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第1部 剣聖 羽鳴由佳
34 マモノン、ゲットだぜ
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「おい、あんたも手を貸せ」
レオニードに肩を貸しながら、わたしは御手洗剛志を呼ぶ。
「む、おお、負傷者か。それは大変だ。わたしに任せろ」
今まで気付かなかったのか。相変わらず自分の世界しか見えてないヤツだ。
こちらに駆け寄ってわたしの顔を見てからおや、という反応を見せた。
「キミは先程の敵に似ているな。いや、それより前に会っているような気が……ふむ、以前戦った怪人ツルペッターだったか?」
……コイツは後で殺すとして、とにかくレオニードを治療できるとこまで運ばないといけない。
わたしは御手洗剛志と協力し、レオニードを砦の下の階まで運んで兵を呼んだ。
35名の兵を失ったが砦は奪還し、反乱軍の尖兵は追い払った。五禍将の一人は負傷したが、最小限の被害で得た戦果じゃないだろうか。
本来なら、ここからリヴィエールへ向けて進軍し、反乱軍と戦わねばならないのだが。
指揮官のレオニードが負傷していては、兵を率いる者がいない。素人のわたしではムリだ。
レオニードの怪我は思ったより重症だ。
命に別状はなさそうだが、あちこちの骨が砕かれている。
ちゃんとした医療設備のある王都まで運んでやりたいが、そこまでの道のりがかえって身体に負担を与えそうだ。
時間はかかるが、この砦で願望の力を使って回復するしかない。
とりあえず王都には使いを出した。これからどうするか指示を仰ぐ。
指示があるまではこの砦に兵を駐留させて待機だ。
「で、あんたは何でここに来たんだ?」
いつもは風のように去っていく御手洗剛志は、いまだ砦内に留まっている。
わたしの質問にこの中年は空き箱に片足を乗せ、波止場にたたずむ男のポーズを取りながら語った。
「戦争が起きると聞いたからだ。戦争になれば多くの人々や動物達が犠牲になる。必ず止めねばならん。この命をかけても」
はいはい、そういうことね。そこで最前線のこの砦に来たわけか。実際、黒由佳との戦いでは役に立ったから良しとしよう。
「でも、あんたが来たところで戦争は止められない。新しい指揮官が来れば、すぐにでもリヴィエールに向けて進軍するだろうし」
「それはいかん。わたしも付いていく。わたしが両軍の大将に会い、戦争をやめるよう説得しよう」
こいつは目がマジだ。いや、このオッサンはいつでも本気だ。わたしがどうこう言おうと、聞く耳持たないだろう。
「好きにすれば。そのかわり軍のジャマをして怒られても、わたしは知らないから」
知り合いと思われて、ついでにわたしまで怒られるのはゴメンだ。ガチの戦争ともなれば、コイツの冗談みたいな能力は役に立たないだろう。
砦に駐留して翌日の朝。砦内が騒がしい。
兵が慌てた様子で報告に来た。
砦に敵が攻めてきたというのだ。バカな、早すぎる。昨日撃退したばかりだというのに。
城壁の上から様子を見る。
たしかに敵の軍勢──いや、あれは魔物だ。
セペノイアで戦ったときのような下級、中級の魔物の群れ。
ギャアギャア騒ぎながら城門に攻撃をしかけようとしている。
「なんで魔物なんかがここを攻めるんだ」
疑問に思ったが、魔物達の群れから悠々と歩き出てきたのは──。
「マモノン、ゲットだぜ!」
一人の少年だ。赤い帽子を被った、小学生高学年くらいの……いや、あのヘンテコなコスプレ感は、既視感がある。間違いない、藤田だ。
「砦内の覇王軍に告ぐ! 今すぐにここから撤退せよ!
1時間以内に動きを見せない場合は俺の友達、マモノンたちが攻撃を開始するぞ!」
何がマモノンだ。ゲームやアニメで人気の、モンスターを捕まえて育成するキャラクターのつもりか。
あの凶悪な魔物達を従えるとは恐ろしい能力だが………もしかしたら、セペノイアの襲撃にも関わっていたのかもしれない。
しかし、数はずっと少ない。せいぜい50ぐらいか。あんなんでこの砦を攻撃するつもりか。
あれぐらいなら砦の兵を使う必要はない。わたしは城壁より飛び降りて、その軍勢の前に立つ。
「わたし一人で相手してやる。だけど藤田、お前はいったい何人いるんだ」
「俺? 俺は世界一のマモノントレーナーを目指すフジシだ! 藤田なんかじゃない!」
聞いたわたしがバカだった。
とりあえずこのアホを倒せば魔物も去っていくだろうか。
わたしが柄に手をかけると、藤田は慌てて魔物たちの中に逃げ込んだ。逃がすか。
神速で突っ込みながら抜刀。行く手を遮った魔物数匹を両断した。
今回の魔物は獣人系が多い。人狼、人虎、ミノタウロスなんかだ。
斬られると憐れな鳴き声を上げるものだから、ちょいと心が痛む。
わっ、と魔物達が散らばり、藤田の姿が見えた。
「よくもやったな、こうなったら秘密兵器だ! よし、キミに決めた! 出てこい!」
藤田がボールのような物を投げると、ビビビと電撃に似た光とともに新たな魔物が2匹現れた。
デカイ。あれは──ライオンの頭に山羊の胴体、毒蛇の尾を持つ魔物、キマイラ。
もう1匹は鷲の上半身にライオンの下半身、グリフォン。こちらもデカイ。
2匹とも上級魔物だ。以前荒野で戦った化け物サソリはアルマと協力して倒したが……わたしだけで勝てるだろうか。
考えてる間にもキマイラは地上、グリフォンは空中から襲いかかってきた。
レオニードに肩を貸しながら、わたしは御手洗剛志を呼ぶ。
「む、おお、負傷者か。それは大変だ。わたしに任せろ」
今まで気付かなかったのか。相変わらず自分の世界しか見えてないヤツだ。
こちらに駆け寄ってわたしの顔を見てからおや、という反応を見せた。
「キミは先程の敵に似ているな。いや、それより前に会っているような気が……ふむ、以前戦った怪人ツルペッターだったか?」
……コイツは後で殺すとして、とにかくレオニードを治療できるとこまで運ばないといけない。
わたしは御手洗剛志と協力し、レオニードを砦の下の階まで運んで兵を呼んだ。
35名の兵を失ったが砦は奪還し、反乱軍の尖兵は追い払った。五禍将の一人は負傷したが、最小限の被害で得た戦果じゃないだろうか。
本来なら、ここからリヴィエールへ向けて進軍し、反乱軍と戦わねばならないのだが。
指揮官のレオニードが負傷していては、兵を率いる者がいない。素人のわたしではムリだ。
レオニードの怪我は思ったより重症だ。
命に別状はなさそうだが、あちこちの骨が砕かれている。
ちゃんとした医療設備のある王都まで運んでやりたいが、そこまでの道のりがかえって身体に負担を与えそうだ。
時間はかかるが、この砦で願望の力を使って回復するしかない。
とりあえず王都には使いを出した。これからどうするか指示を仰ぐ。
指示があるまではこの砦に兵を駐留させて待機だ。
「で、あんたは何でここに来たんだ?」
いつもは風のように去っていく御手洗剛志は、いまだ砦内に留まっている。
わたしの質問にこの中年は空き箱に片足を乗せ、波止場にたたずむ男のポーズを取りながら語った。
「戦争が起きると聞いたからだ。戦争になれば多くの人々や動物達が犠牲になる。必ず止めねばならん。この命をかけても」
はいはい、そういうことね。そこで最前線のこの砦に来たわけか。実際、黒由佳との戦いでは役に立ったから良しとしよう。
「でも、あんたが来たところで戦争は止められない。新しい指揮官が来れば、すぐにでもリヴィエールに向けて進軍するだろうし」
「それはいかん。わたしも付いていく。わたしが両軍の大将に会い、戦争をやめるよう説得しよう」
こいつは目がマジだ。いや、このオッサンはいつでも本気だ。わたしがどうこう言おうと、聞く耳持たないだろう。
「好きにすれば。そのかわり軍のジャマをして怒られても、わたしは知らないから」
知り合いと思われて、ついでにわたしまで怒られるのはゴメンだ。ガチの戦争ともなれば、コイツの冗談みたいな能力は役に立たないだろう。
砦に駐留して翌日の朝。砦内が騒がしい。
兵が慌てた様子で報告に来た。
砦に敵が攻めてきたというのだ。バカな、早すぎる。昨日撃退したばかりだというのに。
城壁の上から様子を見る。
たしかに敵の軍勢──いや、あれは魔物だ。
セペノイアで戦ったときのような下級、中級の魔物の群れ。
ギャアギャア騒ぎながら城門に攻撃をしかけようとしている。
「なんで魔物なんかがここを攻めるんだ」
疑問に思ったが、魔物達の群れから悠々と歩き出てきたのは──。
「マモノン、ゲットだぜ!」
一人の少年だ。赤い帽子を被った、小学生高学年くらいの……いや、あのヘンテコなコスプレ感は、既視感がある。間違いない、藤田だ。
「砦内の覇王軍に告ぐ! 今すぐにここから撤退せよ!
1時間以内に動きを見せない場合は俺の友達、マモノンたちが攻撃を開始するぞ!」
何がマモノンだ。ゲームやアニメで人気の、モンスターを捕まえて育成するキャラクターのつもりか。
あの凶悪な魔物達を従えるとは恐ろしい能力だが………もしかしたら、セペノイアの襲撃にも関わっていたのかもしれない。
しかし、数はずっと少ない。せいぜい50ぐらいか。あんなんでこの砦を攻撃するつもりか。
あれぐらいなら砦の兵を使う必要はない。わたしは城壁より飛び降りて、その軍勢の前に立つ。
「わたし一人で相手してやる。だけど藤田、お前はいったい何人いるんだ」
「俺? 俺は世界一のマモノントレーナーを目指すフジシだ! 藤田なんかじゃない!」
聞いたわたしがバカだった。
とりあえずこのアホを倒せば魔物も去っていくだろうか。
わたしが柄に手をかけると、藤田は慌てて魔物たちの中に逃げ込んだ。逃がすか。
神速で突っ込みながら抜刀。行く手を遮った魔物数匹を両断した。
今回の魔物は獣人系が多い。人狼、人虎、ミノタウロスなんかだ。
斬られると憐れな鳴き声を上げるものだから、ちょいと心が痛む。
わっ、と魔物達が散らばり、藤田の姿が見えた。
「よくもやったな、こうなったら秘密兵器だ! よし、キミに決めた! 出てこい!」
藤田がボールのような物を投げると、ビビビと電撃に似た光とともに新たな魔物が2匹現れた。
デカイ。あれは──ライオンの頭に山羊の胴体、毒蛇の尾を持つ魔物、キマイラ。
もう1匹は鷲の上半身にライオンの下半身、グリフォン。こちらもデカイ。
2匹とも上級魔物だ。以前荒野で戦った化け物サソリはアルマと協力して倒したが……わたしだけで勝てるだろうか。
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