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第1部 剣聖 羽鳴由佳
55 死闘のゆくえ
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「うぅがぁっ、いィィ、ぎぃっ」
わけの分からない言葉を発しながら、冴木は四つん這いに。背中から今度はムカデのような触手がゾゾゾ、と生え出てくる。
対する黒由佳。肩の傷を願望の力で癒しているが、まだ時間がかかるはずだ。あれで刀が扱えるのか。
「じィィアアッ!」
冴木のあの様子、完全に自我を失っている。
ジグザグに跳びながら黒由佳に襲いかかった。
「はは、これピンチかも」
左腕をだらりと下げたまま、黒由佳が迎え撃つ。
グアッ、と覆い被さるように冴木が掴みかかる。
黒由佳の回し蹴り。アゴにまともに入ったが、冴木は怯まない。首にかじりつこうとする。
黒由佳は身を引かずになんと頭突きで対抗。うっ、と下を向いた冴木の脳天に左の刀を突き立てようとするが、ジャッ、と伸びた触手に防がれた。
ムカデのようなイビツな形状の触手は黒由佳に巻きつこうとする。
右の刀一本で斬りつけ、切断。
ぎィッ、と一瞬は動きが止まるが、やはりゾゾゾ、と再生する。これではきりがない。
「志求磨、なにか倒す方法はないのか」
原作を知っている志求磨なら、弱点を知っているかもしれない。
志求磨は少し考えた後にそうだ、とつぶやく。
「身体の何ヵ所かに、あの触手を出す核みたいなのがあるんだ。それを破壊すれば」
「そうか。で、その核は身体のどこにあるんだ」
「いや、詳しい位置までは……」
くそ、せっかく弱点が分かったのに、それでは……いや待て。
わたしの技……《首狩り》トレント・ヘッドに使った、あの禁じ手の連続突きなら、位置を特定しなくても身体全体を攻撃できる。
わたしが強く念を飛ばせば、コピーである黒由佳に技のイメージが伝わるかもしれない。
目を閉じて、むむむ、と集中する。
「あ、頭の中になんかキタ! お姉さまか、これ」
戦いながら黒由佳が叫ぶ。おお、うまく伝わったようだ。
「うわぁ、お姉さまったら、いやらしい。こんなHなこと考えていたなんて。意外だなあ」
まてまてまて。どんなイメージが伝わったんだ。アホ由佳め、わたしが誤解されるじゃないか。
「でへへ、冗談。うまく伝わったよ。ありがと、お姉さま」
アイツめ。結構余裕あるじゃないか。タタッ、と数歩引いたところから切っ先を相手にむけ、水平に構えた。
しかし、まだ問題がある。連続突きの間合いより先にあの触手のほうが速く届く。
せめて左腕の刀が使えれば……触手を斬り伏せつつ、相手を攻撃することが出来る。
黒由佳が動く。左腕はだらりと下がったままだ。待て、考えなしに突っ込むな。
冴木の触手が黒由佳を貫こうとまっすぐに伸びて──ボッ、と斬り飛ばされたのは触手のほうだ。
黒由佳は左の刀を口に咥えている。あれで斬ったのか。
そして──右の刀で無数の突きを一瞬のうちに叩き込む。
ドドドドドドドッ。
頭、胴、腕、脚、全身くまなく貫いて最後に強烈な前蹴り。舞台端まで吹っ飛んだ冴木。
これで決まったか──。
「ぐっ、まだだ、僕はっ」
全身の黒い甲殻も剥げ落ち、触手もボロボロと崩れて再生しない。うまく全ての核を破壊できたようだ。これで勝負はついた。
それでも冴木は立ち上がろうとする。
「僕ら藤田は望んで生まれたわけじゃない……。純粋な願望者でもなく、普通の人間にもなれない。だけど……だけど、僕らだって、ここで生きていていいはずだ……!」
また倒れ、ぶるぶると震えながら舞台を叩いた。
黒由佳がスタスタと近づく。おい、まさかトドメを刺すつもりか。
黒由佳は血まみれのボロボロの姿で、ニカッと笑う。
「別にイイんじゃないの~? そんなムツカシイこと考えなくってもさ。ウチもさあ、勝手に造りだされた存在だけど、願望者とかそうじゃないとか、どうでもいいと思うんだよねぇ。他人のために生きてるわけじゃないし」
「僕は……僕らは生きてていいのか。この世界で……」
冴木はそう言って舞台上に突っ伏した。そしてギブアップを宣言。
大将戦は黒由佳の勝利で終わり、同時にわたし達チームナギサの決勝進出が決まった。
決勝の相手チームは、わたし達より先に試合を終わらせているようだ。
決勝戦を前に長めの休憩時間が設けられる。
負傷した黒由佳は医務室へ。付き添いには志求磨。
わたしとナギサ、レオニードは試合会場とその周りでカーラさんを探すことにした。
もともと、この大会に参加したのはセペノイアの街に滞在できるから。その滞在期間中にカーラさんに会い、葉桜溢忌に対抗する力となってほしいからだ。
青い館にいなかったから、もしかしたら会場に来ているかもしれない。
会場内の観客はナギサとレオニードが見てまわる。
わたしは会場の周りをぐるっと探してみることにした。
会場の出口。休憩時間なので多くの人が出入りしている。
そこでわたしは一人の人間にじっと見られていることに気づく。
腕を組んでゲートの壁にもたれている少女。銀髪に褐色の肌。くりくりした瞳に口元を隠したストール。
あれは──《アサシン》アルマ・イルハムだ。
一年前、ミリアムが《覇王》黄武迅を裏切ったときにそれに従ってわたしと敵対した少女……どうしてここに。
わけの分からない言葉を発しながら、冴木は四つん這いに。背中から今度はムカデのような触手がゾゾゾ、と生え出てくる。
対する黒由佳。肩の傷を願望の力で癒しているが、まだ時間がかかるはずだ。あれで刀が扱えるのか。
「じィィアアッ!」
冴木のあの様子、完全に自我を失っている。
ジグザグに跳びながら黒由佳に襲いかかった。
「はは、これピンチかも」
左腕をだらりと下げたまま、黒由佳が迎え撃つ。
グアッ、と覆い被さるように冴木が掴みかかる。
黒由佳の回し蹴り。アゴにまともに入ったが、冴木は怯まない。首にかじりつこうとする。
黒由佳は身を引かずになんと頭突きで対抗。うっ、と下を向いた冴木の脳天に左の刀を突き立てようとするが、ジャッ、と伸びた触手に防がれた。
ムカデのようなイビツな形状の触手は黒由佳に巻きつこうとする。
右の刀一本で斬りつけ、切断。
ぎィッ、と一瞬は動きが止まるが、やはりゾゾゾ、と再生する。これではきりがない。
「志求磨、なにか倒す方法はないのか」
原作を知っている志求磨なら、弱点を知っているかもしれない。
志求磨は少し考えた後にそうだ、とつぶやく。
「身体の何ヵ所かに、あの触手を出す核みたいなのがあるんだ。それを破壊すれば」
「そうか。で、その核は身体のどこにあるんだ」
「いや、詳しい位置までは……」
くそ、せっかく弱点が分かったのに、それでは……いや待て。
わたしの技……《首狩り》トレント・ヘッドに使った、あの禁じ手の連続突きなら、位置を特定しなくても身体全体を攻撃できる。
わたしが強く念を飛ばせば、コピーである黒由佳に技のイメージが伝わるかもしれない。
目を閉じて、むむむ、と集中する。
「あ、頭の中になんかキタ! お姉さまか、これ」
戦いながら黒由佳が叫ぶ。おお、うまく伝わったようだ。
「うわぁ、お姉さまったら、いやらしい。こんなHなこと考えていたなんて。意外だなあ」
まてまてまて。どんなイメージが伝わったんだ。アホ由佳め、わたしが誤解されるじゃないか。
「でへへ、冗談。うまく伝わったよ。ありがと、お姉さま」
アイツめ。結構余裕あるじゃないか。タタッ、と数歩引いたところから切っ先を相手にむけ、水平に構えた。
しかし、まだ問題がある。連続突きの間合いより先にあの触手のほうが速く届く。
せめて左腕の刀が使えれば……触手を斬り伏せつつ、相手を攻撃することが出来る。
黒由佳が動く。左腕はだらりと下がったままだ。待て、考えなしに突っ込むな。
冴木の触手が黒由佳を貫こうとまっすぐに伸びて──ボッ、と斬り飛ばされたのは触手のほうだ。
黒由佳は左の刀を口に咥えている。あれで斬ったのか。
そして──右の刀で無数の突きを一瞬のうちに叩き込む。
ドドドドドドドッ。
頭、胴、腕、脚、全身くまなく貫いて最後に強烈な前蹴り。舞台端まで吹っ飛んだ冴木。
これで決まったか──。
「ぐっ、まだだ、僕はっ」
全身の黒い甲殻も剥げ落ち、触手もボロボロと崩れて再生しない。うまく全ての核を破壊できたようだ。これで勝負はついた。
それでも冴木は立ち上がろうとする。
「僕ら藤田は望んで生まれたわけじゃない……。純粋な願望者でもなく、普通の人間にもなれない。だけど……だけど、僕らだって、ここで生きていていいはずだ……!」
また倒れ、ぶるぶると震えながら舞台を叩いた。
黒由佳がスタスタと近づく。おい、まさかトドメを刺すつもりか。
黒由佳は血まみれのボロボロの姿で、ニカッと笑う。
「別にイイんじゃないの~? そんなムツカシイこと考えなくってもさ。ウチもさあ、勝手に造りだされた存在だけど、願望者とかそうじゃないとか、どうでもいいと思うんだよねぇ。他人のために生きてるわけじゃないし」
「僕は……僕らは生きてていいのか。この世界で……」
冴木はそう言って舞台上に突っ伏した。そしてギブアップを宣言。
大将戦は黒由佳の勝利で終わり、同時にわたし達チームナギサの決勝進出が決まった。
決勝の相手チームは、わたし達より先に試合を終わらせているようだ。
決勝戦を前に長めの休憩時間が設けられる。
負傷した黒由佳は医務室へ。付き添いには志求磨。
わたしとナギサ、レオニードは試合会場とその周りでカーラさんを探すことにした。
もともと、この大会に参加したのはセペノイアの街に滞在できるから。その滞在期間中にカーラさんに会い、葉桜溢忌に対抗する力となってほしいからだ。
青い館にいなかったから、もしかしたら会場に来ているかもしれない。
会場内の観客はナギサとレオニードが見てまわる。
わたしは会場の周りをぐるっと探してみることにした。
会場の出口。休憩時間なので多くの人が出入りしている。
そこでわたしは一人の人間にじっと見られていることに気づく。
腕を組んでゲートの壁にもたれている少女。銀髪に褐色の肌。くりくりした瞳に口元を隠したストール。
あれは──《アサシン》アルマ・イルハムだ。
一年前、ミリアムが《覇王》黄武迅を裏切ったときにそれに従ってわたしと敵対した少女……どうしてここに。
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