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第3章 奪還
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第1隊と第2隊は同時に学校を出発。
ビジネスホテルに向け、途中から二手に分かれる予定だ。
葵はやや迂回することになるが西側の広い国道から。シノはさっき戻ってきたルート、旧国道からまっすぐビジネスホテルを目指す。
約20人ほどの人間がぞろぞろ歩いているのに魔族の襲撃はない。
帰路でツァイシーがあらかた片付けたとはいえ、いくらでも湧いてくるようなヤツら。この静けさは逆に葵たちにとって不気味に感じられた。
「ね、ねえ。このまま戦わずにホテルまで着くんじゃないの? わざわざ二手に分かれなくてもいいんじゃ……」
瑞希が聞いてきたので葵は考える。たしかにこのまま何もなければ二手に分かれる必要はない。
「いえ、魔族の連中はいないわけではありませんよ。狙いはわかりませんが、じっと息を潜めているようです。問題はこの人数、いくら我ら戦神八姫でも全員は守りきれません。移動速度も考えてわたくしは予定通り二手に分かれることをお勧めします」
そう言ったのは雛形結だ。彼女の魔族に対する探知能力は戦姫の中でも特に優れている。
葵は彼女の言葉に従い、国道のほうへと第1隊を進めた。
シノのいる第2隊はそのまままっすぐ旧国道を進む。距離的にいえば第2隊のほうが先に到着するはずだ。何も起こらなければ。
📖 📖 📖
広い国道をしばらく進む。集団の先頭には結。後方にはツァイシーがついて警戒している。
4車線の右側の道路。当然車は走っていない。
乗り捨てられたようにぽつぽつと停まっている車は見かけるが、無人。生存者はこの辺りにはいないようだ。
魔導書を開いて第2隊の様子を見る。
本には大まかなマップが現れ、そこにたくさんの丸い点が表示される。
まず大きな青いマーカーがふたつ。戦姫のリッカとマルグリットのものだ。その周りの小さな白いマーカーは瑞希や立山たち。今のところ異変はないようだ。
「──葵様、何かが現れます! 皆さんも気を付けて!」
結が叫ぶ。葵は本を閉じ、短剣エスパス・エトランジェを取り出して構える。
瑞希と生存者たちはかたまって車の陰へ。ツァイシーがカバーするように寄り添う。
ここから50メートルほど離れた中央分離帯の上。
空間が縦に裂け、宇宙空間をかき混ぜたような異次元が口を開く。そこからポン、と飛び出してきたのはひとりの少年──。
学者ふうのローブに羽根付き帽子、メガネ。そしてネコのようなヒゲとシッポを持っていた。
「ああ、来た来た。主からやっと許可が出たからさー、ちょっと遊んであげるよ。あ、僕はテネスリード。あのウルルペクと同じS級魔族のひとりだよ」
裂けた空間を閉じながら少年が名乗った。
大声を出しているわけでもないのにこの距離ではっきりと言っていることがわかる。
「んじゃー、まずは小手調べ。ひとりも殺されずに守りきれるかなー?」
テネスリードが指をパチンと鳴らすと、道路の植え込みや標識の陰からゾオオオ、とC級魔族が現れた。その数、約50。
大きさも形状も定まっていないヤツらは四本足だったり二足歩行だったり、中には転がりながらこちらへ猛然と向かってくる。
「葵様っ、わたくしの近くから離れないように!」
結がすぐ側へ来るが、葵はダメだ、と生存者たちのほうを指差す。
「俺よりもあっちを──瑞希たちを優先して守ってくれ! 俺にはこれがあるから」
短剣エスパス・エトランジェを見せ、そう指示する。
魔族どもはやはり生存者のほうを狙っている。ツァイシーが弓射で迎撃しているが、そのうち数体は肉薄しそうな勢い。
「しかし──」
「いいからっ、早く!」
葵が叫び、結はためらいながらも跳躍。
停車している車の屋根を蹴り潰しながらあっと言う間に生存者たちのもとへ。
「ハハッ、引っかかったね。本命はこっち」
テネスリードの声。指を鳴らす音とともに葵の足元から黒い異形の手が伸びる。
「葵様っ!」
魔族数体を両断した結が慌てて引き返そうとするが間に合わない。ツァイシーも迫り来る魔族の対応で手が回らない。
葵の襟首をつかみ、ズアッと持ち上げたC級魔族。
至近距離で見るギロギロ動く赤い目玉と横にいびつに裂けた口、鋭い牙。葵は一瞬で恐怖で硬直した。
「葵っ! 動いて! 逃げてっ!」
気を失いそうになりながらもはっきりと聞こえた瑞希の声。自身にも危険が迫ってるというのに。葵の手が無意識に動いた──。
「ギアアッ!」
ザラついた叫び声。目の前からだ。
葵の視点が急に上から下へ。そして尻に衝撃。
「いって……」
魔族の拘束から逃れた葵は尻もちをついていた。
その魔族の腕はもげ落ちて地面でジュワジュワと溶けていく。顔にあたる部分にも裂傷が走り、そこから溶け出している。
葵の見ている前でC級魔族はその傷口からグズグズに溶けて消滅していった。
葵は自分の右手から何か、あの魔導書を開いたときと同じような感覚があるのに気付いた。
柄に埋め込まれた青い宝石が強い光を放っている。
「俺が……やったのか?」
信じられない、といった表情で握りしめた短剣を見つめる葵。
魔族を殲滅した結とツァイシーがすぐに駆け寄ってきた。
その様子を見ていたテネスリードはネコヒゲをいじりながら首をかしげる。
「ん~? 召喚者のほうは無力だって聞いてたんだけどな~。フォゼラムの勘違いなのかな? まあいいや、そのほうが面白いし」
テネスリードはそう言いながら懐から試験管を取り出した。
ビジネスホテルに向け、途中から二手に分かれる予定だ。
葵はやや迂回することになるが西側の広い国道から。シノはさっき戻ってきたルート、旧国道からまっすぐビジネスホテルを目指す。
約20人ほどの人間がぞろぞろ歩いているのに魔族の襲撃はない。
帰路でツァイシーがあらかた片付けたとはいえ、いくらでも湧いてくるようなヤツら。この静けさは逆に葵たちにとって不気味に感じられた。
「ね、ねえ。このまま戦わずにホテルまで着くんじゃないの? わざわざ二手に分かれなくてもいいんじゃ……」
瑞希が聞いてきたので葵は考える。たしかにこのまま何もなければ二手に分かれる必要はない。
「いえ、魔族の連中はいないわけではありませんよ。狙いはわかりませんが、じっと息を潜めているようです。問題はこの人数、いくら我ら戦神八姫でも全員は守りきれません。移動速度も考えてわたくしは予定通り二手に分かれることをお勧めします」
そう言ったのは雛形結だ。彼女の魔族に対する探知能力は戦姫の中でも特に優れている。
葵は彼女の言葉に従い、国道のほうへと第1隊を進めた。
シノのいる第2隊はそのまままっすぐ旧国道を進む。距離的にいえば第2隊のほうが先に到着するはずだ。何も起こらなければ。
📖 📖 📖
広い国道をしばらく進む。集団の先頭には結。後方にはツァイシーがついて警戒している。
4車線の右側の道路。当然車は走っていない。
乗り捨てられたようにぽつぽつと停まっている車は見かけるが、無人。生存者はこの辺りにはいないようだ。
魔導書を開いて第2隊の様子を見る。
本には大まかなマップが現れ、そこにたくさんの丸い点が表示される。
まず大きな青いマーカーがふたつ。戦姫のリッカとマルグリットのものだ。その周りの小さな白いマーカーは瑞希や立山たち。今のところ異変はないようだ。
「──葵様、何かが現れます! 皆さんも気を付けて!」
結が叫ぶ。葵は本を閉じ、短剣エスパス・エトランジェを取り出して構える。
瑞希と生存者たちはかたまって車の陰へ。ツァイシーがカバーするように寄り添う。
ここから50メートルほど離れた中央分離帯の上。
空間が縦に裂け、宇宙空間をかき混ぜたような異次元が口を開く。そこからポン、と飛び出してきたのはひとりの少年──。
学者ふうのローブに羽根付き帽子、メガネ。そしてネコのようなヒゲとシッポを持っていた。
「ああ、来た来た。主からやっと許可が出たからさー、ちょっと遊んであげるよ。あ、僕はテネスリード。あのウルルペクと同じS級魔族のひとりだよ」
裂けた空間を閉じながら少年が名乗った。
大声を出しているわけでもないのにこの距離ではっきりと言っていることがわかる。
「んじゃー、まずは小手調べ。ひとりも殺されずに守りきれるかなー?」
テネスリードが指をパチンと鳴らすと、道路の植え込みや標識の陰からゾオオオ、とC級魔族が現れた。その数、約50。
大きさも形状も定まっていないヤツらは四本足だったり二足歩行だったり、中には転がりながらこちらへ猛然と向かってくる。
「葵様っ、わたくしの近くから離れないように!」
結がすぐ側へ来るが、葵はダメだ、と生存者たちのほうを指差す。
「俺よりもあっちを──瑞希たちを優先して守ってくれ! 俺にはこれがあるから」
短剣エスパス・エトランジェを見せ、そう指示する。
魔族どもはやはり生存者のほうを狙っている。ツァイシーが弓射で迎撃しているが、そのうち数体は肉薄しそうな勢い。
「しかし──」
「いいからっ、早く!」
葵が叫び、結はためらいながらも跳躍。
停車している車の屋根を蹴り潰しながらあっと言う間に生存者たちのもとへ。
「ハハッ、引っかかったね。本命はこっち」
テネスリードの声。指を鳴らす音とともに葵の足元から黒い異形の手が伸びる。
「葵様っ!」
魔族数体を両断した結が慌てて引き返そうとするが間に合わない。ツァイシーも迫り来る魔族の対応で手が回らない。
葵の襟首をつかみ、ズアッと持ち上げたC級魔族。
至近距離で見るギロギロ動く赤い目玉と横にいびつに裂けた口、鋭い牙。葵は一瞬で恐怖で硬直した。
「葵っ! 動いて! 逃げてっ!」
気を失いそうになりながらもはっきりと聞こえた瑞希の声。自身にも危険が迫ってるというのに。葵の手が無意識に動いた──。
「ギアアッ!」
ザラついた叫び声。目の前からだ。
葵の視点が急に上から下へ。そして尻に衝撃。
「いって……」
魔族の拘束から逃れた葵は尻もちをついていた。
その魔族の腕はもげ落ちて地面でジュワジュワと溶けていく。顔にあたる部分にも裂傷が走り、そこから溶け出している。
葵の見ている前でC級魔族はその傷口からグズグズに溶けて消滅していった。
葵は自分の右手から何か、あの魔導書を開いたときと同じような感覚があるのに気付いた。
柄に埋め込まれた青い宝石が強い光を放っている。
「俺が……やったのか?」
信じられない、といった表情で握りしめた短剣を見つめる葵。
魔族を殲滅した結とツァイシーがすぐに駆け寄ってきた。
その様子を見ていたテネスリードはネコヒゲをいじりながら首をかしげる。
「ん~? 召喚者のほうは無力だって聞いてたんだけどな~。フォゼラムの勘違いなのかな? まあいいや、そのほうが面白いし」
テネスリードはそう言いながら懐から試験管を取り出した。
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