異世界の剣聖女子

みくもっち

文字の大きさ
上 下
65 / 185
第1部 剣聖 羽鳴由佳

65 アルマとの戦い

しおりを挟む
 これで二勝一敗、一引き分けだ。
 次の大将戦で勝てば、わたし達のチームが優勝だ。

 次の相手は──もう分かっている。ついに、あの娘と直接戦うことになった。

 ん、なにやら審判や係員たちが騒がしい。何かもめごとか? 観客もざわめきはじめた。

 大将戦の前に舞台の簡易的な修復と負傷者の搬送を行っている係員だが、あのヨハンを運ぼうとしてなにやら揉めているらしい。

「わたしは認めんぞ、こんな試合の結果! はるかに格上のわたしがあのような蛮族に場外負けなど……! 認めん、再試合を要求する!」

 うお、目を覚ましたようだが、むちゃくちゃな事を言っている。よほど黒由佳に負けたのが悔しかったのか。
 普通に戦っていれば勝てた戦いだったのに……油断した自分のせいじゃないか。
 
 再試合なんて要求、通るわけがないが……あまりの剣幕に審判たちも困惑している。
 
「アイツ、ウゼーな。もういっぺんやっちまうか」

 黒由佳が動こうとする。ここまできて場外乱闘なんて、決勝戦自体が無くなりかねない。
 わたしと志求磨、ナギサの三人ががりで黒由佳を押さえつけた。

「ぐうっ、ああっ!」

 バチバチバチッ、という音とともにヨハンの声。
 見ると相手側の大将がローブ姿のままで青白い刃のダガーを押し当てている。

「……おとなしくしてて。わたし達の目的を忘れないで」

 アルマだ。電撃のダガーでヨハンを黙らせたようだ。
 ぐったりとなったヨハンを、係員たちが急いで運び出していく。おお、あのもにょっ娘が仲間に対して電撃攻撃とは。

「大将戦、チーム餓狼衆、《アサシン》アルマ・イルハム!」

 名を呼ばれたアルマは跳躍。
 ギュルルッ、と空中で回転しながらローブを脱いで舞台へと降り立った。
 観客がワッ、と沸いた。むむ、スゴい人気だ。一年前は恥ずかしさでモジモジしていたクセに、あのもにょっ娘め。なんか堂々としている。

「チームナギサ、《剣聖》羽鳴由佳!」

 わたしも負けじとローブを脱ぎながら跳躍。ここからカッコよく着地を……いかん、ローブが足にからまった。

 うおっと、無様にコケるのは避けられたが……アルマのように大きな声援が無いのは寂しい。
 聞こえるのは世界名作劇場の男の子に、怪力で短気でウブな男の娘、そしてイカれたわたしのコピー。この三人の声のみ。

「アルマ、とうとう戦うことになったな。どんな目的があるか知らないが、この試合勝たせてもらうぞ」
 
 話しかけると、ヒュヒュヒュッ、と両手のダガーを器用に回転させながらアルマが構える。

「……あたしも負けられない。目的は《青の魔女》カーラの暗殺。会いさえすればあたしのスキル、相絶殺で殺すことができる……たとえあのカーラでも」

 あのカーラさんを殺す──まさか、そんな言葉がこのもにょっ娘から飛び出すとは思わなかった。

 どんな願望者デザイアがどんな技を使おうと、あのカーラさんに危害を与えられそうにはないが……アルマは元五禍将の、死の将。わたしの知らない能力を持っていても不思議ではない。

「そんな事はさせない」

 アルマの目を見つめながら、わたしは居合いの構えに入った。

 試合開始の太鼓の音。わたしもアルマもすぐには動かない。
 お互い手の内は知っている。何度も近くで戦った。

 ヒュッ、とアルマの手が動いた。いつの間にかダガーからナイフに持ちかえている。

 とっさに後ろへ跳ぶ。舞台にカカカッ、と投げナイフが突き刺さる。

 横に移動しながらまた投げてきた。今度は正面。
 居合いで叩き落とす──刀がナイフに触れた瞬間、バチィッ、と青白い閃光がほとばしる。

 しまった、電撃のナイフ! 身体が──痺れる。
 ダガーに持ちかえたアルマが迫る。

「くっ!」

 神速で後退。アルマのダガーは空を切る。この神速の技は短い距離だが、足を動かさずとも滑るように高速移動できる。
 
 なんとかかわしたが、連続でこの技は使えない。
 さらにアルマの攻撃。

 ガガガッ、とダガーの連撃。練気で防御を高めながらガードで凌ぐ。だが、ガードの上からアルマの猛攻。
 
 ガガガガガガッ、ザンッ。
 脇腹に鋭い痛み。練気でも防ぎ切れなかったか。だが、痺れも消えた。

 正面からの斬撃。二刀ダガーで止められたが、軽いアルマをズザザザ、と後退させた。

 斬られた脇腹。傷は浅いようだ。わたしは素早く納刀。短く息を吐く。

「シッ!」

 飛ぶ斬撃、太刀風。
 放ったあと、追うように神速で接近。

 アルマは横に跳んでかわす。予測済みだ。ギャッ、と神速を方向転換。これはアルマにも見せたことがない。

 上段から叩きつけるような斬撃。アルマはダガーを交差してガード。だがやはり軽い。
 ガードの上から吹っ飛ばす。このまま場外へ落ちろ。

 場外へ落ちるアルマ──だが、首に巻いていたストールを外し、バッ、と先端をわたしの右腕に巻き付けた。

「う、おっ!」

 ガクン、と引っ張られる。このままではわたしまで落ちる。とっさに踏ん張って引っ張り返した。

 ひらりと舞台上へと戻るアルマ。ストールをほどき、手早くまた首へと巻いた。
 
 強い──。このもにょっ娘、こんなに強かったのか。
 それとも、わたしがいない間に強くなったのか。
 わたしが元の世界に戻っていたのは、ほんのわずかな時間だったが、こちらでは一年が過ぎていた。その差なんだろうか。
 
 ストールで口元を隠し、くりくりした瞳でこちらを見つめるアルマ。
 この一年間に何があったのか……この試合が終わったら聞かせてもらうぞ、アルマ。
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

ブレイブエイト〜異世界八犬伝伝説〜

蒼月丸
ファンタジー
異世界ハルヴァス。そこは平和なファンタジー世界だったが、新たな魔王であるタマズサが出現した事で大混乱に陥ってしまう。 魔王討伐に赴いた勇者一行も、タマズサによって壊滅してしまい、行方不明一名、死者二名、捕虜二名という結果に。このままだとハルヴァスが滅びるのも時間の問題だ。 それから数日後、地球にある後楽園ホールではプロレス大会が開かれていたが、ここにも魔王軍が攻め込んできて多くの客が殺されてしまう事態が起きた。 当然大会は中止。客の生き残りである東零夜は魔王軍に怒りを顕にし、憧れのレスラーである藍原倫子、彼女のパートナーの有原日和と共に、魔王軍がいるハルヴァスへと向かう事を決断したのだった。 八犬士達の意志を継ぐ選ばれし八人が、魔王タマズサとの戦いに挑む! 地球とハルヴァス、二つの世界を行き来するファンタジー作品、開幕! Nolaノベル、PageMeku、ネオページ、なろうにも連載しています!

異世界の餓狼系男子

みくもっち
ファンタジー
【小説家は餓狼】に出てくるようなテンプレチート主人公に憧れる高校生、葉桜溢忌。 とあるきっかけで願望が実現する異世界に転生し、女神に祝福された溢忌はけた外れの強さを手に入れる。 だが、女神の手違いにより肝心の強力な108のチートスキルは別の転移者たちに行き渡ってしまった。 転移者(願望者)たちを倒し、自分が得るはずだったチートスキルを取り戻す旅へ。 ポンコツな女神とともに無事チートスキルを取り戻し、最終目的である魔王を倒せるのか? 「異世界の剣聖女子」より約20年前の物語。 バトル多めのギャグあり、シリアスあり、テンポ早めの異世界ストーリーです。 *素敵な表紙イラストは前回と同じく朱シオさんです。 @akasiosio ちなみに、この女の子は主人公ではなく、準主役のキャラクターです。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。  その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。  世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。  そして何故かハンターになって、王様に即位!?  この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。 注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。   R指定は念の為です。   登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。   「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。   一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

処理中です...