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第1部 剣聖 羽鳴由佳
36 王都異変
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「ケガチュー! 挟み込むだ!」
「ケ~ガッ」
藤田の指示に、ケガチューは両手のカニバサミで《アライグマッスル》に襲いかかる。
「ぬうっ、なんの」
《アライグマッスル》は防ごうとした両腕を挟まれ、呻き声をあげた。
バシィ、バシィ、と腕から火花が散る。多分ダメージはないだろうが、《アライグマッスル》は大袈裟な声で痛がっている。
「ぬあっ、これはっ! いかん、わたしのマッスルアームでも防ぎきれないっ」
「いいぞ、さすがは俺の相棒ケガチュー! そのままそいつの腕をちょん切ってしまえ!」
いやいや、どちらも子供向け番組だからそれはないだろう……。
しかし、ケガチューの様子に変化が見られる。おそらく《アライグマッスル》の魔物鎮静化の能力がさっそく発揮されたようだ。
ケガチューはためらいながらも、チュウ~と言いながら挟んでいた腕を放した。
「な、何をしている、ケガチュー! 俺の言うことが聞けないのか」
怒った藤田は取り出したムチで、ケガチューを打ちはじめた。
「ケ、ケガ~」
痛みにうずくまるケガチュー。原作と違ってスパルタなんだなと思っているところに、《アライグマッスル》が割り込む。
「やめろおっ、うぐあっ」
ケガチューをかばい、ムチに打たれる《アライグマッスル》。藤田はなおもムチを振るう。
「敵のクセにそいつをかばうのか! いいだろう、おまえから始末してやる!」
バシバシ、バシィッ、と《アライグマッスル》の背中から火花が飛び散る。さすがに痛そうだなと思っていたところ、藤田のムチの連打が止まった。
ケガチューだ。ムチの先端をハサミで押さえこんでいる。
「バカな、そいつをかばうってのか、ケガチュー!」
動揺する藤田。
ケガチューは藤田に向かって突進、そのゴツゴツした毛ガニ甲羅で体当たりを喰らわせた。
「バ、バカな。どうして俺に毛ガニタックルを……」
信じていたパートナーからの攻撃に、肉体的よりも精神的にダメージを受けたのだろうか。その場に倒れこむ藤田。
「分からんか。魔物とはいえ、戦いのために利用する関係など偽りの友情なのだ。お互いに慈しみ、助け合う存在であるべきなのだ」
《アライグマッスル》の言葉に、藤田はハッと何かに気付いたようだ。
「そうか、そうだった……。俺は勝つことにばかり執着して大事なことを忘れていた……マモノントレーナーとしての心構えを……」
ケガチューが藤田の側に寄り添う。
「お、俺を許してくれるのか、ケガチュー」
「ケ~ガァ~」
ブッサイクな顔で抱き合う藤田とケガチュー。変身を解いた御手洗剛志はそれを見て涙を流していた。
一体、何を見せられているんだろうか、わたしは。
藤田とケガチューは去っていった。
バカとアホの戦いはこれで終わったわけだが……。
とりあえず砦は指揮官不在のまま防衛できたが、次回もあんなアホが来るとは限らない。
本格的な願望者が率いる軍が来る前に、早くなんとかしてほしい。
その日の夕方に王都から伝令が訪れた。
こちらからの使いは昨日出したばかりだから、その返事なわけはない。
こういうときに、通信機器の無いこの世界の不便さが身に染みる。
使いの者から発せられた言葉にわたしは愕然とした。
王都が敵に攻められているというのだ。
バカな、敵はこの砦から先に進んでいない。
わたしが来る前にはレオニードが敵の先遣隊を撃退し、藤田やあの岩秀とかいう坊主もここから先に侵攻出来ていない。
「いったい、なにが……」
王都は無事なのだろうか。王都の兵はリヴィエール攻略のためにこちらに兵を割いている。
守りが手薄になっているはずだ。あの《覇王》も桁違いの強さだが、今は負傷している。
とにかく緊急を要する帰還命令だ。
兵とともに戻るだけなら、素人のわたしにも出来るが、どんなに急いでも三日はかかる。果たして間に合うだろうか。
ただならぬ様子に御手洗剛志も付いてくると言い出したが、動けないレオニードがいるし、ここに誰も残らないのもマズイ。
絶対にここから動くなと伝えた。
このアライグマ男の能力なら、たとえ敵に攻められても時間かせぎにもってこいだろう。
砦には防衛に必要な数の兵を残し、わたしは王都に向けて出発した。
王都にはすでに志求磨やアルマがいるかもしれない。
それでも救援が必要だとは、どれほどの敵が侵入したのだろうか。
「ケ~ガッ」
藤田の指示に、ケガチューは両手のカニバサミで《アライグマッスル》に襲いかかる。
「ぬうっ、なんの」
《アライグマッスル》は防ごうとした両腕を挟まれ、呻き声をあげた。
バシィ、バシィ、と腕から火花が散る。多分ダメージはないだろうが、《アライグマッスル》は大袈裟な声で痛がっている。
「ぬあっ、これはっ! いかん、わたしのマッスルアームでも防ぎきれないっ」
「いいぞ、さすがは俺の相棒ケガチュー! そのままそいつの腕をちょん切ってしまえ!」
いやいや、どちらも子供向け番組だからそれはないだろう……。
しかし、ケガチューの様子に変化が見られる。おそらく《アライグマッスル》の魔物鎮静化の能力がさっそく発揮されたようだ。
ケガチューはためらいながらも、チュウ~と言いながら挟んでいた腕を放した。
「な、何をしている、ケガチュー! 俺の言うことが聞けないのか」
怒った藤田は取り出したムチで、ケガチューを打ちはじめた。
「ケ、ケガ~」
痛みにうずくまるケガチュー。原作と違ってスパルタなんだなと思っているところに、《アライグマッスル》が割り込む。
「やめろおっ、うぐあっ」
ケガチューをかばい、ムチに打たれる《アライグマッスル》。藤田はなおもムチを振るう。
「敵のクセにそいつをかばうのか! いいだろう、おまえから始末してやる!」
バシバシ、バシィッ、と《アライグマッスル》の背中から火花が飛び散る。さすがに痛そうだなと思っていたところ、藤田のムチの連打が止まった。
ケガチューだ。ムチの先端をハサミで押さえこんでいる。
「バカな、そいつをかばうってのか、ケガチュー!」
動揺する藤田。
ケガチューは藤田に向かって突進、そのゴツゴツした毛ガニ甲羅で体当たりを喰らわせた。
「バ、バカな。どうして俺に毛ガニタックルを……」
信じていたパートナーからの攻撃に、肉体的よりも精神的にダメージを受けたのだろうか。その場に倒れこむ藤田。
「分からんか。魔物とはいえ、戦いのために利用する関係など偽りの友情なのだ。お互いに慈しみ、助け合う存在であるべきなのだ」
《アライグマッスル》の言葉に、藤田はハッと何かに気付いたようだ。
「そうか、そうだった……。俺は勝つことにばかり執着して大事なことを忘れていた……マモノントレーナーとしての心構えを……」
ケガチューが藤田の側に寄り添う。
「お、俺を許してくれるのか、ケガチュー」
「ケ~ガァ~」
ブッサイクな顔で抱き合う藤田とケガチュー。変身を解いた御手洗剛志はそれを見て涙を流していた。
一体、何を見せられているんだろうか、わたしは。
藤田とケガチューは去っていった。
バカとアホの戦いはこれで終わったわけだが……。
とりあえず砦は指揮官不在のまま防衛できたが、次回もあんなアホが来るとは限らない。
本格的な願望者が率いる軍が来る前に、早くなんとかしてほしい。
その日の夕方に王都から伝令が訪れた。
こちらからの使いは昨日出したばかりだから、その返事なわけはない。
こういうときに、通信機器の無いこの世界の不便さが身に染みる。
使いの者から発せられた言葉にわたしは愕然とした。
王都が敵に攻められているというのだ。
バカな、敵はこの砦から先に進んでいない。
わたしが来る前にはレオニードが敵の先遣隊を撃退し、藤田やあの岩秀とかいう坊主もここから先に侵攻出来ていない。
「いったい、なにが……」
王都は無事なのだろうか。王都の兵はリヴィエール攻略のためにこちらに兵を割いている。
守りが手薄になっているはずだ。あの《覇王》も桁違いの強さだが、今は負傷している。
とにかく緊急を要する帰還命令だ。
兵とともに戻るだけなら、素人のわたしにも出来るが、どんなに急いでも三日はかかる。果たして間に合うだろうか。
ただならぬ様子に御手洗剛志も付いてくると言い出したが、動けないレオニードがいるし、ここに誰も残らないのもマズイ。
絶対にここから動くなと伝えた。
このアライグマ男の能力なら、たとえ敵に攻められても時間かせぎにもってこいだろう。
砦には防衛に必要な数の兵を残し、わたしは王都に向けて出発した。
王都にはすでに志求磨やアルマがいるかもしれない。
それでも救援が必要だとは、どれほどの敵が侵入したのだろうか。
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