長いブロンドのつもりだろうが、顔は似ても似つかない。そして頭の中にダダダダ、と文字が打ち込まれた。
《性別を超えた相談者》ウメコ・エキセントリック。
「おい」
しれっとして、わたしはカーラよといわんばかりの態度に腹が立つ。怒りを込めて呼びかけると、ウメコは少したじろいだ。
「な、なによ。何か文句あんの?」
「文句があるどころじゃない。本物のカーラさんはどこだ」
「……見破るとはさすがね。そう、アタシはカーラじゃない。アタシの名はウメコ・エキセントリック。彼女の友人よ。彼女に頼まれてアンタ達を待っていたの」
初見の願望者という時点で偽者だとバレバレだ。ダダダダでイラッときたわたしは柄に手をかける。
「カーラさんに頼まれて? どういう意味だ」
「ちょっと待って。座っていいかしら? 立っているのしんどいわ~」
ウメコは大きなソファーに腰かける。そのふくよかな身体がずもぉ~っ、と埋まった。
「彼女はアンタ達が優勝してここにくるのを予見してたわ。彼女は……葉桜溢忌が復活してから少し自分の過去を思い出したみたい。今はこの世界の深淵……根源に会いに行ってるわ。いつ帰ってくるかは分からない」
「じゃあ、願いはどうなるの? せっかく優勝したのに」
志求磨が不安そうに聞く。そうだ。優勝してカーラに協力してもらうのが、この大会に出た目的だった。この偽者カーラでは何の役にも立ちそうにない。
「アンタ……今、アタシが何の役にも立たないデブだと思ったでしょ。いや、分かるわ。顔を見れば分かるわよ。しかも願望者なのにわざわざブサイクなのはなんでって思ったでしょ?」
たしかに不完全な願望者の藤田以外では、ブサイクな願望者は見たことない。願望だから美男美女だらけになるのは当たり前なのだが。
いや、話がズレている。今はカーラさんについて話していたはずだ。
「アタシはね……もう、なんというか男でも女でもない、性別を超越した存在なのよ。そこで悟ったの。見た目の美醜になんの意味があるのかって。でもそんなアタシには大勢の人が相談に来るわ。普通の人も願望者も」
「いや。だから、そんな事を聞きたいんじゃなくて……」
「アンタ、せっかちね。仕方ないわね、こんなアタシだからカーラも信頼してアンタらへの伝言役を任せたのよ。いい? 《剣聖》。アンタにこれを渡してって頼まれたわ」
ソファーに座ったまま、ウメコは何かを差し出した。
「うわ、キレイ……」
それは花模様の飾り細工の付いた簪だった。とても高価そうだし、何か不思議な力を感じる。
「《剣聖》。アンタにはいずれとんでもない危機が訪れるそうよ。その時にアンタの身を守るとか、アンタの力を引き出すとか……そんなアイテムらしいわ。大事にしなさいよ。カーラの力の込められたアイテムなんて、超レア物よ」
さっそく髪に挿してみる。仲間たちから感嘆と羨望の声が上がった。わたしは上機嫌でクルクルとその場で回ってみせた。
「あ、それと副賞。良かったわね~、アンタ達。今度奢りなさいよ」
ゲームに出てきそうな宝箱。開けてみると、中には銀貨がザクザク詰まっていた。
「うおおおおおおっ!」
見たこともない大金に、わたしは男みたいな絶叫を上げてしまった。
簡単に表彰式を終え、優勝者の特典であるカーラへの面会へ。ここでわたし達の目的、葉桜溢忌を倒すための協力を仰ぐ。
しかし、優勝者の願いを叶えるとは……計り知れない力を持っているのは知っているが、そんなドラゴ○ボールみたいなことも出来るのか。
もしかしたら、そのまま葉桜溢忌を倒して、と頼んだら願いを叶えてくれるかもしれない。
そうなったら楽ができるのにな、と考えながら会場の選手控え室と同じ棟にある、地下へと案内された。
「こんな場所があったなんて知らなかった」
先頭で松明を持つ係員に話しかける。
いやあ、と係員はなんだか困ったような表情で答える。
その反応に疑問を抱きつつも、地下の一番奥の部屋までたどり着く。
「あれ、黒由佳がいないぞ」
ナギサの声。レオニードはまだ医務室なので、ここにはわたしと志求磨、ナギサ。そしてアルマと黒由佳の五人で来たのだが……いつの間にか姿が消えている。
「あのバカ、おとなしくついてこいって言ったのに。いいよ、もう。腹が減ったら、また出てくるだろ」
バカ由佳は放っておいて、とにかく今はカーラさんに会うことが優先だ。
部屋の扉を開ける。ゴクリと息をのむ。
あの青い館と同じ、壁も床も、テーブルや椅子も全てが青で統一された部屋。電気などないはずなのに、間接照明のようにほんのりと照らされている。
椅子にはカーラさんが腰かけていた。
一年前と同じ、青いウィッチハットに青のローブ。手には杖。
背を見せたまま、立ち上がった。あれ? なんか身長が縮んだか……それに横幅もだいぶ広くなったような……。
「よく来たわね、優勝おめでとう」
振り返ったその姿──衝撃にわたしは声を失った。
顔が三倍ほどデカイ。肉が……肉付きがハンパではない。身体もブヨブヨと肉で揺れ、着ている衣装がはち切れそうだ。
髪はウィッグを付けているのか。カーラさんと同じ長いブロンドのつもりだろうが、顔は似ても似つかない。そして頭の中にダダダダ、と文字が打ち込まれた。
《性別を超えた相談者》ウメコ・エキセントリック。
「おい」
しれっとして、わたしはカーラよといわんばかりの態度に腹が立つ。怒りを込めて呼びかけると、ウメコは少したじろいだ。
「な、なによ。何か文句あんの?」
「文句があるどころじゃない。本物のカーラさんはどこだ」
「……見破るとはさすがね。そう、アタシはカーラじゃない。アタシの名はウメコ・エキセントリック。彼女の友人よ。彼女に頼まれてアンタ達を待っていたの」
初見の願望者という時点で偽者だとバレバレだ。ダダダダでイラッときたわたしは柄に手をかける。
「カーラさんに頼まれて? どういう意味だ」
「ちょっと待って。座っていいかしら? 立っているのしんどいわ~」
ウメコは大きなソファーに腰かける。そのふくよかな身体がずもぉ~っ、と埋まった。
「彼女はアンタ達が優勝してここにくるのを予見してたわ。彼女は……葉桜溢忌が復活してから少し自分の過去を思い出したみたい。今はこの世界の深淵……根源に会いに行ってるわ。いつ帰ってくるかは分からない」
「じゃあ、願いはどうなるの? せっかく優勝したのに」
志求磨が不安そうに聞く。そうだ。優勝してカーラに協力してもらうのが、この大会に出た目的だった。この偽者カーラでは何の役にも立ちそうにない。
「アンタ……今、アタシが何の役にも立たないデブだと思ったでしょ。いや、分かるわ。顔を見れば分かるわよ。しかも願望者なのにわざわざブサイクなのはなんでって思ったでしょ?」
たしかに不完全な願望者の藤田以外では、ブサイクな願望者は見たことない。願望だから美男美女だらけになるのは当たり前なのだが。
いや、話がズレている。今はカーラさんについて話していたはずだ。
「アタシはね……もう、なんというか男でも女でもない、性別を超越した存在なのよ。そこで悟ったの。見た目の美醜になんの意味があるのかって。でもそんなアタシには大勢の人が相談に来るわ。普通の人も願望者も」
「いや。だから、そんな事を聞きたいんじゃなくて……」
「アンタ、せっかちね。仕方ないわね、こんなアタシだからカーラも信頼してアンタらへの伝言役を任せたのよ。いい? 《剣聖》。アンタにこれを渡してって頼まれたわ」
ソファーに座ったまま、ウメコは何かを差し出した。
「うわ、キレイ……」
それは花模様の飾り細工の付いた簪だった。とても高価そうだし、何か不思議な力を感じる。
「《剣聖》。アンタにはいずれとんでもない危機が訪れるそうよ。その時にアンタの身を守るとか、アンタの力を引き出すとか……そんなアイテムらしいわ。大事にしなさいよ。カーラの力の込められたアイテムなんて、超レア物よ」
さっそく髪に挿してみる。仲間たちから感嘆と羨望の声が上がった。わたしは上機嫌でクルクルとその場で回ってみせた。
「あ、それと副賞。良かったわね~、アンタ達。今度奢りなさいよ」
ゲームに出てきそうな宝箱。開けてみると、中には銀貨がザクザク詰まっていた。
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