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第4章 創作の力
1 不信
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ビジネスホテル内で立山の犠牲になった人数は8人。
魔族と必死に戦い、せっかく助け出した生存者。その半数近くを失ってしまった。安全だと言ってわざわざ移動したホテル内で。
📖 📖 📖
翌朝、ホテルのロビーまで降りた葵は、残りの生存者に詰め寄られているシノと瑞希の姿を見た。
「あんたたちが安全だっていうから、ここに来たんだ! それが一夜で何人も死んだ! バケモノはここに入ってこれないんじゃないのか!?」
「それは何度も説明したでショウ。あれは人間に寄生するタイプの魔族だったのデス。このホテルに張られた結界は外部からの侵入は防げますが、ああいった形で内部から攻撃されるとは思わなかったのデス」
今にもつかみかかりそうな青年を前に、淡々と話すシノ。
寄生型の魔族──。
いつ立山が寄生されたのかは分からないが、逃げ場のないホテル内であのような惨劇。
結界内で安心しきっていたというのもある。
魔族に対抗するすべを持たない生存者たちにとっては、これからここで生活しようとするには衝撃的すぎる出来事だった。
「とてもじゃないが、こんなところにはいられない! この中にバケモノに取りつかれてるヤツがまだいるかもしれないだろっ!」
青年の疑念も不安も当然のものだ。これならまだ崩壊した学校のほうがマシ、と言い出す者もいる。
「たしかにまだ学校には結界が残ってるけど……あんな所で生活なんてムリよ。それにどうやって戻るっていうの。外にはまだ魔族がウロウロしてるかもしれないのに」
瑞希が諭すように言うが、興奮している生存者たちは聞かない。
「アンタたちが来る前だって、なんとか生き延びてこれたんだ。それに自衛隊だって救助に来ている頃かもしれない。得体の知れないアンタらに頼るよりはそっちのほうが確実だ」
ぞろぞろと出口のほうに歩いていく生存者たち。シノが首を横に振る。瑞希が慌てて回り込み、行く手をふさいだ。
「どけよっ!」
先頭の青年が乱暴に押しのけ、瑞希は倒れそうになる。
葵がそれを受け止め、非難するような目を向けると青年はたじろいだ。
「な、なんだよ。なにか文句があるっていうのか」
「……自衛隊の救助なんて来ない。いくら待っても来やしない。この現象は世界中に広がっているんです」
葵はできるだけ落ち着かせるような言い方をしたのだが、青年は身体を震わせてそれを否定した。
「ウソだっ! 停電も電波が繋がらないのも一時的なものだっ! 今回のも震災みたいなもので、いつかきっと助けが来るに決まっている! おまえらみたいなガキの言うことなんて誰が──」
ここで青年のセリフが止まった。わざとではないのだが葵が魔導書を床に落としたためだ。
生存者たちは全員、魔導書から戦姫が出てくることを知っている。そしてその力も。
「……部屋に戻ってもらえますか。これはお願いです。ホテルの外に出たら守りきれない」
葵の言葉に青年はまだ何か言いたそうだったが、下唇を噛みしめながらエレベーターのほうへ戻っていった。他の生存者もそれに従う。
ただ、最初に助けた幼い姉妹だけはちらちらと何度も振り返っていた。
📖 📖 📖
なんとか生存者たちがここから出ていくのは止められたが、いつまた不満や不安が噴出するかわからない。
葵とシノ、瑞希はロビーに残ってそのことについて話し合った。
「出ていくというのなら、好きにさせてあげればいいのデハ? 葵サンもわたしたちもやれるだけのことはやりまシタ。本来、わたしたちの目的は魔族の主を倒すコト。この世界を救うことなんですカラ──」
シノの冷淡な言い方に瑞希がちょっと、とその先をさえぎる。
「待ってよ、シノ。そんな言い方ってないわ。いくら世界を救うことが目的でも、目の前の人たちを見捨てるみたいなこと……あの人たちも今は気が動転しているだけだと思う。わたしだって、部長があんなことになって……」
瑞希は涙を浮かべている。文芸部部長の立山は決して褒められた人物ではなかったが、2年間同じ部で活動してきたのだ。
「街を探索して生存者を探すことに賛成したのは、彼らが何かしら有益な情報を持っているかもと思っていたからデス。ですが彼らは何も知らなかッタ。これ以上リスクを冒して守る必要はないと思いまスガ」
瑞希の様子を気にもせずシノはまたも突き放すような言い方。いい加減にしろ、と今度は葵が止めた。
「ともかく、生存者たちを含めて今度また全員で話し合おう。魔族の危険性とこのホテルが安全だってこと、それにこの異変は街や国だけじゃなく、世界中に起きていることだってもう一度説明するんだ」
葵の提案に瑞希は涙目でうなずき、シノも渋々了承した。
各自部屋へと戻る。葵は何もする気が起きず、ほぼ寝てばかりいた。
そうこうしてる間に夜となり、1階のホールへと移動。そこでは数人の生存者が食事をとっていたが、葵とは会話をしない。
瑞希やシノの姿も見えず、葵は簡単な携帯食を温めて部屋へ持って帰った。
食事後にシャワーを浴び、することもないのでまたベッドに横になったときだった。
部屋のドアを激しく叩く音。それに瑞希の声。葵は飛び起きる。まさか、また魔族か──。
ドアを開けると、瑞希が青い顔で飛び込んできた。
「大変っ、葵! みんながいないのっ! ホテルの外に出ていったみたい!」
魔族と必死に戦い、せっかく助け出した生存者。その半数近くを失ってしまった。安全だと言ってわざわざ移動したホテル内で。
📖 📖 📖
翌朝、ホテルのロビーまで降りた葵は、残りの生存者に詰め寄られているシノと瑞希の姿を見た。
「あんたたちが安全だっていうから、ここに来たんだ! それが一夜で何人も死んだ! バケモノはここに入ってこれないんじゃないのか!?」
「それは何度も説明したでショウ。あれは人間に寄生するタイプの魔族だったのデス。このホテルに張られた結界は外部からの侵入は防げますが、ああいった形で内部から攻撃されるとは思わなかったのデス」
今にもつかみかかりそうな青年を前に、淡々と話すシノ。
寄生型の魔族──。
いつ立山が寄生されたのかは分からないが、逃げ場のないホテル内であのような惨劇。
結界内で安心しきっていたというのもある。
魔族に対抗するすべを持たない生存者たちにとっては、これからここで生活しようとするには衝撃的すぎる出来事だった。
「とてもじゃないが、こんなところにはいられない! この中にバケモノに取りつかれてるヤツがまだいるかもしれないだろっ!」
青年の疑念も不安も当然のものだ。これならまだ崩壊した学校のほうがマシ、と言い出す者もいる。
「たしかにまだ学校には結界が残ってるけど……あんな所で生活なんてムリよ。それにどうやって戻るっていうの。外にはまだ魔族がウロウロしてるかもしれないのに」
瑞希が諭すように言うが、興奮している生存者たちは聞かない。
「アンタたちが来る前だって、なんとか生き延びてこれたんだ。それに自衛隊だって救助に来ている頃かもしれない。得体の知れないアンタらに頼るよりはそっちのほうが確実だ」
ぞろぞろと出口のほうに歩いていく生存者たち。シノが首を横に振る。瑞希が慌てて回り込み、行く手をふさいだ。
「どけよっ!」
先頭の青年が乱暴に押しのけ、瑞希は倒れそうになる。
葵がそれを受け止め、非難するような目を向けると青年はたじろいだ。
「な、なんだよ。なにか文句があるっていうのか」
「……自衛隊の救助なんて来ない。いくら待っても来やしない。この現象は世界中に広がっているんです」
葵はできるだけ落ち着かせるような言い方をしたのだが、青年は身体を震わせてそれを否定した。
「ウソだっ! 停電も電波が繋がらないのも一時的なものだっ! 今回のも震災みたいなもので、いつかきっと助けが来るに決まっている! おまえらみたいなガキの言うことなんて誰が──」
ここで青年のセリフが止まった。わざとではないのだが葵が魔導書を床に落としたためだ。
生存者たちは全員、魔導書から戦姫が出てくることを知っている。そしてその力も。
「……部屋に戻ってもらえますか。これはお願いです。ホテルの外に出たら守りきれない」
葵の言葉に青年はまだ何か言いたそうだったが、下唇を噛みしめながらエレベーターのほうへ戻っていった。他の生存者もそれに従う。
ただ、最初に助けた幼い姉妹だけはちらちらと何度も振り返っていた。
📖 📖 📖
なんとか生存者たちがここから出ていくのは止められたが、いつまた不満や不安が噴出するかわからない。
葵とシノ、瑞希はロビーに残ってそのことについて話し合った。
「出ていくというのなら、好きにさせてあげればいいのデハ? 葵サンもわたしたちもやれるだけのことはやりまシタ。本来、わたしたちの目的は魔族の主を倒すコト。この世界を救うことなんですカラ──」
シノの冷淡な言い方に瑞希がちょっと、とその先をさえぎる。
「待ってよ、シノ。そんな言い方ってないわ。いくら世界を救うことが目的でも、目の前の人たちを見捨てるみたいなこと……あの人たちも今は気が動転しているだけだと思う。わたしだって、部長があんなことになって……」
瑞希は涙を浮かべている。文芸部部長の立山は決して褒められた人物ではなかったが、2年間同じ部で活動してきたのだ。
「街を探索して生存者を探すことに賛成したのは、彼らが何かしら有益な情報を持っているかもと思っていたからデス。ですが彼らは何も知らなかッタ。これ以上リスクを冒して守る必要はないと思いまスガ」
瑞希の様子を気にもせずシノはまたも突き放すような言い方。いい加減にしろ、と今度は葵が止めた。
「ともかく、生存者たちを含めて今度また全員で話し合おう。魔族の危険性とこのホテルが安全だってこと、それにこの異変は街や国だけじゃなく、世界中に起きていることだってもう一度説明するんだ」
葵の提案に瑞希は涙目でうなずき、シノも渋々了承した。
各自部屋へと戻る。葵は何もする気が起きず、ほぼ寝てばかりいた。
そうこうしてる間に夜となり、1階のホールへと移動。そこでは数人の生存者が食事をとっていたが、葵とは会話をしない。
瑞希やシノの姿も見えず、葵は簡単な携帯食を温めて部屋へ持って帰った。
食事後にシャワーを浴び、することもないのでまたベッドに横になったときだった。
部屋のドアを激しく叩く音。それに瑞希の声。葵は飛び起きる。まさか、また魔族か──。
ドアを開けると、瑞希が青い顔で飛び込んできた。
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