異世界の剣聖女子

みくもっち

文字の大きさ
上 下
9 / 185
第1部 剣聖 羽鳴由佳

9 王都へ

しおりを挟む
 ゴブリンを掃討した《アライグマッスル》御手洗剛志はわたしたちを見ると、大げさなリアクションで叱りだした。

「むおっ、君たち! こんなところにいたら危ないじゃないか!  まだ潜んでいる魔物がいるかもしれないのに。早く帰りたまえ!」

 願望者デザイアなら頭の中にダダダダッと、わたしたちの名が打ち込まれているはずなのに。この中年、気づいてないのか?

「あんた、力の使い方間違ってるよ」

 口をとがらせて志求磨が指摘する。御手洗剛志は怪訝な顔で聞き返した。

「間違ってる? このわたしが? どういうことだ少年、わたしのこの正義の力がどう間違っているんだね」

「まず、すごい願望の力を持ってるのに変な演出に使いすぎ。爆発とかナレーションとか。それにほら、見て」

 志求磨が周りを見渡すと、倒れたゴブリンたちがむくりむくりと起き上がってきた。わたしは身構えるが、志求磨と御手洗剛志は慌てない。

「やめなさい。彼らはもう大丈夫だ」

 自信たっぷりに御手洗剛志は宣言する。ゴブリンたちの表情、たしかにおかしい。あれほど凶悪で敵意むきだしだったのに。飼い慣らされた子犬のように大人しくなり、ギィギィ言いながら洞窟の出口へ向かっていった。

「改心させたってんだろ? あんなの、一時的なもんさ。あんたの願望の力が及ばないとこまで離れたら、元通り。また人を襲うんだよ」

「願望の力? ……何を言っているんだ、キミは。わたしはこの正義の力を使って世界中の人々を助けるんだ」

 本人はいたって大真面目だ。その様子に、志求磨はあちゃー、と天を仰ぐ。

「たまにいるんだよ、自分の力が何だか分かってないやつ。説明しても理解出来ない。んで、そういうやつに限って思い込みが強い。俺たち願望者デザイアにとって、思い込みはすごい武器なんだけど」

 チラッと御手洗剛志を見てため息をつく。

「宝の持ち腐れだよなぁ~。ああ、バカでさえなけりゃあ」

 言って志求磨は首を振り、わたしの手を引いて洞窟の出口へと向かう。
 こいつ、どさくさにまぎれて美少女の手を握りやがった。まあ、気持ちはわからんでもないが……ドキッとするじゃないか。

「ちょ、ちょい待て、志求磨。サインもらわないと」

「なにバカなこと言ってんだよ、あんなの特撮マニアが願望でああなっただけで本物じゃないんだから」

 まあ、たしかにそうだ。だがわたしは気になって後ろを振り向く。
 御手洗剛志はワッハッハと高笑いし、片手を腰にあて、大きく手を振っていた。う~ん、ほんとにバカかもしれない。


 洞窟から出たわたしたちは一路、王都へと向かう。道中、やはり集落は見つからなかった。
 今日は手頃な廃屋を見つけたので、そこに泊まることにした。わたしは念のため、志求磨に聞く。

「おまえ、美少女とひとつ屋根の下に泊まるからって、変なこと考えていないだろうな」

「は? 何言ってんだよ。前にも言ったじゃん、由佳は好みじゃないって」

 こいつ……まあ、そういうことにしておこう。実は照れているはずだ。美少女と一緒に泊まってドキドキしない男などいるはずがない。あれ、なんだこの動悸。もしやわたしのほうがドキドキしているのか。バカな、わたしは美少女で、あっちは世界名作劇場の男の子だ。わたしのほうが優位な立場であるべきだ。
 わたしは慌てて、保存食の干し肉や干し芋を取り出しながら立て続けに質問する。

「おまえ、この世界とか願望者デザイアについて詳しいんだな。もうこっちに来て長いのか」

「ん~? どうだったかな。忘れちゃったよ、そんなの」

「おまえのその能力、なんなんだ。解放の力とか消失ロストとか。そんな願望ってあるのか」

「あるのかっ、てあるからしょうがないじゃん。俺の技ってさ、現実を叩きつけるんだ。ある意味願望とは逆かもね。現実を叩きつけて、元いた世界の記憶を強烈に呼び覚ます」

「……それで願望者デザイアは姿を保てなくなるのか」

 目の前でセプティミアは願望の力が解け、元の世界へと送り返された。彼女は元の世界に戻ることを非常に恐れていた。今頃どうしているだろうか。

消失ロスト対象者って言ってたよな。あれ、どういう意味だ」

「そのまんまの意味さ。シエラ=イデアルで悪さばっかりしてる奴ら。セプティミアは領民に過酷な重税を課し、逆らう者を拷問死させていた。クレイグは流浪の強盗団」

「クレイグって誰だ」

「忘れたの? 銃使い。《クレイジーガンマン》クレイグ・オルブライト」

「ああ、あの鬼畜ガンマンのことか」

「アイツかなり強いんだ。由佳がダメージ与えてなきゃ、俺もヤバかった」

 あの戦い、わたしは負けていたようだ。カーラはわたしの勝ちだと言っていたが……志求磨が助けてくれたようだ。

「銃器ってさ、願望者デザイアの武器として向いてないんだ。この世界にまだそこまで浸透してない──認識されてないんだ。それをあそこまで使いこなせたんだから」

 たしかに今まで銃などの近代兵器を使う願望者デザイアは少なかった。
 そういえば、ミリタリーマニアの願望者デザイアと戦ったことがある。  
 戦車を繰り出してきたときはたまげたが、段ボールみたいにベッコベコで使い物にならなかった。あれはこの世界の認識が足りなかったせいか。
 
「おまえがどうして、そういう悪いやつらを消失ロストさせるんだ? さっきの御手洗剛志みたいな正義の味方じゃあるまいし」

「んふふ、カッコよく言うなら使ってとこかな。まあ、《覇王》に会えばイヤでも分かるよ」

 いたずらっ子みたいな笑顔でそんな言い方されたら、もう聞けない。あ、言わなきゃいけないことがあるの、わたしのほうだった。

「あ、あの~志求磨」

「なに?」

「……ありがと」

「えっ?」

「……だから! ありがとって! あんたでしょ、わたしを助けて運んでくれたの」

「あ~、そんなこと? 別にいいよ、そんなの。それにしても驚いた。由佳って、お礼言えるんだね。初めて聞いた」

「な、な、なにィ~」

 このガキ、人がせっかく……頭にきた。もう二度と礼なんか言わない。ピンチのとき、助けてやらない。

 辺りが暗くなってきた。集めていた廃材をまだ使えそうな暖炉に入れて火をつける。
 
「由佳、ゴハン食べたら先に休んでていいよ。俺が見張っておくから。夜のほうが魔物に狙われやすい」

 言われなくても話しながらメシは食ってしまった。そしてわたしは食事をするとすぐ眠くなるという特殊能力を持つ。

「由佳はゴハン食べるとすぐ寝ちゃうもんね。ま、今日は歩き通しで疲れたのもあるだろうし」

 あれ、こいつにわたしの特殊能力のこと話したっけ?
  それにヤバい。わたしのもう一つの能力、殺人的イビキのスキルがばれてしまう。修学旅行のとき、わたしだけいつの間にか離れの別館に寝かされていた。

「イビキも大丈夫。慣れてるから。気にしないでゆっくり休みなよ」

 こいつ、読心術が使えるのか? ああ、もうダメだ。眠い。寝たあとに考えよう。
 
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

ブレイブエイト〜異世界八犬伝伝説〜

蒼月丸
ファンタジー
異世界ハルヴァス。そこは平和なファンタジー世界だったが、新たな魔王であるタマズサが出現した事で大混乱に陥ってしまう。 魔王討伐に赴いた勇者一行も、タマズサによって壊滅してしまい、行方不明一名、死者二名、捕虜二名という結果に。このままだとハルヴァスが滅びるのも時間の問題だ。 それから数日後、地球にある後楽園ホールではプロレス大会が開かれていたが、ここにも魔王軍が攻め込んできて多くの客が殺されてしまう事態が起きた。 当然大会は中止。客の生き残りである東零夜は魔王軍に怒りを顕にし、憧れのレスラーである藍原倫子、彼女のパートナーの有原日和と共に、魔王軍がいるハルヴァスへと向かう事を決断したのだった。 八犬士達の意志を継ぐ選ばれし八人が、魔王タマズサとの戦いに挑む! 地球とハルヴァス、二つの世界を行き来するファンタジー作品、開幕! Nolaノベル、PageMeku、ネオページ、なろうにも連載しています!

異世界の餓狼系男子

みくもっち
ファンタジー
【小説家は餓狼】に出てくるようなテンプレチート主人公に憧れる高校生、葉桜溢忌。 とあるきっかけで願望が実現する異世界に転生し、女神に祝福された溢忌はけた外れの強さを手に入れる。 だが、女神の手違いにより肝心の強力な108のチートスキルは別の転移者たちに行き渡ってしまった。 転移者(願望者)たちを倒し、自分が得るはずだったチートスキルを取り戻す旅へ。 ポンコツな女神とともに無事チートスキルを取り戻し、最終目的である魔王を倒せるのか? 「異世界の剣聖女子」より約20年前の物語。 バトル多めのギャグあり、シリアスあり、テンポ早めの異世界ストーリーです。 *素敵な表紙イラストは前回と同じく朱シオさんです。 @akasiosio ちなみに、この女の子は主人公ではなく、準主役のキャラクターです。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。  その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。  世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。  そして何故かハンターになって、王様に即位!?  この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。 注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。   R指定は念の為です。   登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。   「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。   一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

処理中です...