異世界の剣聖女子

みくもっち

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第1部 剣聖 羽鳴由佳

12 荒野の戦い

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「シッ!」

 短く息を吐くと同時に抜刀。飛ぶ斬撃は巨大サソリの左ハサミに当たったが、たいしてダメージを与えたようには見えない。

「硬いな……厄介だ」

 ならば近づいて関節の継ぎ目を狙う。神速で接近、下から斬り上げ──うわ、急旋回しやがった。複数の足がダカダカッ、とこちらに向かってくる。
 
「避けて」

 アルマの声。とっさに伏せると、巨大サソリの足に、それも柔らかい節の部分に次々とナイフが刺さっていく。おお、動きを止めた。
 バチバチバチッ。
 アルマのダガーが青白く発光。ヤバい、大技の予感。打ち込まれたナイフめがけ、電撃が放射された。
 わたしが飛び退き、巨大サソリが電気ショックでガクガクガクッと震える。ドスン、と腹が地面についた。好機。
 再び神速で接近、アルマも跳躍していた。
 意識を集中、刀身に願望の力を乗せて斬る──斬鉄。
 ハサミを2本まとめて斬り飛ばした。空中で回転しながらアルマは落下、頭部にダガーを突き立てる。
 巨大サソリは痙攣していたが、しばらくすると完全に動かなくなった。我々の勝利だ。
 このサソリ、魔物としてはかなり強力なほうだ。並みの願望者デザイアなら勝てないかもしれない。

「──危ない」

 アルマの声。突き飛ばされ、わたしは尻餅をつく。目の前を毒針の尻尾がビュオッとかすめる。

 伸びきった尻尾をアルマは二刀ダガーでズタズタに切り裂く。わたしも態勢を立て直し、眉間にとどめの一撃を加えた。

「こいつ、最期のあがきか。いまのは危なかった、助かった」

 助けてくれた礼を言う。しかしアルマは無言でじーっ、とわたしのふとももを凝視している。なんだ、こんどはふとももが太いとでも言い出すのか。

「…………血がでてる」

 さっき突き飛ばされたときにできたものだろう。右ふとももの内側に切り傷があった。

「ああ、これくらい願望の治癒力ですぐに治るから……え、なにしてんの」

 アルマはしゃがみこみ、ふとももにくっつけるぐらいに顔を近づけてきた。

「これ……毒針がかすった痕かも……」

「ち、ちがう、ちがう。あんなのがかすったら、こんなもんじゃすまないって」

「毒……吸いださなきゃ」
 
 アルマは全然話を聞いていない。ストールをずらし、唇を出して傷口に吸いつこうとする。

「あ、やめ、やめて。くすぐったい、もうっ」

 わたしは逃げ出すが、アルマはしつこく追いすがる。

「……この上着、ジャマ。脱いで」

「え、関係な、うわっ」

 無理やり上着をひっぺがされ、わたしはくるくると3回転する。これではまるで悪代官に手込めにされる町娘だ。

「か、かんにん、かんにんして」

 我ながら情けないが、へなへなと力が抜けてしまった。アルマのくりっとした目はいつの間にか獲物を狙うハンターそのものだ。
 荒野にわたしの悲鳴がこだまする。



 わたしとアルマはその後、帰りが遅いために王都から派遣された軍の一隊に拾われ、そのまま関所も素通り。丸1日ほどかけて難なく王都へと到着した。

 はじめて見る王都の賑やかさには圧倒された。カーラのいたセペノイアも相当大きな街だが、規模が違う。
 城門から市街地、中央広場、歓楽街、市場。どこも大勢の人間が行き交い、喧騒が絶えない。
 わたしとしては珍しい物がないか市場を見て回りたいのだが、アルマの許可が下りなかった。そのまま《覇王》に謁見するという。
 
 スムーズに事が進み、わたしとしては拍子抜けだ。道中、多少のトラブルはあったが……。とにかく《覇王》に会えば今回の旅の目的は達成される。
《解放の騎士》天塚志求磨に出会ったことにより、たしかに運命じみたものを感じた。おそらく今回も……わたしがこの世界に来た理由──そこまで大げさでないにしろ、意義みたいなものは見つかりそうな気がする。
 
 登城門より跳ね橋を渡り、堅牢な造りの城内へ。意外だった。王城というからには豪華絢爛な装飾や凝った造りの彫像なんかがあると思っていたのだが、かなり武骨な感じだ。セプティミアの古城のほうがまだそれっぽい。
 王の間までの通路の両端には、歴史も国も文化もちぐはぐな鎧兜、武器がずらりと並べられている。

「……《覇王》が今までに倒した願望者デザイアのもの」

 アルマが説明。すると十年前の覇王大戦の頃のものか。わたしはふーん、と興味なさそうに答える。

「わざわざ自分の倒した相手の武器や防具並べて力を誇示するなんて、《覇王》って大したことないんじゃないか」

「……………………」

「それに十年で世界を統一したってのもさぁ、そんなにスゴいことか? わたしも信○の野望やったとき、それぐらいで全国制覇したけど」

「……会えばわかる」

 王の間の扉の前。そういえばここまでの途中、ほとんど人に会わなかった。願望者デザイアどころか兵士にすら。使用人らしき者とすれ違っただけだ。それだけ自分の強さに自信があるということか。

 アルマが扉を開ける。わたしはアルマの後ろにくっついて中へ入り、そーっと肩ごしに覗いてみた。





 




 
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