異世界の剣聖女子

みくもっち

文字の大きさ
上 下
55 / 185
第1部 剣聖 羽鳴由佳

55 死闘のゆくえ

しおりを挟む
「うぅがぁっ、いィィ、ぎぃっ」

 わけの分からない言葉を発しながら、冴木は四つん這いに。背中から今度はムカデのような触手がゾゾゾ、と生え出てくる。

 対する黒由佳。肩の傷を願望の力で癒しているが、まだ時間がかかるはずだ。あれで刀が扱えるのか。

「じィィアアッ!」

 冴木のあの様子、完全に自我を失っている。
 ジグザグに跳びながら黒由佳に襲いかかった。

「はは、これピンチかも」

 左腕をだらりと下げたまま、黒由佳が迎え撃つ。
 グアッ、と覆い被さるように冴木が掴みかかる。

 黒由佳の回し蹴り。アゴにまともに入ったが、冴木は怯まない。首にかじりつこうとする。
 黒由佳は身を引かずになんと頭突きで対抗。うっ、と下を向いた冴木の脳天に左の刀を突き立てようとするが、ジャッ、と伸びた触手に防がれた。

 ムカデのようなイビツな形状の触手は黒由佳に巻きつこうとする。
 右の刀一本で斬りつけ、切断。
 ぎィッ、と一瞬は動きが止まるが、やはりゾゾゾ、と再生する。これではきりがない。

「志求磨、なにか倒す方法はないのか」

 原作を知っている志求磨なら、弱点を知っているかもしれない。
 志求磨は少し考えた後にそうだ、とつぶやく。

「身体の何ヵ所かに、あの触手を出す核みたいなのがあるんだ。それを破壊すれば」
 
「そうか。で、その核は身体のどこにあるんだ」

「いや、詳しい位置までは……」

 くそ、せっかく弱点が分かったのに、それでは……いや待て。
 わたしの技……《首狩り》トレント・ヘッドに使った、あの禁じ手の連続突きなら、位置を特定しなくても身体全体を攻撃できる。

 わたしが強く念を飛ばせば、コピーである黒由佳に技のイメージが伝わるかもしれない。
 目を閉じて、むむむ、と集中する。

「あ、頭の中になんかキタ! お姉さまか、これ」

 戦いながら黒由佳が叫ぶ。おお、うまく伝わったようだ。

「うわぁ、お姉さまったら、いやらしい。こんなHなこと考えていたなんて。意外だなあ」

 まてまてまて。どんなイメージが伝わったんだ。アホ由佳め、わたしが誤解されるじゃないか。

「でへへ、冗談。うまく伝わったよ。ありがと、お姉さま」

 アイツめ。結構余裕あるじゃないか。タタッ、と数歩引いたところから切っ先を相手にむけ、水平に構えた。
 しかし、まだ問題がある。連続突きの間合いより先にあの触手のほうが速く届く。
 せめて左腕の刀が使えれば……触手を斬り伏せつつ、相手を攻撃することが出来る。

 黒由佳が動く。左腕はだらりと下がったままだ。待て、考えなしに突っ込むな。 
 冴木の触手が黒由佳を貫こうとまっすぐに伸びて──ボッ、と斬り飛ばされたのは触手のほうだ。
 
 黒由佳は左の刀を口に咥えている。あれで斬ったのか。
 そして──右の刀で無数の突きを一瞬のうちに叩き込む。
 ドドドドドドドッ。
 頭、胴、腕、脚、全身くまなく貫いて最後に強烈な前蹴り。舞台端まで吹っ飛んだ冴木。
 これで決まったか──。
 
「ぐっ、まだだ、僕はっ」

  全身の黒い甲殻も剥げ落ち、触手もボロボロと崩れて再生しない。うまく全ての核を破壊できたようだ。これで勝負はついた。
 それでも冴木は立ち上がろうとする。

「僕ら藤田は望んで生まれたわけじゃない……。純粋な願望者デザイアでもなく、普通の人間にもなれない。だけど……だけど、僕らだって、ここで生きていていいはずだ……!」

 また倒れ、ぶるぶると震えながら舞台を叩いた。
 黒由佳がスタスタと近づく。おい、まさかトドメを刺すつもりか。

 黒由佳は血まみれのボロボロの姿で、ニカッと笑う。

「別にイイんじゃないの~? そんなムツカシイこと考えなくってもさ。ウチもさあ、勝手に造りだされた存在だけど、願望者デザイアとかそうじゃないとか、どうでもいいと思うんだよねぇ。他人のために生きてるわけじゃないし」

「僕は……僕らは生きてていいのか。この世界で……」

 冴木はそう言って舞台上に突っ伏した。そしてギブアップを宣言。

 大将戦は黒由佳の勝利で終わり、同時にわたし達チームナギサの決勝進出が決まった。
 
 決勝の相手チームは、わたし達より先に試合を終わらせているようだ。
 決勝戦を前に長めの休憩時間が設けられる。

 負傷した黒由佳は医務室へ。付き添いには志求磨。
 わたしとナギサ、レオニードは試合会場とその周りでカーラさんを探すことにした。

 もともと、この大会に参加したのはセペノイアの街に滞在できるから。その滞在期間中にカーラさんに会い、葉桜溢忌に対抗する力となってほしいからだ。

 青い館にいなかったから、もしかしたら会場に来ているかもしれない。
 会場内の観客はナギサとレオニードが見てまわる。
 わたしは会場の周りをぐるっと探してみることにした。
 
 会場の出口。休憩時間なので多くの人が出入りしている。
 そこでわたしは一人の人間にじっと見られていることに気づく。
 腕を組んでゲートの壁にもたれている少女。銀髪に褐色の肌。くりくりした瞳に口元を隠したストール。
 あれは──《アサシン》アルマ・イルハムだ。
 
 一年前、ミリアムが《覇王》黄武迅を裏切ったときにそれに従ってわたしと敵対した少女……どうしてここに。

 

 
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

ブレイブエイト〜異世界八犬伝伝説〜

蒼月丸
ファンタジー
異世界ハルヴァス。そこは平和なファンタジー世界だったが、新たな魔王であるタマズサが出現した事で大混乱に陥ってしまう。 魔王討伐に赴いた勇者一行も、タマズサによって壊滅してしまい、行方不明一名、死者二名、捕虜二名という結果に。このままだとハルヴァスが滅びるのも時間の問題だ。 それから数日後、地球にある後楽園ホールではプロレス大会が開かれていたが、ここにも魔王軍が攻め込んできて多くの客が殺されてしまう事態が起きた。 当然大会は中止。客の生き残りである東零夜は魔王軍に怒りを顕にし、憧れのレスラーである藍原倫子、彼女のパートナーの有原日和と共に、魔王軍がいるハルヴァスへと向かう事を決断したのだった。 八犬士達の意志を継ぐ選ばれし八人が、魔王タマズサとの戦いに挑む! 地球とハルヴァス、二つの世界を行き来するファンタジー作品、開幕! Nolaノベル、PageMeku、ネオページ、なろうにも連載しています!

異世界の餓狼系男子

みくもっち
ファンタジー
【小説家は餓狼】に出てくるようなテンプレチート主人公に憧れる高校生、葉桜溢忌。 とあるきっかけで願望が実現する異世界に転生し、女神に祝福された溢忌はけた外れの強さを手に入れる。 だが、女神の手違いにより肝心の強力な108のチートスキルは別の転移者たちに行き渡ってしまった。 転移者(願望者)たちを倒し、自分が得るはずだったチートスキルを取り戻す旅へ。 ポンコツな女神とともに無事チートスキルを取り戻し、最終目的である魔王を倒せるのか? 「異世界の剣聖女子」より約20年前の物語。 バトル多めのギャグあり、シリアスあり、テンポ早めの異世界ストーリーです。 *素敵な表紙イラストは前回と同じく朱シオさんです。 @akasiosio ちなみに、この女の子は主人公ではなく、準主役のキャラクターです。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。  その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。  世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。  そして何故かハンターになって、王様に即位!?  この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。 注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。   R指定は念の為です。   登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。   「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。   一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

処理中です...