異世界の剣聖女子

みくもっち

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第1部 剣聖 羽鳴由佳

22 料理対決

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 アルマは屋敷にある家畜小屋に向かったようだ。なるほど、肉料理にするつもりか。その他の食材も食料庫から使うのだろう。
 カーラは屋敷の外に食材を求め、出かけていった。おそらく市場へ向かったはず。セペノイアに住んでいるあの人なら、広い市場の中から食材を選び出すのは得意なはず。
 二人ともイイ線いっているが、観察力が足りない。食堂に運ばれていた料理はほとんどが洋食。それも肉類が中心だった。しかし、あの藤田原氷山は日本人。年齢からしても和食を好むはずだ。
 問題はこの世界、少なくともわたしが行ったことのある場所では米や味噌は無かった。本格的なものはかなり難しいだろう。ならば──。
 わたしはまず、屋敷の人間に川の場所を聞いて向かった。それから上流へと進む。
 案の定、釣り人に出会ったので交渉。わずかな金で鮎に似た魚を何匹も手に入れることが出来た。
 これほどキレイな清流ならもしかして、と釣り人にワサビのことを聞いてみるが、やはり知らなかった。仕方ないので、ホースラディッシュと呼ばれる西洋ワサビを使うことにする。これなら屋敷の調理場にもありそうだ。
 そう、わたしが出そうとしているのは魚料理。そして新鮮な刺身がメインとなる予定だ。
 この世界では魚は主に干物や塩漬けなどの保存食の利用が多い。沿岸部でも生で食べる習慣はない。あの藤田原氷山という男、刺身を見れば感激するに違いない。
 屋敷へ戻り、調理場で準備をはじめる。アルマはすでに調理を始めていた。チラッと見たが、豚肉と多くの野菜を用いるようだ。
 しかし、あのもにょっ娘が料理なんて出来るのだろうか? 戦闘では素早く的確な動きを見せるが、それ以外ではモジモジ、もにょもにょしているところしか見たことない。
 アルマは食材を切ろうとしている。あれ、いつものダガーを握っている。武器と調理器具の区別もつかないのか。
 わたしがププーッ、と隠れながら笑っていると、アルマはいつもとは違う、逆手ではなく通常の持ち方で野菜を切り始めた。
──速い。とんでもない速さで野菜が切れていく。まるで宙を舞っているように、ズババババと乱れ飛び、鍋の中に入っていく。しかもそれだけではない。野菜の形。今どきのお母さんがお弁当に入れるような、星形やハート形に刻まれているではないか。
 あのスピードであの正確さ──恐ろしい子!
 こちらもぼやぼやしてはいられない。鮎に似た魚をさばきにかかる。
 さて、わたしは料理が不得手だと思われることが多い。なるほど、美少女なのに料理が下手。そのギャップに萌え~とかなるんだろう。しかし、こっちに来てどれだけ自炊していると思っているのだ。
 手早く三枚におろし、骨を取り除き、皮を剥ぐ。ひとくち大に身を切ったあと、冷水に付け、布で水分を取る。
 残った魚は塩焼きにし、小さいものは唐揚げにした。
 盛り付けで、皿はそれっぽいものを用意する。刺身のツマはさすがに無いので、玉ねぎを刻んだものとベビーリーフで代用し、レモンを添えた。ワサビは西洋ワサビをすりおろしたものだ。
 完成した。我ながらいい出来だ。限られた材料や設備でこれだけのものが出来るなんて、わたしは天才かもしれない。
 
「……あたし、先に持っていくね」

 アルマも同じく出来たようだ。カートに載せ、カラカラと食堂へ運んでいく。どれどれ、藤田はどういう反応を見せるのだろうか。

 テーブルに並べられたのは豚肉のロースで出来たトンテキ。野菜スープ。サラダ。藤田原氷山こと藤田はふむ、と頷きながらまずスープを口に含む。

「む、こ、これは……!」

 目を見開き、スプーンを持つ手がぷるぷる震えている。どっちだ? 美味いのか、美味くないのか。
 藤田は震える手のまま、次はトンテキを口に入れ──立ち上がり叫んだ。

「こ、これはっ! うゥーまァァーいィィーぞォォォーッ!」

 いきなり背景がドバーン、と海の荒波が打ち寄せるものになり、藤田の口の中から黄金色の光がほとばしる。うわぁ、こいつも《アライグマッスル》と同じ、願望の力を無駄づかいするタイプだ。それに、また違うアニメの演出じゃないのか?

「濃厚な大地の薫り! 素朴な中に豊潤な味わいっ! そう、まるで草原を駆け抜けるさわやかさと、森林の中に包まれる暖かさ。この五体に隅々まで突き抜けるこの感覚は……まさに、まさにっ、お口の中が大自然のカーニバルやー!」

 うわ、また違うのが混ざっている。藤田は叫びながらも、がつがつむしゃむしゃとアルマの料理を平らげてしまった。
 
 食べ終わった藤田はグェーップ、と下品なゲップをしながらつまようじでシーハーしている。よくこんなんで文化人を名乗れたな。まあいい。あれだけ絶賛していたのだから、合格間違いないだろう。

「おい、アルマの料理で満足したようだな。早いところ出ていってもらうぞ」

 そう言ってわたしは藤田に触れようとして──またバチッと弾かれた。どういうことだろうか。あれだけ美味い、ウマイと言って全部平らげたクセに。

「うむ。味は申し分ない。料理としては最高と言わざるを得ない」

 藤田はふんぞり返ってグフフと笑う。

「ふざけるな。それなら……」

「わたしの肩書きを忘れたかね? 様々な芸術に精通している文化人、藤田原氷山なのだよ。この料理、たしかに美味かったが、いまひとつ足りないものがある。それは──気品と風格、そして歴史を感じさせる奥深さ。いや、惜しかったな」

 きったない食べ方して何言ってるんだコイツは。おおかた、ここで満足したらタダ飯食べれなくなるので適当なことを言っているのだろう。それなら、わたしの料理でトドメを刺してやる。
 





 
 
 
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