異世界の剣聖女子

みくもっち

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第1部 剣聖 羽鳴由佳

5 サディスティックディーヴァ

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「それで、どういうつもりなんだ。捕まえたり飯を食わせたり。なにか企んでいるのか」

 食べるだけ食べてわたしはセプティミアに聞いた。 
 人形のような愛らしい、だが少し不気味な笑顔で少女はワイングラスをかたむけている。

「あいかわらずせっかちね。最初に会ったときからそう……まぁいいわ。アンタたちを捕まえていたのは、どうするかまだ迷っていたから」

「迷うって、何を」
 
「わたしはね……味方が欲しいの。あの《覇王》に対抗できるくらいの。アンタたちを倒してレベルアップってのもいいけど、こっちに引き込んだほうがいいかなって思ったわけ」

 ? 意味が分からない。セプティミアは幻魔の森を中心とするベルフォレ地方の領主だ。そして《覇王》はこのシエラ=イデアルの王。つまり全世界の王なのだ。その王に対抗するとは?
 
「わけが分からないって顔してるわね。アンタも噂ぐらい聞いてるでしょう。願望者デザイアがこの半年間に次々と消失ロストしているってこと」

 セプティミアの視線が志求磨へと向けられた。志求磨は素知らぬ顔で視線を外し、口笛を吹く。

──消失ロスト。《青の魔女》カーラから聞いた言葉だ。わたしはその意味自体がわからなかったが、志求磨のこの態度は何か知っていそうだ。

「その消失ロストに《覇王》が関わっているっていえば話が分かるかしら? ようするに、やられる前にやれってことよ。ねぇ、サイラス」
 
「はい、セプティミアさま。彼ら庶民の粗末な脳でも理解できるかと」

 いちいちムカつく男だ。このサイラスという執事、謎が多い。初めて出会ったとき、頭の中ダダダダ、が無かった。かといってその戦闘能力はとても普通の人間とは思えない。

「わたしたちと《剣聖》、そしてその男の力があればあの《覇王》にも勝てる。うまくいけばこの世界の支配者よ。もとより……アンタたちに選択権はない。二人とも、以前わたしたちに負けてるんだから」

 得意げに言い放つセプティミア。やはり志求磨はこの二人に会い、戦っていた。しかもわたしと同じく負けていたとは。

「あんときはまだ力を使いこなせてなかったからさ。それに今度は二対二だから結果は分からないよ」

 おい待て志求磨。
 いつの間にかタッグを組まされている。この挑発的な態度に、あの《サディスティックディーヴァ》が乗らないはずはない。

「ふぅん。もう少し賢いと思ってたけど──見た目どうりのガキね。《解放の騎士》天塚志求磨。いいわ、交渉決裂。今度こそ死なない程度に痛めつけるだけ痛めつけて、一生わたしに逆らえないような下僕にしてあげる」

 舌なめずりをしながらセプティミアがワイングラスをバキバキと砕く。
 メイドたちが悲鳴をあげ、一斉に逃げ出した。彼女らは知っているのだ。自分たちの主の残虐な嗜好を。

「結局戦うはめになるのか。おい、わたし素手なんですけど」
 
  責めるように志求磨を睨む。名刀飛蝶は志求磨との戦いで折れた。
 これにはかなり驚いた。願望と認識の力を込めた武器が物理的な作用で破壊されるとは考えにくい。志求磨の能力は願望者デザイアの根本的な力を弱めるものかもしれない。

「ははっ、ごめんね由佳。でもあれ見てよ」

 志求磨が指差す先──セプティミアの頭上、壁に二振りの剣が交差して飾られている。

「あれか……十分だ。おい、援護しろよ」 

 わたしはテーブルの上からセプティミアに向かって突進。すかさずサイラスがかばうように立ちはだかる。得物はハルバート。槍の先に斧がくっついたような武器だ。あの長身からあのリーチは相当に厄介なのだが。

──ドンッ。
 長いテーブルの半分が砕け散った。ハルバートの穂先は石床にめり込んでいる。凄まじい威力だが──その懐には志求磨がもぐり込み、軌道を逸らしていた。
 わたしはすでにサイラスの肩を踏み台にして跳躍、壁の剣を取るのに成功。間合いを取って着地した。

 幅広の半月刀。しかも装飾用なのでナマクラもいいとこなのだが……わたしが意識を集中させると、その形状が変化──美しい刃紋を持つ日本刀へ。その周りを黒塗りに螺鈿模様らでんもようの施された鞘が覆っていく。

 これが《剣聖》であるわたしの能力のひとつ。剣、もしくは剣らしきものを願望の力で刀へ変化。《剣聖》のわたしが持つことで、周りの人々はそれがする。

「さすがだね、由佳。願望で強化、認識で固定。願望者デザイアの基本はバッチリだ」

 こっちを見て褒めてる場合か。背後ではサイラスがハルバートを振りかぶっている。
──バ、ババババッ。 
 白銀の閃光。志求磨の連続拳打がヒットしたのだ。サイラスの長身がぐらりと揺れたが、ハルバートはそのまま振り落とされ、またしても石床にめり込んだ。

「ひえーっ、タフだなぁ。危ない危ない」

 軽口を叩きながらわたしの隣に移動している。こいつ、もしかしたらわたしの神速以上に速く動けるのかも。

「なによ、そのコンビネーション。はじめて一緒に戦うふうには見えないわ。なんっかムカつく」

 ツインテールの巻き髪をわなわな震わせながら、セプティミアがマイクスタンドを取り出した。
 そう、《サディスティックディーヴァ》の攻撃が開始されるのだ。

 

 







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