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第1部 剣聖 羽鳴由佳
58 ヴァルキリー
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《レッサーパンダラー》の左腕に装着されている嵐太くんが早口で喋りだす。「自動でリカバリーモードへ移行。毒状態を解除します。カウント開始。8、7、6」
「おい、妙なマネするなよ」
レオニードがギリギリと引き絞った矢を──放った。孔雀緑色の閃光がまっすぐに《レッサーパンダラー》めがけて飛ぶ。
命中と同時に爆発。煙幕が張られ、《レッサーパンダラー》の姿が見えなくなった。
「ちいっ、仕留め損ねたか」
今の爆発はレオニードの矢のせいではないようだ。煙が薄れてくる中で、嵐太くんの声が聞こえてくる。
「オートガード成功。カウント再開。3、2、1、0。毒解除確認。再起動、レッサーパンダラー」
ゴッ、と《レッサーパンダラー》が飛び出した。左腕の嵐太くんを操作。「フィニッシュアーツ、チャージ・OK」《レッサーパンダラー》の両手から鉤爪が飛び出した。
それを振りかざし、跳躍。レオニードは矢をつがえず、弓を捨てた。
硬質化した手で迎え撃つ。
二人が交差する。わずかな沈黙のあと、膝をついたのはレオニード。よく見れば胸に鉤爪による裂傷が。
呻きながらゆっくりと倒れる。
「レオニードッ!」
呼びかけると、弱々しく左手を上げた。よかった、命に関わるほどの傷ではないようだ。
ガシャアッ、と倒れたのは《レッサーパンダラー》も同じだった。
毒の解除はうまくいったようだが、失われた体力までは回復できなかったとみえる。
両者ダウン。二人ともすぐには立ち上がれそうにない。この場合どうなるのか。
「両者ノックダウン! 10カウントの間に、先に立ち上がった方の勝ちとなります!」
審判がすぐにカウントを取り始める。
二人はぐぐぐ、と起き上がろうとしている。
わたし達はレオニードに声援を送る。敵チームは薄情にもお通夜みたいに静まり返っている。
嵐太くんだけが渋い声でマスター、マスターと呼びかけている。う~ん、健気だ。
二人はカウント10の間に立ち上がれなかった。
試合終了となり、先鋒戦は引き分けとなった。
レオニードと変身の解けた間宮京一は医務室へ運ばれていった。手早く次鋒戦の用意が進められる。
運ばれていく途中のレオニードが親指を立てて笑っていた。わたしも同じように親指を立てる。
よく戦ってくれた。あとはまかせとけ。
「次鋒戦、チーム餓狼衆、《ヴァルキリー》ラーズグリーズ!」
舞台に上がった敵チームの次鋒。ローブを脱いだ姿は、キレイな西洋風甲冑に身を包んだ女性だった。
兜には羽根が付いていて、銀の甲冑には青い縁取り。下半身はヒラヒラのスカートが付いており、優雅さもある、大人の女性という感じだ。
観客席から、今度はオオオ、と男性陣の野太い声援。またこっちはアウェーか。
「チームナギサ、《爆撃突貫娘》ナギサ・ライト!」
この順番は試合前にナギサが決めて提出したものだ。しかし、うちの本来の大将級のこの娘(男)はどうにも出番を早くしたがる。
チーム内での唯一の超越者なのだから大将として最後に出てほしいのだが……ここはなんだかんだ譲歩した形で二番手だ。
「ふん、僕の相手は女か。もっとゴリゴリの筋肉ムキムキの強そうなヤツじゃないと、つまらないな」
ローブを脱ぎ、巨大斧を担ぎながら登場。相手を早くも挑発している。
「無意味な価値観だな。願望者相手に見た目で判断など。あの《覇王》の後継者だとはとても思えぬ」
ラーズグリーズが端正な顔に冷ややかな微笑を浮かべて返す。
「なん……だって……!」
やはり《召喚者》の継承だけでなく、息子だということもバレているようだ。父親のことを言われて顔色が変わったが……ナギサのヤツ、大丈夫だろうか。
試合開始の太鼓がドンッ、と鳴ったと同時に仕掛けたのはナギサ。巨大斧をブオッ、と振り上げた。おい、まさか。
「死ィねぇっっっ!」
あの爆撃技を使うつもりだ。正気か。ここにいるメンバー、いや、観客全員が巻き添えを食うぞ。
ボッ、と振り下ろされた巨大斧。だがそれはキィン、と甲高い音とともに弾かれた。
ラーズグリーズ。その細腕から繰り出された細身の剣。あんなもので──いや、それと速さも凄い。いつの間にか懐へ飛び込んでいる。
弾かれた勢いと巨大斧の重さでナギサはひっくり返りそうになる。ラーズグリーズが目の前に。やむなく斧から手を離し、左の手甲で殴りつける。
その一撃を彼女はなんと素手でバシッ、と受け止め、ヒュッと剣を振るう。
ナギサの胸元が斬り裂かれた。うあっ、と叫びつつも肩から体当たり。
ラーズグリーズはいったん飛び退いて距離を取る。
「浅い……さすがに簡単にはいかないか」
ヒュヒュッ、と剣を振りながらラーズグリーズがまた微笑を浮かべる。
ナギサは斬られたセーラー服の胸元を確認しながら落とした斧を拾いあげる。どうやら冷静さを取り戻したようだ。
「お前、何者だ? 超越者でもないのに、その強さ……」
「わたしは溢忌さまから力の使い方を教わっただけ。本来の願望の力。欲望に身を任せ、感情の赴くままに剣を振るう。ただそれだけ」
ラーズグリーズの願望の力が高まる。剣の切っ先をナギサに向け、低く構えた。
「はん、小細工なしの戦闘タイプの願望者ってわけか。それだけで僕に勝つつもりか」
ナギサも願望の力を溜めながら巨大斧を前方に押し出すように構えた。
「おい、妙なマネするなよ」
レオニードがギリギリと引き絞った矢を──放った。孔雀緑色の閃光がまっすぐに《レッサーパンダラー》めがけて飛ぶ。
命中と同時に爆発。煙幕が張られ、《レッサーパンダラー》の姿が見えなくなった。
「ちいっ、仕留め損ねたか」
今の爆発はレオニードの矢のせいではないようだ。煙が薄れてくる中で、嵐太くんの声が聞こえてくる。
「オートガード成功。カウント再開。3、2、1、0。毒解除確認。再起動、レッサーパンダラー」
ゴッ、と《レッサーパンダラー》が飛び出した。左腕の嵐太くんを操作。「フィニッシュアーツ、チャージ・OK」《レッサーパンダラー》の両手から鉤爪が飛び出した。
それを振りかざし、跳躍。レオニードは矢をつがえず、弓を捨てた。
硬質化した手で迎え撃つ。
二人が交差する。わずかな沈黙のあと、膝をついたのはレオニード。よく見れば胸に鉤爪による裂傷が。
呻きながらゆっくりと倒れる。
「レオニードッ!」
呼びかけると、弱々しく左手を上げた。よかった、命に関わるほどの傷ではないようだ。
ガシャアッ、と倒れたのは《レッサーパンダラー》も同じだった。
毒の解除はうまくいったようだが、失われた体力までは回復できなかったとみえる。
両者ダウン。二人ともすぐには立ち上がれそうにない。この場合どうなるのか。
「両者ノックダウン! 10カウントの間に、先に立ち上がった方の勝ちとなります!」
審判がすぐにカウントを取り始める。
二人はぐぐぐ、と起き上がろうとしている。
わたし達はレオニードに声援を送る。敵チームは薄情にもお通夜みたいに静まり返っている。
嵐太くんだけが渋い声でマスター、マスターと呼びかけている。う~ん、健気だ。
二人はカウント10の間に立ち上がれなかった。
試合終了となり、先鋒戦は引き分けとなった。
レオニードと変身の解けた間宮京一は医務室へ運ばれていった。手早く次鋒戦の用意が進められる。
運ばれていく途中のレオニードが親指を立てて笑っていた。わたしも同じように親指を立てる。
よく戦ってくれた。あとはまかせとけ。
「次鋒戦、チーム餓狼衆、《ヴァルキリー》ラーズグリーズ!」
舞台に上がった敵チームの次鋒。ローブを脱いだ姿は、キレイな西洋風甲冑に身を包んだ女性だった。
兜には羽根が付いていて、銀の甲冑には青い縁取り。下半身はヒラヒラのスカートが付いており、優雅さもある、大人の女性という感じだ。
観客席から、今度はオオオ、と男性陣の野太い声援。またこっちはアウェーか。
「チームナギサ、《爆撃突貫娘》ナギサ・ライト!」
この順番は試合前にナギサが決めて提出したものだ。しかし、うちの本来の大将級のこの娘(男)はどうにも出番を早くしたがる。
チーム内での唯一の超越者なのだから大将として最後に出てほしいのだが……ここはなんだかんだ譲歩した形で二番手だ。
「ふん、僕の相手は女か。もっとゴリゴリの筋肉ムキムキの強そうなヤツじゃないと、つまらないな」
ローブを脱ぎ、巨大斧を担ぎながら登場。相手を早くも挑発している。
「無意味な価値観だな。願望者相手に見た目で判断など。あの《覇王》の後継者だとはとても思えぬ」
ラーズグリーズが端正な顔に冷ややかな微笑を浮かべて返す。
「なん……だって……!」
やはり《召喚者》の継承だけでなく、息子だということもバレているようだ。父親のことを言われて顔色が変わったが……ナギサのヤツ、大丈夫だろうか。
試合開始の太鼓がドンッ、と鳴ったと同時に仕掛けたのはナギサ。巨大斧をブオッ、と振り上げた。おい、まさか。
「死ィねぇっっっ!」
あの爆撃技を使うつもりだ。正気か。ここにいるメンバー、いや、観客全員が巻き添えを食うぞ。
ボッ、と振り下ろされた巨大斧。だがそれはキィン、と甲高い音とともに弾かれた。
ラーズグリーズ。その細腕から繰り出された細身の剣。あんなもので──いや、それと速さも凄い。いつの間にか懐へ飛び込んでいる。
弾かれた勢いと巨大斧の重さでナギサはひっくり返りそうになる。ラーズグリーズが目の前に。やむなく斧から手を離し、左の手甲で殴りつける。
その一撃を彼女はなんと素手でバシッ、と受け止め、ヒュッと剣を振るう。
ナギサの胸元が斬り裂かれた。うあっ、と叫びつつも肩から体当たり。
ラーズグリーズはいったん飛び退いて距離を取る。
「浅い……さすがに簡単にはいかないか」
ヒュヒュッ、と剣を振りながらラーズグリーズがまた微笑を浮かべる。
ナギサは斬られたセーラー服の胸元を確認しながら落とした斧を拾いあげる。どうやら冷静さを取り戻したようだ。
「お前、何者だ? 超越者でもないのに、その強さ……」
「わたしは溢忌さまから力の使い方を教わっただけ。本来の願望の力。欲望に身を任せ、感情の赴くままに剣を振るう。ただそれだけ」
ラーズグリーズの願望の力が高まる。剣の切っ先をナギサに向け、低く構えた。
「はん、小細工なしの戦闘タイプの願望者ってわけか。それだけで僕に勝つつもりか」
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