29 / 185
第1部 剣聖 羽鳴由佳
29 魔擶鬼手
しおりを挟む
会議といっても簡単な状況説明だった。
王都まで近付いていた反乱軍の先遣隊はレオニードがあらかた壊滅。その本隊を追撃したところ、この砦に立て籠ったらしい。
敵の援軍が集結する前にここを落とさなければならないが、堅牢なこの砦を攻めあぐね、今は膠着状態であった。
「それと、問題はもうひとつ。その砦を守っている願望者だ。守護神とか呼ばれているヤツなんだが……まあ、見たほうが早い」
レオニードが先頭に立ち、砦の見える崖の上まで来た。たしかに砦の左側には深い谷、右側には切り立った崖。正面には堀。跳ね橋で渡るのだろうが、当然橋は上げられている。
「見ろよ、砦の入り口。あそこに陣取っているアホが守護神とか言われている願望者だ」
この崖上から左下方向に砦の入り口が見えるが、その正面にひとりの男。まわりの背景から見て、ものすごく違和感のある格好だった。
「あれって……」
どう見てもサッカーのゴールキーパーだ。ア○ィダスの帽子を被り、手にはグローブ。こちらが見ていることに気付き、バンバンと手の平と拳を打ち合わせている。
「待て、あいつ──藤田だ」
バカな。あいつはカーラの料理を食べて再起不能になったはず。こんな場所でピンピンしているはずはないのだが……あのヘンなコスプレ感は間違いない。
「なんだ、知ってんのなら話は早ぇな。入り口横にレバーが見えるだろ。あれが跳ね橋を下ろす仕掛けだ。跳ね橋さえ下ろせりゃあ、あんな砦簡単に落とせる。俺の弓であのレバーに当てるか、橋を吊っている綱を切ればいいわけだが」
そう言いながらレオニードは部下から大弓を受け取った。長身のレオニードの1、5倍はあり、形状や装飾がゴテゴテしてて重そうだ。
おいおい、狩ゲーに出てきそうなこんなゴツい弓、その細腕で引けるのか。
わたしが疑問の眼差しを向けていると、レオニードの両腕がバキバキバキと願望の力で硬質化。鋭利な爪と頑強な皮膚を持つ、魔物の手のような形になった。
矢をつがえ弦を引くと、あの固そうな大弓がグググとしなる。
わたしは以前、アルマに聞いたことを思い出した。五禍将のひとりは弓使いで、そいつが放つ矢は魔擶と呼ばれていると。
ビュオッ、と矢が放たれた。
矢の軌道は──入り口横のレバーだ。あの速さと勢い。これは間違いなく命中する。
「むぅんっ!」
命中する寸前で、横っ飛びにダイビングした藤田が片手でキャッチ。一回転し、華麗に立ち上がる。
「ウソだろ……」
距離はあるが、あの速度の矢を捉えるのはわたしでも難しそうだ。それをまさか掴み取るとは。
藤田は誇らしげにその矢をバキッとへし折り、捨てた。
「バカめ、このSGGK藤田林遠造はペナルティエリアの外からは絶対に決めさせん」
相変わらずアホなことを言っているので藤田確定だ。しかし登場する度に強くなってないか、アイツ。
「ったくよ、あんなんに俺の魔擶が止められてんだぜ。さて、どうする? 助っ人さんよ」
レオニードがヘラヘラ笑いながら聞いてくる。
わたしの太刀風では射程外。真・太刀風では正確な狙いはつけられないし、跳ね橋そのものを壊しかねない。
「まあ、分かったろ。ここを落とすにはまず、あいつをどうにかしねーとな。でもよ、今日はおまえも来たばっかだからもう明日にしよーぜ」
適当な男だ。かといって何か策があるわけでもない。大人しく幕舎に戻ることにした。
形ばかりの会議を終わらせ、すぐに夜営の準備。夕食の時間となり、幕舎の外でわたしや王都からの兵を歓待するための豪勢なバーベキュー大会が開かれた。
金属製のビールジョッキ両手にレオニードがグイグイ近付いてくるので、わたしは全ての指の間に肉付きの串を挟めながら逃げまわっていた。
食べながら逃げ、食べながら逃げしていたが、ついに幕舎と幕舎の間に追い詰められる。
「おい、新入りはコイツを飲むしきたりだ」
赤い顔でレオニードがじりじりと近付く。わたしもじりじりと後退。どん、と背中に木が当たった。
「未成年だから酒は飲めない」
「バカ。この世界で、んなの関係あるか。オラ、飲めよ」
片手ではゴクゴクとビールを流し込み、片手ではズズイ、とこちらに差し出してくる。わたしは乱暴に払いのけた。
地面にジョッキが落ち、ビールがぶちまかれる。
「テメ、何しやがるっ」
もうひとつのジョッキも投げ捨て、つかみかかってきた。両腕を掴まれ、わたしは振りほどこうと暴れる。
ズルッと足を滑らせてわたしは仰向けに倒れ、レオニードがのしかかってくる。思わず叫んだ。
「このバカッ! おい、酔っぱらい、どこ触っている! 変態、痴漢、警察呼ぶぞっ!」
レオニードは酒臭い顔を近付けて真剣な顔になった。
「おまえ、よく見たらスゲーいい女だな」
「はぁ?」
「おまえ、俺の女になれよ。その気の強そうな顔、ゾクゾクするぜ……うごっ!」
わたしは股関を膝で蹴り上げ、レオニードを押し退けた。うずくまるレオニードを飛び越えて、兵たちが多くいる広場へと走る。
酒も飲んでないのに、顔が真っ赤になっていた。
王都まで近付いていた反乱軍の先遣隊はレオニードがあらかた壊滅。その本隊を追撃したところ、この砦に立て籠ったらしい。
敵の援軍が集結する前にここを落とさなければならないが、堅牢なこの砦を攻めあぐね、今は膠着状態であった。
「それと、問題はもうひとつ。その砦を守っている願望者だ。守護神とか呼ばれているヤツなんだが……まあ、見たほうが早い」
レオニードが先頭に立ち、砦の見える崖の上まで来た。たしかに砦の左側には深い谷、右側には切り立った崖。正面には堀。跳ね橋で渡るのだろうが、当然橋は上げられている。
「見ろよ、砦の入り口。あそこに陣取っているアホが守護神とか言われている願望者だ」
この崖上から左下方向に砦の入り口が見えるが、その正面にひとりの男。まわりの背景から見て、ものすごく違和感のある格好だった。
「あれって……」
どう見てもサッカーのゴールキーパーだ。ア○ィダスの帽子を被り、手にはグローブ。こちらが見ていることに気付き、バンバンと手の平と拳を打ち合わせている。
「待て、あいつ──藤田だ」
バカな。あいつはカーラの料理を食べて再起不能になったはず。こんな場所でピンピンしているはずはないのだが……あのヘンなコスプレ感は間違いない。
「なんだ、知ってんのなら話は早ぇな。入り口横にレバーが見えるだろ。あれが跳ね橋を下ろす仕掛けだ。跳ね橋さえ下ろせりゃあ、あんな砦簡単に落とせる。俺の弓であのレバーに当てるか、橋を吊っている綱を切ればいいわけだが」
そう言いながらレオニードは部下から大弓を受け取った。長身のレオニードの1、5倍はあり、形状や装飾がゴテゴテしてて重そうだ。
おいおい、狩ゲーに出てきそうなこんなゴツい弓、その細腕で引けるのか。
わたしが疑問の眼差しを向けていると、レオニードの両腕がバキバキバキと願望の力で硬質化。鋭利な爪と頑強な皮膚を持つ、魔物の手のような形になった。
矢をつがえ弦を引くと、あの固そうな大弓がグググとしなる。
わたしは以前、アルマに聞いたことを思い出した。五禍将のひとりは弓使いで、そいつが放つ矢は魔擶と呼ばれていると。
ビュオッ、と矢が放たれた。
矢の軌道は──入り口横のレバーだ。あの速さと勢い。これは間違いなく命中する。
「むぅんっ!」
命中する寸前で、横っ飛びにダイビングした藤田が片手でキャッチ。一回転し、華麗に立ち上がる。
「ウソだろ……」
距離はあるが、あの速度の矢を捉えるのはわたしでも難しそうだ。それをまさか掴み取るとは。
藤田は誇らしげにその矢をバキッとへし折り、捨てた。
「バカめ、このSGGK藤田林遠造はペナルティエリアの外からは絶対に決めさせん」
相変わらずアホなことを言っているので藤田確定だ。しかし登場する度に強くなってないか、アイツ。
「ったくよ、あんなんに俺の魔擶が止められてんだぜ。さて、どうする? 助っ人さんよ」
レオニードがヘラヘラ笑いながら聞いてくる。
わたしの太刀風では射程外。真・太刀風では正確な狙いはつけられないし、跳ね橋そのものを壊しかねない。
「まあ、分かったろ。ここを落とすにはまず、あいつをどうにかしねーとな。でもよ、今日はおまえも来たばっかだからもう明日にしよーぜ」
適当な男だ。かといって何か策があるわけでもない。大人しく幕舎に戻ることにした。
形ばかりの会議を終わらせ、すぐに夜営の準備。夕食の時間となり、幕舎の外でわたしや王都からの兵を歓待するための豪勢なバーベキュー大会が開かれた。
金属製のビールジョッキ両手にレオニードがグイグイ近付いてくるので、わたしは全ての指の間に肉付きの串を挟めながら逃げまわっていた。
食べながら逃げ、食べながら逃げしていたが、ついに幕舎と幕舎の間に追い詰められる。
「おい、新入りはコイツを飲むしきたりだ」
赤い顔でレオニードがじりじりと近付く。わたしもじりじりと後退。どん、と背中に木が当たった。
「未成年だから酒は飲めない」
「バカ。この世界で、んなの関係あるか。オラ、飲めよ」
片手ではゴクゴクとビールを流し込み、片手ではズズイ、とこちらに差し出してくる。わたしは乱暴に払いのけた。
地面にジョッキが落ち、ビールがぶちまかれる。
「テメ、何しやがるっ」
もうひとつのジョッキも投げ捨て、つかみかかってきた。両腕を掴まれ、わたしは振りほどこうと暴れる。
ズルッと足を滑らせてわたしは仰向けに倒れ、レオニードがのしかかってくる。思わず叫んだ。
「このバカッ! おい、酔っぱらい、どこ触っている! 変態、痴漢、警察呼ぶぞっ!」
レオニードは酒臭い顔を近付けて真剣な顔になった。
「おまえ、よく見たらスゲーいい女だな」
「はぁ?」
「おまえ、俺の女になれよ。その気の強そうな顔、ゾクゾクするぜ……うごっ!」
わたしは股関を膝で蹴り上げ、レオニードを押し退けた。うずくまるレオニードを飛び越えて、兵たちが多くいる広場へと走る。
酒も飲んでないのに、顔が真っ赤になっていた。
0
お気に入りに追加
153
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★
ブレイブエイト〜異世界八犬伝伝説〜
蒼月丸
ファンタジー
異世界ハルヴァス。そこは平和なファンタジー世界だったが、新たな魔王であるタマズサが出現した事で大混乱に陥ってしまう。
魔王討伐に赴いた勇者一行も、タマズサによって壊滅してしまい、行方不明一名、死者二名、捕虜二名という結果に。このままだとハルヴァスが滅びるのも時間の問題だ。
それから数日後、地球にある後楽園ホールではプロレス大会が開かれていたが、ここにも魔王軍が攻め込んできて多くの客が殺されてしまう事態が起きた。
当然大会は中止。客の生き残りである東零夜は魔王軍に怒りを顕にし、憧れのレスラーである藍原倫子、彼女のパートナーの有原日和と共に、魔王軍がいるハルヴァスへと向かう事を決断したのだった。
八犬士達の意志を継ぐ選ばれし八人が、魔王タマズサとの戦いに挑む!
地球とハルヴァス、二つの世界を行き来するファンタジー作品、開幕!
Nolaノベル、PageMeku、ネオページ、なろうにも連載しています!
異世界の餓狼系男子
みくもっち
ファンタジー
【小説家は餓狼】に出てくるようなテンプレチート主人公に憧れる高校生、葉桜溢忌。
とあるきっかけで願望が実現する異世界に転生し、女神に祝福された溢忌はけた外れの強さを手に入れる。
だが、女神の手違いにより肝心の強力な108のチートスキルは別の転移者たちに行き渡ってしまった。
転移者(願望者)たちを倒し、自分が得るはずだったチートスキルを取り戻す旅へ。
ポンコツな女神とともに無事チートスキルを取り戻し、最終目的である魔王を倒せるのか?
「異世界の剣聖女子」より約20年前の物語。
バトル多めのギャグあり、シリアスあり、テンポ早めの異世界ストーリーです。
*素敵な表紙イラストは前回と同じく朱シオさんです。 @akasiosio
ちなみに、この女の子は主人公ではなく、準主役のキャラクターです。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~
ma-no
ファンタジー
神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。
その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。
世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。
そして何故かハンターになって、王様に即位!?
この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。
注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。
R指定は念の為です。
登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。
「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。
一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-
ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。
困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。
はい、ご注文は?
調味料、それとも武器ですか?
カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。
村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。
いずれは世界へ通じる道を繋げるために。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる