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第1部 剣聖 羽鳴由佳
37 神算司書
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王都に近づき、何かドオン、ドオンと大きな音が聞こえてきた。
大気をビリビリと震わせるほどの……花火、いや、大砲か? いやいや、この世界にまだそんなものはない。
だったらこれは──願望者同士が争う音だ。
馬車の窓から顔を出しながら、息をのんだ。
王都はまだ無事のようだが、この音からして激しい戦いが続いているようだ。
馬車から降り、左足の感触を確かめる。大丈夫だ、もうなんともない。
兵とともに城門をくぐり、市街地に。
敵兵の姿はない。かわりにうろついているのは、あの砦で戦った《首狩り》トレント・ヘッド。しかも10体はいる。
「おいおい、冗談だろ」
砦の時よりだいぶ白っぽい色だが……あれを攻撃したら、ばかっと鎧が割れてまた黒由佳が出てくるんじゃないのか。
わたしが攻撃を躊躇している間に、向こうからガシャガシャと近づいてくる。兵達もざわめきはじめた。
「あぶないっ」
聞き覚えのある女の声。バゴオッ、と派手な破裂音とともに、トレントが三体吹っ飛んでバラバラになった。
トレント達の後ろから現れたのは、《神算司書》ミリアム・エーベンハルトだ。
手にはショットガン。ガシャンと銃身の下をスライドさせて次弾を装填、近づくトレント達に散弾をブッ放した。
またも三体がバラバラになる。今回のヤツらは随分と脆いな。というか、ミリアムの使っている武器は──。
残るトレントが戦斧を振りかざして襲いかかる。
ミリアムの手からショットガンが消えた。
入れ替わるように現れたのは、白い装丁の本。
わたしも見たことがある。たしか願望者全書とかいう、全ての願望者の情報が載った本だ。
戦斧をかわしつつ、ページをめくる。
ある部分でページを引き破った。
本が消え、ミリアムの両手には二本のダガー。
残りのトレント四体を赤く光る刀身で鮮やかに斬りつけていく。
ボ、ボボッ、と燃え上がったトレント達はガシャガシャと数歩進んだあと、黒焦げになってボロボロと崩れ落ちた。
「この白いトレントは岩秀の作り出した虚ろな人形に過ぎません。問題なのはヤツの念がこもった、特殊な人形。あなたも見たでしょう。藤田とかいう変わった願望者を」
なんと。あのアホは岩秀によって作り出された人造の願望者だったのか。どうりで何度倒しても出てくるわけだ。
「それよりよく戻ってきてくれました、由佳さん。見てのとおり王都は反乱軍の首謀者、岩秀から襲撃を受けています。王みずからあの男と交戦中なのですが」
ドンッ。
王都全体を揺らすように、また音が響く。これは《覇王》と岩秀の戦っている音だったのか。
「大丈夫なのか? 怪我してただろ、あのおっさん」
「岩秀の策により、わたくしたち側近は王より引き離されたのです。早く駆けつけて手助けしなければ……超越者同士の戦いが長引けば王都に甚大な被害が出ます」
「超越者?」
「複数の二つ名を持つ者のことです。我々願望者は願望を具現化出来ますが、一方で無意識に『こんなことはあり得ない』という限界を決めつけているのです」
そう、願望者だからといって万能ではない。あくまでこうなりたい、といった願望の範囲でしか力は発揮できない。
わたしが今さら空を飛んだり、精神力を具現化した分身を背後から出したりは無理なのだ。
「ですが、ごく稀にその限界を突破する者がいるのです。王や《青の魔女》のように。彼らの持つ力が次元が違うのはよくご存知でしょう」
なるほど、あの二人の強さにはそんな理由があったのか。で、その限界を突破して新たな二つ名を得るにはどうすればいいのか。
聞こうとした時、路地からガシャガシャと白っぽいトレントの一団が現れた。十数体はいる。まるでドラ○エのさま○うヨロイがぞろぞろ出てきたみたいだ。
そしてその後ろにはツンツン頭の、またも小学生ぐらいの男児が。間違いない、藤田だ。
「お前たちは市街地を捜索して、逃げ遅れた市民たちの保護を優先しろ。ひとかたまりになった敵を見つけたら狼煙を上げて報せよ」
ミリアムがわたしが連れてきた兵達に的確に指示を出す。
兵が散ったところで、自身は藤田達に向かっていく。
「あの藤田を倒して王のもとへ急ぎましょう。由佳さん、手伝ってください」
「わかってる。あの面はもう見飽きた」
藤田を守るようにトレント達が行く手を塞ぐ。
わたしは柄に手をかけ、ミリアムは本のページをめくる。
「由佳さん、耳を塞いで」
ページを引き破ったミリアムの手にはマイクスタンド。まさか──わたしは距離を取りつつ、耳を塞ぐ。
ヴァッ、と空気を震わす高音シャウト。密集したトレント達が一気に将棋倒しになり、鎧が砕ける。
今のは《サディスティックディーヴァ》セプティミアの技だ。
間違いない。ミリアムは本に載っている願望者のあらゆる能力を使うことができるようだ。
それって無敵じゃね? と思いつつ、ミリアムとともに藤田と対峙する。
ツンツン頭のブサイクな少年姿の藤田は慌てもせず、ニヤリと笑った。
大気をビリビリと震わせるほどの……花火、いや、大砲か? いやいや、この世界にまだそんなものはない。
だったらこれは──願望者同士が争う音だ。
馬車の窓から顔を出しながら、息をのんだ。
王都はまだ無事のようだが、この音からして激しい戦いが続いているようだ。
馬車から降り、左足の感触を確かめる。大丈夫だ、もうなんともない。
兵とともに城門をくぐり、市街地に。
敵兵の姿はない。かわりにうろついているのは、あの砦で戦った《首狩り》トレント・ヘッド。しかも10体はいる。
「おいおい、冗談だろ」
砦の時よりだいぶ白っぽい色だが……あれを攻撃したら、ばかっと鎧が割れてまた黒由佳が出てくるんじゃないのか。
わたしが攻撃を躊躇している間に、向こうからガシャガシャと近づいてくる。兵達もざわめきはじめた。
「あぶないっ」
聞き覚えのある女の声。バゴオッ、と派手な破裂音とともに、トレントが三体吹っ飛んでバラバラになった。
トレント達の後ろから現れたのは、《神算司書》ミリアム・エーベンハルトだ。
手にはショットガン。ガシャンと銃身の下をスライドさせて次弾を装填、近づくトレント達に散弾をブッ放した。
またも三体がバラバラになる。今回のヤツらは随分と脆いな。というか、ミリアムの使っている武器は──。
残るトレントが戦斧を振りかざして襲いかかる。
ミリアムの手からショットガンが消えた。
入れ替わるように現れたのは、白い装丁の本。
わたしも見たことがある。たしか願望者全書とかいう、全ての願望者の情報が載った本だ。
戦斧をかわしつつ、ページをめくる。
ある部分でページを引き破った。
本が消え、ミリアムの両手には二本のダガー。
残りのトレント四体を赤く光る刀身で鮮やかに斬りつけていく。
ボ、ボボッ、と燃え上がったトレント達はガシャガシャと数歩進んだあと、黒焦げになってボロボロと崩れ落ちた。
「この白いトレントは岩秀の作り出した虚ろな人形に過ぎません。問題なのはヤツの念がこもった、特殊な人形。あなたも見たでしょう。藤田とかいう変わった願望者を」
なんと。あのアホは岩秀によって作り出された人造の願望者だったのか。どうりで何度倒しても出てくるわけだ。
「それよりよく戻ってきてくれました、由佳さん。見てのとおり王都は反乱軍の首謀者、岩秀から襲撃を受けています。王みずからあの男と交戦中なのですが」
ドンッ。
王都全体を揺らすように、また音が響く。これは《覇王》と岩秀の戦っている音だったのか。
「大丈夫なのか? 怪我してただろ、あのおっさん」
「岩秀の策により、わたくしたち側近は王より引き離されたのです。早く駆けつけて手助けしなければ……超越者同士の戦いが長引けば王都に甚大な被害が出ます」
「超越者?」
「複数の二つ名を持つ者のことです。我々願望者は願望を具現化出来ますが、一方で無意識に『こんなことはあり得ない』という限界を決めつけているのです」
そう、願望者だからといって万能ではない。あくまでこうなりたい、といった願望の範囲でしか力は発揮できない。
わたしが今さら空を飛んだり、精神力を具現化した分身を背後から出したりは無理なのだ。
「ですが、ごく稀にその限界を突破する者がいるのです。王や《青の魔女》のように。彼らの持つ力が次元が違うのはよくご存知でしょう」
なるほど、あの二人の強さにはそんな理由があったのか。で、その限界を突破して新たな二つ名を得るにはどうすればいいのか。
聞こうとした時、路地からガシャガシャと白っぽいトレントの一団が現れた。十数体はいる。まるでドラ○エのさま○うヨロイがぞろぞろ出てきたみたいだ。
そしてその後ろにはツンツン頭の、またも小学生ぐらいの男児が。間違いない、藤田だ。
「お前たちは市街地を捜索して、逃げ遅れた市民たちの保護を優先しろ。ひとかたまりになった敵を見つけたら狼煙を上げて報せよ」
ミリアムがわたしが連れてきた兵達に的確に指示を出す。
兵が散ったところで、自身は藤田達に向かっていく。
「あの藤田を倒して王のもとへ急ぎましょう。由佳さん、手伝ってください」
「わかってる。あの面はもう見飽きた」
藤田を守るようにトレント達が行く手を塞ぐ。
わたしは柄に手をかけ、ミリアムは本のページをめくる。
「由佳さん、耳を塞いで」
ページを引き破ったミリアムの手にはマイクスタンド。まさか──わたしは距離を取りつつ、耳を塞ぐ。
ヴァッ、と空気を震わす高音シャウト。密集したトレント達が一気に将棋倒しになり、鎧が砕ける。
今のは《サディスティックディーヴァ》セプティミアの技だ。
間違いない。ミリアムは本に載っている願望者のあらゆる能力を使うことができるようだ。
それって無敵じゃね? と思いつつ、ミリアムとともに藤田と対峙する。
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