異世界の剣聖女子

みくもっち

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第1部 剣聖 羽鳴由佳

60 求道者

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 舞台の補強も終わり、試合の再開となった。

「中堅、チーム餓狼衆、《拳聖》ショウ!」

 相手チームの選手の名を聞き、わたし達は驚いた。
 他のチームに入ったとは聞いていたが、まさか餓狼衆の一員になっていたとは。

 ローブを脱いで舞台へと上がるショウを、わたしはにらみつけた。
 一年前と変わらず、短髪に精悍な顔つき。長年愛用しているであろう、擦りきれた武道着。
 ショウは無表情のまま、舞台上で腕組みをしながら佇む。

「チームナギサ、《開放の騎士》天塚志求磨!」
 
「元五禍将のショウか。やっかいだな、手加減できないよ」

 次は志求磨の番だ。
 志求磨の能力──相手の願望の力を弱めたり、無効化できる能力。
 極めつけは消失ロストの技だ。
 現実を叩きつけて、相手の願望をすべて消滅させる。願望の力を失った者は本来の姿を晒し、元の世界へと戻される。

 今までの戦いでは、消失ロストまでしないように加減してきたようだ。
 だが、ショウのような強敵相手に手加減は出来ない。
 本気で勝つつもりなら、消失ロストしなければならないのか。

 ローブを脱ぎ、舞台に上がる志求磨。ショウは嬉しそうに話しかける。

「《解放の騎士》……いつか戦ってみたい相手だった。数々の名のある願望者デザイアを不思議な力で屠ってきたようだな。その技、俺にも見せてみろ」

 腕組みを解き、ショウは身構える。志求磨は困ったような表情で頭をポリポリとかく。

「まいったな、知らないよ。消失ロスト対象者でもないのに」

 舞台下では、わたしとナギサが裏切り者、人でなし、恩知らず、貧乏人、格闘バカ脳筋ヤロー、などとあらん限りの罵声を飛ばす。

 ショウはそんなわたし達を見て、鼻でフッ、と笑った。

「葉桜溢忌についたことを言っているのか。俺はただ、俺より強いヤツに従っただけのこと。《覇王》のときもそうだった。そこに善悪などない」

 試合開始の太鼓の音。こうなったら、そんなヤツ消失ロストでもなんでもしてしまえ。
 
 開始と同時に動いたのはショウ。まずは挨拶代わりとあの技のモーションに入る。

気翔拳きしょうけん!」

 突き出した両掌からボッ、と気弾が飛び出す。
 まっすぐに志求磨の顔面へと。
 志求磨は白銀色の拳打でそれを打ち消す。

「やるな」
 
 ショウが走った。志求磨はトントンと軽くリズムを刻みながら迎え撃つ。
 ヒュッ、ゴッ、と左、右の拳打。上体を反らし、二発目は屈んでかわす。

「むんっ」
 
 振り落ろしの手刀。ガキッ、と両腕を交差して志求磨は受け止めた。
 そのままダダダッ、と前方に押し込む。
 おお、小柄なのにたいしたパワーだ。

「ぬうっ」

 ショウのボディーブロー。これは入った、と思ったが、志求磨は足裏で受け止めてバク転。そのまま距離を取る。
 
跳虎連脚ちょうこれんきゃく!」

 追いすがるようにショウの空中連続蹴り。
 志求磨は両拳に白銀の光をまとわせ、連打。

 ゴゴゴゴゴゴゴッ。
 蹴りと拳打の応酬。互角だ。着地したショウが素早く回転下段蹴り。足元をすくわれ、身体の浮いた志求磨に左ストレート。

「やあっ!」

 その不安定な体勢から志求磨は同じく拳で返す。
 拳同士が衝突。志求磨は片手を着きながら逆さまのまま、蹴りを繰り出す。
 これは避けきれず、ショウの肩にヒット。だが──怯まない。両腕で志求磨の服を掴んだ。

「せいやぁっ!」

 強引に力で投げる。空中に放り出された志求磨に──マズイ、くるぞ。

「気翔拳!」

 気弾が迫る。飛び道具や放出系の技を持たない志求磨はガードするしかない。
 白銀の光をまとい、腕で防ぐ。なんとか着地には成功したが、背後は場外。ショウは接近し、さらに腰の辺りで気を溜めている。

「気翔拳!」

「ぐっ!」

 近距離からの気弾攻撃。白銀の光で打ち消すひまもない。なんとかガードしたが、まだくるぞ。

「気翔拳! 気翔拳! 気翔拳! 気翔拳! 気翔拳! 気しょうーっ、気翔拳!」

 舞台端での連続気弾攻撃。これはキツイ。実際の格ゲーでも画面端でやられると、へたに反撃しようとすればモロにその猛攻の餌食になる。
 かといってガードしたままでは徐々に体力を削られてしまう。
 志求磨もガードしながら苦しそうな表情だ。

 しかし、ショウが願望の元としている、このスーパーストライクファイターデラックス3PW版をやり込んでいたわたしは、その攻略法を知っている。

「志求磨! ガードキャンセルだ!」
 
 通常、相手の攻撃をガードしたときには硬直時間が発生する。今のように端っこで攻撃を受けた場合、さらなる攻撃の的になるわけだが、このガードキャンセルを使えば一瞬だが無敵時間が発生し、反撃なり回避が可能となる。
 わたしがいて良かったな、志求磨。感謝しろ。

「え、え? ど、どうやってやるの!」

「………………」

 わたしはそのコマンド入力の方法を身振り手振りで教えるが……ダメだ、間に合いそうにない。

「もう、仕方ないっ」

 志求磨の身体全体が白銀色に包まれる。おお、あれは消失ロストの技を使う前の姿だ。ガードしながら力を溜めていたのか。


 
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